創業以来培ってきた技術を強みとし、中期経営計画を達成。『進化と変革』の第2ステージとして「GX事業」を力強く推進し、グループ一体となって長期ビジョンの実現を目指します。(三菱化工機株式会社 代表取締役・社長執行役員 田中 利一)
三菱化工機株式会社
証券コード6331/東証プライム
代表取締役・社長執行役員
田中 利一
三菱化工機のあゆみと価値創造の軌跡
当社は1935年の創業です。当時、日本社会が必要としていた最先端の化学工業用機械は欧米からの輸入品で、これをなんとか国産化したいという目的でスタートした会社です。
戦時中に輸入が困難となった影響から、油清浄機の開発に着手。第1号機を納入したのが1940(昭和15)年でした。その後、国内はもとより世界中で採用され、今日に至るまで製造を継続し、トップシェアを誇るまでになっています。
戦後の復興期、日本がエネルギー不足に苦しむ中、当社はガス精製などのエネルギー関連プラントを建設しました。高度成長期に入ると、旺盛な需要に応えるべくケミカルプラントなどを次々と手がけます。この時代は公害が大きな社会問題となっていました。そこで当社は排煙脱硫技術や工場の排水・下水処理技術を駆使して大気や水を浄化。環境を保全するという仕事に注力し、大きな成長を遂げることができたのです。
創業の頃から、当社は「固体・液体・気体を分離する」というコア技術を大切に育ててきました。そして、大きく変化する社会状況を注意深く観察しながら、コア技術を基に社会に必要とされる新製品等を開発し、市場に投入する。これが90年間、一貫して維持してきた当社のビジネスモデルです。
その事業範囲は社会インフラを支えると同時に、環境対策に資する部分が多く、事業活動そのものがSDGsへの貢献につながっています。期せずしてCSV経営(Creating Shared Value経営、社会的課題を事業機会と捉える経営)を古くから実践していたのです。
来る2035年に当社は創立100周年を迎えます。この節目を前に「三菱化工機グループ2050経営ビジョン」を2021年に策定しました。
2050年を最終到達年とし、2035年を見据えた長期的な発展の道筋を描くため、次の世代の経営を担う従業員が中心となり策定したものです。策定に当たり、全従業員を対象にアンケートを実施。2050年の社会課題として「CO₂・気候変動」「資源循環」「水・食料」「自然災害」「労働力不足」という5つの社会問題を想定しました。
これらを解決するために当社ができることはなんだろうか。議論を重ね、4つの戦略的事業領域として「循環型社会推進事業」「クリーンエネルギー事業」「省力・省エネ事業」「次世代技術開発事業」が浮かび上がりました。私たちが長年培ってきた技術をもとに新たな用途開発をし、付加価値を高めていくことのできる新規事業領域です。
そして既存事業にこの新規事業領域を主体とする事業を上乗せすることで、2035年には当時の水準を倍増させる売上高1,000億円、営業利益率7〜8%という目標を立てました。売上高の半分を新規事業領域と既存事業の深化により実現するという、野心的ビジョンを持った計画です。「持続可能な発展に挑戦し、快適な社会を実現」というビジョン・ステートメントをまさに体現した目標であり、2050年の目指す姿に成長するための重要なベンチマークであると考えています。
企業風土を変え、大きな成長を掴む
米国の関税政策やウクライナ・中東情勢など、政治・経済的にも地政学的にも不確実性が高まる状況下で持続的な成長を維持するには、あらゆる事態に対応できる準備を整えることが重要です。また、事業環境の変化についてはポジティブに捉えています。特に環境意識の高まりは当社にとっての大きな事業機会で、4つの戦略的事業領域をさらに具体化する気運が高まっています。
前中計(2022年度-2024年度)は経営ビジョン実現に向けた足固めの時期として捉え、新たな事業ポートフォリオの確立と経営基盤の確立に邁進しました。
事業別に申し上げますと単体機械事業では、造船業界の活況を受け、油清浄機及び環境規制対応機器の受注・売上増加により、数値目標を達成しています。また、SAF(持続可能な航空燃料)の大規模実証設備向けに油清浄機の納入を行うなど、新たな用途開発を行うこともできました。
エンジニアリング事業は国内の設備投資が堅調で、受注売上ともに数値目標を達成しました。特に日本製鉄株式会社からの水素還元製鉄の実証設備向け大型水素製造設備の受注が大きく貢献し、中計2年目には過去最高の受注高を達成しています。また、JFEスチール株式会社より小型オンサイト水素製造装置「HyGeia(ハイジェイア)-A」を7基受注しました。製鉄プロセスの中で、高炉から発生する排ガスに含まれるCO₂を、「HyGeia-A」で製造する水素を用いてメタンに変換。還元剤として高炉で再利用することで「カーボンリサイクル」を実施する実証設備向けへの納入です。
開発分野における新製品や新技術については市場投入が予想より低調で課題を残す結果となりましたが、既存事業における用途開発と深化は一定の成果がありました。
