“高ROE×戦略領域成長”で挑む中期1,000円EPS* 。
非連続成長と資本効率が導くバリュエーション再評価
*株式分割後のEPS:500円
投資判断
“高ROE×再投資ドリブン”モデルに成長期待。収益足踏みも、押し目での魅力は維持
ヒューマンクリエイションホールディングス(以下、HCH)は、ROE33.9%、ROIC20.0%という極めて高い資本効率を実現しており、収益性・成長性の両面において際立つ高パフォーマンス企業である。2025年9月期の予想PERは12.22倍(投資有価証券評価損の影響を控除した修正値では8.9倍)、PBRは2.67倍、配当性向は20%、よって市場は20%以上のEPS成長を織り込んでいるが、第2四半期末で5.0億円のネットキャッシュに基づけば、実質的なPERは10.7倍に低下する。投資有価証券評価損の影響を控除したEPSを考慮すれば、実質的に割安感は非常に大きい。他方、益回りは9.7%に達する。このように、成長性が評価された水準での株価である一方で、バリュエーションには依然として割安感が強い。
軽資産型のIT人材ビジネスを基盤としつつ、戦略領域(ITコンサル・受託開発・保守)へのシフトによる利益率向上、エンジニア教育による単価・稼働率改善、そしてM&Aによる垂直統合によって強力なキャッシュフロー創出力をもつ。営業キャッシュフローは安定して高水準を維持しており、運転資本効率の良さと設備投資負担の軽さから、フリーキャッシュフローも潤沢である。これらの構造により、同社は成長投資と株主還元を両立しながら高ROICを実現する健全なキャッシュ創出モデルを築いている。
財務面では、2024年9月期には営業キャッシュフローが4.8億円に達しており、資本支出を抑制したことも相まって、フリーキャッシュフローの創出力は非常に高い。時価総額40億円規模の企業として、5億円のネットキャッシュを有する点も特筆に値する。また、上場来の連続増配を堅持しつつ、自己株式取得を含む総還元性向30%以上を中計に組み込んでおり、機動的な株主還元へのコミットメントが明示されている。これに加えて、自己資本比率を40%以下に維持し、資本効率の最大化を追求する姿勢も評価できる。
2025年9月期の営業利益は6.35億円と前年の6.31億円からわずか0.7%の増益にとどまる見込みである。中長期的な収益拡大に向けた先行的な費用投下を進め、前期並みの利益水準を確保しつつも、売上高の成長加速を図るためと同社は説明している。1月に実施された定期昇給や、売上高に連動する成果報酬制度の導入が、SES(技術者派遣)領域の利益率を圧迫する構図となっているものの、注力している戦略領域、すなわちITコンサルティングや受託開発・保守運用等の分野は、2025年9月期第2四半期時点で前年同期比+35.5%と高い成長を維持しており、案件の積み上がりや人員拡充も進行している。また、M&Aを活用した領域戦略の変革も掲げており、実際に25年4月に同社最大規模のM&Aを実行している。事業ポートフォリオの構造転換は着実に進んでおり、これが中長期の収益性改善につながる余地は大きい。
中期経営計画では、2027年9月期に売上高120億円(うち戦略領域50億円、SES70億円)の達成を掲げた2ndステージを経て、2030年9月期にはEPS1,000円およびROE30%以上の達成を目標とする3rdステージへと移行する計画を採用している。これに向けた成長実現の具体策として、HCHは2つの補足シナリオ*を提示している。
*同社の一定条件設定に基づくシミュレーションであり、中長期経営方針としてコミットしている目標値ではない。
EPS1,000円*達成のための1つ目のシナリオ(中期経営計画の補足資料では「シナリオC」)では、毎期5%の売上成長および0.1ポイントの利益率改善によるシナジー創出を前提とし、EPSは1,016円に達する見通しである。親会社株主に帰属する利益は6.9億円、総還元額は5.6億円を想定しており、M&Aを通じた非連続成長の具体像として現実味のあるシナリオとなっている。もう1つのシナリオ(同「シナリオD」)では、これまで織り込まれていない自然成長分を加味し、10%程度の上乗せを行うことでEPSは1,850円に達するとされている。この場合、親会社株主利益は11.7億円、総還元額は7.5億円となる。両シナリオに共通するのは、既存の事業構造に依存するのではなく、M&Aによるシナジー創出や戦略領域への経営資源集中を通じてEPSの飛躍的成長を目指す点にある。
