第25回「賢明なる投資家とは」

新日本有限責任監査法人 公認会計士
Winning Women Network代表
金子 裕子
かねこ・ひろこ。
1989年新日本有限責任監査法人入所。2003年~2006年まで金融庁 総務企画局 企業開示課で、開示規則の改正、監査基準の改訂等に携わる。
現在は、監査業務の他、Winning Women Network代表、監査部門からの会計に関する質問の対応、監査法人内外への会計情報の発信等を行っている。公認会計士試験 監査論試験委員(2010年~2014年)。日本公認会計士協会 監査・保証実務委員会委員(2011年~2014年)、芝浦工業大学非常勤講師(2009年~2014年)等を務める。
主な著書:『連結財務諸表規則逐条詳解(2011年)』、『経理・財務部長ハンドブック(2012年)』、『連結子会社の決算マニュアル(2013年)』、『引当金の実務(2014年)』他
公認会計士と投資家の関係
公認会計士の主な仕事は、投資家に開示される決算書の監査を行うことです。具体的には、会社法に基づいて株主に送られる招集通知や、金融商品取引法に基いて公表されている有価証券報告書・四半期報告書に含まれる決算の数字に、誤りや不正がないかをチェック(監査)しています。
招集通知は、株主総会の2週間前までに送付されますので、3月決算の会社であれば、概ね5月末から6月上旬頃に手元に届きます。有価証券報告書は、決算日から3か月以内の提出が義務付けられており、一般的には株主総会後の6月下旬に公表されます。四半期報告書は、決算日後45日以内に公表されます。
このほか、証券取引所の規則に基づいて、決算日から45日程度で決算の概要(決算短信)が公表されます。なお、決算短信については公認会計士の監査は求められていません。
ディスクロージャー書類の活用
投資家の皆さんは、有価証券報告書等のディスクロージャー書類をどの程度活用しているでしょうか? タイムリーな情報提供ではないので、投資には役立たないと思われるかもしれません。しかし、有価証券報告書は、企業に関する情報の宝庫で、会社の事業内容や社風、取り巻く環境要因等を詳しく知るのに有用な情報が盛り込まれています。しかも、株主でなくてもEDINET(※1)から容易に入手できます 。無料で簡単に入手できる情報をさらに活用し、企業評価に役立ててはいかがでしょうか。
※1
EDINET
http://disclosure.edinet-fsa.go.jp/
有価証券報告書の活用法

有価証券報告書には、企業を理解するための貴重な情報が多く記載されていますが、情報量が膨大であるために、逆にどこを読んだらよいのか分かりにくいという問題もあります。投資家の皆さんに役に立ちそうな情報をピックアップしてみましょう。
有価証券報告書の内容は、①決算状況を数値で示した『財務情報』と②文章による会社の説明である『非財務情報』に分けられます。『財務情報』には、会社の財産の状況(資産・負債)を表す貸借対照表、業績を示す損益計算書、資金の動きを示すキャッシュ・フロー計算書等が含まれます。『非財務情報』には、図表のような内容が記載されています。例えば、従業員の平均給与、役員の報酬額(役員報酬の総額と報酬1億円以上の役員については個人別の報酬額)からは、会社の人件費負担の状況や社員・役員の懐具合を垣間見ることができます。従業員の平均年齢と勤務期間からは、転職が多いのか長く務める社員が多いのか分かります。役員の略歴の記載からは、オーナー会社なのか、生え抜き役員が多いのか等を知ることができます。株式等の状況では、金融機関・法人株主・外国人株主・個人株主別にどのような株主が多く株式を保有しているか、大株主が誰かを知ることができますので、株主の動向による株価への影響の判断材料になります。さらに、対処すべき課題・事業等のリスクについての記載では、特定の個人に依存している会社なのか、為替変動のリスクが大きいのか、法規制に影響を受けやすいのかといった点を知ることができます。
社風や事業展開の状況等も知ることができますので、興味本位で斜め読みしてみてもおもしろいのではないでしょうか。
賢明な投資家とは
賢明な投資家とは何でしょうか。投資に必要な情報を適切に入手し、自らの投資基準に照らして投資の判断を行い、その結果として満足感を得ることができれば、賢明な投資家と言えるのではないでしょうか。
投資に必要な信頼できる情報として、ディスクロージャー書類が挙げられます。そして、投資の満足感の第1は、経済的なリターンを得ることですが、投資による精神的な満足感も重要ではないでしょうか。自分の好きな商品を作っている会社や自分が好きな会社への投資を通じて応援するのも賢明な投資の形と言えるのではないでしょうか。
女性の活躍とディスクロージャーの新たな動き
応援したい会社の一つの指標として、女性が活躍している会社への投資も注目されています。少子高齢化が進む中で、日本経済が持続的に発展し、日本が国際的に貢献していくためには、グローバル市場へのビジネスの展開、新技術を利用した新規事業分野への進出等とともに、女性がビジネスにおいて力を発揮していくことが重要と考えられます。
資本市場におけるディスクロージャーでは、女性の活躍を開示することにより女性役員・管理職の増加や活躍を後押ししようという動きが見られます。平成26年6月24日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014‐未来への挑戦‐」の中で、「女性の更なる活躍推進」に関する提言が行われたことを踏まえ、平成27年3月期より、有価証券報告書において、役員の男女別人数と女性比率の記載が義務付けられます。今年は、各社の女性役員の数に注目が集まりそうです。
おわりに
新日本有限責任監査法人では、2012年秋にWinning Women Network(※2)という女性経営者と女性エグゼクティブを応援するためのネットワークを立上げました。WWNは、経営に関する情報やネットワーキングの機会の提供によって女性経営者と女性の活躍を応援し、日本経済の発展とより良い社会の構築に貢献したいと考えています。このため経営に関するセミナーとネットワークイベントの定期的な開催、ホームページ等での情報提供、書籍の出版等を行っています 。
読者の皆さんも、投資を通じて女性の活躍を応援してはいかがでしょうか?
※2
Winning Women Networkの概要と会員登録(無料)は下記のアドレスをご覧ください。
http://www.shinnihon.or.jp/wwn/