AIを起点としてビジネスモデルをさらに進化させ、地域のトランスフォーメーション実現を目指す〈株式会社千葉銀行 取締役頭取(代表取締役・グループCEO)米本 努〉
株式会社千葉銀行
証券コード 8331/東証プライム
取締役頭取(代表取締役・グループCEO)
米本 努
中期経営計画を通過点としてさらなる飛躍へ
2023年4月にスタートした第15次中期経営計画「エンゲージメントバンクグループ~フェーズ1~」も最終年度を迎えました。
この間、地域社会やお客さま、当行グループを取り巻く環境は、従来にも増して不確実性が高まっていると感じています。国内では、少子高齢化やデジタル化といった長期的な社会構造の変化が進むなか、物価上昇や人手不足の深刻化のほか、国外では、各国の金融政策の転換や地政学リスクの高まりに加え、米国の関税政策の影響など、先行き不透明感が一段と高まっています。
一方、日本銀行の金融政策が見直され、「金利のある世界」が到来したことにより、当行グループの事業環境は大きく好転しています。
このような環境のなか、中期経営計画の取組指針として掲げている「お客さま中心のビジネスモデルの進化」に向け、さまざまな取組みを進めてまいりました。
その結果、中期経営計画最終年度の財務目標として設定した数値を1年前倒しで概ね達成し、最終年度の「連結ROE(株主資本ベース)」を当初計画比+1%程度となる8%台前半、「連結当期純利益」を当初計画比+100億円となる850億円へ上方修正するなど、さらに高い到達点に向けて各施策を加速させています。
また、積み上げた利益については、当行グループのさらなる成長に向けた戦略的な投資への活用や、株主還元のさらなる強化など、キャピタルマネジメントの高度化を図り、全てのステークホルダーの思いを実現できるよう努めてまいります。
エリアを起点とする3つの成長戦略
当行グループでは、「千葉県」「県外」「全国」と、エリア別に3つの視点から成長戦略を進めています。
まず、当行グループのマザーマーケットである「千葉県」においては、地域金融機関として、千葉県のさらなる発展に永続的に貢献する使命があり、地域経済の持続的な成長なくして、当行グループの成長は語れないと考えています。
「経済的価値」「社会的価値」のバランスの取れた「サステナビリティ経営」を実践し、これまで以上に地域の持続的な成長へのコミットメントを強めていきます。
千葉県は、人口動態や経済規模等において優位なマクロ環境にあるなか、これまで培ってきたリレーションにより千葉県人口の約6割に当行口座を保有していただくなど、強固な営業基盤を構築しています。さらに、当行グループにおけるデジタル・脱炭素・働き方や生産性に関する変革を、地域のトランスフォーメーションにつなげていく「地域まるごとDX・GX・WX」への取組みを通じて、預金や貸出金のみならず、あらゆる商品・サービスを地域により広く浸透させることを目指してまいります。
次に、「県外」においては、都内エリアを中心に首都圏でのプレゼンスを一層高めており、リスクを抑制しつつも、効率的かつスピード感を持って首都圏のさらなるアップサイドを取り込んでいきたいと考えています。千葉県に隣接する成長地域での新規出店を進めるとともに、成長ドライバーとしての貸出金をさらに伸ばしながら、AIの活用などを通じた予兆管理の高度化との両立を図っていきます。2024年6月に「新宿西法人営業所」を新設したほか、2025年3月に「京橋法人営業所」を新設するなど店舗ネットワークを順次拡充しており、今後も積極的な出店を継続するとともに、「千葉・武蔵野アライアンス」や「千葉・横浜パートナーシップ」などの枠組みも活用し、首都圏でのシェア拡大を図っていきます。
最後に、「全国」においては、TSUBASAアライアンス等との連携を通じたプラットフォーマーとして、基幹系システムやサブシステムに加え、アプリ・AMLなどのサービスや機能をプラットフォーム化し、連携や共同化をさらに深化させつつ、その領域を拡大しながら、アライアンス行と共にトップライン向上及びコスト削減を目指していきたいと考えています。
TSUBASAアライアンスはメガバンクにも匹敵するほどの規模になっており、スケールメリットとネットワークを最大限活用しながら、さまざまな業務の共同化や集約化などの施策を大胆かつスピーディーに進めていきます。
当行グループのさらなる成長に向けた3つの課題
当行グループのさらなる成長を実現するにあたり、次の3点を課題として認識しています。
1点目は、「個人ビジネスの高度化」です。対面提案を行う担当者の多能化を進めるなか、担当者の意識改革やリスキリング、営業態勢の最適化に向けた取組みが着実に進展しつつあります。特にマザーマーケットである千葉県で築いてきた盤石な営業基盤を一層強固にするため、お客さまのデータを活用したニーズランクモデルを進化させ、One to Oneマーケティングを実践することにより、お取引量の増加やクロスユースの拡大につなげてまいります。
当行グループの個人ビジネス全体では拡大トレンドが続いていることから、お客さま一人あたりのお取引をさらに増加させることによる業務粗利益の拡大を目指すとともに、デジタル化のさらなる推進を通じて、お取引単位あたりのコストを引き下げることにより、生産性を一層高めていきたいと考えています。