*EPSは、実績・計画・中長期経営方針共に、2024年11月14日に発表した株式分割影響を調整する前の値である。株式分割考慮後の目標値は500円となる。
このように、HCHは一時的な利益の伸び悩みを抱えつつも、中期的には極めて明確な成長ストーリーを持ち、キャッシュフロー創出力、資本効率、戦略的M&A展開、株主還元のいずれにおいても高い投資魅力を備える企業であると評価できる。短期的な業績調整局面は継続する可能性があるが、益回りの高さと再投資戦略を前提に考えれば、株価の押し目は中長期投資家にとって有望なエントリーポイントとなり得る。今後は、戦略領域の収益貢献拡大とともに、提示された成長シナリオに対する実行度を逐次検証していくことが、企業価値評価の重要な指標となろう。
1. 会社概要
人材×ITソリューションの融合による成長企業。システム開発全工程を担う独立系ITサービスホールディングス
HCHは、エンジニア派遣を中心とした技術者支援を基盤に、ITシステムに関するコンサルティング、受託開発、運用保守などを手掛けるシステムソリューション企業である。2016年に持株会社体制へと移行し、グループの戦略的経営と現場執行を明確に分離することで、迅速な意思決定と事業会社の機動性を高めている。2021年3月に東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場し、現在は連結子会社7社を傘下に持つ純粋持株会社である。
グループ創業の原点は、1974年に設立された株式会社バンキング・システムズであり、当初は金融機関向けのハード販売と保守業務を主事業としていた。その後、システムエンジニアリングサービス(SES)領域へと軸足を移し、常駐型の技術者派遣を中心に成長を遂げた。近年では、M&Aを通じてコンサルティングや受託開発領域に進出するなど、事業領域の上流工程への拡張を加速させている。
現在のHCHグループは、技術者派遣に強みを持つ株式会社ブレーンナレッジシステムズ(BKS)を中核に、システムコンサルティングを手がけるアセットコンサルティングフォース(ACF)、ERP導入支援のヒューマンベース、システム運用支援に特化するコスモピア、保守運用領域のセイリング、AIソリューションを担うTARAなどで構成されている。2024年10月には、シー・エル・エスをBKSに吸収合併するなど、グループの再編と機能統合も戦略的に進めている。
2025年4月には、M&A仲介業のHCフィナンシャル・アドバイザーを買収。これにより、顧客企業の経営課題に対するコンサルティングとIT実装をワンストップで提供できる体制を構築し、ホールディングスの経営コンサルティング事業戦略室が各子会社と連携することで、経営コンサルティング事業を本格化させている。
HCHの事業モデルの特長は、SESに代表される稼働ベースの売上モデルに加え、戦略領域(高付加価値領域)としての経営・ITコンサルティングや受託開発・運用に注力している点にある。これにより、単なる労働集約型の派遣業から脱却し、コンサル型・プロジェクト型収益への転換を図っている。グループエンジニアは854名(2024年9月末時点)であり、PM/PLクラス157名、SEクラス284名、PGクラス271名、その他76名と、多様な工程への対応が可能な体制を備えている。また、エンジニアの教育・育成力に注力し、独自のスキルアッププログラムやOJT体制を整備することで、派遣単価の上昇および継続率の向上を実現している。
顧客層は金融、製造、通信、エネルギー、公共・医療と広範であり、直接契約の比率も徐々に高まっている。契約形態は派遣契約が中心ではあるものの、請負・受託案件が年々増加しており、プロジェクトの一括請負に対応する能力も高まりつつある。とりわけ直近では、M&Aで取得したAI関連やM&A仲介子会社との連携により、システム開発における提案力・ソリューション力を一段と強化している。
