成功事例に学ぶ!企業が変わるターニングポイント 投資家が注目すべき「企業の変革」(1)
※この記事は2024年4月25日発行のジャパニーズ インベスター121号に掲載されたものです。
4つの事例から学ぶ!企業の変革に必要なものとは?
経営トップの強いリーダーシップとパーパスを
推進する新しい施策が企業変革の成功のカギに
日経平均が4万円の大台を突破!
日本企業の継続的な変革が焦点に
3月4日、日経平均株価が初めて4万円の大台を突破した。背景には米国の株高や為替の円安傾向、そして日本企業の収益性向上への期待などが挙げられている。年初の3万3288円からわずか2カ月で7000円近く上昇したことから過熱感も否めないが、この日本市場の株高が定着し、さらに上昇するかという点が今後の焦点として注目される。
3月18〜19日の日銀政策決定会合では市場の予想どおり、日銀はマイナス金利を解除しただけでなく、イールドカーブ・コントロールとETFの買い入れまで停止し、これまで続けてきた「異次元の金融緩和」のほとんどを終了した。今後、急激に利上げに踏み切ることはないだろうと思われるが、一気に異次元から普通の金融政策に舵を切った。このことはすでに市場には織り込み済みだと思われるが、日本経済のマインドセットも変わりつつあり、長らく続いてきたデフレは出口に差し掛かっているように見える。
今後の株高を見ていくうえで、短期的には先に述べたような外的要因に左右されるものの、中長期的には日本企業の変革が焦点となる。株価と実体経済のかい離を埋め、日本経済が新たなステージに向かうためには、日本企業の継続的な変革は欠かせないだろう。
2001年からの小泉政権下での構造改革、2012年からの安倍政権下での「アベノミクス」といった日本経済の変化は、外国人投資家の期待を受けて、日本の株式市場に一定の「買い」を呼び込んだといえる。その後の岸田政権では「新しい資本主義」を掲げ、「人への投資と分配」に重点が置かれ、企業は内部留保を従業員の賃上げやリスキリング(学び直し)に投資するようになりつつある。
また、金融庁や東証も日本企業の変革を促進する方向に動いており、2014年2月にはスチュワードシップ・コードを制定して投資家との対話の促進し、2015年6月にはコーポレートガバナンス・コードを制定。その後改訂して、現在では様々な指針が制定されている。さらに、「PBR1倍割れ」企業が多数を占めていた日本の株式市場の現状に対して、2023年3月には東証から上場企業に対して、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」という異例の要請を発表。日本企業に対して、明確な変革を求める姿勢を打ち出してきた。
こうしたことから、日本経済と株式市場が新たな成長軌道への移行に期待する個人投資家にとっても、日本企業の変革は注目すべきテーマだと言えるだろう。ここからは、直近10年程度における日本企業の変革の事例をいくつか挙げてみていこう。
事例① 日本マクドナルドHD
デフレスパイラルで価格競争に原点に立ち返ってV字回復
日本マクドナルドホールディングスは誰もが知る外食チェーンで、ハンバーガーが日本に根付き、日本人の食文化を変えた企業といえる。しかし、2000年代から2010年代にかけて長らく危機に直面していた。マクドナルドは、「Q(品質)」「S(サービス)」「C(清潔)」を企業文化に世界中で発展してきた。
日本でも急速に店舗を拡大し、1971年の5店舗から10年後の1981年には302店舗となり、翌年には外食産業で国内売上高ナンバーワンとなる703億円を計上した。その後も国内店舗の拡大を続け、2002年にはピークとなる3891店舗を達成した。
しかし、行き過ぎたデフレの影響で、売上高は伸びるが、利益率の低迷期に突入する。利益率低下の主因は、1990年代を通じて推し進めた低価格路線。2000年には130円で提供していたハンバーガーを平日65円、2002年には59円としたことで客単価の下落につながり利益が低下した。さらに店舗の老朽化が進み、汚い店という印象を与えることになる。
このような状況下、2004年にアップルコンピュータ日本法人の社長だった原田氏が社長に就任した。原田社長は、就任直後に、「品質」「サービス」「クリーンネス」の3つのみを徹底し、注文を受けてから出来立てを提供する「メイドフォー・ユー」を開始。その後、単価の高い商品による客単価改善を試み、増収増益基調を取り戻した。さらに、不採算店舗の閉鎖とともに、既存店に設備投資を行い、清潔さを取り戻す。こうして、2005年から2010年にかけて、V字回復を達成した。
相次ぐ問題発覚で信頼が急落!現場の声を反映した施策で回復
