借金1000万円から億り人へ。オモロー山下が辿り着いた「ほったらかしインデックス投資」という最適解

お笑いコンビ「ジャリズム」として活躍し、その後、うどん店の経営で成功を収めたオモロー山下氏。先輩芸人からの借金1000万円からスタートして、見事「億り人」となった同氏が投資の世界に足を踏み入れたのは、53歳のときだった。そして、投資によって増えた資産額は現在、約3億円にまで到達した。「投資は怖い」「いまさら遅い」といった先入観をいかにして捨て去り、堅実な資産形成の道筋をどのように見出したのか――。投資初心者が陥りがちな罠や、長期投資の本質、さらにはいま注目の「ナスダック100」に対する独自の持論まで熱く語ってもらった。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
うどん店の成功で掴んだ1億円の種銭
――『借金1000万円から億り人 じゃない方芸人の大逆転投資術』(KADOKAWA)というご著書のタイトルは非常にインパクトがあります。まずは、借金を抱えていた当時の状況と、うどん店をはじめられた経緯について教えてください。
オモロー山下:「借金1000万円」と聞くと、ギャンブルや浪費で生活に困窮してつくった借金のようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、僕の場合はそうではありません。2012年に「山下本気うどん」(山下氏が2012年に創業した人気の創作讃岐うどんチェーン)を始めるとき、自己資金がまったくなかったのです。そこで、先輩芸人の今田耕司さんと宮迫博之さんに500万円ずつ、計1000万円をお借りしました。つまり、事業を立ち上げるための資本金としての「マイナス1000万円スタート」だったわけです。
当時はコンビ(ジャリズム)を解散してピン芸人として活動していたのですが、徐々に仕事が減り、「このままでは芸人だけでは食べていけなくなるかもしれない……」という危機感を抱いていました。
そんなとき、趣味のような感じでTwitter(現X)にうどん店の食べ歩き記事を投稿していたのですが、そのなかで本当に美味しいうどんを出すお店に出会ったのです。店主の方と話をする機会があって、「全部教えてあげるよ」といっていただいたので、「それなら、思い切って自分もうどん店をやろう」と決意したという流れです。
――修業は厳しかったですか?
オモロー山下:修業期間としては1年程度で、芸人の仕事も続けながら週に2日〜3日通うスタイルでしたから、身体的なキツさはそこまでありませんでした。むしろ、すべてのノウハウを教えていただけるありがたさのほうが大きかったですね。
ただ、精神的な不安はありました。うどんというのは非常に繊細な食べ物です。同じお店で同じ材料を使って同じ職人が仕込んでも、気温や湿度などの影響で「あれ?昨日のほうが美味しかったな」と感じることもあるほどです。修業先の人気店ですらそうなのですから、「新店舗を構えて、自分で同じ味を再現できるだろうか?」というプレッシャーは相当なものでした。
――その不安とは裏腹に、「山下本気うどん」は大人気店になりました。
オモロー山下:本当にありがたいですね。結果的に2年で1000万円の借金を完済し、2017年には株式会社ガーデンとライセンス契約を結び、2021年には商標権を売却しました。売却後もプロデューサーとして店舗の臨店チェック(現在24店舗)や新商品開発にかかわり続けられる条件だったため、安心して権利をお渡しすることができました。こうして手元に残ったのが、1億円というお金だったのです。
銀行に1億円預けても利息1000円という現実
――1億円という巨額の資産を手にしたとき、どのような気持ちでしたか?
オモロー山下:達成感と同時に、「この1億円、このまま銀行に置いておいていいんかな?」という強い疑念が湧いてきました。地域差もあると思いますが、僕らの世代(50代)って、小学生の頃に学校で郵便貯金をさせられる経験をしているのです。当時の金利は年5%ほどあったので、100万円を預けておけば、1年で5万円(税引前)増える世界です。だから「貯金=安全で絶対に正しいこと」という意識が骨の髄まで染みついているのです。
しかし、2021年当時のメガバンクの普通預金金利はわずか0.001%。1億円を1年間預けても、もらえる利息はたったの1000円です。そこから税金が引かれますから、コンビニATMを数回使って手数料を払ったら、利息なんて一瞬で吹き飛んでマイナスになってしまう……。「1億円預けて利息より手数料のほうが高いなんて、絶対になにかがおかしい」と思ったわけです。
――そこから、どのようにして具体的な投資手法へ辿り着いたのですか?
