サラリーマンだったからこそ資産17億円を築けた。給与という「安全域」が持つ強み

株式投資で大きな資産を築こうとすると、「毎月いくら入金できるか」が重要だと考えがちだ。しかし、『サラリーマンが株で4億円。FIREして今17億円』(KADOKAWA)の著者であるシケモク投資家氏は、会社員としての給与を生活の基盤にしながら、投資資金への追加の入金をほとんど行わず、17億円もの資産を築いた。投資で少し失敗しても翌月には給与が入る「安全域」があったからこそ、株価の下落に動じず、長期で保持することができたという。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹
会社員の仕事、スキルアップ、株式投資という「3本の矢」
――シケモク投資家さんは、大手電機メーカーの半導体エンジニアから知財部、M&A担当へと仕事の幅を広げ、会社員を続けながら司法試験にも合格されています。多忙な生活のなかで、どのように株式投資を本格化させ、FIREに至ったのでしょうか。
シケモク投資家:実は、「ここから本格的に投資をはじめた」という区切りは、自分のなかにはありません。株式投資をはじめた頃から基本的には同じ考え方で、同じようなやり方で投資を続けてきたからです。手法を大きく変えたわけでもありませんし、あるとき一念発起したわけでもありません。
最初に株を買ったのは2001年です。当時、遠藤四郎さんの『株でゼロから30億円稼いだわたしの投資法』(エール出版社)という本を読んで、「会社員でも株で30億円を目指せるんだ」と衝撃を受けたのが大きなきっかけでした。
そこで知ったのが、企業の資産価値に注目する投資です。貸借対照表などの財務諸表を見て、企業が持つ資産価値に対して株価が極端に割安な銘柄を買う。しかも、買ったら基本的には放っておく。わたしの株式投資の原点は、そこにあります。
――その後も、株式投資だけを優先してきたわけではないのですね。
シケモク投資家:そうですね。むしろ会社員としての仕事もしっかりやって、資格の勉強もしていました。わたしのなかでは、会社の仕事、資格取得などのスキルアップ、それから株式投資という「三本の矢」があったような感じです。
当時は株式投資のために使える資金も少なかったので、投資で得られる利益も小さい。ですから、株式投資はあくまで片手間でした。FIREするために仕事を辞めることを最初から目指していたわけではありません。仕事をして、収入を得て、資格も取って、その一方で株式投資も続ける。それを20年以上積み重ねた結果として、最終的に株式投資が最も大きな資産を築くことになったという流れです。
会社員であることの「安全域」を活かす
――会社員として投資を続けるうえで、「毎月給料が入ってくる」ことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
シケモク投資家:これはものすごく大きいと思います。会社員の場合、仮に投資で失敗して資産がゼロになったとしても、翌月には給料が入ってきますよね。つまり、生活そのものを投資に頼らなくていいわけです。わたしはこれを、会社員の特権だと考えています。
わたしは株式投資をはじめるときに、妻から300万円を出してもらいましたが、「これがゼロになってもいい」という許可を得たお金です。その後、投資資金は最終的に1500万円くらいまでになりましたが、そこから給料を追加で入金することはしていません。給料やボーナスは全額を妻に渡して、生活費や教育費などに使っていました。
それでも株式投資を続けられたのは、会社員としての給料があったからです。生活の基盤が別にあるので、「この株がゼロになったらどうしよう……」などと考えなくていい。もちろん、実際にゼロになったらそれはそれでつらいですが、投資資金が生活費に直結していないことはかなり大きいと思います。
――専業投資家と比べると、心理面でも大きな違いがありそうです。
シケモク投資家:そうですね。例えばリーマン・ショックのときには、わたしの資産もかなり減りました。でも、会社員として給料をもらっていたので、生活に困ることや家族に影響が及ぶようなことはありませんでした。
