人気税理士が実践する「新NISA」活用術。インデックスと高配当株でつくる堅実ポートフォリオ
税理士は税のプロであり株式投資の専門家ではないが、「お金のプロ」としてのロジカルな投資判断があるのではないか——。そこで、税理士YouTuber「ヒロ税理士」として、知っておくべき税務知識だけでなく、資産形成に向けた株式投資も解説する田淵宏明氏に、投資ビギナー向けの「新NISA」活用術を伺った。自身の投資経験を踏まえ、「新NISA」を最大限活用するポートフォリオの組み方を解説してもらう。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
時間・労力のコストが少ない積み立て投資がおすすめ
——いわゆる投資ビギナーの人が「新NISA」を始める場合、田淵さんは税理士として、どのようなポートフォリオを組むことをおすすめしますか?
田淵 宏明:わたしは税のプロですので、投資について「税理士だから」というアドバイスはなかなか難しいところがあります(笑)。ただ、やはり初心者の方は無理せず「つみたて投資枠」を使って、インデックスファンドから始めるのがいいのではないでしょうか。「つみたて投資枠」は年間120万円までの上限がありますから、設定できる毎月の積立額は月10万円までとなります。
ただ、その資金をひとつのファンドに集中投資してしまうと、例えばそのファンドが投資している国や地域で金融危機が発生した場合や、特定の業種が不振に陥った場合に、資産全体が大きく目減りしてしまうリスクは否めません。そのため、ある程度の分散が必要でしょう。
わたしの場合であれば、「つみたて投資枠」では人気の投資信託であるeMAXIS Slimの全世界株式(オールカントリー)、全世界株式(日本除く)、米国株式という3つのファンドに分散投資しています。全世界株といっても約6割は米国株のため値動きはほとんど同じになりますが、それでも多少のリスク分散効果はあるものと考えています。
そのうえで手数料の安いファンドを選び、無理のない範囲で投資を継続していくことです。「新NISA」は途中で積み立て額の変更もできますし、投資の基礎を学びながら長期的な資産形成の入口とするには最適ではないでしょうか。
——インデックスファンドには日本市場を対象とするものもありますが、米国を中心とした海外への投資が有利でしょうか。
田淵 宏明:やはり、成長実績の点ではそうなると思います。わたし自身、旧NISA時代から5年近く株式投資を続けていますが、特にアメリカのS&P500(アメリカを代表する時価総額上位500社)は短期的には株価に波があるものの、中長期の視点で見れば着実に上がり続けていると実感しています。
一方、日本の場合、株式市場全体では米国市場と比べて成長性で見劣りしますが、個別の銘柄で見ると魅力的なものは多くあります。ですから、わたしの場合は「新NISA」の「つみたて投資枠」で海外・米国中心の投資を行い、「成長投資枠」では日本株の個別銘柄投資を中心に行っています。
——やはり、「つみたて投資枠」だけでなく、「成長投資枠」にも積極的にチャレンジするべきですかね。
田淵 宏明:いえ、そんなことはないと思いますよ。わたしもそうですが、誰だって仕事があって忙しいわけですから、株式投資に時間や手間というコストをたくさんかけるわけにはいきません。あくまでも、本業が重要ですよね。積み立て投資だって定期的な値上がりがある程度期待できるので、それだけでも十分ではないでしょうか。
わたし自身の投資歴を振り返ってみても、個別銘柄への投資よりも、地道な積み立て投資で築いた資産のほうが確実に大きいのです。これはもうあらゆる場所でデータが出ていますが、世界中の多くの投資家の認識ではないでしょうか。
「つみたて投資枠」が上限に達してしまっても、「成長投資枠」でもインデックスファンドは購入できるので、合わせて年間上限360万円、月々30万円までの積み立てができます。ですから、資産や給与にかなり余裕がある人も、株式投資をアクティブに行いたいのでなければ、基本的にインデックスファンドの積み立てをしておけばいいと思います。
個別株投資をするなら「高配当株投資」
——田淵さんは「成長投資枠」で日本の個別銘柄株も保有しているということですが、どのような投資戦略なのでしょうか?