オモロー山下:「なにか運用をしなければ」と思いつつも、それまでの僕は投資に対して典型的なアレルギーを持っていました。「投資=個別株のデイトレード=暴落して一晩で破産する怖いもの」といったフィクション作品などのステレオタイプなイメージに毒されていたのです。それこそ、NISAの仕組みすらよくわかっていない状態です。
そんな僕の意識をガラリと変えてくれたのが、オリエンタルラジオのあっちゃん(中田敦彦氏)のYouTube動画でした。彼は投資を「サッカーのフォーメーション」に例えて説明していました。個別株はリスクを取って点を取りにいく「オフェンス(攻撃)」、インデックス投資や債券は失点を防ぎ資産を守る「ディフェンス(守備)」だというのです。
その動画で初めて「S&P500」という言葉を知りました。気になって自分で詳しく調べてみると、アメリカを代表する主要500社で構成される株価指数で、過去50年以上の実績を平均すると年利約10%程度のリターンを生み出し続けていることがわかりました。
一方で、当時の「日経平均株価」は、1989年に史上最高値をつけて以降、30年以上もそれを更新できずに低迷していました。そんな怖くて先が見えない市場に大切なお金を投じる気にはなれませんでしたが、米国市場のS&P500は「リーマンショック」や「ITバブル崩壊」といった歴史的暴落に見舞われても、7年〜8年もすれば必ず高値を更新して力強く右肩上がりで成長している。「これなら自分の大切な資産を託せる!」と確信し、つみたてNISAでの「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の積立から、僕の投資人生がスタートしたのです。
プロの機関投資家の9割以上がインデックスに勝てない
――実際にインデックス投資の勉強を深めていくなかで、どのような点に魅力を感じましたか?
オモロー山下:一番の衝撃であり、僕の心の支えになったのは「過去の歴史上、S&P500を15年間保有し続けた場合、いつどのタイミングで買っていたとしても元本割れした(マイナスになった)データが存在しない」という事実です。
たとえ運悪く、歴史的な大暴落が起きる前日の「最悪の天井」で一括買いしてしまったとしても、15年間じっと手放さずに持ち続けていれば、必ずプラスのリターンに転じているのです。1年、2年といった短期的なタイミングで見れば大暴落で資産が半減することもあります。しかし、15年という長期スパンで見れば100%元本割れしない。こんなに力強く、投資初心者を守ってくれるデータはありません。
――ご著書のなかでも「投資の最適解はほったらかしインデックス投資」と断言されていますね。
オモロー山下:インデックス投資(パッシブ運用)の本質は、「市場全体の成長に乗っかる」ことです。世の中には、高い運用手数料を取って市場以上の成績を目指す「アクティブファンド」や、数々の分析を駆使するプロのファンドマネージャーが存在します。しかし、各種データを見れば明らかなように、15年や20年といった長期パフォーマンスでS&P500などのインデックス指数に勝てるアクティブファンドは、全体のわずか10%未満。つまり、9割以上のプロがインデックスに負けているのが現実なのです。
莫大な情報網と最新鋭のAI、そして膨大な資金を持つプロですら9割が勝てない世界で、知識も情報も限られている素人の僕たちが個別株で勝ち続けられるわけがありませんよね?わざわざ高い手数料を払ってプロに運用を任せるくらいなら、手数料が激安のインデックスファンドを買って「放置」しておくほうが、はるかに合理的で再現性が高いのは明白です。
毎日チャートに張りつく必要もなければ、企業の決算書を分析する必要もありません。積立設定さえしてしまえば、あとは「株の勉強すらしないこと」「自分の本業や人生を楽しむこと」こそが、もっとも投資パフォーマンスを高めてくれる。これこそがインデックス投資の真骨頂なのだと思います。
いまはS&P500よりナスダック100推し
――インデックス投資の王道といえばS&P500や全世界株式(オール・カントリー:通称オルカン)が挙げられますが、現在、山下さんは「ナスダック100」を強く推されています。その意図はどこにありますか?
