仕事のように節約すればいい。FP1級を持つ、異色の芸人のマインドから学ぶ節約習慣の要点
ファイナンシャルプランナー1級の資格を持つお笑いコンビ「サバンナ」の八木真澄氏は、ギャラが少なかった駆け出しの芸人時代から、徹底した節約習慣を身につけて実践してきたという。そして、収入や資産が増えた現在でも、節約習慣を維持できるのはなぜなのだろうか。単なる「我慢」ではない、八木氏の節約に対する合理的な発想とマインドを聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
手間を惜しむからお金が逃げていく
——八木さんは著書『年収300万円で心の大富豪』(KADOKAWA)のなかで節約術の一端を紹介していますが、「(アミューズメント施設などの)年パスは子どもが行きたくないというまで使う」など、ストイックながらも合理的な印象があります。
八木 真澄:自分ではストイックという気持ちは全然なくて、ただ単に「費用対効果」を意識しています。むしろ、意味のない支出をすると、なんだか落ち着かないのです。
例えば、僕は芸人として営業の仕事が多いので、しょっちゅう出張するのですが、その度に必要品を買って外食もしていたら数千円なんて簡単に使ってしまいますよね。だから、面倒でもスーツケースには必ず箱ティッシュなどの消耗品を入れて、食費も惣菜などで済ませられるよう調味料を持っていきます。タクシーもあまり使いたくありません。早めに動いて電車やバスでも行ける場所なら、そのほうがいいじゃないですか。
——どうやって、その節約思考、あるいは節約体質をつくったのでしょう?
八木 真澄:それはもう、30年前に駆け出しの芸人だった頃の習慣です。とにかくギャラが安くて……(笑)、劇場のギャラは1回で500円や1,000円があたりまえでした。芸では月に5万円も稼げないので、切り詰めた生活をしていましたよね。その頃に、「邪魔くさい(※関西弁で『面倒くさい』と同意)」といって手間を惜しむことが、無駄な出費につながるのだと痛感したのです。
当時、大阪の「心斎橋筋2丁目劇場」にいる他の若手芸人も、一様に「金がない、金がない」と言っていましたが、飲み物を自販機で買って、昼になれば外に出て600円するチャーハンを食べに行くんです。僕は家でチャーハンをつくって弁当と水筒を持っていくので、材料費は50円くらいで済みます。お金がないなら自炊すればいいのに、みんな食べに行ったり、買ったりしているのが不思議でした。
それは結局、「邪魔くさい」からなのでしょう。家で米を炊いて、小分けにラップして冷凍して、朝は調理して、帰ったら弁当箱の洗い物するのが邪魔くさい。お茶を淹れて水筒に入れ、水筒を洗うのも邪魔くさい。それをサービスで解消するために、お金を支払っているわけです。
——確かに、どんな節約術も、わずかな手間を惜しんだら成り立ちません。
八木 真澄:そうなんです。例えば、僕らのようなフリーランスの人間は自分で国民年金を納めますが、少しの手間で1年分を全納する手続きを踏めば、0.1カ月分安くなります。まとまった金額を用意するのが難しくても、1年かけて準備すれば翌年からは全納できますよね。たった0.1カ月分でも、それが生涯続けば大金になるのですから、手間でもやるべきです。医療費控除や小規模企業共済への加入など、確定申告での節税策もそうでしょう。
こういった節税に関しては、手間を惜しまず対策する人は多いと思います。だったら節約も同じですよ。あらゆるシーンで節約の手間を惜しまなければ、トータルで大きな節約効果が生まれます。僕は朝の満員ラッシュも嫌なので、早起きして空いているうちに移動します。それは節約ではありませんが、結局、なにごとも自分を楽にするのは、「邪魔くさい」と思わず手間を進んで取れるかどうかです。