一方、投資を生活の収入源としている専業投資家の場合は、投資で生活費を確保しなければなりません。どれだけ割安だと思っている株でも、相場が急落すると「このまま持っていて大丈夫なのか」と不安になります。実際、わたしと似たような資産バリュー株投資をしていた専業投資家が、コロナ・ショックのときに一部を売ったケースもありました。
これは、その人が投資を理解していなかったからではないと思います。生活がかかっている以上、売らざるを得ない場面があるのでしょう。その点、会社員なら「仮にこの株がゼロになっても、来月には給料が入る」と考えることができます。だからこそ、株価が下がったときにも、慌てて売らずに持ち続けることができるのです。
わたしは、会社員であること自体が、投資における「安全域」になっていたと思っています。株式投資で大きな資産を築こうとすると、どうしても「いかにたくさんのお金を投資に回すか」という入金力の話になりがちです。でも、わたしの場合は、毎月入金することよりも、生活を投資から切り離したまま、時間を味方につけられたことのほうが大きかったと振り返ることができます。
会社員だからこそ「待つ」ことが苦にならない
――ご著書では、「株価を毎日見る必要はない」「一度買ったら2年〜3年持ち続ける」といった考え方も示されています。会社員が本業に支障を出さず、感情に振り回されないためには、どうすればいいでしょうか。
シケモク投資家:会社員ですから、ちゃんと会社の仕事に集中するだけでいいと思いますよ(笑)。投資するときはしっかり調べて、自分が「これだ!」と思ったものを買う。でも、それ以降は、わたしのようなバリュー投資なら基本的には放置です。
そもそも、短期間で上がることを想定して株を買っているわけではありません。そうであるなら、株価をずっと気にしている必要はありません。株価を見る暇があるなら、本業をしっかりやって給料を増やすことを考えたほうが賢明です。
――実際に、半年ほど株価を見ないこともあるそうですね。
シケモク投資家:その通りですが、半年とか1年ぶりに株価を見るときは、やっぱりちょっとドキドキしますね。「どうなっているだろう?」と思って見たら、「あ、全然変わってないじゃん」みたいな(笑)。
でも、それくらいでいいのではないでしょうか。ウォーレン・バフェットも、「週末に株価を見なくても平気なら、平日にも見なくていい」という趣旨のことをいっています。機関投資家なら報告のために資産を計算する必要がありますが、個人投資家が毎日、自分の資産額を確認する必要はないでしょう。
会社員にとっては、株を買ったら本業に戻る。あとは企業の価値が株価に反映されるまで待つ。それくらいの距離感が、むしろ投資を続けやすくすると思います。
投資の玄人は最悪の事態から考える
――ご著書にあった「株価が上がることより、下がらないことのほうが大切」という言葉が印象的でした。
シケモク投資家:これは、株式投資の初心者と玄人をわける考え方だと思っています。初心者は「この株はどれくらい上がるだろう」と、どうしてもアップサイドばかりを見ます。でも、将来の株価なんて誰にもわかりません。自分の目論見通りにならないことは必ずあります。
だからこそ玄人は、「もし失敗したらどうなるか」を考え、最悪のケースになったとしても致命傷を負わないようにします。「ここまで下がったとしても、自分は大丈夫だ」と思える銘柄を選ぶことが重要であり、わたしはそれを徹底しています。
わたしの本は、ある意味では「石橋を叩いて叩いて渡る」ような内容です。どうやって儲けるかというより、どうやって損をしないかに言及したものといっていいでしょう。企業の内在価値を調べて、安全域を確保して、さらに業績や株価の推移、有価証券報告書なども確認する。そこまでやって、できるだけ失敗する確率を下げています。
――「上がりそうな株」ではなく、「それほど下がらなそうな株」を探すということですか。
