7.直近の決算における業績
“第1四半期で過去最高更新。AI・M&Aが収益加速に貢献し、通期見通しに対して順調な進捗”
エフ・コードの2025年12月期第1四半期決算(1月〜3月)は、売上収益24.2億円(前年同期比+133.4%)、営業利益5.7億円(同+80.9%)となり、いずれも四半期として過去最高を更新する結果となった。営業利益率は約23.7%と高水準を維持しており、同社の成長性と収益性の両立が鮮明となった四半期であった。
特筆すべきは、売上収益において前年同期比で約2.3倍、営業利益では約1.8倍の急伸を記録している点である。この成長のドライバーとしては、主力である「CODE Marketing Cloud」などのSaaSプロダクト群の契約継続率の高さに加え、2024年後半から2025年初頭にかけて実施された複数のM&Aの利益寄与が顕著に現れている。とくに、生成AIプロダクトを展開するSpinFlow社、エンジニア教育を行うCiel Zero社、インサイドセールス支援のSmart Contact社の3社は、今期中に合計3.6億円程度の営業利益貢献を見込んでおり、すでに第1四半期段階で着実な収益効果を発揮しつつある。
通期業績予想に対する進捗率も好調であり、2025年12月期通期の計画値(売上収益100億円、営業利益22億円)に対し、1Q時点で売上収益が24.2%、営業利益が26.0%の進捗を記録している。下期偏重型の収益構造を持つ同社にとって、第1四半期としては異例の高進捗率であり、新規投資(AI開発やMA資金)を行いながらも利益水準を維持している点は評価に値する。
また、同四半期中には、自己株式の取得(約1.6%分、20万株)も実施されており、これは今後のM&A対価や、既存子会社経営陣へのインセンティブ供与に活用する予定である。これにより、資本政策の柔軟性を維持しつつ、企業価値向上とガバナンス強化を同時に図る姿勢が見て取れる。
さらに、財務指標面でも健全性が際立っており、総資産は245億円(前期末比+13.2%)、親会社株主に帰属する四半期利益は3.2億円(同+77.6%)と堅調に拡大している。営業キャッシュフローも引き続きプラスを確保し、成長投資と内部資金創出の好循環が継続している。
2025年12月期第1四半期決算は、SaaS・M&A・AIという同社の主要成長ドライバーがいずれも順調に機能していることを確認する内容であり、通期業績の上振れ余地も視野に入りつつある。投資家にとっては、同社の収益構造が既に高い確度で強化されていることを示唆する重要なマイルストーンとなる決算といえる。
8.通期業績予想
“売上100億円、営業利益22億円を計画。AI・Technology領域が成長ドライバーとして台頭”
エフ・コードの2025年12月期における通期業績予想は、売上収益100億円(前年比+94.9%)、営業利益22億円(同+64.6%)、親会社株主に帰属する当期純利益12.9億円(同+52.4%)と、前期に続いて高成長を継続する見通しである。とりわけ、営業利益率は22.0%に達する計画であり、利益成長と収益性の両立を志向した目標設定となっている。
事業セグメント別にみると、2025年度は「Marketing領域」と「AI・Technology領域」の両輪での成長が計画されている。売上収益ベースでは、Marketing領域が55.0億円(構成比55.0%)、AI・Technology領域が45.0億円(同45.0%)となっており、前年からの構造変化が顕著である。特にAI・Technology領域は前年比+381.3%の急成長を見込み、利益面においても前年比+66.7%の拡大が予想されている。
この背景には、生成AIを中核とした新規プロダクト群の本格的な立ち上がりがある。2024年以降、SpinFlow社によるマルチAI統合プロダクトの提供や、BUZZ・Ciel Zero社によるエンジニア教育事業が開始されており、BtoB SaaSおよび教育支援サービスの両面でARR(年間経常収益)の積み上げが進んでいる。これにより、これまで主力であったWeb接客・マーケティング支援SaaSの売上構成比が相対的に低下し、事業ポートフォリオのバランスが一段と多様化してきた。
