人と地域をつなげる 新しい“福祉”を創造
月収1万4,437円──。
これは全国の障がい者施設で働く障がいのある人の平均月収だ。こうした現状があまり知られていないのも、福祉の現場が社会から閉ざされているからだろう。
「恋する豚研究所」は地場産業の養豚と福祉を結びつけ、豚肉の精肉加工、本物のハムやソーセージづくりを行うだけでなく、トップクリエイターと協働してブランディング戦略も実践。障がいのある人に月収10万円の支払いを目指している。
代表の飯田氏が考える新しい仕組みとは──。
取材・文/岩切徹(編集部)
写真/藤田幸一郎
写真提供/福祉楽団
株式会社 恋する豚研究所 代表取締役
社会福祉法人 福祉楽団 常務理事
飯田 大輔さん
【Profile】
いいだ・だいすけ。
1978年生まれ。東京農業大学農学部卒業。
千葉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程修了。
土いじり、植物いじりが大好きで農業を志すも、大学3年時に親が相次いで亡くなり、母親が設立準備をしていた社会福祉法人の立ち上げに参画。母親の兄である養豚家の在田正則氏が社会福祉法人福祉楽団の理事長に就任し、2003年から介護の現場を任された。2012年に株式会社恋する豚研究所を設立し、代表取締役就任。福祉楽団では、常務理事を務める。
「福祉」を売りにも言い訳にもしない
「商品のブランド化」に力を入れる型破りの福祉施設が千葉県香取市にある。ハムやソーセージなどの豚肉加工品を製造・販売する『恋する豚研究所』だ。
都心から車で走ること1時間ちょっと──。成田空港からおよそ10㎞東の自然いっぱいの里山も残る田園地帯を走っていると、赤い屋根のおしゃれな建物が現れる。その佇まいはさながらリゾートレストランといった雰囲気だ。事情を知らない人はここが福祉施設だとは夢にも思わないだろう。1階は継続就業支援A型の施設である豚肉加工場。現在、13名の障がい者が働いている。2階にはレストランと売店、会社と社会福祉法人の事務所、そして屋根付き広場がある。ランチタイムは周辺の女性客や家族連れを中心ににぎわっており、週末には行列ができる。
「お客さんは、ここが福祉施設だとは気付かないでしょう」
そう笑うのは、恋する豚研究所の代表取締役で社会福祉法人福祉楽団・常務理事の飯田大輔さん。
障がい者が働く作業所といえば、パンやクッキー、ジャムなどを作り、「福祉」を謳って販売する光景が思い浮かぶ。しかし、ここでは施設にも商品にも、そうした表示はまったくない。むしろ、建物も商品のパッケージも、スタイリッシュで洗練されている。
「福祉は農業と同じ。クリエイティブで地域に密着したものですから、同じことをしても、必ずうまくいくわけではありません。ここは養豚が盛んな地域だから、おいしい豚を育てて加工・販売していますが、その土地にある魅力的なものを活かせばいい。販売会社としての『恋する豚研究所』を立ち上げたのも、福祉を売りにも言い訳にもしないで、また買いたいと思える高品位なブランドとして売っていくためです」
知らないうちに支えている新しい「福祉」の仕組み
障がい者施設で働く障がいのある人の月収は全国平均で1万4437円──。
多くの施設がわずかな売上を分け合っているだけで、自立できる水準には到底及ばない。こうしたなか、障がいのある人に月10万円の給料を支払える仕組みをつくろうと、社会福祉法人『福祉楽団』は、2012年に『恋する豚研究所』を設立。叔父で福祉楽団理事長の在田正則さんが養豚業を営んでいたこともあり、地場産業である養豚を活かし、日本を代表するクリエイターと協働して、施設やパッケージなどのブランドデザインを設計。明治屋やクイーンズ伊勢丹などの高級スーパーの販路も戦略的に開拓した。今では障がいのある人に月に7万8000円を支払えるまでになっている。
「都内の高級スーパーで恋する豚研究所の豚肉やソーセージを買ってくれる人たちは、日々の買い物で知らないうちに福祉を支える行動をとっていることになります」
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