積極的な成長投資を通じて、新たな企業価値の創造とステークホルダーの皆様への還元を実現します。(テクマトリックス株式会社 代表取締役社長 最高執行役員 矢井 隆晴)
テクマトリックス株式会社
証券コード 3762/東証プライム

代表取締役社長
最高執行役員
矢井 隆晴
[TOP Message POINT]
●2024年4月、情報基盤事業の責任者であった矢井が代表取締役社長に就任。
●前中期経営計画では、過去最高業績を更新。新中期経営計画では、AI活用と海外展開を推進し、
●財務健全性を維持しながら戦略的投資を実施。
●サステナビリティへの取組みとして、人的資本の強化と気候変動への対策に注力。
●ステークホルダーへの還元と社会貢献を実現するため「やれる方法を考える」姿勢を重視。
社長就任にあたって
新体制スタート、
継承と新たな価値創造へ
2024年4月1日をもって、代表取締役社長に就任しました矢井です。24年にわたり社長を務めてきた前社長の由利の後を引き継ぐことに不安がなかったわけではありませんが、あらためて当社の存在価値は何か、どこに強みがあるのか、どんな課題を抱えているのかを整理し、それらが鮮明になるにつれ、これまで積み上げてきたものをしっかりと継承しつつ、私らしさを発揮することで新たな価値を創り上げていきたいという想いがより一層強くなってきました。
私の経歴を簡単にご紹介させていただきますと、1988年に大学を卒業し、当社発祥のニチメン株式会社(現 双日株式会社)に入社し、営業付きの経理の仕事からスタートしました。1993年に当社(旧 ニチメンデータシステム)へ出向となり、現在のアプリケーション・サービス事業にあたる業務や米国駐在による新商材の探索などに従事した後、サイバーセキュリティに長く携わってきました。今思うと、幅広く経験できたのは非常に有意義であったと感じています。
当社では、社外取締役が過半数を占める人事委員会が役員人事案を策定し、取締役会に答申しています。私が社長に拝命されたのは、情報基盤事業の責任者としてPalo Alto※1製品のような新しいテクノロジーを見つけビジネスを立ち上げてきたことや、サブスクリプション化の推進などを通じて収益の安定と底上げを実現してきたことが理由であると認識しています。失敗した製品もありましたが、そういう経験も糧にしながら、常に最先端に身を置き、当社の強みである「目利き力」を養ってきたことが私の財産です。さらに私の数字を上げることへのこだわりも評価された理由の一つではないかと思っています。例えば、取引を決める際に、為替やファイナンスなどの複雑な問題を含めて、収益を高めるためのスキームや条件を詰めていくスキルやマインドは人一倍との自負があります。今後も新しいことに挑戦すること、そして利益を出すことにこだわっていきます。利益を出すことは、ステークホルダーの皆様への還元はもちろん、次の成長に向けた投資を可能にします。そういったエコシステムを回し、さらに企業価値を向上させていくことがトップである私の役割だと考えています。
「目利き力」×「業務ノウハウ」
強みを活かし、
高い顧客満足度を追求
当社の強みは、長年培ってきた「目利き力」と「業務ノウハウ」という言葉に集約できますが、これは前社長のときから社内で共有されてきた認識です。「目利き力」とは、新しいテクノロジーを持ってくる力に加えて、社会課題を見つけ出す力も含まれます。そして、その課題を解決するのが「業務ノウハウ」ということになりますが、CRM(コールセンター)や医療、教育といった特定の業種にフォーカスして蓄積してきました。例えば、医療分野については6,000以上の医療機関とのお付き合いがあります。したがって、業務に精通していることはもちろん、課題がどこにあるのかもよくわかっていますので、お客様からの要望を聞いて都度受託開発して解決するのではなく、必要とされる機能をアプリケーションパッケージとして提供しており、お客様に期待以上の価値を提供できています。また、情報基盤とアプリケーションの両方を持っているところも強みではないかと思います。新たに事業をやろうとした時に、どういうインフラが必要でセキュリティ対策はどうするのか、開発ツールには何を使うのかなど、ベース部分のスキルやナレッジは既に有しているので、あとはその上のサービスに特化した部分を集中して考えていけばソリューションを構築できるという点が大きな強みになっています。さらに、医療分野でも教育分野でも、クラウドでサブスクリプション・サービスを展開し成功させており、新たに始めるビジネスにも横展開できるため、新規ビジネスの立ち上げを迅速に行うことができる点が強みです。