また、営業利益の進捗は1Q時点で26.0%に到達しており、下期偏重型の収益構造を前提とすれば、十分な達成可能性を有している。すでに1Q時点でM&Aによる営業利益寄与が想定を上回っており、新たなM&Aが今後追加されれば、計画の上振れも視野に入る。加えて、EPS(1株当たり利益)は104.84円を見込み、2021年(13.40円)からの4年間で約7.8倍に達する見通しである。現在のROE20.8%、PER20.94倍、PBR4.34倍という市場評価は、こうした成長力をある程度織り込んでいるとはいえ、これまでの実績と今後の成長方針を踏まえれば、むしろ割安感すら感じられる水準である。高ROEを維持しつつ、EPSの二桁成長を着実に実現してきた点を勘案すれば、同社の株価は依然として上昇余地を残していると評価できよう。
一方で、AI・Technology領域の成長は人材採用や開発投資への資金投入を伴うこともあるため、先行投資を実施した上でその前提となる成長シナリオが崩れた場合には、利益の下振れリスクも生じる。こうした点は引き続き注視が必要であり、下期の収益進捗や新規受注動向が重要なモニタリング対象となる。
以上を踏まえると、2025年12月期の通期業績予想は、成長企業としての勢いを維持しつつ、事業ポートフォリオを非連続的に進化させていることを示すものと評価できる。M&Aとプロダクト開発の両面からの成長施策が収益化を伴って機能している限り、業績予想及び中期経営計画は現実的な達成可能性を有する。
9.成長戦略とリスク
“プロダクト拡充とM&Aの両輪戦略。急拡大の裏に潜む統合リスクと人材確保の課題”
エフ・コードの成長戦略は、「継続型プロダクトの進化」と「非連続なM&Aによるケイパビリティ拡張」の二軸を中核に据えている。SaaS製品を起点としたマーケティング支援の高度化と、テクノロジー領域(特にAI、エンジニア育成、セールス支援など)への事業拡張を両立させることで、顧客単価の向上およびスケーラブルな成長モデルの確立を目指している。
SaaS領域においては、主力の「CODE Marketing Cloud」の機能拡張と周辺製品との統合が進み、Web接客、EFO、チャットボット、LINE対応などを一括提供可能なソリューション体系を構築。これにより、顧客のマーケティング上の複数課題を単一ベンダーで解決できる体制が整いつつある。また、AI領域では、SpinFlow社による生成AIプラットフォーム「Ai Comp.」がリリースされ、プロンプト自動生成、コンテンツ最適化、FAQ自動回答など、従来型SaaSを超えた“意思決定支援型”プロダクトの提供が始まっている。
一方、非連続な成長手段として積極的に取り組んでいるのがM&Aである。2023年以降に実施された10社以上の買収により、UI/UX改善、SNSマーケティング、エンジニア教育、コールセンター、広告代理など、CXのバリューチェーン全体を補完する体制が整備された。とりわけ、BUZZ社やCiel Zero社など、顧客との接点を担う事業は、SaaSとの併売によって高い相乗効果を生んでいる。
ただし、こうした急速な拡大には複数のリスクも内在している。第一に、M&A後のPMI(経営統合)リスクが挙げられる。買収企業の組織文化やオペレーションの違い、KPI設計の非統一性などが収益への早期貢献を妨げる要因となる可能性がある。また、システム・顧客情報の統合プロセスにおいても、一定のコスト増や進捗遅延のリスクが想定される。
第二に、人材確保と育成の課題である。AI領域を中心とした高スキル人材の市場競争は激化しており、自社での育成を含めた人的投資が必須となっている。実際、今後の成長に不可欠なテクニカルアーキテクト、データサイエンティスト、BtoBセールス人材の採用に関しては、採用コストの上昇や定着率の課題も視野に入れる必要がある。
第三に、プロダクト競争の激化という市場環境面のリスクがある。特にWeb接客やチャットボット領域では後発ベンダーの参入が続いており、機能差別化に加えて導入支援や運用代行など、サービス面での差異化が求められるフェーズに入っている。価格競争への巻き込まれや、主要顧客の乗り換えによる解約率上昇は、事業成長のボトルネックとなり得る。
