金価格1オンス3,500ドル突破 ― 4,000ドルが視野に入る根拠とは?【ゴールド月次モニター】

記録的な金価格と1オンス4,000ドルへの道を示す5つのチャート
・スポット金価格は1オンス3,500ドルを超えて最高値を更新し、9月をスタートしました。上昇をけん引したのは、株式/ハイテク株の行き過ぎたバリュエーション、足元で進む先進国の国債イールドカーブのスティープ化、米政策をめぐる大幅な不透明感など、複数のマクロ要因です。確かに、米連邦準備制度理事会(FRB)は9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げを実施すると広く予想されています。しかし、FRBは2026年にかけて、独立性を維持し意思決定プロセスへの政治介入を排除できるでしょうか。そして、それが米ドルに悪影響が及ぶ可能性についてはどう考えればよいでしょうか。また、米国は確かに幾つかの通商交渉をまとめました。しかし、米中の地政学的関係についてはどう判断すべきでしょうか。合計で世界の国内総生産(GDP)の約45%を占める両国は関税停止措置を延長しましたが、11月には新たな期限を迎えます※1。そして、確かにホワイトハウスは「一つの大きな美しい法案(OBBBA)」に署名しました。しかし、米国の債務、財政赤字、インフレ率に対する刺激効果をどうみればよいでしょうか。
・先行きの見通しが引き続き幅広く不透明感が強いなか、金は今年も米ドル建て資産クラスをリードし輝き続けています。労働市場は冷え込みつつあり、米国の消費者は守りに入っており、全般的なディスインフレ基調は逆風に直面しています(関税の影響が既にデータに表れ始めています)。わずか数カ月前と比べて、スタグフレーションあるいは株式市場の調整/ボラティリティ・ショックのリスクはむしろ上昇しています。こうした状況のなか、金現物の需要(中央銀行、投資チャネルからの需要)は引き続き堅調なトレンドを示しています。
・最近の上昇基調が9月のFOMC後も続く場合、当社は10月に、これまで長期間維持してきた強気シナリオのレンジ(1オンス3,500~3,900ドル)の確率を30%から40%におそらく引き上げます。また、金の「底値」を基本シナリオのレンジの下限である1オンス3,100ドルに維持しており、今後6~12カ月間で金は500ドル下落するより500ドル上昇する確率の方が高いとみています。本稿には、現在のマクロ環境の下で当社が依然として金を選好する理由を示す5つのチャートが掲載されています。これらのチャートは、金価格が四半期末に1オンス3,500ドルを超えるリスクについて説明した7月の「ゴールド月次モニター」とは大きく異なります。フィードバックやご質問がある場合はぜひステート・ストリート・インベストメント・マネジメントまでご連絡下さい。
出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント(2020年~2025年8月)
債券市場は金の強気見通しにとって絶好の環境を示唆しているのでしょうか?
・足元で進む米国債のイールドカーブのブル・スティープ化は、米ドル安ならびに米国の財政優位への懸念台頭を通じて、金価格の上昇をサポートするでしょう。米国債の2年/30年スプレッドは2024年半ばの逆イールド状態から2025年8月には+130bpの順イールドへシフトしており※2、そのほとんどは米2年国債利回りの低下によるものです。最近の月次データや調査でインフレ上昇が示されるなか(米貿易・関税政策が一因)、OBBBAによる財政刺激効果や財政赤字の拡大にもかかわらず、FRBは再び利下げを実施する態勢にあります※3。
・短期セクターの利回り(名目および実質)が低下すると同時に、財政政策による景気刺激効果およびインフレ率の力強さにより長期債利回りは比較的高止まりしており、デューレーション・ヘッジおよびインフレ・ヘッジとしての金の役割は高まっています。これは総じて米ドルにとってマイナスの現象であり、デノミネーション(通貨価値の低下)効果を通じて金の強気材料となっています。
・債券市場がFRBのハト派姿勢の強まり――そしてFRBの独立性およびインフレファイターとしての信認をめぐる懸念――を織り込めば、フィアット通貨の代替資産ならびにヘッジ手段としての金の需要に有利に働くでしょう。確かに、金価格は8月後半に急騰し、1オンス3,450ドル近い最高値で8月の取引を終えることができました。当社は四半期末までに3,600~3,700ドルのレンジ近くまで急騰する確率は五分五分とみています。
出所:ブルームバーグ・フィナンシャルL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント(2024年~2025年8月)
8月のビットコインETFと金ETFの資金フローの乖離(かいり)はおそらくマクロ・リスクを予兆
・米国で上場するビットコインETFと金ETFは、ドルのヘッジ取引および代替資産に対する需要が拡大するなか、いずれも2025年に購入活動がネットベースで高まっています。しかし8月には、スポット金のフロー(流入)とスポット・ビットコインのフロー(流出)の月間の乖離(かいり)が2025年3月以降で最大となりました。8月の米国の主要な金ETFが40億ドルの流入超となったのに対して、主要ビットコインETFは9億ドルの流出超となりました※4。