オモロー山下:4年ほど前、2000年以降のS&P500とナスダック100の長期チャートを比較したデータを見て「ん!?」と衝撃を受けたのです。2010年頃までは両者のチャートはほぼ同じような軌跡を描いて重なっていたのですが、2010年を過ぎたあたりからナスダック100の上昇角度が圧倒的になり、S&P500とのパフォーマンスの差が爆発的に広がっています。
メディアやYouTubeの有識者たちは、口を揃えて「分散投資ならオルカン」「米国一極集中ならS&P500」という論争ばかりしています。しかし、この圧倒的な実績と過去のパフォーマンスを見たら、「どう考えてもS&P500よりナスダック100やろ!」と素直に思ったわけです。
――専門家や有識者のなかには、「ナスダック100はハイテク銘柄に偏っており、値動き(ボラティリティ)が激し過ぎるため初心者には向かない」という人も多い印象です。
オモロー山下:僕はその説明にずっと違和感を覚えています。「ボラティリティが激しくて下がったときに怖くなるから、初心者は値動きの穏やかなオルカンにしたほうがいい」と多くの人がいいます。でも、「いやいや、ちょっと待ってください」と思うのです。
インデックス投資は、15年、20年先を見据えた「長期投資」ですよね?数カ月や1年で売買するスイングトレードや短期投資なら、足元の値動きに一喜一憂するのも理解できます。しかし、15年後に資産が増えていればいいというルールで戦っているのに、なぜ途中の3年目や5年目の上下動を気にしなければいけないのでしょう。
要するに、資産額を確認するためにスマホやパソコンの画面を見なければいいだけの話なのです。そうではなく、引きの視点に立って20年後の大きな右肩上がりのチャートだけを見ていればいい。「途中のボラティリティが激しいから危険」という論理は、長期投資の本質からいえばまったくナンセンスです。長期投資であれば、結果として15年後、20年後にもっとも高いパフォーマンスを出してくれる可能性が高い指数を選ぶべきであり、そう考えればナスダック100こそが極めて有力な選択肢になると考えています。
50代からでも遅過ぎることは絶対にない
――山下さんご自身はインデックス投資だけでなく個別株投資もされていますが、そちらの位置付けはどのように考えているのでしょう?
オモロー山下:はっきりいうと、僕にとって個別株投資は完全に「趣味」の領域です(笑)。投資に限らないと思いますが、勉強をすればするほど、「せっかく知識をインプットしたのだから、試してみたい」という気持ちになりますよね。「この企業は新しい技術を開発しているから伸びるぞ」と調べて投資し、実際に株価が上がったらめちゃくちゃ嬉しいし楽しい。でも、それは競馬やパチンコであたったときの楽しさと同質です。
競馬をやっている人は、「老後の資産形成のために競馬をやっている」とはいわないはずです(笑)。それと同じことで、生活の土台となる資産形成はインデックス投資で堅牢につくったうえで、余剰資金を使って趣味の範囲で「ゲーム」として個別株を楽しむ。証券会社の人には「ギャンブルに例えないでください」と怒られますが……(苦笑)、この線引きをしないまま個別株やデイトレードを「資産形成のメイン」にしてしまうことこそが、初心者が退場する最大の原因だと思います。
――最後に、読者へメッセージをお願いします。特に山下さんと年齢の近い40代、50代といった年齢の読者に向けたものだとありがたいです。
オモロー山下:「もう50代だし、いまから始めても遅いのではないか」「投資は怖いのではないか」と迷っている人がいたら、「全然、遅くありません!迷っている時間こそが一番もったいない」と強くいいたいですね。
僕自身、53歳から投資をスタートしました。仮に50歳から15年〜20年インデックス投資を続けたとしたら、資産が大きく実る頃はまだ65歳〜70歳です。「人生100年時代」といわれる現代において、老後資金を豊かにするには十分過ぎる時間が残されています。
もしそれなりの年齢になってまとまった余剰資金があるなら、一括投資をするほうが過去のデータ的にもパフォーマンスが高いことが多いですし、毎月の給料から運用するなら積立投資でコツコツはじめればいい。投資の世界においては、「今日がいまの自分にとって一番若い日」です。過度な恐れを捨て、まずは一歩を踏み出すこと。ほったらかしのインデックス投資という最強の味方を、ぜひ1日も早く手に入れてほしいですね。
オモロー山下さんの書籍のご紹介
オモロー山下(おもろーやました)
1968年10月29日生まれ、香川県出身。本名は山下栄緑(しげのり)。1992年に大阪NSC10期生の同期である渡辺あつむ(現・桂三度)とお笑いコンビ「ジャリズム」を結成。解散と再結成を繰り返した後、ピン芸人として「オモロー山下」に改名。2012年に「山下本気うどん」を開業し資産1億円に到達。その資金を元手に投資をはじめ、現在(2026年8月時点)は2億8000万円まで資産を増やしている。

