成膜における技術的優位性を維持、強化し、 半導体デバイスの進化を支えていく(株式会社KOKUSAI ELECTRIC 代表取締役社長執行役員 金井 史幸)
株式会社KOKUSAI ELECTRIC
証券コード 6525/東証プライム

代表取締役 社長執行役員
金井 史幸
今、半導体デバイスの先端技術開発は、世界的な注目を集めています。その中で当社グループが、どのような独自の技術を持ち、どのような成長戦略を描いているのか、そして、ステークホルダーの皆様にどのような価値を提供していこうとしているのか、経営トップからお話しさせていただきます。
技術と対話でお客様と社会に貢献することが私たちの使命
当社グループは、半導体デバイス製造の前工程における成膜に特化した、半導体製造装置専業のグローバルメーカーです。当社グループが柱とする技術の一つはバッチALD※1技術です。難易度の高い複雑な構造での高品質な成膜と高い生産性を両立させ、バッチALD対応成膜装置では2023年の世界シェア1位※2を誇っています。もう一つの柱となるのが、独自のプラズマ処理が生み出す潤沢なラジカルによって等方性とステップカバレッジに優れた膜質改善を高い生産性で実現するトリートメント(膜質改善)技術です。トリートメントプロセス装置では2023年の世界シェア3位※3となっています。
当社グループが半導体製造装置の開発に着手したのは、1950年代でした。以来、70年以上にわたって研究開発に取り組み、1980年代には、自然酸化膜混入防止と面内均一性の改善、パーティクル※4の発生を大きく低減させる縦型成膜装置を世界に先駆けて開発しました。さらに1990年代には、ALD技術を確立、バッチ成膜技術とALD技術を組み合わせたバッチALD技術は、半導体デバイス構造の微細化、多層化、複雑化、三次元化に不可欠な技術であるとの高い評価をいただき、半導体デバイスの進化に寄与するとともに、当社グループの事業も大きく拡大しました。そして、お客様と対話を重ね、いかに均一な膜を生産性高く作るかを追求し、成膜に関する技術を改良、進歩させてきました。
技術の革新によって半導体デバイスの進歩を支え、お客様と社会に貢献していく。それが私たちの使命です。これまでの歴史は、その使命を果たすための歩みであり、これからもその使命を忘れてはならないと思っています。
中期事業目標は十分に達成可能
2024年3月期は1年を通じて、デバイスメーカーのNANDに対する投資抑制が影響し、前期比で減収減益となりました。一方で、中国のお客様の動きは活発であり、当社グループの業績の下支えとなっていました。市況は2024年3月期の前半に底を打ち、現在も回復基調が続いています。お客様が意欲的に新たな投資に乗り出すまでにはもう少し時間がかかりそうですが、2025年3月期は2023年3月期の状況に近いところまで戻ると見ています。
当社グループは中期事業目標として、連結ベースで売上収益3,300億円以上、調整後営業利益率30%以上を掲げ、今年度を起点に3、4年での達成をめざしています。WFE※5の市場規模が1,200億ドル以上に拡大すれば、この目標は十分に達成できるものと考えています。
デバイスの三次元化の中で当社グループの技術が広く採用されていく
では、いかにして中期事業目標を達成し、さらにその先の成長を実現していくのか。当社グループの成長戦略について、ご説明します。
最も重要なポイントは、当社グループの事業の柱であるバッチALD対応成膜装置とトリートメントプロセス装置における、技術の絶対的優位性を確保し続けることです。半導体デバイスの中で、最初に三次元化したのはNANDでしたが、同様の動きが今後DRAMでも、Logic/Foundryでも起きてきます。今後、従来型の二次元DRAMはVCT※6 DRAM、3D StackedDRAMへと移行し、Logic/Foundryにおいては従来のFinFET※7がGAA※8という世代に替わり、その先にCFET※9も控えています。これらは全て三次元化していく動きであり、その過程でデバイスはより複雑な段差構造になっていきます。このとき、3D NANDで既に高い実績を誇る当社グループの技術が、圧倒的に力を発揮するはずです。
現在、お客様からいただくPOR※10が順調に積み上がっている状況にあり、DRAM、Logic/Foundryにおいても当社グループの技術が採用していただけると自信を深めています。また、3D NANDでは、さらなる多層化が見込まれており、その方向に沿った技術開発に取り組んでいるところです。バッチALD技術は、当社グループが人財と資金を集中的に投資している領域であり、技術の優位性を基盤に、成長する市場を確実に獲得していかなければならないと考えています。
二つ目のポイントは、ビジネスの裾野を広げていくことです。成熟ノードの領域で当社グループの装置のシェアは小さく、ここでシェアを伸ばせればグループ全体
で事業規模が拡大するだけでなく、利益率の向上が期待できます。成熟ノードであっても今のデバイスで使われているわけで、そのマーケットを取りにいくことは戦術的に有効だと考え、取り組みを強化しているところです。
三つ目のポイントは、アドバンスド・パッケージング領域への“参入”です。既に当社グループの装置が後工程においても有効に活用いただいていますが、アドバンスド・パッケージングはこれからの発展、成長が期待される領域であり、当社グループの技術が生きるポテンシャルも相当大きくあります。この分野での研究も進め、新たな事業の柱にしたいと考えています。