2点目は、「グループ一体経営の高度化」です。当行グループでは、マザーマーケットにおいて、お客さまとの中核のお取引である預金や貸出金における高いシェアを維持するなか、各グループ会社で提供する商品・サービスにおいてもより広く浸透させることができると考えています。
各グループ会社とのシナジーをこれまで以上に追求するとともに、さらなる活性化に資する新事業への投資を積極的に行いながら、それぞれのポテンシャルを最大限引き出すことにより、当行グループ全体の成長を大きく加速させてまいります。
3点目は、「預金ビジネスの高度化」です。「金利のある世界」の到来により、長らく続いた低金利環境から預金に価値が付く局面へと変化し預金獲得の重要性が見直されるなか、アプリ利用率の増加に伴い、お客さまの利便性向上と口座の活性化を通じて個人預金の定着率が高まっていると感じています。
これに加えて、地域内の好循環を創出する経済圏の構築を目指す「地域エコシステム戦略」を進めていくことにより、お客さまのエンゲージメント向上とともに、粘着性の高い預金のさらなる積み上げが期待できると考えています。
こうした課題に対して、グループ一体で顧客体験のさらなる向上に努め、お客さまのお役に立ち、永続的に頼られる存在になることにより、当行グループのファンを一人・一社でも多く増やすことを目指してまいります。
変革の手段としてのDXと地域エコシステム戦略
便利で役に立つ新しい商品・サービスを提供し続けることにより、顧客体験のさらなる向上を目指していきます。その変革の手段はDXであり、また、今後の戦略の中心に据えるのが「地域エコシステム戦略」となります。
個人のお客さまとのお取引の起点となる「ちばぎんアプリ」では、お客さまのニーズにお応えする金融・非金融サービス機能を順次追加することにより、累計口座登録数が120万口座を超え、アプリを利用するお取引比率が4割を超える水準に達しています。主要な取引も対面からアプリへ移行していることから、お客さまとのお取引単位あたりのコストを引き下げることにより、当行グループの生産性向上にもつながっています。
また、その延長線上にあるキャッシュレスサービスやロイヤリティプログラム、ちばぎん商店を中心とする非金融サービスを加えた「地域エコシステム戦略」を実現させることにより、地域のお客さまの経済循環を活性化していきます。銀行とのお取引やカード利用で貯まるポイントを地域の加盟店でご利用いただくことや、お客さまにとって有益な情報をアプリで配信し送客を促すことを通じて、域内の消費を活性化し、お客さま・地域社会・当行グループ全てにメリットのある世界観を描いています。
AIを起点としたビジネスモデルの進化
2024年10月に、AIソリューションカンパニーであるエッジテクノロジーをグループ会社化しました。地方銀行としては、非金融事業会社をTOBで買収した初の事例であり、「地域まるごとDX」を加速度的に進めるための好機にしたいと考えています。
商品・サービスの高度化によるOne to Oneマーケティングのさらなる強化とともに、ICTコンサルティングにAIを加えることを通じて、より質の高いサービスでお客さまのビジネス変革をサポートしていくほか、我々自身の業務効率化も推進していきます。
具体的には、AIの活用を4つの領域で強化しており、1つめの領域である「お客さまとのデジタル接点の高度化」では、15種類にわたるニーズランクモデルの開発を進めています。2つめの領域「当行グループの業務活動の高度化」では、AIを活用した24の業務プロセスの見直しを通じて、15万時間の業務量削減を目指すとともに、3つめの領域「お客さまの業務活動の高度化」では、約1,200社にのぼる潜在顧客へのアプローチを強化しています。
最後に4つめの領域である「AI教育」では、当行グループの職員に向けたAIに関する人材育成を強化しており、エッジテクノロジーが提供する教育プログラム「AIジョブカレ」を導入し、基礎編を全職員が受講したほか、専門的なデータサイエンス編では約100名の受講が完了しています。さらに、日本ディープラーニング協会が実施する『G検定』の資格取得者を2,000名とすることを目標として掲げています。
こうしたさまざまな取組みは、当行グループのビジネスモデルの大きな転換点になるとの認識から、本年を「AI元年」と位置づけており、AIネイティブな銀行グループとして、地域全体のトランスフォーメーションの実現を目指してまいります。
人材戦略の高度化による専門性の追求
変革の手段となるのはDX・AIとなりますが、それらを支えるのは人材であり、人材育成をはじめとする人的資本投資は、当行グループの持続的な成長を実現していく上で最も重要となります。
また、デジタル化の進展により非対面での取引が増えていくなか、対面での相談業務など専門性の高いサービスの提供が競争力の源泉となり、これこそが地方銀行である当行グループの大きな強みとなると考えています。
