プラスαの価値を提供し、地域の豊かな未来をともに築く(株式会社京葉銀行 取締役頭取 藤田 剛)
株式会社京葉銀行
証券コード 8544/東証プライム
取締役頭取
藤田 剛
お客さまとともにゴールを描き、伴走する存在でありたい
このたび、頭取に就任いたしました藤田剛でございます。京葉銀行グループのトップとして重責を担うこととなり身の引き締まる思いです。当行が目指す方向性や中長期戦略について、私自身の想いを交えてお伝えいたします。
2024年以降、日本は長期的なデフレからの移行期を迎え、マイナス金利政策も解除されるなど大きな転換点に立っています。金融政策の正常化は景気回復の兆しとして歓迎する一方で、物価上昇と賃金のギャップには注視が必要な状況です。私自身、お客さまの声を伺う中で、いまだ家計や企業活動に慎重な姿勢が根強いことを肌で感じています。
さらに、我が国における少子高齢化、人口減少といった社会課題は、消費マーケットへの対応はもちろん人手不足や事業承継問題など、地域経済そのものに構造的な変化を要求しています。
また、世界に目を向けても、新たな技術の進展や投資機会の拡大、そして今現実に起きようとしているパックス・アメリカーナからのパラダイムシフトなどは、産業構造や価値観の変化に加え、あらゆるものの二極化の流れを加速させ、政治経済にボーダーレスな影響を与えています。
こうした状況に、地域に根差す金融機関としてどのように向き合うべきか。過去の歴史を振り返りつつ、複数のシナリオを想定して柔軟に構える姿勢、「現在のポジションを正確に見極めたうえで、未来にいかに備えるか」が何より重要であると改めて実感しています。
“金利のある世界”を例にとっても、銀行にとっては収益改善の機会ですが、一方でご融資先にとっては資金調達コストの上昇を意味します。設備投資の判断や経営の見通しが難しい局面では、私たちは単に金融サービスを提供するにとどまらず、「正しい情報をお届けし、ともにゴールを描き、伴走する存在」でありたいと考えています。
企業理念を羅針盤として、社会価値と経済価値の両立によって企業価値向上を目指す
私たちは2024年に企業理念『プラスαの価値を提供し、地域の豊かな未来をともに築く』を全役職員参加型で再定義しました。変化を求められる時代だからこそ不易流行、“変わらなければいけないもの”の対極にある“変わってはいけないもの”を意識する必要があると考えたからです。判断に迷うときや自分の弱さが出そうになったとき、一人ひとりが普遍の理念を羅針盤として思考し行動することが、京葉銀行グループをあるべき姿に導き、地域やお客さまから選ばれる企業にしてくれるものと信じています。
さらに、企業理念の再定義と同時に、2032年度に迎える創立90周年を見据え、当行において初となる長期ビジョンを策定し『お客さま満足度No.1のソーシャル・ソリューショングループ』を京葉銀行グループが中長期的に目指す姿としました。これは、「我々はここに行くんだ!」という強い意志、将来のビジョンを内外に明示し、コミットすることが必要であると感じたからです。
各ステークホルダーに対するあるべき姿を『地域の将来ビジョンをともに考え具体的に行動する企業』『オンリーワンのサービス提供でお客さまから選ばれ続ける企業』『京葉銀行への投資を通じて社会への貢献を実感できる企業』『京葉銀行グループにいるからこそ誇りややりがい、感動を得られたと実感できる企業』と定義し、サステナビリティKPI、財務KPIとともにお示ししました。
「社会課題の解決を起点にソリューション展開し、これが同時に我々の収益機会にもつながるというソーシャル・ソリューションによって、ゴールであるお客さま満足度No.1を目指す」つまり“社会的価値と経済的価値の両立によって、企業価値を最大化するという京葉銀行グループの新たなビジネスモデル”を目指す姿として従業員を含む全てのステークホルダーの皆さまに共有いただいたうえで、そこからバックキャスティングで中期経営計画を策定しPDCAを回していく。こうしたプロセスが各ステークホルダーとのエンゲージメント向上、ひいては戦略の実効性向上につながるものと考えています。
そして、“お客さま第一”という価値観をど真ん中に据えてお客さまのお役に立ち、その喜びが行員一人ひとりの自信や誇り、やりがいとなって、さらなる成長の原動力を生む——こうした“成長の好循環”を実現するため、今後も真摯に、かつ誠実にお客さまと向き合ってまいります。
目的を明確にして社会課題の解決にアプローチ
具体的な社会課題の解決について、私たちは3つのマテリアリティを特定してアプローチしています。しかしこうしたテーマは、とかく言葉が上滑りしがちで各施策の目的を都度確認しながら進めていくことが重要です。
マテリアリティの1つ目「地域経済・社会」の観点では、お取引先企業の生産性向上や県内の雇用機会の創出、個人保有資産の向上などを目的に各KPIを設定し地域経済のパイを具体的に拡大することで、地域全体の持続的な発展に貢献したいと考えています。お取引先企業の経営計画の策定や販路斡旋など実践的なサポートも行い、「ともに汗をかく金融機関」として取り組むことが私たちの誇りです。
2つ目「ダイバーシティ&インクルージョン」においては、その目的をイノベーションの創出と定義し「女性管理職比率30%」などのKPIを設定しています。次世代管理職向けの育成プログラムを急ピッチで拡充しており、そうした創造性と生産性の向上を同時に図る取り組みがナレッジとして県内企業にも波及できれば、これも正に社会価値と経済価値の両立です。
