地域の未来を支える力へ 経営の質をさらに高め、確かな成長を目指してまいります(株式会社池田泉州ホールディングス 取締役代表執行役社長 兼 CEO 阪口 広一)
株式会社池田泉州ホールディングス
証券コード 8714/東証プライム
取締役代表執行役社長 兼 CEO
阪口 広一
CEOの就任に際して
本業利益の持続的な向上に対して徹底したソリューションビジネスを展開
この度、池田泉州ホールディングスの取締役代表執行役社長兼CEOに就任しました阪口広一(さかぐち・ひろひと)でございます。私は、1988年に入行し、その後、池田泉州ホールディングスおよび池田泉州銀行で営業・融資関連の業務を中心に携わってきました。2020年には池田泉州ホールディングスの取締役に就任し、経営の意思決定に参画してきました。
この度の社長就任は、社外取締役を中心とする人事委員会の検討と決定を経てなされたものであり、当社グループがガバナンスの高度化を進めてきた成果の一つだと考えます。従来のような内部昇格とは異なり、社内外の目線によって評価・選定されたことで、私自身、責任の重さを強く自覚しています。
就任にあたり、前社長の鵜川からは「経営トップとして覚悟しなければならないのは、皆の意見が分かれたときの判断。決断する際の孤独と向き合う覚悟が必要になる。」という助言を受けました。まさに経営とは正解のない課題に向き合い、自らの判断で道を切り拓く行為だと痛感しております。
この数年間を振り返りますと、鵜川前社長の陣頭指揮のもとで2つの中期経営計画を着実に実行し、経営体質の強化を通じてBSおよびPLの問題が解決したことを背景に、本業利益が100億円を超える水準まで安定して稼げるようになっています。今後、地域金融機関として勝ち残っていくためには、徹底したソリューションビジネスによる本業利益の持続的な向上がポイントであるととらえています。
今年度は「第5次中期経営計画Plus」(以下、第5次中計Plus)の最終年度にあたり、次の計画に向けて当社の経営理念を継続しつつ、お客さまと接点がある現場を巻き込んで次のビジョン、計画を考えていきます。これによって、お客さま本位の徹底したソリューションの考え方を継続、深化していくとともに、業務の効率性を上げることで、持続的な成長を実現していきます。そのためには、現場力に加えて目利き力を向上させ、リスク管理に磨きをかけながら一歩踏み込んだリスクテイクに挑んでまいります。
当社グループの注力分野
攻めの営業を通じて地域でのプレゼンス向上を追究
近年、近隣の地方銀行を中心に大阪への進出が加速しています。競争が激化している反面、当社グループの商圏はマーケットポテンシャルがあるということでもあります。私としては、他行の動向を意識する前にまずは大阪市内、大阪東部でプレゼンスをアップ、そして営業基盤の拡大が大事であると考えます。そして、守りではなく、攻めの営業を行うことで、地域のお客さまのお役に立つことを追究していきます。
注力する分野としては2点あります。1つ目は事業承継に関する分野です。経営者の高齢化や労働人口の減少が加速する中、このまま何もしなければ地域経済は衰退する一途です。そうなれば当社グループも同じく衰退しかねません。これを避けるために、中小・中堅企業の成長機会を確保し、円滑な事業承継業務に力を注いでいきます。いわゆるヒト・モノ・カネの経営資源を投入するのに加えて、情報ネットワークの拡充を急いでいきます。
2点目としては、今後数年間のうちに金融取引のデジタル完結が進展し、日常取引の大半が非対面、キャッシュレス中心となります。顧客基盤の拡充のためにはいかに利便性を高めるかが鍵になることから、デジタル投資を推進していきます。この中では、トップライン向上を意図した営業領域でのデータ利活用促進のための統合データベースを整備します。加えて、デジタル活用を継続的な取り組みにしていくための人材の育成と確保、業務の効率化や高度なマーケティングの実現に向けたAI活用、価値共創のための基盤提供(BaaS)の検討などを進めているところです。
一方で我々の金融グループが勝ち残り、プレゼンスを上げるためには、対面での相談が欠かせません。お客さまの課題やニーズに対して、お客さま本位で対応し、お客さまに喜んでいただくことで「当社グループのファン」になってもらうかがポイントととらえています。お客さまのニーズは直球、変化球と様々であり、ご相談いただいた課題に対してスピード感を持って打ち返していきます。具体的な取り組みは次期中期経営計画の中で実行していきます。