当行グループの人材戦略では、お客さまの思いを実現する「多様な専門家集団」になるため、人材育成への取組みを積極的に進めています。こうして身につけた高い専門性を活かし、個人のお客さまには「個人総合コンサルタント」として、一人ひとりにあったパーソナライズ提案を通じた豊かなライフスタイルの実現をお手伝いし、法人のお客さまには「経営の補佐役」として、一社一社に寄り添いながら経営課題の解決や生産性向上に貢献することにより、あらゆる領域でお客さまから頼りにしていただける存在になることを目指してまいります。
また、優秀な人材を確保するため、継続的な賃上げや初任給引き上げに取り組んだほか、職員一人ひとりの経営感覚を醸成し、株主の皆さまとの目線を共有するため、持株奨励金制度を拡充しました。
さらに、価値観の多様化に合わせ、ダイバーシティへの取組みを一層強化し、しなやかで弾力性のある組織づくりを進めたほか、エンゲージメントサーベイや各種アンケートなどによりダイレクトに吸収した「職員の声」を人事諸施策に反映し、職員のエンゲージメント向上に努めています。全ての職員がモチベーション高く働き続けられる、魅力ある職場づくりに努めることが、結果的にお客さまへのより良いサービスの提供、すなわち顧客体験の向上につながっていくと考えています。
顧客体験の向上に資する新事業への挑戦
お客さまのニーズが多様化・複雑化するなか、顧客体験のさらなる向上を目指すため、顧客体験をベースとした金融・非金融の両面における事業領域の拡大が不可欠であり、新事業への挑戦を加速させています。
地域商社事業を展開するちばぎん商店では、ECサイト運営や地域産品などのクラウドファンディング事業が順調に拡大し、住宅関連サービス「ちばの住まいコンシェルジュ」の本格展開に向けた態勢整備を進めています。
また、法人のお客さまのニーズへの対応では、「広告事業」「不動産ファンド事業」「バイアウトファンド事業」などにも注力し、付加価値の高いサービスの提供に取り組んでいます。
地域課題への対応では、エネルギー事業を展開するひまわりグリーンエナジーにおいて、君津市や銚子市における発電所プロジェクトを進展させるなど、各自治体とも密に連携しながら「地域まるごとGX」に向けた取組みを強化しているほか、農業事業を展開するフレッシュファームちばを2025年3月にグループ会社化し、地域の一次産業における課題解決力の向上に努めています。
加えて、メタバースやNFTの分野では、一部ビジネス化を実現しており、今後も地域のお客さまに次世代サービスを提供するための取組みを強化していきます。
こうした新事業への取組みを一層加速させるため、経営企画部内に「新事業戦略室」を新設し、推進態勢を高度化しており、顧客体験の向上や地域課題への対応強化に向けて、これまで以上にスピード感を持って取り組んでまいります。
業務改善・再発防止に向けた取組み
当行グループにおいて最も重要な経営課題の一つである業務改善計画の進捗については、グループ一体となり業務改善・再発防止に向けた取組みを進め、全ての施策の実施が完了しました。一連の取組みを当行グループの組織文化を変革する機会と捉え、パーパス・ビジョンや「三つの誓い」の浸透に注力してまいりました。
また、これまでの取組みにより、お客さまにどのように感じていただいているかという外部評価に加え、働く職員自身がどのように感じているかという内部評価の両面に着目し、各種アンケートやサーベイによる効果検証とともに、着実にPDCAを回すことにより、一つひとつの課題に真摯に向き合っています。
さらに、従来のトップダウン型から、ボトムアップ型組織への変革に向け、業績表彰制度における営業店の自主申告による目標設定や営業店ごとの次期中期経営計画の策定などを通じて「自ら主体的に考え行動する強い組織づくり」を進めており、足元ではグループ全体の変化を肌で感じているところです。今後も、この流れを一層加速させ、お客さまをはじめとするステークホルダーの皆さまからの信頼回復に努めてまいります。
地域の持続的な成長へのコミットメント
東京に隣接する千葉県は、人口減少の影響が比較的小さいエリアであり、バランスの取れた産業構造や豊富な観光資源が広がるなど、全国でも有数の恵まれたマーケットと位置づけられています。
我々はこの千葉県のポテンシャルを最大限引き出せるよう、その鍵を握るAIを効果的に活用し、当行グループのみならず、お客さまや地域全体の生産性を高めながら「地域まるごとDX・GX・WX」の実現に長期的な視野を持って取り組むことにより、地域とともに持続的な成長を目指してまいります。また、こうした取組みを強力に推し進めるため、2025年4月に、「グループCSuO」を新たに配置するとともに、「サステナビリティ推進部」を新設しています。
来年度から開始する新たな中期経営計画に向けて、「全員参加型」をキーワードとして、本部からのトップダウンではなく、グループ役職員一人ひとりの声を大切にし、丁寧に施策へ反映させながらボトムアップで策定を進めています。
金利上昇の追い風に加え、AI活用によるビジネスモデルの変革や戦略的な投資などにより、お客さまや株主の皆さま、そして職員も含めた全てのステークホルダーの期待を超えるような成長シナリオを描いていきたいと考えています。
今後ともご愛顧賜りますようお願い申し上げます。
※本記事は、「千葉銀行 統合報告書 ディスクロージャー誌ハイライト2025」より転載しております。