3つ目の「環境保全」においては、当行グループのCO2削減とお客さまのCO2削減を目的としています。お客さまと共に「知る・測る・減らす」をコンセプトにCO2排出量の可視化や削減効果のモニタリングにも着手しており、行内での意識改革も着実に進行中です。このほか、ESG(環境・社会・ガバナンス)投融資の拡充など脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進めています。
これら一連の取り組みについて、手段と目的が入れ替わることなく確実に成果へとつなげられるよう今後も必要かつ適切なマネジメントを実践してまいります。
2032年度の長期ビジョン目標、「連結ROE8%以上」からのバックキャスティング
現在進めている第20次中期経営計画は、2032年度に向けた長期ビジョン、そこからのバックキャスティングとして、ビジネスモデルの変革を進める「フェーズ1」と位置づけています。その基本戦略として①オンリーワンの課題解決型営業 ②営業改革 ③人財改革 ④経営基盤改革の4つを掲げています。
①「オンリーワンの課題解決型営業」では、法人のお客さまには「未来伴走シート」、個人のお客さまには「未来をともにシート」「ライフプランシミュレーション」といったお医者さまで言えば“カルテ”のようなツールを活用して、まずは地域やお客さまとしっかり接点を持ち、充分なコミュニケーションを図ることで、とことんまでお客さまを理解します。そのうえで強みや課題、目指すゴールを共有し具体的なプランをともに描きます。その後のPDCAにもしっかりと伴走するカスタマイズサービスで、京葉銀行をメインバンクとしてご利用いただくお客さまを拡大していきます。
②「営業改革」では、「一人何役」という従来型のスタイルを見直し、営業と事務の分業制を導入するとともに、営業を法人向けと個人向けに分けることで、より専門性の高いソリューションを提供できる体制に切り替えました。さらに、本年1月に安定稼働を開始した新勘定系システムが活用フェーズに入ってまいります。新システムのITインフラは、世界標準のLinuxオープン基盤を採用し、高い柔軟性と拡張性を兼ね備えています。API連携により外部サービスとの接続も可能となっており、単なるシステム更新ではなく経営資源の次世代化の起点であると考えています。この新システムにより、業務の統合や事務の本部集中化が進み業務効率が圧倒的に改善されます。こうした機能によって店頭オペレーション改革と業務効率化を徹底的に推し進め、営業人員を全従業員の約40%まで引き上げます。また、お客さま接点のオムニチャネル化やデータ利活用の促進により、リアルとデジタルを融合した最適なソリューションと利便性の提供を行ってまいります。
③「人財改革」では、専門性を高めたプロフェッショナル人財の育成を柱に据え、キャリアチャレンジ制度や社内副業制度など、多様なキャリアパスを描ける環境を整備しています。加えて、人財改革の中核的施策であるキャリアコース制を導入し、事務職と営業職、さらには営業の中でも法人営業と個人営業、また営業職、企画職の中でもゼネラリストを目指す者と専門職を目指す者などをコースによって分離し、行員それぞれが自身の希望する分野、得意な分野に注力できる環境を整備しました。これにより、当該分野におけるプロフェッショナルとなって、お客さまと銀行に貢献し光り輝ける姿を実現できるよう、行員の自律的な成長を促しています。そして、この制度の導入を機に、コース別に求められるスキルの明確化、それに紐づく個人ごとの“スキルの見える化”を進めており、画一的でない、行員一人ひとりに応じた効果的な育成プランの立案と運用が可能となります。こうして人財ポートフォリオの最適化を図り、お客さまサービスの質と一人当たり生産性の向上を実現してまいります。
④「経営基盤改革」では、PBR(株価純資産倍率)の改善、企業価値向上に向けた4つ目の戦略として、連結ROE(自己資本利益率)を2026年度に5.5%以上、2032年度には8%以上、それを実現するのに必要な連結当期純利益300億円以上を具体的な目標に掲げ内外にコミットしました。“金利のある世界”で首都圏マーケットの強みを活かしたアセットアロケーションとキャピタルアロケーションの強化・変革に注力し収益性と経営の効率性を追求していきます。また、インオーガニックを含めた投資と充分な株主さま還元、自己資本のバランスなど、これまで以上に踏み込んだ議論もタイムリーに行い、またこれらを丁寧にご説明することで期待成長率の向上を図ってまいります。
「風通しのいい企業風土」「深度あるコミュニケーション」「共感と納得」を経営の基軸に
私は、企業にとって一番大切なのは、誰もが正しいと思うことを遠慮なく発信できる「風通しのいい自由闊達な企業風土」だと考えます。そうした企業風土こそがガバナンスそのものですし、そこには健全な危機感や当事者意識が醸成され、建設的で前向きな議論が展開されるのだと思います。そうなれば、自ずとPDCAがしっかりと回りはじめ、課題を克服する力が生まれて企業は成長軌道に乗っていくでしょう。
そして、そうした風土を一層育んでいくためにも、ステークホルダーの皆さまとの「深度あるコミュニケーション」によって生まれる「共感と納得」の経営を基軸としていきたいと思います。
そうして、京葉銀行グループが持続的な成長と企業価値の向上を果たし、皆さまからの信頼やご期待、そして負託にしっかりとお応えできますよう、誠心誠意、力を尽くしてまいることをお約束申し上げます。
※本記事は、「京葉銀行 統合報告書 2025」より転載しております。