・今年、この2つのフィアット通貨の代替資産セクターへの資金フローは流入超となっていますが、最近のビットコイン/金レシオの低下は、投資家の間で低ボラティリティ資産、リスクオフ・ヘッジ、流動性に対する需要が高まっていることを示唆していると思われます。もちろん1カ月の動きだけではトレンドとは言えませんが、2月中旬から4月中旬にかけての相場下落が示すように、ボラティリティが急激に上昇する局面では、金のような高品質で流動性の高い代替資産はポートフォリオの安全な逃避先となります。
・月末にかけての株式市場の記録的バリュエーションや暗号資産セクターに対する規制の追い風を踏まえると、8月のビットコインの流出トレンドはより不可解です。この点に関して、投資家は、現在の高バリュエーションで右側のテール・イベントに対するグロス・レバレッジを削減し、「スタグフレーション」リスクが迫り来るなか左側のテール・イベントに対するヘッジを模索している可能性もあります。最近の資金フローの乖離(かいり)は注視する価値があります。
出所:ブルームバーグ・ファイナンスL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント(1990年~2025年)注:米国株式にはS&P500指数を、米国債券には、投資適格の米ドル建て固定金利課税債券市場のパフォーマンスを測定するブルームバーグ米国総合指数を使用しています。金価格はLBMA午後金価格を、米ドルは米ドル指数(DXY)をそれぞれ参照しています。
現在の強気サイクルでは金の分散投資効果が鮮明
・米国の株式/債券の相関性は2025年第3四半期に若干弱まったものの、依然として約27年来という歴史的な強さにあります※5。2021~2022年のインフレ急騰以降続く米国の株式/債券のプラスの相関性により、金をマクロ・ポートフォリオ・オーバーレイ、そしてテール・リスクのヘッジに使う根拠が強まっています。
・金は国債や投資適格社債の代わりではありません。しかし、ボラティリティが高く不確実性の大きいインフレ環境下、さらに通商政策やFRBの政策によって悪化し得る地経学リスクが残る中で、金は「デュレーション」や「分散投資」のヘッジとして使用する機会が増える可能性があります
・パンデミック後に一段と強さを増している金と米ドルの逆相関性により、脱ドル化やフィアット通貨の代替資産として金に投資をする根拠が強まっています。ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントならびにウォール街のコンセンサス予想では、中期的に米ドルに対して弱気を維持しています。こうした予測の方向性が正しいことが証明されれば、たとえ米国の株式/債券の相関性がパンデミック前や世界金融危機前の水準近くまで正常化しても(当面そうなる公算は低いと思われます)、おそらく金市場はデノミネーション効果の恩恵を受けるでしょう。
出所:ブルームバーグ・フィナンシャルL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、データ期間は1989年1月から2025年8月。「停止」とは、FRBの利下げの間隔がニューヨーク証券取引所(NYSE)の営業日で60日(約3カ月)以上あき、その後の政策措置も利下げである場合を指します。リターンは最初の利下げ後60営業日目から測定しています。過去平均は1989年以降に完了したすべての一時停止に基づいています。足許の利下げ停止期のリターンは2025年3月(2024年12月18日の利下げ後60営業日)から測定しており、2025年9月12日の固定6カ月ウィンドウと直接比較可能となります。過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスの信頼できる指標ではありません。
金はFRBの利下げ停止後の再利下げで恩恵を受けるでしょう
・FRBは長期の利下げ停止後、9月に利下げを再開すると予想されるなか、当社は1989年以降のすべての利下げ停止(利下げの間隔がニューヨーク証券取引所[NYSE]の営業日で60日以上)を分析しました。それによると、利下げ停止から12カ月、18カ月、24カ月のリターンはいずれもプラスであることが分かりました。
・現在の利下げ停止期間中に金のリターンは、ETFへの資金流入の再開、隠れた市場リスク、更なる金融緩和観測を背景にすでに+18%と※6、当社モデルが宣言した公式停止日から6カ月間のリターンの過去平均を大きく上回っています。
・金は歴史的に見てFRBの緩和サイクルから恩恵を受けており(たとえば2001年、2008年、2019~2020年)※7、市場は年末までに更に2~3回の利下げを予想していることから※8、金価格は当社の基本シナリオの新たな基準値である1オンス3,000米ドルを上回り、強気シナリオの3,500~3,900ドルのレンジに突入する可能性があります。
出所:国際通貨基金(IMF)、ワールド ゴールド カウンシル、ステート・ストリート・インベスト・マネジメント 2025年3月31日時点
中央銀行は戦略的な脱ドル化を進めるなか金を積み増しており、金の下値の上昇、ならびに金価格の下落ボラティリティ抑制につながっています