こうしたリスクに対して、同社は内部統制機能の強化、PMI支援チームの専任化、経営管理システムの刷新など、組織体制面での対応も進めている。また、資本政策として自己株式取得による柔軟な株式活用余地も確保しており、今後のM&Aやインセンティブ設計にも対応できる構造が整いつつある。
エフ・コードの成長戦略は中長期的な非連続成長を志向するものであり、短期的な業績ブレを許容しながらも、持続的にROE・ROICを高水準で維持することが前提となる。投資家としては、上記リスクの発現タイミングとその対応策の実効性を注視しつつ、戦略の着実な遂行に対する企業側のコミットメントを見極める必要がある。
10.株価の動向と株式バリュエーション
“高成長プレミアムをどう評価するか?市場期待と実力とのギャップに潜む短期的リスク”
エフ・コードの株価は、2024年以降に上昇局面を迎えており、2025年7月1日時点の株価は2,273円、時価総額は約289億円である。PER(株価収益率)は20.94倍、PBR(株価純資産倍率)は4.34倍と、グロース銘柄として市場から相応のプレミアムが付与されているとも言える。ROEは20.8%と高水準であり、PER×ROEに基づく“PEG(Price/Earnings to Growth)”的観点でも投資合理性を見出せる水準といえる。
市場は、同社のEPS成長を年率+20%前後と見積もっており、現在の株価水準はこの高成長ストーリーをある程度織り込んだものとなっている。実際、EPSは2021年の13.40円から、2025年には104.84円への拡大を見込んでおり、年平均成長率(CAGR)は+67%と、想定以上の収益成長を実現中である。
一方で、こうした“高ROE × 高PER”の銘柄に共通する短期的リスクとして、「期待先行のバリュエーション調整」が挙げられる。特に、以下の3点は短期的に株価が調整される可能性のある要因である。
第一に、業績の進捗率に対する過度な市場期待である。現時点では1Qの営業利益進捗率が 26.0%と順調であるものの、2Q以降に大型の投資を実施した上でその収益化が遅延すれば、通期業績の未達懸念が浮上するリスクも完全には否定できない。特にグロース株は、成長加速を前提とした評価がなされているため、業績未達時のバリュエーション圧縮はリスクとして存在する。
第二に、自己株式取得やM&A資金に関する財務柔軟性の限界である。2025年春に自己株式16万株(約3.5億円相当)を市場買付により取得したことは、資本効率向上と将来のM&A対価確保という意義を有するものの、今後も継続的に成長投資を行うには更なる資金調達、または利益成長の加速が不可欠となる。これが遅れる場合、株価のモメンタムにブレーキがかかる可能性がある。
第三に、競合環境の変化によるプロダクト差別化の希薄化リスクである。Web接客、チャットボット、AIコンテンツ生成などの領域は、SaaS企業の参入が相次いでおり、特に海外プレイヤーとの競争が激化している。同社の優位性は「併売モデル」と「コンサルティング機能」にあるが、機能ベースでの価格競争に巻き込まれるリスクは残存している。
さらに、PBRが4.34倍という資本効率に対する高評価は、ROEの維持が前提となっている。仮にROEが20%台から大きく低下する局面が訪れた場合、PBRも2〜3倍台まで縮小する可能性があり、その場合は株価調整の影響が顕著になる。
他方で、足元の業績成長とキャッシュフロー創出力には実力が伴っており、現時点では実績EPSに対する益回りは4.8〜5.0%水準で、成長企業としては許容範囲に収まる。配当は無配であるものの、資金の多くを成長投資に振り向けており、この点を評価する成長志向の投資家には適合しやすい銘柄といえる。
以上のことから、エフ・コードの株価は現状の高成長と高収益を前提としたプレミアムを享受しているが、同時にその維持が市場から一定程度求められている状況にある。投資家としては、定量的業績進捗とあわせて、プロダクト競争力やM&Aの実効性など、質的側面の観察が求められるフェーズに差し掛かっているといえる。