2025年3月期における受注高は649億円、売上高592億円、営業利益率9.6%。またROE、配当性向、配当額を含め、中期経営計画3年目の目標値を全て上回る成果を上げています。また受注残高の積み上がりが大きく、新中期経営計画期間内での売上成長も期待できます。これは過去に経験のない成果で、十分に評価できる中期経営計画だったと思います。
そして最初の中期経営計画を終えた現在地点で振り返ると、簡単には実現しないだろうと予想していた目標達成に手応えを感じるほど、大きく成長しています。ここには時間をかけて取り組んできた「企業風土を変えよう」という試みが影響していると考えています。
2014年に風土改革推進委員会を設立し、今日に至るまで様々な活動を行っています。それまでの当社は、新しいことにチャレンジするより、自分たちの足元を手堅く守っていくことを優先する雰囲気が強く、ボトムアップで意見を出すという風土が不足し、他部門の仕事への興味が薄い自部門主義が見られました。
まずはここから変えなければいけないと考え、「職場ミーティング」などの場を作って対話を重ねました。コミュニケーションを活性化し、相手を責めない。そして失敗を無理なく報告できるような、風通しのよい企業風土をつくるべく工夫を重ねました。
具体的な事例を挙げると、約3年前からはじめた「さん付け運動」の活動があります。部長、社長などの役職名を使わず、全員を「さん付け」するのですが、これも、いつのまにか全社に浸透し、私自身も社内において社長と呼ばれることはほとんどありません。
また、2021年の本社事務所の開設も変化のきざしになったと思います。これまで川崎地区には3つの拠点があり、必要に応じて拠点間の行き来を日常的に行ってきました。それを創業の地である川崎製作所と本社事務所の2拠点へと集約を実施しました。本社事務所へ移った社員には、入社以来ずっと川崎製作所に勤務していた社員も多く、移転に関して戸惑いを示す社員も少なからず存在しました。
しかし、移転した本社事務所は機動性を高めるためにJR川崎駅近くにあるので、通勤時間も短縮され、日常生活が変わることで、ものの見方、考え方が変わります。拠点の集約により他部門との関わりも増える中で違和感が消えて、新しい形態が当たり前になります。そういうところから会社の風土が変わっていったのだと思います。
また当社はB to B のエンジニアリングとモノづくりの会社なので、営業支援の観点以外に自社の知名度を上げるための広報活動を行ってきませんでした。しかし、リクルーティング、IR、社員のモチベーションアップやエンゲージメント向上なども含めて、三菱化工機のブランド価値を上げるための施策にも力を入れはじめました。
2024年から川崎で活動するプロバスケットボールチーム「川崎ブレイブサンダース」とオフィシャルスポンサー契約を結びました。バスケットボールを通じて、地域社会の活性化やスポーツ文化の価値向上など、よりよい社会を共創することを目指しています。
新中期経営計画『進化と変革へ』を推進し、ビジョン実現に向けた「飛躍の3年間」に
この度、「中期経営計画(2025年度-2027年度)」を発表いたしました。GX事業を確立し、経営ビジョンを実現するための「飛躍の3年間」と位置付け、数値目標として売上高900億円、営業利益率9%以上、ROE12%以上、PBR1倍以上の維持を掲げました。これは過去最高水準の目標値です。
これを実現するための施策として、「事業ポートフォリオの進化」「資本コスト・株価を意識した経営の確立」「人的資本・技術資本の強化」「経営ガバナンスの透明性向上」という4つの骨子をまとめました。
「事業ポートフォリオの進化」について、経営ビジョンにおいて戦略的事業領域とした「循環型社会推進」「クリーンエネルギー」「省力・省エネ」「次世代技術開発」を一つにまとめ、新たな報告セグメントとして「GX事業」としました。
これまでは「エンジニアリング事業」と「単体機械事業」は縦割りで、事業部ごとに営業を行っていましたが、2024年に営業統括本部を設立し、One MKKで顧客へのアプローチを実施。「GX事業」は縦割りの体制ではなく、「エンジニアリング事業」と「単体機械事業」を横断する営業体制を展開しています。
例えば、当社が従来から持っている水素を作る技術にしても、製鉄分野でのメタネーションや水素還元製鉄に利用するなど、従来とは違った用途での活用方法があります。当社の技術を様々な局面で応用し、用途開発を行い、カーボンニュートラルな社会づくりに貢献していく──これが「GX事業」のあり方です。親会社も子会社もなく、直接部門も間接部門もなく、全体で大きな目標に向かっていくという価値観を持ち取り組んでいます。
特にバイオガス利活用、CO₂回収といった「持続可能な循環型社会推進事業」と、水素利活用などの「水素を核としたクリーンエネルギー事業」はQuick-Win分野として注力していきます。R&Dに30億円の投資を実施することで、新中計期間中にGX分野で230億円の売上高を目指し、創立100周年を迎える2035年には売上高の過半を占める主力事業とすべく積極的な事業展開を進めます。
