暴落に動じない!投資家が知っておきたい株価が下がった時に“買う企業”と“売る企業”の違い
まず冷静に。株価下落は“悪”とは限らない
株価が下がると、つい「何か問題があるのでは」と不安になります。しかし、株価の下落が即座に「悪」を意味するとは限りません。株式市場全体の地合い、外部環境の変化、一時的な材料の反応など、企業の本質的価値とは無関係な要因で下がるケースも少なくないのです。特に個人投資家にとって注意すべきは、感情的な判断で“安値売り”をしてしまうことです。株価下落に慌てて売却し、その後の回復や成長の果実を逃してしまったという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
株式市場に対する不安定さを示す指標に、いわゆる“恐怖指数”があります。米国ではS&P500指数に連動するVIX指数が有名ですが、国内でも日経平均オプション価格をもとにした「日経平均VI(ボラティリティ・インデックス)」が存在します。VIが30を超えると、投資家が今後の市場の不確実性を強く意識している状態とされます。特に下落局面では、日経平均VIが急上昇する傾向があり、投資家心理の不安定さを映し出します。
たとえば2025年4月、米国の関税政策発表を受けて中国との貿易摩擦が激化するとの懸念が広がり、株式市場ではリスク回避の動きが強まりました。これにより「トランプ関税ショック」と称されるほどの急落が起こり、日経平均VIは一気に60近くまで上昇。その後、関税の一時停止が発表されると市場は落ち着きを取り戻し、日経平均VIも再び30以下に低下しました。
参考:
指数情報 - 日経平均プロフィル
日経VI推移 | ボラティリティインデックス |【株価指数テクニカル分析】
このように、一時的なショックで短期間に売られ過ぎている局面では、株価が企業価値に対して割安となり、長期投資家にとっては「買い場」となることがあります。重要なのは、「なぜ株価が下がったのか」を正しく見極めることです。
たとえば、業績や財務内容、IRでの説明内容に大きな変化がないのに株価だけが下落している場合、それは相場全体の地合い悪化、または一部投資家の短期的な売りが原因である可能性が高く、冷静な状況分析が求められます。投資判断は、感情ではなく事実ベースで行うことが第一歩です。
「一時的下落」と「企業の本質的問題」、どう見分ける?
では、株価下落の背景が、企業の本質的価値に大きな影響を与えない「一時的下落」なのか、それとも企業そのものに課題がある「企業の本質的問題」なのかを見分けるには、どのような視点が必要でしょうか。
一時的下落の主な例:
・市況の悪化(例:地政学リスク、金利上昇)
・業界全体の調整局面(規制強化や需給調整など)
・決算の一時的な未達(通期見通しは維持)
・個別材料の出尽くし(ポジティブニュースが株価に織り込み済み)
・軽微または組織的関与のない不祥事
・大口株主の売却(大量保有報告書などによる公表)
・SNS上の根拠のない風評被害
これらはいずれも企業の本質的な競争力や成長性に大きな影響を与えない一時的な要因であり、過度な悲観は不要です。
構造的リスクの主な例:
・主力事業の成長鈍化により収益源が揺らいでいる
・競争環境の変化により相対的な競争力が低下(ビジネスモデルの転換が求められている)
・財務体質の悪化(資金繰り・投資継続への懸念)
・組織的な不祥事の発覚によるガバナンスの毀損
こうしたケースでは、株価下落は「企業価値そのものの縮小」を先取りしていることがあり、より慎重な判断が必要です。また、株式市場の観点からは、株価指数からの選定除外等も、評価の低下となります。代表的な株価指標TOPIX(東証株価指数)の例では、構成銘柄の見直しが進められています。2026年から2028年にかけて、選定基準に基づき採用銘柄の再編が進む中で、除外された企業は機関投資家の運用対象から外れ、売却されるため、株価に下落圧力がかかります。一方で、これを契機に自社で企業価値向上を図ろうとする動きも見られます。個人投資家にとっては、各社の成長姿勢を再確認するチャンスとも言えるでしょう。
こうした違いを見極めるためには、IR情報や四季報、アナリストレポートなど、複数の視点からの確認が効果的です。特に、直近の決算短信や決算説明資料等、半年間以内のIRニュースには経営方針の変化や目標値の見直しなど、投資判断に直結するヒントが含まれていることがあります。少し手間に感じるかもしれませんが、これらを読み解く姿勢は、正確な判断を下すために欠かせません。また、中期経営計画や統合報告書に記されたメッセージと直近の開示情報との一貫性があるかを確認することも、経営陣の姿勢を見極める重要な視点です。もし疑問がある場合は、企業のIR問い合わせ窓口を通じて、直接質問してみるのも一つの手です。丁寧に向き合うことで、企業理解が深まり、より確かな投資判断につながるはずです。
決算とIRから読み解く「今が買い増し好機」のサイン
株価が下がっているときでも、企業の将来性に確信が持てれば、「買い増し」は有効な選択肢になります。
次のようなポイントをチェックしましょう。
・売上や利益だけでなく、会社計画に対する進捗率や前年同期比も確認
・中期経営計画の進捗やKPIの動向
・経営陣による説明の力強さ、根拠のある説明があるか(説明会の動画や書き起こしを確認)
・成長投資の継続姿勢(単なるコスト削減に留まっていないか)
・過去の困難を乗り越えた実績があるか
・PERやPBRといった代表的な株価指標が過去より割安な水準か
事例:タムロン
2023年、タムロンでは歴代社長による経費の私的流用が発覚し、社長辞任というニュースが報じられました。発表翌日に株価は4%超下落し、その後も10%近い続落となるなど、市場の反応は厳しいものでした。しかし、決算発表において業績見通しに変化がないことが明らかになると、株価は落ち着きを取り戻し、通期の上方修正や増配、中期経営計画、自社株買いといった前向きなIR発表を通じて株価は反発。不祥事発覚時点から株価は倍増するまでに回復しました。また、同社のホームページには、機関投資家・アナリスト向けの決算説明会Q&Aが掲載されており、不祥事に関する質問は見られず、株主還元策や事業戦略に関心が集まっていたことが分かります。この事例は「一時的な下落」であり、本業への影響が軽微だったことから、企業の成長余地が改めて評価されたと言えます。
逆境に強い企業を見抜く目を育てよう
株価が下がる局面こそ、企業の真価が問われるタイミングです。単なるコスト削減でしのぐのではなく、将来の成長に向けた前向きな投資を続けられる企業こそが、逆境に強い企業と言えるでしょう。財務面では、自己資本比率、フリーキャッシュフロー、流動比率といった指標を通じて、企業の堅牢性(危機耐性)を確認することができます。また、繰り返しとなりますが中長期的な経営方針を示す中期経営計画や統合報告書に記された経営者のメッセージや対応方針といった定性的な情報も、あわせて見ていくことが、企業を見抜く目を養う上でとても重要です。
マーケットが混乱しているときこそ、「企業を見る目」が試されます。一時的な感情に流されず、企業の本質を見抜く眼力を持つこと。それが、長期的な資産形成における最も重要な投資スキルのひとつなのです。

iwawo(イワヲ)
IRの現場も、投資家の本音も、すべて“肌感”で知るIRコンサルタント。証券会社でアナリスト・IPO業務を経て、上場企業2社でIR責任者(うち1社は取締役)を務めるなど、株式市場の最前線を渡り歩いてきた。証券・企業・投資家――立場を越えてIRの実態に向き合ってきた経験をもとに、企業が直面するIR/SR領域のリアルな課題への対応を支援。