ソリューションビジネスで培った信頼が結実し過去最高益を達成 地域産業の明るい未来を信じ成長への挑戦を続けます(株式会社名古屋銀行 取締役頭取 藤原 一朗)
株式会社名古屋銀行
証券コード8522/東証プライム
取締役頭取
藤原 一朗
愛知県を基盤とする当行は、預金・貸出という伝統的な銀行業務に加え、早くからソリューションビジネスによるコンサルティング営業を展開してまいりました。製造業を中心とした地域企業の経営課題に向き合い、ともに解決策を模索する中で培われた信頼関係やノウハウは、当行の重要な経営資源となっています。構造改革の成果が顕在化し、新たな成長軌道に乗った現在、「未来創造業」を掲げる当行の事業戦略と今後の展望についてお伝えします。
未来創造業としての信頼が結実し、過去最高益を達成
2025年3月期の業績につきましては、連結当期純利益が147億円に達し、前期の100億円から46.7%増という大幅な増益を達成しました。
これには具体的に大きく三つの要因があったと考えています。第一に、有価証券運用ポートフォリオの大胆な構造転換です。2022年度以降のドル金利上昇局面において含み損を抱えた外貨債を思い切って処分し、比較的利回りの高いものへ入れ替えを行ってきたことが奏功しました。また、直近では円金利上昇の影響を受けた円貨債についても同様に入れ替えを行っており、その際に発生した売却損はコーポレートガバナンス・コードに則った政策保有株式の売却益により相殺しました。その結果、市場運用のパフォーマンスは大幅に改善しています。
第二に、本業である預金・貸出業務の順調な推移です。預金残高は前期比8.4%増、貸出金残高は5.6%増と、いずれも大きく伸ばすことができました。
第三に、法人向けのソリューションビジネスによる役務収益の継続的な成長です。
これらは、自動車産業を中心とした日本一の「ものづくり県」であり、製造品出荷額において圧倒的なトップを誇る愛知県の経済環境に起因しています。この恵まれた経済環境において当行はパーパスに「未来創造業」を掲げ、従来の銀行が預金・貸出・決済という三大業務に軸足を置いていたのに対し、私たちはソリューションビジネスによるコンサルティング営業を展開し、お客さまの課題解決を通じて地域の未来を創造することを目指してきました。
それはいわば、銀行としての法人営業に付加価値をつける取り組みといえます。例えば、預金・貸出業務だけではいわゆる「お願い営業」になりかねないと考え、10年ほど前からスタートさせたのが補助金申請支援です。
この支援は、現在「ものづくり補助金」「事業再構築補助金」において、民間金融機関で全国第2位の累計実績を誇っており、それだけ多くの中小企業のお客さまと膝詰めで対話しニーズに応えたことで信頼関係が結ばれたことを意味します。また、2019年に新設した「自動車産業サポート室」を2022年に「自動車サプライチェーン支援室」へ改組し、より専門的なコンサルティングを行うほか、カーボンニュートラルや健康経営の支援など、地域企業の課題解決に直結するサービスを提供し続けていることに対して高い評価をいただいています。こうしたソリューションビジネスが支えとなり10期連続で役務取引等利益の増益を達成し、その評判と信頼の積み重ねが預金・貸出業務の成長につながる好循環を生み出しており、いま、金利のある時代に至って業績として花開いたものと考えます。短期的な目線ではなく、3年、5年、10年と続けてきた施策が、確かな収益力として当行の企業価値向上に繋がっていることを実感しています。
第22次経営計画の進捗状況と今後の見通し
2023年度よりスタートした第22次経営計画は、従来の「中期」ではなく8年間という長期視点で策定した点が最大の特徴です。これは、愛知県の基幹産業である自動車産業が大きな構造転換期を迎える中で、短期的な収益確保を目指すのではなく、ソリューションビジネスを通じて地域のお客さまの長期的な発展と成長に寄り添い、ともに持続的に成長していくという決意の表れです。
先の通り当行は業績面で前期を大幅に上回る成果を上げており、中間目標として掲げた2027年度の当期純利益(連結)150億円に対して147億円、ROE(連結)では目標5%超に対して5.08%となったことから、中間目標をそれぞれ200億円、6%超に上方修正しました。
具体的な取り組みでは、先の「自動車サプライチェーン支援室」の活動が挙げられます。中小企業の製造業のお客さまの多くは、生産性向上や品質改善に対し高い意欲をお持ちですが、アプローチ方法について専門的な知識・経験等が不足しているケースが少なくありません。そこで大手自動車メーカーOBを「現場改善コンシェルジュ」として起用し、製造現場で直接改善サポートを行っています。単に結論をお伝えするのではなく、社長や工場長をはじめとした皆さまとディスカッションしながら課題発見力と解決力を高めて改善を進めるプロセスが評判を呼び、多くの引き合いをいただいております。