一方で、当社の基盤事業である「エンジニアリング事業」と「単体機械事業」については、差別化・競争優位性を活かした収益性の向上を図る成熟事業と位置付けています。また、収益性の評価指標としてROICを採用し、低収益事業の見直しと再構築を行っています。長年続けている事業でも利益率が低ければ、どこかで見極める必要があります。基準を設けて半年ごとにフィルターにかけて判断し、リソースの再配分を実施します。
強固なガバナンスと社員の充実した社会生活こそが持続的成長の基盤に
「資本コスト・株価を意識した経営の確立」については、IR、SR活動をさらに強化し、当社への適正な評価並びに成長期待を醸成してまいります。
例えば、外部からの取材申込みなどは、私自身、なるべく受けるようにしています。様々な媒体を通して出てくる情報を見比べることで、当社のあり方がどのように受け止められているのかが客観的に理解でき、これまでにない学びがあります。特に水素を核としたクリーンエネルギー事業など、循環型社会の実現に資する技術や開発については興味関心が高く、社会からの期待をひしひしと感じます。
資本効率の向上については、手元資金の積み上がりとCCC(Cash Conversion Cycle)が改善すべき課題として上がっています。今後はCCCの改善、非事業性資産の圧縮により資金を創出、財務レバレッジを活用するために借入調達を行い、資本効率の向上を図ります。
現在、当社は「三菱化工機グループ2050経営ビジョン」のベンチマークとして定める2035年の目標に向けて、成長投資を最優先としています。株主還元の強化は、投資や財務の健全性とのバランスを見ながら実施し、配当性向は最終年度40%を数値目標とし、配当の下限としてDOE3.5%を設定しています。
「人的資本・技術資本の強化」については、人材ポートフォリオ管理を強化しつつ、「GX事業」の推進に資する人材育成を強化します。また、従業員ダイバーシティ推進のため、女性従業員比率20%以上を目指し、積極的な採用と管理職登用を進めます。
現在、女性従業員比率は着実に上がってきてはいるのですが、間接部門での業務が中心です。単体機械事業やエンジニアリング事業といった直接部門でも活躍する女性を増やし、ゆくゆくは管理職になってもらいたいと考えています。
従業員エンゲージスコアは、前中計に対して3ポイント以上向上させることを目指しています。また、定量的な数字の改善だけでなく、せっかく働くのであれば、日々、充実した社会生活を送ることが大切です。今後、タウンホールミーティングの実施など社員と面談をする機会を増やし、新しい中期経営計画をしっかりと理解してもらうとともに、豊かな企業風土、職場環境を一緒に構築するべくコミュニケーションを深めたいと思います。
新中計の4つの重要施策の中でも「経営ガバナンスの透明性向上」は特に大切だと考えています。どれだけよい成績を上げても、一つの不祥事が全てを暗転させた事例は枚挙に暇がありません。取締役会をはじめとする各内部統制システムを機能させ、モニタリングを実施することでガバナンス機能を果たしていく必要があります。
前中計期間中、外部からの目線をさらに取り入れるべく、社外取締役を1名増員しました。また、取締役会構成者11人中、女性を1名から3名に増員し、バランスと多様性を意識した体制としています。
前回(2022年度)実施したタウンホールミーティングの様子
2027年2月に完成予定の本社・川崎製作所
ビジョン実現に向け全力で取り組み、『進化と変革へ』とどまることなく歩み続ける
現在、本社・川崎製作所の再編に向けた工事が、2027年2月の完成予定に向けて着々と進んでいます。1935年の創業以来、ものづくりの場として様々な製品の開発と製造を行ってきた、当社の真髄ともいえる大切な場所です。
その再編にあたっては、単なる老朽設備の建て替えではなく、「GX事業」領域を中心とした研究開発の場とすべく、また、十分な設備を準備し優れた技術を生みだしていく、まさに当社グループの心臓部として捉えています。
工場実験棟には当社の既存および新規技術開発の拠点を置き、外部機関との共創・相乗効果を図るべく多目的な実験・研究フィールドを併設します。事務所研究棟では、多様な働き方や自主・自律・自発的な活動に応えるスペースや食堂、会議室などの付帯設備に特徴のある空間デザインを採用。社員の憩いの場になるのと同時に、多彩なアイデアを生み出す豊かなコミュニケーションの場を創ろうとしています。
私が入社したのは約40年前ですが、非常に業績の厳しい時期もありましたし、紆余曲折があって今に至っています。その経験から見ても、この数年がもっとも変革の時期だと感じています。少しでも立ち止まると、大きな遅れにつながりますし、ゼロから新たに歩きはじめるのも勇気が必要です。したがって、これからの社会では止まらずに歩み続ける持久力こそが、もっとも重要と考えています。
今、我々は有言実行を実践できています。今年度から始まった新しい中期経営計画の大胆な目標設定は、その認識のうえに立脚しています。当社はこれから、まさに成長しつづける企業だと確信しており、本年はその飛躍の初年となります。当社グループにぜひご期待ください。
※本記事は、「三菱化工機株式会社 統合報告書 2025」より転載しております。