しかし、2010年以降は商品・サービスのマンネリ化などで再び顧客離れが起き、2期連続で減益となった。そこで、2013年8月、原田氏の後任としてカナダ人女性のサラ・カサノバ氏が事業会社の日本マクドナルドの社長に就任(2014年3月には同社の社長に就任)。同氏は、客の心をつかむマーケティングを得意とし、おなじみの「エビフィレオ」や「メガマック」などを成功に導いたヒットメーカーであった。
ところが、2014年に提供されていたチキンナゲットの原料である鶏肉について、取引先である中国食品業者が期限を偽っていたことが判明。さらに半年後には国内の販売商品に異物混入の告発が相次ぎ、同社のブランドイメージは急落。その結果、2014年12月期、2015年12月期に赤字を計上することとなった。
しかし、カサノバ社長は消費者の信頼回復と経営体制の改善に向けて、多くの改革を迅速かつ確実に実行。原点回帰のQSC重視を掲げ、従業員にはサービスの向上を徹底。さらにこれまで貫いてきた無借金経営を止め、約220億円を借り入れて店舗を改装。同時に、みずからも47都道府県の店舗を一軒一軒まわり、子育て中の主婦や高校生、お年寄りたちの生の声に耳を傾け、商品開発や経営改革の主軸として反映させた。その結果、過去最悪の大赤字からわずか2年あまりで、過去最高の黒字へと驚異のV字回復を実現。2018年の年間来客数は14億人にまで回復した。
このように、日本マクドナルドホールディングスは、「Q(品質)」「S(サービス)」「C(清潔)」という原点を軸に、時代に即した顧客サービスや商品開発、店舗設計、人材活用などの改革を行い、2度の危機から脱却した。
事例② 日本製鉄
統合で世界的巨大企業に── 生産規模の維持で記録的赤字に
日本製鉄は鉄の国内生産シェアで約半分を占める国内最大手で、世界第4位の製鉄メーカーである。1970年、八幡製鉄と富士製鉄が合併して新日本製鉄が誕生。2012年の住友金属工業との経営統合を経て、2019年に社名を日本製鉄に改めた(以降、社名は過去の出来事も含めて日本製鉄に統一)。連結従業員数は約11万人、売上高に相当する売上収益は8兆円、連結事業利益は1兆円に迫る。
新日鉄と住友金属工業が経営統合して世界第2位(当時)の巨大鉄鋼メーカー新日本製鉄が誕生したのが2012年。しかし、統合後すぐには順風満帆とはいかず苦境にあえぎ、2018年3月期には、国内製鉄事業が合併後初めての営業赤字に。新日鉄と住友金属がそれぞれ持っていた製鉄所に抜本的に手を入れず、生産規模を維持していたことが裏目に出た結果となった。需要よりも供給が多い状態が続き、営業は価格競争に走る。製鉄所の稼働率を維持するためでもあったが、鋼材を作れば作るほど赤字になる悪循環に。2019年3月期も赤字となり、国内製鉄事業の2期連続赤字は長い歴史のなかで初めてだった。そして、2020年3月期、連結最終損益がマイナス4300億円という過去最大の赤字を記録した。
5年間に及ぶ構造改革プランで業務効率を高め、コスト削減も
2019年、日本製鉄の国内製鉄事業はキャッシュアウトが止まらなくなっていた。どん底で社長に就任した橋本英二氏は「このままでは潰れる」と改革を徹底し、わずか2年でV字回復させると自らに重い責務を課した。
国内製鉄事業が赤字に陥っていた原因は、国内製鉄所の供給過剰と高コスト構造だ。需要が減っているにも関わらず、高炉は1990年前後に大幅に閉鎖して以降、2019年まで1基の削減にとどまっていた。しかし、2020年に16製鉄所体制だったものを、業務の重複や縦割りを廃して操業効率を高めるために、6製鉄所14地区に再編することに。
さらに、2021年3月5日、日本製鉄の取締役会で2026年3月期までの5カ年に及ぶ構造改革プランを発表。高炉は15基から10基に削減、メッキ加工など休廃止する設備も6製鉄所すべての32ラインに及んだ。他にも年間1500億円のコスト改善や協力会社を含む1万人規模の人員削減などを盛り込んでいた。こうした具体的な改革メニューを株式市場は好感。発表された3月5日は金曜だったため、翌週8日(月曜日)に日本製鉄の株価株は一時、前週末比5%高の1790円まで上昇した。
聖域を設けず強気の価格交渉し、知的財産権侵害にも毅然と対応
赤字の元凶だった製鉄所の改革に目途をつけた橋本社長は、営業にも大鉈を振るった。2021年5月、日本鉄鋼連盟の会見で、同連盟会長を務める橋本社長は個社の話と前置きした上で、「〈ひも付き〉は国際的にも理不尽に安く、是正しないと安定供給に責任を持てなくなる」と訴えた。〈ひも付き〉とは、特定の大口顧客との取引を指す業界用語だ。いくら大口顧客でも「価格が安すぎては供給できない」という決意を世間に示す発言だった。
橋本社長は連日のように営業部長たちを叱咤激励し、「黒字化に向けて値上げをせざるを得ない理由をわかってもらうまで、死力を尽くしてほしい。値上げで取引量を減らされてシェアを奪われるなら、それはそれで構わない」と語りかけた。
値上げをかたくなに拒む顧客には、「値上げを受け入れてもらえないなら供給は出来ない」と伝えるよう