成長のための投資は、躊躇なく果断に行っていく
以上で申し上げた三つの成長戦略を推し進め、5年先、10年先の成長を確かなものにしていく、その裏付けとなるのが、研究開発を含めた「成長のための投資」です。当社グループは、従来、売上収益の4%から5%を研究開発費に充てていましたが、今後は6%以上へと引き上げる方針です。設備投資も、これまで年間20億円から30億円で推移していたものを、大型設備投資を除いて年間40億円から60億円へと拡充する方針としました。
投資家の方から、「競合他社が10%程度研究開発費を確保しているのに比べ、当社グループの研究開発費の割合が小さいのではないか」とよくご指摘を受けます。比較される競合他社は、当社グループより事業規模が大きく、幅広い領域の半導体製造装置を手掛けています。対して当社グループは成膜というプロセスに特化していますので、研究開発も効率良く行えています。
現在は、富山県砺波市での新工場建設(2024年10月稼働)、韓国でのデモルーム拡張など、今後の需要回復に対応した生産・研究開発体制の拡充を進めているところです。投資すべき題材が明確に見えてくるのであれば、研究開発であれ、設備であれ、成長のための投資を今後も果断に実行していきたいと考えています。
独自色を打ち出し、実質を重視してESGに取り組む
当社グループは、上場をめざすことを決断した当初から、ガバナンス体制の整備をはじめ、ESG(環境・社会課題の解決、ガバナンスの強化)の取り組みを強化してきました。2023年10月の東京証券取引所プライム市場への上場時点において、上場企業の平均的なレベルまでになったのではないかと認識しています。しかし、投資家の方々や資本市場からの評価を受けるのはこれからであり、当社グループらしい独自色を打ち出し、実質を重視したESGの取り組みをしていかなければならないと考えています。
独自という意味で、最も重視しているのは「環境」に対する取り組みであり、中でも省エネ製品の開発です。当社グループは熱を出しながら膜を作る装置のメーカーであり、消費電力を抑えた装置の開発は、お客様と社会に貢献できるテーマだと思っています。ほかにも、2024年3月のSBT※11認定取得、2025年度に予定している富山事業所への水リサイクルシステム導入、新工場である砺波事業所においては100%再生可能エネルギーでの稼働実現をめざすなど、一つひとつ取り組みを進めているところです。

着実にお客様の役に立っていける会社でありたい
当社グループは、技術を生業としている会社です。しかし、“技術の良さ”だけを追い求めて、独りよがりになってはいけません。お客様は常に最先端の技術だけを求めているわけではなく、例えば使い勝手がいいとか、故障しにくいとか、今よりわずかでもメリットの多い装置を求めていることは、多々あります。お客様の視点に立って、対話を重ねていけば、お客様も私たちも、新たな発見、新たな技術につながり、多様なイノベーションを生み出していけると信じています。
私たちは、“とんでもない発明”をする会社ではないかもしれませんが、着実に、お客様の役に立っていける会社でありたいと強く思っています。その想いを、「技術と対話で未来をつくる」というコーポレートスローガンに込めました。お客様と対話して何かに気付く、何かに気付いたらお客様に提案してみる、そうしたことにいつも活力を持って取り組んでいる従業員の集まり。それが、KOKUSAI ELECTRICグループです。
そして、私たちは、先端技術との対話だけでなく、自然環境、社会課題、自分自身とも対話を重ね、ビジネスとESGの両面からステークホルダーの皆様の未来の創造に貢献していきたいと考えています。
※1 当社グループでは、複数のガスをサイクリックに供給する工程を伴い、原子層レベルで成膜する手法を「ALD」と呼んでいます。
※2 TechInsights Inc. “TI_ALD Tools - Batch_YEARLY_v24.04” 2024 (April)
※3 Gartner®, Market Share: Semiconductor Wafer Fab Equipment, Worldwide, 2023, Bob Johnson, Gaurav
Gupta, Menglin Cao, 1, May 2024
トリートメントプロセス装置 : RTP and Oxidation/Diffusion
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※4 半導体デバイスの製造プロセスにおいて悪影響を及ぼす主に数百~数十nmレベルの微粒子
※5 Wafer Fab Equipmentの略
※6 Vertical Channel Transistorの略
※7 Fin Field-Effect Transistorの略
※8 Gate All Aroundの略
※9 Complimentary Field Effect Transistorの略
※10 Process of Recordの略
※11 SCIENCE BASED TARGETSの略で、パリ協定が求める水準と整合した、5~10年を目標年として企業が設定するGHG
排出減目標のこと
※本記事は、株式会社KOKUSAI ELECTRIC「統合報告書2024」より転載しております。