また、「健康経営伴走支援コンサルティング」も成果を上げ、当期までの累計で3,130社の健康経営宣言をサポートし、522社で本格的なコンサルティングを実施しました。製造業における人材不足の要因のひとつは、過酷な職場環境のイメージにあります。健康経営はそのイメージを払拭して採用難を改善し、また定着率向上にも寄与する極めて実効的な具体策となります。お客さまの持続的な成長基盤をつくる事業として注力してきた実績と、当行自身の健康経営が評価され、当行は健康経営優良法人2025のホワイト500において、全業界でトップレベルの評価をいただき、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する健康経営銘柄2025に初めて選定されました。
さて、今後の見通しについて申し上げますと、私は愛知県の自動車産業の未来に明るい展望を感じています。かねてより国内メディアでは、EV化によるエンジン部品メーカーの危機と、米国関税による貿易収支の悪化が懸念されていますが、それは「自動車産業」という粒度の粗い見方であり、愛知県のサプライチェーン全体に当てはまる事象とは必ずしも言い切れません。米国輸出に頼るばかりではなく、むしろインド、中近東、アフリカ、南米などの国々の成長も期待できます。また、こうした国々にEVはフィットせず、ハイブリッド車を含むガソリン車にニーズがあると私は予測します。
むしろ、厳格なEV化を先行したEUでは、ガソリン車販売禁止計画の見直しを迫られているものの、すでにガソリンエンジンの製造基盤はかつてに比べて弱体化している側面もあり、部品を日本から輸入している事実はあまり知られていません。これはエンジン部品の製造、組み上げが極めて精緻な技術であり、一度喪失してしまうと簡単には取り戻せない日本の宝であることを示しています。当行は引き続き、2030年ビジョン「お客さまとともに成長する地域No.1金融グループ」の実現に向けて、ソリューションビジネスを通じて地域産業を支えてまいります。
地域金融機関の役割を担い、地域のサステナビリティに貢献する
ここまでのお話を通じ、国内産業を支える愛知県を地盤とする当行にとって、単に預金と貸出で利益を得るビジネスではなく、お客さまのニーズに寄り添う支援こそが果たすべき役割と考えていることをご理解いただけたと思います。
当行がサステナビリティを当経営計画の柱に据え、マテリアリティに「健全な地域経済の成長への支援」と「持続可能な環境保全への貢献」を掲げるのは、地域金融機関として地域社会の持続的な発展なくして当行の持続的成長もあり得ないという確信からです。これは単なる社会貢献活動ではなく、経営の根幹をなす取り組みと考えます。
地域経済の成長支援においては、人材紹介、健康経営コンサルティングも重要な戦略です。特に人材不足への対応では、一次的には人材派遣会社と連携し、お客さまの状況をよく知る当行がお客さまに必要な人材のマッチングをサポートします。その上で、事業基盤の整備として健康経営の支援を行っています。地道な取り組みではありますが、お客さまのもとで当行の保健師を帯同して健康経営セミナーを実施し、従業員の皆さまに「心身ともに健康になれば生産性がアップし、会社の収益が上がり、皆さまの給料も上がる」と理解してもらうことから取り組んでいます。自主的に推進する大企業はともかく、中小企業への健康経営ガイダンスには行政も苦慮しており、こうした地道な啓蒙こそ中小企業とつながる地域金融機関が担うべき、地域の持続的な発展に向けた役割といえるでしょう。
また、特徴的な取り組みのひとつは投資専門子会社「名古屋キャピタルパートナーズ」です。従来の銀行ではデットファイナンス(融資)しかできませんでしたが、中小企業の経営改善や事業成長にはエクイティファイナンス(出資)が有効な局面があり、グループとしてお客さまへの金融支援の多様化を進めています。特に、地域の雇用を守ることにつながる、事業承継や事業再生におけるファンド出資に注力し、単に資金提供するだけでなく、同社社員がお客さまのもとに頻繁に足を運び、ハンズオンで経営に関与しています。この取り組みを通じて得られる知見は、通常の融資業務にも活かされ、お客さまへの付加価値提供の幅を大きく広げています。
環境保全への貢献では、特に「カーボンニュートラル宣言策定コンサルティング」を通じたお客さまのCO2削減に向けた支援を重視し、CO2排出量の測定から排出量削減に向けた具体策の実施を推進しています。また、今後はトランジションファイナンスへの対応が重要になると認識しています。中小企業における化石燃料からのエネルギー転換を支援するのは地域金融機関の役割と考え、多くのお客さまに適用できる現実的な支援のあり方を検討してまいります。