シケモク投資家:そうです。「これからすぐ上がる株」を見つけるのはとても難しい。でも、「これからそれほど下がらない株」を見つけることはできる。そこが大事だと思っています。株価が上がるかどうかには、どうしても運の要素も絡みます。でも、下がる可能性が低い銘柄を見つけることは、企業の価値をきちんと調べればできるはずです。ですからわたしは、上がる株をあてることよりも、損する可能性が低い株を探すことに力を使っています。
暴落はむしろポートフォリオを改善するチャンス
――シケモク投資家さんは、少数の銘柄に資金を集中させています。一般的には「集中投資=ハイリスク」と考えられますが、なぜ集中できるのでしょうか。
シケモク投資家:わたし自身は、集中投資をハイリスクだとは思っていません。ものすごく割安で「この会社なら大丈夫だ」と確信できる銘柄があるなら、そこに多く投資したほうがいいからです。あまり割安ではない銘柄をたくさん持つより、極端に割安な銘柄に資金を寄せるほうが、わたしにとっては安全なのです。
実際、大きく資産を増やしている人を見ると、基本的に分散投資をしている人であっても、どこかの段階で集中投資をしているケースが多いと見ています。もちろん誰にでも同じやり方が合うわけではありませんが、分散だけを徹底していては、よほど高い収入がある人でない限り、大きく資産を増やすのは難しいのではないでしょうか。
――暴落時には、その集中投資が大きなダメージになる可能性もあります。暴落を乗り切るために、どのようなことを意識していますか。
シケモク投資家:暴落したときに一番やってはいけないのは、怖くなって全部売ってしまうことです。「この先どうなるかわからないから売る」というのは、最悪の判断になりかねません。
わたしの場合、暴落すると、むしろ「どの銘柄を持っていたら、ここから一番上がるだろう」と考えます。コロナ・ショックのときも、商業系のREITが40%〜50%下がりました。家賃がそこまで変わっていないのに、株価だけが大きく下がっているものもある。そこで、下落が小さかった銘柄を売って、大きく下がった銘柄に乗り換えました。
ただし、暴落時は精神的にはかなりきついのはたしかですね……。コロナ・ショックのときは、資産総額を見ると何百万円、何千万円単位で減っているのがわかってしまうので、あえて見ないようにしました。信用取引を使っていたので、見るのは維持率だけです。追証が発生して強制決済される可能性があるなら、そこは冷静に計算してポジションを落とす。必要なことだけを確認して、あとは今日やるべきことに集中する。それが暴落時の基本だと考えます。
――最後に、一般の会社員の読者へメッセージをお願いします。
シケモク投資家:わたし自身、最初に読んだ遠藤四郎さんの本から「会社員でも株で30億円をつくれる」ということを教えてもらいました。それが本当に大きかった。もちろん、誰でも同じ投資法をやればいいという話ではありません。でも、普通の会社員でも、株式投資を続けていけばそこまで資産を増やせる可能性があることは事実です。その可能性を知るだけでも、株式投資に対する見方は変わると思います。会社員には、毎月給料が入ってくるという強い基盤があります。それを最大限に活かして、焦らず、退場しないことを第一に投資を続けていってください。
シケモク投資家さんの書籍のご紹介
シケモク投資家(しけもくとうしか)
個人投資家。投資歴25年。理系大学院卒業後、大手電機メーカーに勤務。2022年9月末、資産4億円に到達したことを機にFIRE。2026年2月末で資産17億円に達する。株式投資をはじめたのは2001年。当初は銀行株への安易な投資で大きな損失を出すも、遠藤四郎氏の『株でゼロから30億円稼いだ私の投資法』(エール出版社)という本に出会い、企業の資産価値に注目する投資法に衝撃を受ける。以降は決算書や有価証券報告書を読み込み、現金、投資有価証券、不動産など企業が持つ資産価値に対して株価が極端に割安な企業を探す「資産バリュー株投資」を実践。企業価値を見極め、厳選した数銘柄に集中投資し、長期で保有するシンプルな投資スタイルを基本としている。学生時代はボート部でオリンピックを目指した体育会系。

