ビジネスコーチ株式会社『ビジネスコーチングを“社会インフラ”に育て、日本企業の成長に貢献する』
ビジネスコーチ株式会社
証券コード 9562/東証グロース
代表取締役社長 細川 馨
Kaoru Hosokawa

23年3月期からの人的資本開示の義務化など、日本企業の人材力に対する関心が昨今高まっている。そうした中、ビジネスパーソンの“行動変容”を促すことでその能力を引き出すコーチングサービスを提供し、人と組織の成長を支援しているのがビジネスコーチだ。大手企業からもその効果を評価され、継続的な取引を積み重ねる同社の細川社長に会社の強みと成長戦略を聞いた。
取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久
ビジネスパーソンに気づきを与え、行動変容を促すことで成長に導く
――御社が提供しているビジネスコーチングとはどのようなものですか?
ビジネスパーソンに客観的な立場からフォローアップし、“気づき”を与えることで行動変容を促すアプローチがビジネスコーチングです。経営者やビジネスリーダーの行動は、その下にいる多くの人に影響を与えます。仕事で人と接していて「人の話を聞く力を持てば素晴らしいリーダーになれるのに」とか、「いいアイデアを持っているのだからもっと積極的に発言したらいいのに」などと感じたことがある人もいるのではないでしょうか。当社はそのような人の強みを伸ばし、弱みを改善するお手伝いをすることで、クライアントのビジネス目標の達成を支援しています。
――ビジネスコーチングの分野で起業しようと考えたきっかけを教えてください。
前職の生命保険会社で支社長をやっていた頃、当時は金融ビッグバンで銀行や保険会社の破綻が相次ぎ、私の会社でも保険の解約ばかりやっている状況でした。支社のメンバーのモチベーションを上げる方法をいろいろと探していたときにコーチングのことを知り、「これは使えるな」と思って学び始めました。そして支社のメンバーに対し、しっかり話を聞き、質問し、時にアドバイスするというコーチングの手法を実践したところ、メンバーも生き生きと仕事をするようになり、職場も活気づいた。こうして組織を素晴らしいものに変えることが出来るコーチングの魅力に気づき、その後、会社が外資系企業に吸収合併されたのを機に退職して2005年に当社を立ち上げました。
当初、我々には経営者向けのコーチングメソッドがなく、どう作るか模索していた時にアメリカで「コーチングの神様」と呼ばれるマーシャル・ゴールドスミス博士と出会うことができました。「この人のメソッドを日本に持ってきたら、本格的に日本は変わる」と確信し、日本にお呼びしてセミナーをしていただき、彼のコーチングのメソッドを習得しました。そして2009年から経営層向けのエグゼクティブコーチングをスタートさせ、B to Bビジネスを事業の中核としました。現在は主に大企業向けに、“1対1型”と“1対n(複数)型”のコーチングサービス提供をしています。

出所:同社説明資料より
雇用や働き方を取り巻く環境の変化が追い風
――創業から20年近く経ちましたが、現在の市場環境を教えてください。
日本の企業向け研修サービス市場は約5,000億円の規模ですが、その中で当社が展開するコーチングとマネジメント開発分野の割合は約6.5%です。アメリカの場合、約1.2兆円規模の市場のうち、およそ35%をこの分野が占めており、アメリカと比較すると日本の市場はまだまだ小さな規模に留まっています。
アメリカでビジネスコーチングが盛んな理由としては、雇用制度がジョブ型だということが挙げられます。日本の場合はメンバーシップ型で、これまではみんなで研修を受けるような形の人材育成方法が採用されてきましたが、アメリカではスキルを自分で磨くのが当たり前なのです。近年、日本においてもメンバーシップ型の雇用を見直してジョブ型を導入する動きが出てきており、今後はビジネスコーチングの需要が高まってくると考えています。
――コーチングを受けたクライアントの反応はいかがでしょうか。
当社ではクライアントごとにコーチングの内容をカスタマイズしてサービスを提供していますが、その高いコーチング力と継続的なフォローアップが評価されて、追加でクライアント企業の他部門や関連会社へのコーチングを依頼されるケースも増えています。あるクライアント企業の例では、最初は経営者自身がコーチングを受けていましたが、その後、管理職50人へのコーチングを依頼していただきました。当初、4,000億円規模だったその企業の時価総額はその後、約1兆2,000億円規模に成長しています。
昨今、人的資本への関心が高まっていますが、いかに人を成長させて企業価値を高めるかというところでビジネスコーチングに注目している企業が増えています。特にグローバルで活躍する企業を中心に、その有効性に気づき始めており、今後、時価総額にも反映されてくると思います。

出所:同社説明資料より
――トップマネジメント層に対するコーチングは、コーチの側にも高い能力が要求されるのでしょうか。
その通りです。コーチにもビジネス経験が必要で、現在約120名いる当社のパートナーコーチの3分の1が経営者や役員、あるいは部長クラスのバックグラウンドを持っています。しかし、コーチングでは自分の経験ややり方を押しつけてはダメです。クライアントは一人ひとり違うので、「こうしなさい」と指導するコンサルタント型のコーチは受け入れてもらえないし、通用しません。質問をして、話を聞いて、素晴らしいリーダーになるためのアドバイスをする。過去の誤りの改善点を指摘する“フィードバック”ではなく、未来志向を促し、気付きを与える“フィードフォワード”が重要なのです。
――なぜ自社ではなく、社外スタッフであるパートナーコーチを活用しているのですか。
当社のコーポレートスローガンは、「あなたに、一人の、ビジネスコーチ」です。ビジネスパーソン一人ひとりにコーチをつけることを目標としているため、社内でコーチを育成しているだけでは間に合いません。コーチの素質を持つ素晴らしい人材はたくさんいるのですから、その方々にパートナーコーチをお願いしているのです。
――今後の展望について教えてください。
当社はビジネスコーチングという日本企業の成長に貢献する“社会インフラ”を作ろうとしています。同時に、30%の配当性向を目標として株主様に対する還元もしっかり行います。もちろん、社員にも還元しますし、クライアントの成長に役立つ投資も行います。
人的資本に対する注目の高まりという追い風もあり、ビジネスコーチングの需要は今後大きく拡大するでしょう。一方で、現在の当社の取引先企業は東証プライム市場上場の大企業が中心となっていますが、より幅広く、多くの企業へコーチングサービスを広げていきたいと思っています。そのための投資も積極的に検討していきます。
また、私は個人の投資家の皆様とのコミュニケーションを大切にしています。できる限り多くの個人投資家向けの説明会などに参加して、対話を重ねていきたいと考えています。