「節約は副業」という逆転の発想
——面倒と思わず行動する大事さは理解できました。しかし、仕事では面倒なことに取り組めたとしても、それ以外の生活では「面倒は嫌だ」と思うのは仕方ない面もありますよね。習慣化だけではなく、「邪魔くさい」を超えるマインドもあるのでしょうか?
八木 真澄:僕が節約を続けられるのは、「節約している」ではなく「儲けている」という意識だからかもしれません。我慢しているのではなく、稼いでいるんです。
例えば、僕はあまり誰かと飲みに行くのは多くはないので、毎晩のように家で晩酌をしていますが、必ず前夜に業務用ボトルの安いウイスキーを「白州」の180mlボトルに入れておくんですね。いま、国産ウイスキーは目が飛び出るほど高騰していて、しゃれたBARで「白州」や「山崎」をオーダーしたら、1杯で2,000円することも珍しくありません。
それで、仕事を終えて家に帰ってきたら、「お、白州あるや〜ん」といって180mlボトルで6杯飲みます。アホみたいと思うかもしれませんが、ちゃんと自分を騙してあげると本当に美味しく感じるものです。そのためにボトルの詰め替えも、入れ過ぎて違和感がないよう細心の注意を払っています。
このとき、僕がBARで酒を嗜む人だったら、白州1杯2,000円×6杯で12,000円がかかるわけじゃないですか。でも、僕が飲む場所と調達方法(?)を工夫したことで、ほとんどタダのような値段になっています。これを「節約した」のではなく、「12,000円儲かった」と考えるわけです。1カ月で36万円、年間で438万円の儲けです。将来的には1億円以上の利益を僕にもたらし得る工夫です。
そうやって考えると、日々の節約は副業みたいなものだと思いませんか? 妻に髪を切ってもらえば5,000円儲かりますし、ランチで外食を控えるたびに1,000円、2,000円と儲かっています。しかも、この儲けは非課税です。仕事と同じように、稼ぐチャンスを見つけて手間を惜しまずやるべきでしょう。
——そういう発想をすると、あらゆる支出に節約のアイデアが湧いてきそうですね。
八木 真澄:思いついた先から、まずやってみるといいですね。実際、上手くいかないこともあるんです。僕も「寿司なんて自分で握ったらええんちゃう?」と思って自炊でやってみたのですが、米がめっちゃ手について意外と難しい……。職人さんが見たら「あたりまえだ」と怒るかもしれませんけど(苦笑)。
それからは、和紙に高級寿司店のおしながきを書いて、家族で回転寿司に行っています。スマホでお琴のBGMを流して、高級割り箸を持ち込んで、おしながき通りに注文です。これもやってみると普通より美味しく感じるし、家族も笑うし、「儲かる」のでおすすめですよ。

家族の節約は、子どもの経済教育から
——独身であれば自分の思うままに節約できると思いますが、家族がいると節約もままならないですよね。八木さんも奥様とお子様がいますが、どうやって家族での節約を行っているのでしょうか?
八木 真澄:それは、難しいですよね。僕も家族に節約を強要することはしていません。さっきの回転寿司みたいに、ノリで一緒にやってくれるといいので、楽しい節約になるよう意識してはいます。高級寿司店のふりして「たまには、こんな店もええなぁ」と、笑ってミニコントをしているわけです。
ただ、子どもについては、経済教育が大切だと思っています。例えば、「クレーンゲームやりたい」という子どもに500円を渡して、「500円あったら、似たようなおもちゃ買ってもええねんで。100円で5回やって取れへんかったら買えへんで」と伝えると、取れずに帰ってきて「買えばよかった」と後悔しますよね。そういう体験って、教育だと思うんです。
あるいは、動物園でヤギの餌やりコーナーがあると、子どもは100円の餌をバーっと全部あげて、すぐ終わってしまいます。そこでちゃんとアドバイスしてあげれば、次はひとつずつ餌やりして長く楽しむようになりますよね。
子どもがかわいいからといって思うままにさせず、経済合理性を教えてあげると、節約に対しても理解を示したり、興味を持ってくれたりします。そうすると、夕食でも以前は刺身を出すと刺身ばっかりパクパク食べていたのですが、いまはご飯とのバランスを考えて食べたほうが美味しいと理解しています(笑)。衝動に対し、立ち止まって考える理性が育つということですね。
——ちなみに、奥様の節約への理解についてはいかがでしょうか?
八木 真澄:もう価値観が固まっている大人は難しいですね……(苦笑)。でも、そこでいちいち「なんでこんなの買うねん」って理解を求めていたら、家族の関係性がおかしくなってしまいます。節約して投資で将来に向けた資産をつくることなど、目的や計画を共有して取り組むことはいいのですが、だからといって共感できない節約まで無理強いするのは、やめておいたほうがいいと思いますね。

八木 真澄(やぎ ますみ)
1974年生まれ、京都府出身。1994年に高校の柔道部の後輩だった高橋茂雄とお笑いコンビ「サバンナ」を結成。芸人としてメディアや舞台で活躍する一方、節約家・投資家としての顔を持ち、2024年10月にファイナンシャルプランナー技能士1級に合格して話題に。YouTubeで金融知識を配信する他、2024年に著書『年収300万円で心の大富豪』を刊行。2025年3月には共著で、『FP1級取得!サバンナ八木流 お金のガチを教えます』を刊行(いずれもKADOKAWA)。