これまでの池田泉州ホールディングスグループでの業務を通じて、私は現場の職員が自ら課題を見つけ、仲間とともに解決に向かう姿に何度も触れてきました。近年では、お客さま本位の価値観がグループ全体に根づき、提案やソリューションの質が明らかに変化してきました。こうした企業文化が醸成されてきたからこそ、私は次の経営を担う意志を固めることができたと考えています。
これからの経営において私が大切にしたいのは、大阪を中心とした地元エリアで「もっとおもしろく、いきいきとしたグループをつくること」です。変化を恐れず、経営課題に向き合い、アイデアを出し、解決へと導く。そうした価値観を持った人材が一人でも多く育ち、活躍できる環境をつくっていくことが、経営トップとしての最大の使命だと考えます。
経営環境に対する認識
時代の変化を前向きにとらえ、ビジネスの新たな可能性を開拓
当社グループを取り巻く経営環境は転換点を迎えています。特に大きいのは、超低金利政策の見直しを受けた「金利のある世界」への移行です。長らく金融機関を取り巻いてきた超低金利環境では、融資収益の確保や資金運用の難しさが続いていたのに対して、金利が上昇局面に転じたことで、金融機関のあり方が問われる局面となっています。
確かに、利ざやの改善などの面では経営にとって一定の追い風となる部分もあるものの、金融業界として預金コストの上昇、債券評価損、信用リスクの増加といった新たな課題が顕在化しているのも事実です。こうした環境の変化を、当社グループにとっての「再成長のチャンス」として活かすためには、一層の経営のかじ取りが重要であるのは申すまでもありません。
一方で、世界に目を向けますと、主要国の関税措置の動向が二転三転する状況にあり、最終的にどう落ち着くか先行きは不透明です。今後、輸出納期の遅延、受注減少やコスト増加で資金繰りが悪化する企業が増加すると予想されます。池田泉州銀行で特別相談窓口を設置しており、お客さまから資金繰り相談や販路拡大などに関する情報提供の依頼があれば、丁寧に対応してまいります。
こうした変化に対応していくために、当社グループでは金融機能の原点である預金・融資ビジネスに改めて正面から向き合っていきます。営業の現場においては、預金の重要性を再認識し、「信用創造を通じて地域経済に資金を循環させる」という本源的な役割に立ち返る動きを進めています。これこそが、金融機関としての持続可能な価値提供の原点だと考えます。
当社グループの商圏においては、「大阪・関西万博」を契機として、スタートアップやイノベーションの支援が大事だと考えます。関西で起業したものの、事業が軌道に乗ると商圏が大きい首都圏、さらには最初からグローバルな商圏を目指す事業者の方々が少なくありません。当社グループとしては、大阪がいかに魅力ある地域であるかをお伝えすることも使命の一つと考えます。そのためには、金融界だけでなく、行政や大学・研究機関、経済界との連携が鍵であり、当社グループが連携のハブとなり、大阪地区での企業定着化のための課題解決にあたっていきます。
幸い、「大阪・関西万博」を活用して地域活性化を目指す動きが生じています。当社グループとしても、一過性のイベントとして終わらせるのではなく、地域に根ざした持続的な価値創造につなげていきます。スタートアップ支援や観光・再開発との連携など、「大阪・関西万博」を起点とした新たなビジネスの芽に対して、お客さまに積極的に伴走し、地域経済の好循環に貢献していきます。
第5次中計Plusの進捗と新長期経営戦略
中長期の視点から企業価値の本質的な向上に対する施策を明確化
現在進行中の「第5次中計Plus」は2025年度が最終年度となります。計画では収益力と資本効率の改善に取り組み、2025年度の連結純利益目標を147億円に上方修正し、ROEについても従来想定の4%台から6.1%に引き上げました。これは、本業利益が100億円を超える水準で安定的に確保できる体制が定着してきた結果です。
このような成果を踏まえ、当社グループは2026年度からの次期中期経営計画に加え、新たに「長期経営戦略」の策定に着手しています。これまでの中期経営計画では、筋肉質な経営体質を構築し、財務基盤の強化に主眼を置いてきました。今後は短期や中期の視点にとどまらず、10年後のあるべき姿からバックキャストして戦略を構築しています。
長期視点での議論に踏み込む背景には、「当社グループの存在意義は何か」「これからの時代にどんな価値を提供できるのか」といった根本的な問いがあります。金利環境の変化や社会構造の変化に加え、金融機関に対するお客さまの期待が日々変化しています。こうした環境変化を受けて、当社グループも「経営戦略の軸足を中長期に移すべき」との認識に至りました。