・金が世界の外貨準備に占める割合は約30年ぶりの水準まで上昇し※9、当社の推定では2025年第1四半期時点で21%に達し※10、ワールド ゴールド カウンシルによると2025年第2四半期時点で26.8%となっています※11。この上昇トレンドは、金がフィアット通貨の主要な代替資産であることを裏付けており、またフィアット通貨に対する信認がますます疑問視されるなか、構造的ヘッジに使用する根拠を更に強めています。
・米国の財政問題は依然として不透明で、連邦財政赤字はGDPの6~7%で高止まりし続け※12、総連邦債務は37兆ドル超に迫り※13、年間金利費用は1兆ドル近くまで膨らむと予想されています※14。空前の財政ひっ迫はドルの長期安定性に対する信頼感を損ない続け、信頼できる外貨準備資産としての金の魅力を直接高めるでしょう。
・外貨準備運用は米ドルに集中していますが、中央銀行の73%は今後5年間で世界の外貨準備に占める米ドルの割合は低下すると予想しており※15、76%は金が外貨準備に占める割合は2030年までに上昇すると予想しています※16。FRBの独立性、制裁リスク、フィアット通貨への信認をめぐる懸念の高まりは、金が外貨準備資産として重要な位置を維持し、今後数年にわたりそのモメンタムが上昇する一助となるでしょう。
◆注記
※1 Source: IMF, as of 12/31/2024.
※2 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 8/31/2025.
※3 Source: BLS, University of Michigan, as of 8/31/2025.
※4 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 8/31/2025.
※5 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 8/31/2025.
※6 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 8/31/2025.
※7 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 8/31/2025.
※8 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 8/31/2025.
※9 Source: Eichengreen, Barry, Livia Chiţu and Arnaud Mehl, as of 8/31/2025.
※10 Source: IMF, State Street Investment Management, as of 3/31/2025.
※11 Source: World Gold Council, as of 6/30/2025.
※12 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 8/31/2025.
※13 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 8/31/2025.
※14 Source: Bloomberg Financial L.P. and State Street Investment Management, as of 8/31/2025.
※15 Source: World Gold Council, as of 6/17/2025.
※16 Source: World Gold Council, as of 6/17/2025.
◆用語集
中央銀行
国または国家連合のために、貨幣および信用の創造と分配を独立性を持って管理する金融機関
フィアット通貨
政府が法定通貨であると宣言した貨幣ですが、金や銀といった現物のコモディティで裏付けられていません。フィアット通貨の価値は、発行政府に対する公衆の信頼と、交換手段としての集団的受容に由来しています。
金のスポット価格
スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。
LBMA午後金価格(米ドル/オンス)
LBMA金価格はIBAが独立して管理し、価格算出のためのオークション・プラットフォームを提供していますが、知的所有権はLBMAに帰属します。プラットフォームは、電子的に取引および監査が可能で、証券監督者国際機構(IOSCO)の金融ベンチマークに関する原則に沿って設計されています。
実質金利
インフレ調整後の金利。物価上昇の影響を取り除くことで、真の借入れコストおよび投資による実際の利回りを反映します。
米連邦公開市場委員会(FOMC)
米連邦準備制度内にある委員会で、金融政策を決定します。
連邦政府赤字
米国政府の歳出額(支出額)が、税金やその他の源泉からの歳入額(受取額)を上回る額を示します。政府がある会計年度に徴収した金額以上に支出をした場合、財政赤字を抱えることとなり、このギャップを穴埋めするため、米国債を発行して資金を借り入れる必要があり、国の累積債務の増加につながります.
脱ドル化
各国が国際貿易、金融取引、外貨準備における米ドル依存を減らすプロセスで、多くの場合、その背景には地政学的動機、制裁リスク、自国通貨の主権確保の取り組みがあります。
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