中長期的には、グループ全体での技術領域の拡張と、IT人材の教育・供給体制の強化により、DX支援市場における競争力を高めていく方針を明確にしている。HCHは「人材(Human)」と「創造(Creation)」を軸に、派遣から開発・保守、さらにAI・コンサルティングまでを一気通貫で担える“次世代ソリューションインテグレーター”として、企業IT支援の高度化に資する独自のポジションを築きつつある。今後は、これまでのSES基盤を活かしながら、より収益性の高い戦略領域の拡大を推進し、資本効率とキャッシュ創出力を両立する経営モデルの完成が期待される。
2.事業の特色、内容
SESから戦略領域へ。派遣主軸モデルの限界を乗り越える高付加価値化の実践
HCHの事業構造は、「人材×IT」を軸にしたエンジニアリング・サービスにより構成されており、大きく分けて「SES(システムエンジニアリングサービス)領域」と「戦略領域(経営・ITコンサルティング、受託開発、運用保守、M&A仲介)」の二本柱で成り立っている。このうちSESは、技術者が顧客先に常駐し、システム開発・保守・運用業務に従事する労働集約型モデルである。一方で、近年注力している戦略領域は、経営コンサルティング、およびITコンサルティング、上流の企画・要件定義工程や、成果物責任を伴う受託開発・プロジェクト型案件へのシフトを特徴とする。この構造転換が、単価上昇・利益率改善という観点で、同社の中長期的な収益性を押し上げる原動力となっている。
2024年9月期におけるHCHの売上高構成比は、SESが依然として約70%を占めるものの、戦略領域の比率は30%以上まで上昇しており、今後はこの領域の比率をあげ、事業構造の転換を図るとしている。
事業の特色として第一に挙げられるのが、広範な開発領域への対応力である。金融・通信・製造・公共など幅広い業種のクライアントに対し、業務系・基幹系・Web系システムに至るまで対応しており、開発・保守運用のみならず、上流工程である要件定義・基本設計の領域にも積極的に進出している。また、エンジニアのスキル構成は、24年9月末時点でPM・PLクラスが全体の20%、SEクラスが約36%と、上位工程対応比率が高い。
第二に、M&Aによる機能拡張と事業補完が挙げられる。直近では、2025年にM&A仲介事業を手がけるHCフィナンシャル・アドバイザーを子会社化し、顧客企業の経営課題に対するコンサルティングとIT実装をワンストップで提供できる体制を構築した。これにより、従来の受託開発案件に加えて、M&A後の業務統合(PMI)支援や、データ連携基盤の開発ニーズなど、複合的な案件の獲得が可能となっている。さらにAIソリューション事業を担うTARAでは、オリジナル開発された人物探知AIカメラを商材として、ITシステムのコンサルティング及び受託開発のリソース・知見に活用を目指している。
第三に、教育・育成を通じたエンジニア生産性の最適化が重要な柱となっている。HCHグループでは、上流工程から下流工程までの一気通貫体制におけるエンジニアの教育体制整備やオリジナルeラーニングを含む独自教育プログラムを拡充している。結果として上流工程対応可能なエンジニアが増加しエンジニア単価向上と収益性の高い案件参画を可能にする。特にエンジニアの継続的採用と、再教育による上流シフトへの戦略は、SES領域の労働集約構造から脱却し、人的資本を起点とした高収益モデルを構築する上で不可欠な施策といえる。
さらに、営業戦略の観点では直販比率の向上も目立つ動きがあり、2023年2月に日鉄ソリューションズとの資本業務提携を発表している。これまで多重下請け構造に依存していたSES業界において、エンドユーザー企業や一次請けSIerとの直接取引を拡大することで、粗利率の改善と案件選定の自由度向上が図られている。
このようにHCHは、従来のSES依存モデルから脱却し、戦略的M&A、エンジニア育成、業務領域の上流シフト、直販強化を通じて、持続的な利益成長を可能とする高付加価値型ITサービスモデルへと進化を遂げている。利益率・単価・稼働効率の三拍子を高める同社の取り組みは、今後のROE維持・EPS成長の基盤となる重要な事業特性であり、株主にとっても中長期的な競争優位性の裏付けとなる。