策定にあたっては、営業現場の声や職員の視点を大切にします。お客さまの課題に最も近いのは、現場の第一線にいる職員です。その現場のリアルな課題感を踏まえた戦略でなければ、実効性のあるものにはなりません。
そしてこれからの長期戦略では、地域社会やお客さま、職員、株主といったステークホルダーの皆さまと「ともに未来を描いていく」という視点が一層重要となります。単に数値目標を掲げるのではなく、何のために、だれのために成長をめざすのかという価値観を共有することが、持続的な企業価値向上につながると信じています。
併せて、企業経営における資本コストに対する意識が欠かせません。課題であるPBR1倍の実現に向けて、2026年度開始の次期中期経営計画において、最終年度の2028年度でROE8%の達成を目指す方針です。
なお、株主還元については、2025年度は1株当たり配当金を16円以上とし、機動的な自己株式の取得と合わせて、株主還元率40%以上としております。そして、次期中期経営計画の期間となる2026年以降、株主還元の充実を図るべく利益成長とともに累進的な配当を行い、配当性向40%を目安とした経営にまい進します。
今後、収益力および企業価値の向上に対しては、限られた人材や資本に対し優先順位をつけて配分を進めていきます。地元での営業基盤の拡大や業務の生産性向上について、課題認識を明確に持ち、解決するための方策を次期中期経営計画で具体化していきます。
01銀行の業務開始に向けて
革新的な金融サービスを展開することで、当社グループの価値向上を促進
2025年2月、当社の100%子会社である「01Bank設立準備株式会社」が銀行免許を取得し、商号を「01銀行株式会社」へと正式に変更いたしました。これにより、池田泉州ホールディングスグループとして新たな形の銀行を立ち上げるフェーズに入ったことになります。
01銀行は、従来の銀行とは異なるアプローチで、地域の中小事業者の課題解決をめざすデジタルバンクです。特に、プラットフォーマーと呼ばれる業務支援型クラウドサービス提供事業者と連携し、顧客の日常業務の延長線上に自然に組み込まれるような金融サービスの提供を構想しています。
伊東社長をはじめとする01銀行の経営陣には、業界慣習にとらわれず、まっさらな発想で事業をつくり上げていく柔軟さと行動力を期待しています。これまでの銀行業務の延長ではなく、まさにゼロからイチを生み出す「創造」の銀行として、思いきったチャレンジに取り組んでもらいたいと考えています。
一方、既存の池田泉州銀行と01銀行の関係は競合ではなく、あくまでも補完関係にあります。たとえば、地域の創業・スタートアップ支援の現場では、DXやクラウドに親和性の高いお客さまには01銀行が、リアルなネットワークや人の接点を重視されるお客さまには池田泉州銀行が、それぞれの強みを活かして支援できる体制を構築していきます。
また、01銀行の活動を通じて得られる知見やネットワーク、テクノロジーの知識は、グループ全体のDX推進や業務高度化にも大いに資すると考えています。私たちは、01銀行を単なる新規事業ではなく、グループのイノベーションを引き起こす触媒としてとらえています。
なお、01銀行の開業時期については、システムの品質チェックが完了しだい開業する考えです。
人的資本経営の重視
「人」を軸とした経営を強化し、だれもが誇りを持って働ける組織づくり
「第5次中計Plus」では、2024年度に「人的資本経営基本方針」を策定し、「人に集い、仕事に集う」という価値観を掲げてきました。方針策定から1年が経過した現在、当社グループではこの基本的な価値観が少しずつ根づきはじめ、職員の意識や行動にも変化が見えはじめていると感じています。
「人に集い、仕事に集う」という考え方には、だれと働くか、どのような志を共有するかを重視する文化をつくりたいという思いがあります。職場に自ら関心を持ち、自発的にかかわり、仕事を通じて信頼を築く。そのような環境が、働く人にとっての「選ばれる会社」としての魅力を高め、ひいては企業の持続的な成長力につながっていくと考えます。
この1年で感じているのは、「人」を軸とした経営への手応えです。たとえば、採用の現場では、当社グループの価値観に共感し、自分の力を地域のために活かしたいという思いを持った学生の方々との出会いが増えてきました。人事担当者と意見交換する中で、候補者の志向や当社グループに対する理解度の変化を感じる場面が多くなっています。