前中期経営計画を振り返って
過去最高業績を更新し、
未来への挑戦を加速
2024年3月期に終了した前中期経営計画「BEYOND THE NEW NORMAL」においては、「情報基盤事業」の責任者であるだけでなく、取締役会メンバーの一人として、全体を統括する立場におりました。3年間を振り返りますと、コロナ禍の影響を含め、様々な外部環境の変化に直面しながらも、総じて順調に事業を拡大することができたと認識しています。最終年度である2024年3月期の売上収益、利益はいずれも当初計画を大きく上回り、過去最高の業績を連続で更新しました。DXの進展やサイバーセキュリティ対策への意識の高まりは当社にとって明らかに追い風となっており、その需要をしっかりと取り込めているところが業績を押し上げている要因だと思います。また、当社が重視するストック比率(単体+PSP株式会社)も、クラウドによるサービス化の推進により73.0%(前期末比+4.4pt)と順調に積み上げることができました。特に、「情報基盤事業」のストック比率が82.3%と当初計画を上回るペースで向上しているのは、クラウド型セキュリティ対策製品の需要が拡大傾向にあるためです。
戦略面でも、「取扱製品の拡大・新規サービスの立ち上げ」「サービス化の加速」「データの利活用(AI利用を含む)」などの構造的な変革に加え、「アライアンス・M&A」「海外事業の強化」といった事業拡大にも取り組み、次につながるような成果をあげることができたと感じています。特に、「アライアンス・M&A」については、医療システム事業における旧PSPとの統合(2023年実施)は、主力である医用画像管理システム(PACS)のシェア拡大はもちろん、これからの成長ドライバーであるPHR※2サービスやAI事業の加速に向けて大きく弾みをつける事案となりました。統合後のPMIも段階的に丁寧に進めており、新中計での戦略投資及び事業拡大に向けて体制が整ってきました。戦略的なアライアンスについては各事業でいくつもの実績がありましたが、多くはAIの活用を目的としたものです。AI技術は、あらゆる業界で課題となっている生産性・効率性の改善はもちろん、新たな価値の創出に向けても、これからのテクノロジーの軸になるものと位置付けています。

一方、課題については、「海外事業の強化」が期待値ほど進展しなかった点などがあげられます。ASEAN地域を中心に展開していく計画ですが、これまでは現地企業との資本提携を軸に進めてきました。ただ、それだけでは十分な推進体制が構築できないことが分かりましたので、新中計ではしっかりと対策を打っていきます。また、情報基盤事業については、例えばセキュリティ運用・監視サービス(TPS)のような自社としての提供価値の部分がまだまだ十分ではないと感じています。EdTech(教育)事業についても、コミュニケーションプラットフォームなどの実績が積み上がってきたものの、現時点では先進的な私立校が中心であり、圧倒的に数で勝る公立校へのアプローチはまだこれからです。
新中期経営計画の方向性
顧客満足を核に、
AI活用と海外展開を推進
新中期経営計画では、「Creating Customer Value in the New Era」をスローガンとして、「事業領域の拡大」「海外市場での事業の拡大」「データを活用したビジネスの創造」を基本戦略に掲げ、各事業の持続的成長を実現するとともに、将来を見据えた基盤づくりに注力する方針です。なお、スローガンにある「Customer Value」とは、顧客価値、すなわちお客様が感じる価値のことです。当社が最新のテクノロジーやソリューションを提供するだけでなく、実際に使っていただいたお客様が課題を解決し、さらには期待以上の結果を体感していただくなど、お客様との接点の全てにおいて感じていただけるものだと考えています。その意味でも、お客様への手厚い支援は顧客価値の根幹であり、従前より当社の良さとしてご評価いただいている部分でもありますので、新しい時代を迎えても原点を見失わないようにスローガンにその想いを込めています。
前中計との違いで言えば、目指している方向性に大きく変わるところはありません。中長期での事業拡大に向けて、様々な課題やさらに強化すべき点を踏まえ、とりわけAI活用と海外展開に注力していく構えです。AI活用については、課題解決にとどまらず、その先の運用の部分で顧客価値の創出につなげていきます。当社は、注力する市場に対する「業務ノウハウ」を持っており、どこにAIを活用して、何を自動化・効率化すべきかを知っています。例えば、コールセンターで問合せを受けてオペレーターが回答する場合、問合せと回答がデータとして蓄積されています。したがって、そこにAIを活用すれば次に問合せがあったときに自動的に答えを出すことが可能となります。また、医用画像管理システム(PACS)においても、膨大な医用画像データを預かっていますので、例えば、医療機関で病気を見つけ出す、あるいは見落としを減らすという部分でAI活用によるメリットは非常に大きいです。
一方、海外展開については国内市場が成熟化していく中で、経済成長の著しいASEAN地域を中心に本格的に取り組んでいきます。前中計の期間中に、タイに現地法人TechMatrix Asiaを設立していますので、現地スタッフで地域に根付いたさらなるビジネス拡大を推進していきます。今はCRM分野が先行していますが、医療システム事業についてもPACSをはじめ、日本よりも導入が進んでいるPHRサービスなどで事業を拡大していく計画です。

