医療施設型ホスピスを展開し地域医療の強化・再生に取り組む――株式会社アンビスホールディングス 代表取締役社長 柴原 慶一
株式会社アンビスホールディングス
証券コード 7071/JASDAQスタンダード
代表取締役 柴原 慶一
Keiichi Shibahara
高齢化が進み、医療過疎地での過密な労働環境や医療資源の偏在が問題化しつつある。こうしたなか、医療施設型ホスピス「医心館」を運営し、地域医療に貢献しているのがアンビスホールディングスだ。医療・介護で社会課題の解決に取り組む同社の柴原慶一代表に今後の展望を聞いた。
取材・文/小椋 康志 写真撮影/キミヒロ
医療依存度の高い人々の地域医療の受け皿として機能
―― 医心館とはどのような施設なのでしょうか。
柴原 当社の子会社である㈱アンビスが運営する医心館は、慢性期・終末期の医療依存度の高い方々に終の住み家を提供し、医療とケアを届ける「医療施設型ホスピス」です。医師機能を外部の開業医にアウトソーシングすることで看護ケアに特化した、地域が連携して利用しあえる“シェアリング病床”のような在宅施設である点が特徴です。昨今は入院日数の短期化が求められるなか、人工呼吸器がついたままでも自宅に戻らなければいけないケースもあります。こうした医療依存度が高いのに行き場がない方々の受け皿となっているのが医心館です。
入居者とほぼ同数の看護・介護スタッフを雇い入れており、そのうち約半数が看護師です。24時間365日、病院並みの看護体制を整えて、入居者の個室を見回りながらケアしています。病院と違うところは、医師、薬剤師、検査技師、検査機器などの病院の検査、診断、治療、救命救急機能を外部にすることで低コスト化している点です。
事業の収益は入居者からのホテルコスト(賃料・管理費・食費)と公的保険から成っており、一般的な介護施設は利用者負担と介護保険の2階建て構造ですが、当社の場合は医療保険も入った3階建ての構造となっています。その分、有能な職員を多く雇い、質の高いサービスを提供できるのです。
――創業の経緯を教えてください。
柴原 私は大学卒業後、1年間の臨床研修を経て、その後は全くの基礎研究者の道を歩んでいました。そして時々アルバイトで勤務したのは、慢性期や終末期の患者さんが多くいる田舎の病院でした。夜間当直をすることもありましたが、医師が呼ばれることはほとんどありません。慢性期・終末期の患者さんは比較的症状が安定しているため、看護師が見守っていれば、必ずしも医師が常駐している必要はないと直感しました。医師機能をアウトソーシングするという医心館の発想は、この過疎地域での医療の経験が一つのヒントになっています。
現在、地方の医療過疎地では、病院が疲弊し、破綻するケースが少なくありません。医心館が患者さんの受入れ先として機能することで、地方の病院は医師の常勤体制を見直して疲弊を軽減できますし、地元の開業医も過度な負担なく看護体制が整った病床をシェアリングできます。また、患者さんは介護保険・医療保険を使って低コストで入居できます。このため、病院、医師、患者、すべてにとってメリットのある仕組みを構築できていると言えます。
地域での信頼関係を築き医療のプラットフォームに
―― 東日本を中心に出店を加速させていますが、どういった戦略を展開しているのですか。
柴原 当社は出店における市場調査の段階から地域での医療ニーズを探り、地域特有の穴を埋めるべく入居対象者を絞り込んでいます。入居者に応じた人員体制を敷き、採用を強化します。その結果、地域に欠かせないプラットフォームとして根付くことに成功しています。
介護事業者は成功した施設があると、その近隣の地域に出店していくケースが多いのですが、当社は既存の出店地域にこだわらず、ニーズのある地域へは飛び地であっても出店しています。飛び地での出店は難しいと言われていますが、宇都宮に医心館を作った後、水戸に市場調査に行ったら、すでに当社のことを知っていただいていました。医療従事者同士の情報網などを通じて当社の事業内容が広まっており、期待されていることがわかり嬉しかったです。
また、医心館では有能な看護師をたくさん採用しなければなりませんが、優秀な人材は数カ所から引き合いがきます。そのため、看護師を採用しやすい、駅近くの好立地に出店しているのですが、副次的な効果として入院患者へのお見舞いの頻度が増えるため、職員の士気も高まり、さらなるケアの質の向上につながっています。
―― 今後の展望を教えてください。
柴原 医心館事業の医師のアウトソーシング化や病床のシェアリングという考え方をもたらすことによって、出店地域では地域の医療機関や関係者と早くに信頼関係を築くことができています。2020年9月期も新たに9施設、400床程度増やしていく計画です。
また、看護師が“管理している在宅型の病床”があれば、高齢者だけに利用対象者を絞る必要はありません。18歳以上45歳未満で医療依存度の高い重度心身障害者、もしくは18歳未満の医療が必要なお子様を抱えて悩んでいる親御さんはたくさんいます。今後はそういった方々にも看護ケアが付属する住まいを提供していきたいと考えています。また我々は病院を再生したいという思いで事業を始めており、そのために医心館のスキームを活用できればと願っています。
―― 出店を進めていくうえでの人材採用についてはいかがでしょうか。
柴原 特に地方における看護師の採用は難しいと言われていますが、当社では上場前から採用には困っていません。看護師がやりたいことを実現できる職場というイメージ、ブランド構築に成功しているおかげだと思います。
―― 株主還元について教えてください。
柴原 2020年9月期は12円配当の予定です。利益は順調に出ているので、上場企業として株主に還元するべきだと考え、2019年9月期より配当性向10%以上の方針を打ち出しました。好調に成長している医心館事業へ経営資源を投下しつつ、配当とのバランスを考慮したいと思います。当社の株主になることで、間接的に地域社会の課題を解決していくことにもつながります。その思いを株主の方々と共有できれば嬉しく思います。