また、配置・育成の面では、入社年次や職種に関係なく、一人ひとりの特性や適性を活かした人材配置を進めるとともに、自律的な学びやスキル向上を支援する取り組みを強化しています。部門横断的なプロジェクトへの参画機会を通じて、若手職員が成長のきっかけを得る事例が出てきており、人材のポテンシャルをいかに引き出すかが次の課題になっています。評価・報酬については、定量的な成果だけでなく、行動やプロセスも重視する評価体系の見直しを進めています。グループ内で大切にしたい価値観に照らし合わせ、何を評価し、どう報いるのかを明確にすることが、職員の納得感や働きがいにつながると考えます。
人的資本経営は、一朝一夕で成果が出るものではありません。しかし、私たちは中長期的な視点で、個人と組織の成長を両立させるための基盤を着実に整えていきます。次期中期経営計画においても、この価値観を一層進化させ、だれもが誇りを持って働ける組織づくりに取り組んでまいります。
指名委員会等設置会社への移行
ガバナンスをさらに進化させ、透明性の高い経営体制を構築
当社は2025年6月の定時株主総会での承認を経て、「指名委員会等設置会社」に移行しました。このガバナンス体制の変更は、経営の透明性・迅速性を一層高め、持続的な企業価値向上を実現するための重要な一歩です。
移行の背景には、社外取締役が取締役会の過半数を占める体制が定着しつつある中で、経営と執行の役割をより明確に分離し、取締役会が本来果たすべき監督機能を強化していくという考えがあります。
現在、取締役会では指名・報酬の透明性向上、長期的な企業価値向上に資する経営人材の育成・選抜、そして外部の視点を取り入れた戦略的意思決定の促進といった観点から、議論が活発に行われています。また、サクセッションプランの実効性を高めるため、独立した委員会が継続的にモニタリングし、客観的な評価を行う体制が整いつつあります。
また、サステナビリティ経営の重要性が高まる中で、長期的な視点に立った経営の意思決定や、複雑化するステークホルダーとの関係性に対応するためにも、透明性の高いガバナンスが求められています。社外取締役の方々からは、「社長の選任を含め、ガバナンスの質を一段引き上げる必要がある」「持続可能な企業になるには経営の仕組みから変えるべき」といった意見を伺っています。こうした声に真摯に応えることで、より開かれた、より信頼される経営をめざしてまいります。
ステークホルダーの皆さまへ
未来を見据え、持続可能な価値創造の金融グループへ
当社グループは、金融機関としての本来的な役割である信用創造を通じて、地域社会の持続的発展に貢献していくことを企業の使命としています。その一環として、サステナビリティ経営の推進はもはや選択肢ではなく、経営に組み込まれるべき前提条件であると認識しています。
気候変動や生物多様性の維持といった課題は、金融の世界においても無関係ではありません。30年後、今の子どもたちが社会の中心を担う時代に、当社グループがどうあるべきか。私は、未来世代に対して説明責任を果たせる経営でありたいと考えます。そのためには、今この瞬間から意思決定の質を問い、目の前の利益だけでなく、将来にわたる環境・社会への影響を見据えた判断に努めます。
具体的には、気候変動への対応として、投融資ポートフォリオの移行支援や省エネ・再エネ支援の強化、生物多様性についても地域資源との関わり方を見直す機会が増えています。2025年2月からは、お客さま向けに自社の排出するCO2を可視化する仕組みである、NTTデータが提供する温室効果ガス排出量可視化システム「C-Turtle(シータートル)」を導入しました。これによって、お客さまの脱炭素への取り組みを支援していく考えです。こうした環境保全のテーマに対しても、職員一人ひとりが自らの業務を通じて向き合い、変化を起こしていきます。その動きがグループ全体に広がり、やがて社会的信用へとつながると確信しています。
また、資本市場との対話の重要性がますます高まっています。とりわけ機関投資家との対話を通じて得られる示唆は、企業としての姿勢を見つめ直す上で有益です。「持続的な成長のストーリーをどう描くのか」「自社の存在意義をどう伝えるのか」といったテーマに対して、まだ十分に応えきれていない部分があると感じています。こうしたご指摘を真摯に受け止め、今後の経営のなかで「ストーリー性のある成長戦略」や「地域金融機関としての存在意義」をより明確に発信していく必要があると考えています。数字や指標だけでなく、そこに込めた意図や未来への構想を共有することで、より信頼される企業に近づけると信じています。
最後に、ステークホルダーの皆さまには、日頃より当社グループへの温かいご支援を賜り、心より御礼申し上げます。私たちは、地域社会の未来とともに歩みながら、持続可能で誠実な経営をこれからも追究してまいります。
※本記事は、「池田泉州ホールディングス 統合報告書 2025」より転載しております。
