踏み出せないヒトのための投資術 第18回 最も重要な項目のおさらい
投資も汗をかかなければ成功しない
今まで17回にわたって投資の基礎をお話ししてきました。連載もそろそろおしまいですので、今までのなかで最も重要な項目についてまとめをしたいと思います。
【重要項目1 覚悟を決めて行動する】
第1は、基本的な心構えです。政府は躍起になって「貯蓄から投資」を訴えています。ただ、貯蓄は何もしなくてもおカネは増えていきますが、投資はおカネを投じても黙って増えていくものではありません。株式投資の場合は、投資先の選別から売買のタイミングまで、しっかりと分析、判断していかなければなりません。汗をかかなければ、決しておカネは増えないのです。ですので、安易に「貯蓄から投資」に乗ってはいけません。このコラムのタイトルからは、多少矛盾するようなお話をしているように感じる方もいらっしゃると思いますが、市場参加者の多くは“命の次におカネが大切”という人々です。投資をするとは、そんな人々と矛を交わすことだということを決して忘れないでください。投じたおカネがゼロになる可能性も見据えて、覚悟を決めて行動に移してください。
投資をした後も、時間が許す限り、市場での株価の動きをチェックします。また、新聞など、信頼できる情報源からの情報は常にチェックしましょう。
基本中の基本となる2本柱
【重要項目2 ファンダメンタルズと流動性の2本柱で投資する】
第2は、銘柄を選ぶ基本中の基本となるチェック項目です。企業の稼ぐ力(ファンダメンタルズ)と、市場での株式の流動性の2本柱が判断の基準になります。稼ぐ力とは、ズバリ、損益計算書の売上高、営業利益、経常利益の分析が第一歩になります。
他に、中期経営計画の分析も重要です。株式投資は、企業の将来の収益力におカネを投じる行為です。どれくらいの説得力のある計画を提示できているかが、投資判断の大きな決め手になります。
流動性は、今さらクドクド申しませんが、いつでも自由に市場で売り買いできるくらいの商いが毎日なければ、どんなにファンダメンタルズが良い銘柄でも、そもそも投資対象にはなりません。
投資判断を行ううえでは、まず、ファンダメンタルズの分析を行い、そのうえで、流動性を確認するという手順で作業します。
【重要項目3 定性的な表現には騙されないようにする】
第3は、IRなどで企業が公表する情報の見極めです。必ず、数字など、客観的な情報をもとに判断しましょう。定性的な文章での表現は、その企業の実態をまったく説明していないケースもよくあります。客観的な裏付けのない情報は、必ず精査するようにしましょう。
例えば、『当社は、社員の幸福を重視した経営をしています』という表現をよく見かけます。しかし、実際は、まったくそのような経営がされていないケースが少なくありません。もちろん、「社員の幸福」と一言で言っても、幸福の意味がひとりひとりで違いますので、一律に評価はできません。ですから、「社員の幸福」を掲げる企業の場合、投資家としては余計に客観的な評価ができるような情報で判断することが必要になります。
具体的には、社員の定着率、新卒雇用の目標値と実際の応募者数、採用人数のギャップなどが評価基準になるでしょう。また、このような客観基準を明示している企業は「社員の幸福」などというあいまいな表現は使わないものです。
海外を含めた『新規事業』も騙されやすいキャッチフレーズです。言葉だけで、何の収益も挙げていないケースが少なくありません。新規事業に関しては、その分野だけの収益の数値を公表していない場合には、投資判断のプラス要素にはなりません。
【重要事項4 最後の決め手はトップの力量の見極め】
どんなに分析を重ねても、トップの能力、人格が投資先を決める最後の関門になります。会社の価値は、ほとんどが経営トップの力量にかかっているからです。
個人投資家が上場企業のトップにインタビューすることは難しいですが、個人投資家説明会や、ホームページで公開されている説明会の動画、テレビやネットの情報番組などで、できる限り情報を集めて投資の最終判断をするようにしてください。
【重要事項5 タイミングを見逃さない】
どんな銘柄でも、株価の右肩上がりが続くわけではありません。膠着状態を含めて株の動きが変化する要因としては、各銘柄の固有の原因による場合と、市場全体の動きに影響を受ける場合があります。固有の原因は日々の情報チェックで対応は可能です。しかし、市場そのものに勢いがなくなっているケースでは、打つ手がありません。そのような場合は、焦ることなく、しばらく様子見をするというのも、重要です。「すごく有望な銘柄を発見した」とお考えでも、市場の勢いに応じていつ買うかを決める冷静さが必要です。
売却のタイミングも同じように見極める必要があります。しかし、売却のタイミングは、買うタイミングよりもはるかに難しい側面があります。市場の勢いが原因の場合、勢いがなくなってきたと思ったら、あまり欲をかかないで、早めに売るような勇気も時には必要になります。
萬 太郎
IRコンサルタント。上場企業に「ファンダメンタルズ」と「株式の流動性」から企業価値向上のコンサルティングを実施。
大学卒業後、全国紙の経済記者、総合月刊誌の経済担当編集者等で活躍後、経営コンサルティング、証券アナリスト、ファンドマネージャーなどを歴任。近年は、国内上場企業の経営企画職にも従事。
現在は、投資する側とされる側の両方の視点を併せ持つIRコンサルタントとして活躍。