財務方針について
財務健全性を保持しつつ、
戦略的投資を実施
投資フェーズにある医療システム事業やEdTech(教育)分野をはじめ、CRMや情報基盤事業のサポート体制の強化などにも積極的に投資を行っていきます。医療システム事業については、最初の2年間を投資フェーズと位置付け、旧PSP株式会社とのシステム統合やPACSにおけるクラウドシフト、事業拡大に向けた人員増のほか、病理、線量管理、AI活用、海外展開などへの戦略投資を行い、最終年度以降の成長加速につなげていきます。EdTech(教育)分野については、機能強化していく計画です。CRMや情報基盤事業への投資にはAI活用などが含まれます。また、時間を買うという点ではM&Aについても成長戦略の選択肢に入っており、海外事業を中心に検討していきます。
投資の規模やアロケーションは、少なくても自己資本比率などの⼀定の財務規律を維持しつつ、将来的な事業拡大のポテンシャルが大きなところに優先的に投資を行っていくことをポリシーとしています。投資のタイミングによって⼀時的な収益への影響は想定されますが、基本的にはストック比率の向上とともに利益率は改善する方向にありますので、ストック比率や営業利益率、ROEの水準に目配せしながら企業価値を高めていきます。株主還元についても配当性向30%以上をお約束していますが、利益成長による増配を実現していきたいと考えています。
サステナビリティへの取組み
持続可能な成長に向けて、
人的資本の強化に注力
当社は、まさに社会課題を見つけ出し解決策を提供するところを事業そのものの原点としています。当社自身の持続可能性を含むマテリアリティとして、「情報セキュリティ」「ダイバーシティと機会均等」「研修と教育」「気候変動」の4つを特定し、様々な取組みを進めています。特に、「ダイバーシティと機会均等」「研修と教育」については、当社自身の持続可能性を支える人的資本の課題としても重要なテーマです。これからのAIを含めたデータ利活用や海外事業を考えた場合、人材獲得の競争は激しく、潤沢に人材を確保できる状況ではないと認識しています。当社は学ぶ姿勢というものを大事にする文化があり、自らを高める機会も充実していると思います。したがって、様々な研修制度はもちろん、キャリアに対する考え方やエンゲージメントの醸成を含めて、当社ひいては社会に貢献できる人材を育成していきたいと考えています。
ガバナンスについては、これまでも取締役会メンバーとして関わってきました。取締役会の実効性という点から申し上げれば、取締役会メンバーの方々の能力の高さや知見の広さに加え、全体としてのバランスがとれているところが最大の特長です。法務、財務、ビジネス開発、D&I、国際性などのスペシャリストが揃っていますので、様々な目線から貴重なご意見をいただいています。また、取締役会以外でも、中長期のテーマを設定してディスカッションする場を設けており活発な議論ができています。
気候変動に対する取組みについても2024年5月、当社の事業に影響を与える気候関連のリスクと機会から想定されるシナリオ分析及び財務インパクトを算定し、全社戦略と事業戦略を策定し、開⽰しました。また、2030年度までにエネルギー電力消費量の50%を再生可能エネルギーにより発電された電力に切り替える目標を達成するべく、年度ごとの具体的な行動計画を策定し、ホームページや統合報告書にて開⽰しています。当社は気候変動への対応を重要な経営課題の⼀つと位置付けていますので、行動計画に沿って着実に前に進めていきます。

ステークホルダーの皆様へ
「やれる方法を考える」
前向きな経営の実践
最初に申し上げたとおり、私の役割は、積極的な投資を通じたエコシステムを回すことで持続的な成長はもちろん、ステークホルダーの皆様への還元、さらには社会への貢献も同時に実現していくところにあると認識しています。そして、その循環を大きくすることで企業価値を高めていく心構えです。私は、「できない理由を探すのではなく、やれる方法を考える」といった発想を大事にしています。何年か先に振り返って「矢井社長の時代は、会社がそして社員⼀人ひとりが成長していくきっかけになった」とそんな評価をいただけるように私自身も成長していきたいと思います。今後ともご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
PROFILE
学生時代を学業と多様なアルバイトで過ごし、努力や成果が数値として現れることに喜びを見出した。この経験を活かし、営業職を目指してニチメン株式会社(現 双日株式会社)に入社。予期せぬ経理関連部門配属となるも、そこでの学びが後の貴重な財産に。当社に派遣、その後約1年半のアメリカ赴任を経験。これが視野を広げるきっかけとなり、帰国後のセキュリティビジネスでの活躍へとつながった。長年に渡りテクマトリックスの情報基盤部門を牽引し、2024年4月、代表取締役に就任。
※本記事は、テクマトリックス株式会社「統合報告書2024」より転載しております。