経営と現場の思いをひとつにすることが人的資本戦略の要
私たちが目指す「未来創造業」は、高度な専門性と深い共感力を持った人材なくしては実現できません。当経営計画では「人的資本経営」も戦略の柱とし、全業界でトップクラスと評価される健康経営の一層の推進と計画的な人材育成、やりがいを持って働ける環境整備「働きがい改革」を通じたウエルビーイング経営の視点も取り入れ、積極的で温かい組織風土の醸成に努めています。
非財務目標として「女性配置率」「ワークエンゲージメント」「クロスキャリア比率」を設定していますが、ワークエンゲージメントについては、役員の業績連動報酬の指標として利用しており、経営陣が主体的にコミットする仕組みを構築しました。健康経営においても、まず経営陣の姿勢と実践が重要だと考え、私も週に20kmのランニングを習慣化し、マラソン大会にも参加しています。
また、DX戦略では「業務・事務のDX化」を掲げ、業務自動化と本部集中化を通じ、営業店の事務ゼロ化を推進していますが、その目的は最終的には「お客さまとの接点の強化」にあります。人的リソースの余剰をお客さまとのコミュニケーションに充て、高付加価値業務へシフトしていきます。
ただし、こうした組織改革の要諦は、経営者の考えを全行員にまで浸透させることにあると私は考えます。その具体策として、毎月開催される支店長向け会議では、経営者としての考えを示すため必ず自分で原稿とスライドを作成し、自分の言葉で伝えています。そして、その資料を行内のイントラネットでパートタイマーを含む全行員が閲覧できるようにすることで、経営者の考えの「見える化」を図っています。
さらに、当行には20年以上前から経営陣が行員とランチミーティングを行う文化があり、私自身も非常に重視しています。私の場合、営業店を訪問した際には昼食をテイクアウトしてカジュアルな対話を行い、行員からの様々な質問に対しても分かりやすい説明を行っています。例えば、パーパスである「未来創造業」とは何かと言っても、資料上の戦略だけでは伝わりません。個々の業務に置き換えた説明が必要です。
こうした行員との対話・発信の機会において、私は「仕事の目的は数字をつくることではない。法人営業なら会社の発展をお客さまと一緒に考え、個人のお客さまならご本人さまとご家族の幸せにつながる未来をつくっていくんだ。それを一生懸命やれば結果的に数字はついてくる」という話を、何度も繰り返しています。当期の好業績を受け、「みんなが一生懸命お客さまのために動いたから業績がついてきたんだ。君たちの仕事は間違っていない」と言えることに無上の喜びを感じますし、行員たちの納得感につながり、さらにモチベーションを高める好循環が生まれています。
今後の課題は人材育成であると考えます。当行のソリューションビジネスは多角化し、お客さまへの資金供給の手段も多様化しています。2019年に当行は金融投資部を設置し、各部署で分散していたストラクチャードファイナンスを専任担当部署として一元対応するとともに、資金調達やリスク管理のノウハウを積み上げています。こうした知見を行内で共有する枠組みや、スキル向上の教育機会を充実させ、さらにお客さまに寄り添える人材育成に努めてまいります。
株主還元を強化し、皆さまとともにさらなる成長・発展を目指す
他県であれば地域で過半数のシェアを持つ地方銀行もありますが、愛知県は多数の金融機関による競争が激しく、歴史ある銀行でも決して安泰とはいえません。このような環境にあるからこそ、当行は知恵を絞り、行員たちは額に汗してシェアを高める努力をしてきました。そして、チャレンジの積み重ねがあるからこそ、この変化の激しい時代を私たちはチャンスと捉えることができます。
変化の激しい環境にあるからこそ新規事業への参入の余地が生まれ、既存事業においても危機感を持ってサービスとマインドを磨き続けることで、淘汰に勝ち残ることができます。その不屈のマインドは、お客さまの熱い思いに触れて学んだことにほかなりません。これからも当行は2030年ビジョンの実現に向け、地域とともに一歩一歩、着実に歩みを進めてまいります。また、株主の皆さまには着実な成果でお応えしてまいります。
2025年3月期の配当金は、2024年3月期の180円から270円に増配いたしました。さらに、2026年3月期は10月1日で株式分割を行いますが、分割前ベースで300円に増配する予定です。これらは一時的な好業績によるものではなく、ここまでお話しした通り、持続可能な収益基盤に裏打ちされたものです。
PBRの改善についても、企業価値の着実な向上により、市場からの評価を高めていく考えです。ステークホルダーの皆さまには、引き続きご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
※本記事は、「株式会社名古屋銀行 統合報告書 2025」より転載しております。