田淵 宏明:個別銘柄株投資では、大きく分けて「売却益を狙う」か、「配当を狙う」かのふたつの方向性があります。もし、投資ビギナーで「個別銘柄投資がしたい」という人がいても、わたしは経験上、売却益を狙う投資は非常に難しく、短期での値上がりを当てることは至難の業だと感じているのでおすすめはしません。
それに比べると、配当を狙う「高配当株投資」なら、無理のない金額から始めてもいいように感じます。高配当株投資は株価が大きく上がらなくても、継続的に配当収入が得られる点が魅力ですし、インデックス投資と同様に長期投資を前提としますから、本業が忙しい方にとってもやりやすい投資です。
——田淵さんの高配当株を選ぶ基準について教えていただけますか。
田淵 宏明:主に4つの基準で銘柄を選んでいます。まず「配当利回り」を見て、わたしの場合は5%以上を基準に目星をつけています。
次に、「自己資本比率」で会社の安全性を確認します。長期保有ですから、会社が潰れてしまえば元も子もありません。上場企業の場合、自己資本比率は60〜70%以上あることが望ましいですね。中小企業では30%以上あれば優良企業とされますが、上場企業の場合は不特定多数の株主がいることを考慮すると、より高い水準が求められます。
それから「配当性向」をチェックして、無理のない配当政策かどうかを判断します。配当性向は「配当性向(%)=配当金支払総額 ÷ 当期純利益 × 100」で求められる比率で、一般に50%以下が目安とされています。50%を超えていたら、利益の割にかなり無理をして配当を出しています。株主還元に積極的といえばそうですが、配当で過度に利益を食い潰しているので、財務健全性として不安要素となるわけです。
最後に、会社の知名度、規模、市場でのシェアなどを総合的に見て、継続的な配当が期待できる企業かどうかを判断しています。
——具体的に、どのような業界や企業を買っているのでしょうか。
田淵 宏明:少し前にわたしのYouTubeチャンネルで公開したポートフォリオがあるので紹介しますね。現在では少し変わっているので、あくまで参考として見てください。
わたし自身は喫煙をしないのですが、JT(日本たばこ産業)やアメリカのMO(アルトリア・グループ)、BTI(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)など、たばこ業界の銘柄は高配当株として非常に魅力的なため多く保有しています。特にJTは政府が株式を保有していることも安心材料ですから、わたしの高配当株投資の中核を担っています。
「SPYD」や「HDV」というのは、いわゆる米国高配当ETFですね。例えば「SPYD」は、アメリカのS&P500(アメリカを代表する時価総額上位500社)のなかでも配当利回りの高い80銘柄で運用しているファンドです。
残りの「その他」は概ね日本株で、最近ではエネルギー銘柄や商社、銀行などが検討対象です。好調な業界に絞ったうえで、その業界内である程度の独占状態を築いている企業や、政府が株式を保有している企業は、安定した配当が期待できると考えて投資しています。
そうすると、必然的に多くの人が知るような大企業に投資することが増えていきます。利回りが高くても、名前も聞いたことのない銘柄は買いませんし、ベンチャーのような不安定な銘柄も選びません。手堅く着実に資産を増やしていくことを重視しています。
日米の株が混在していますが、インデックス投資も含めると、おおよそ日米で半々のポートフォリオとなるような分散投資をしています。もちろん、これが正解というわけではないのでご自身の考えに基づいて投資を行ってください。
株式投資に振り回されないことがもっとも大切
——「本業の妨げにならないように株式投資を行う」とおっしゃっていましたが、高配当株投資は時間的な負担にはなりませんか?
田淵 宏明:高配当株投資では、投資予定の銘柄に目星をつけておいて、安くなったタイミングで買う人もいますね。ですから、毎日パソコンやスマホで相場をチェックして投資を検討すれば、それだけチャンスを掴みやすくなります。
でも、わたしは税理士としての仕事がありますから、投資に時間的なコストを支払いたくありません。無理なくやりたいのです。
ですから、相場はたまにチェックしつつも、投資をするのは月に一度、自分の会社の給料日だけと決めています。株式ニュースやSNS、YouTubeなどで配当利回りが高まっている銘柄を知ったら検討リストに入れておいて、給料日の時点で配当利回りの高い銘柄やETFを検討して投資をしています。もちろん、「2週間前だったらもっと安く買えたのか!」と損した気持ちになることもありますが……(苦笑)、そこは割り切っています。大型安定株を前提としているので、配当利回りそのものは1カ月では大きく変わりません。
——田淵さんは時間も無形のコストと考え、極力、手間をかけたり、心を悩ませたりせずに済むシステムを構築しているのですね。
田淵宏明:株式投資というのは、心をとらわれるとズルズルとハマってしまいかねないので、自分が振り回されない方法や投資ルールを考えることが、なにより大切かもしれません。
株式投資で本業の収入以上に稼ぎたいのならともかく、わたしは税理士としての本業をもっとも大切にしています。高配当株投資を選んだのは、「手間がかからない」ことも理由ですが、「配当金が定期的に入ってくる」ことがメンタルの面でも楽だからなのです。売却益狙いだと「投資は月に一度だけ」とルール化しても、ずっと「損してしまうのではないか……」と気に掛かってしまうと思います。テレビで「株価が急落」と知っただけで、気が気でないですよね。
インデックス投資だけをするのならいいのですが、個別銘柄株に投資をするのであれば、金銭的なコストだけでなく、メンタルや時間を奪われるコストも踏まえて最適な投資スタンスを見つけていきましょう。それが、投資を長く続けていくためのコツでもあると思います。
田淵 宏明(たぶち ひろあき)
税理士法人Five Starパートナーズ代表税理士。関西学院大学を卒業後、2000年より中原会計事務所にて税務申告と経営コンサルティング業務に携わりつつ、25歳で税理士試験最終5科目に合格。世界4大会計事務所「アーンストアンドヤング」日本法人にて国際税務業務を担当。2005年に「世の中を変える“ひとり会社”や中小企業の社長をサポートしたい」という気持ちから、29歳で「ヒロ☆総合会計事務所」を設立して2022年に税理士法人化。さらに2017年、税金知識の不足によって損をしている「税金弱者」を救う目的で、「税理士YouTuberチャンネル‼/ヒロ税理士」をスタートし、現在チャンネル登録者数は約40万人。「日本一わかりやすい税理士」を目指し、専門用語を極力使わずに話すコンテンツが好評を博している。著書多数。