さらなる飛躍に向け、経営基盤を強化。グローバルに付加価値の高いソリューションを提供する「次世代型エンジニアリング商社」を目指します。
第一実業株式会社
証券コード 8059/東証プライム
代表取締役
社長執行役員
宇野 一郎
「MT2024」2年目の振り返り
中期経営計画「MT2024」は好調に推移
最終年度計画値を前倒しで達成
当社グループは2030年に向けた成長戦略「V2030」を策定し、2022年から3カ年ごとに「創造期」「成長期」「飛躍期」と位置付け、売上高3,000億円を目指して新たな事業創出や経営基盤の強化に取り組んでいます。現在は「創造期」にあたる2022年から2024年の中期経営計画「MT2024」を推進しており、お客様の課題に寄り添い、付加価値の高いソリューションを提供する「次世代型エンジニアリング商社」の実現に向けた基盤づくりに取り組んでいます。
「MT2024」2年目となる2024年3月期は増収増益となり、売上高および営業利益、当期純利益をはじめ各段階利益ともに過去最高の業績となりました。また「MT2024」3年目の計画値も前倒しで達成し、定性・定量の両面で非常に満足のいく結果となりました。
当社グループの7事業のうち特に業績を牽引したのは、エナジーソリューションズ事業、自動車事業、ヘルスケア事業です。また、プラント・エネルギー事業、産業機械事業、エレクトロニクス事業も堅調に推移しました。さらに、コロナ禍の影響を受けて落ち込んでいた航空・インフラ事業は業績が急回復し、今後のさらなる成長に期待を持っております。2024年3月期の好業績は、これら7つの事業がうまくかみ合った成果であると言えます。
こうした成果の背景には、「MT2024」の事業戦略を着実に推進し、エンジニアリング機能の強化や新たなビジネスモデルの確立に取り組んできたことがあげられます。
例えば、エナジーソリューションズ事業や自動車事業では、急拡大する設備需要に対応できるよう、先行して人材確保やプロジェクト管理体制の見直しを実施しました。ヘルスケア事業では、各医薬品メーカーの増産ニーズに対応して商材の展開やエンジニアリング力の強化に努め、エレクトロニクス事業では工場内の物流自動化ソリューション「LOGITO(ロジト)」を提供するなど、時流に合った新しいビジネスモデルの確立を進めています。これらの施策により受注が拡大し増収増益につながったと感じています。今後も各事業を継続的に発展させ、さらなる進化を遂げていきたいと考えています。
「V2030」実現に向けて
「次世代型エンジニアリング商社」を目指し、
さらなる成長、飛躍につなげていく
「MT2024」2年目の成果を踏まえ、2025年3月期の業績予想では売上高2,000億円、営業利益は100億円という創業以来の最高値を目指すことといたしました。
「V2030」で掲げた売上高3,000億円という数字は、当初グループ内でも達成を不安視する声が出るほど高い目標でした。しかし、2024年3月期の成果により、売上高2,000億円達成に目処をつけることができ、「V2030」の目標である売上高3,000億円を達成するための道筋が具体化しつつあると実感しています。こうした成果をあげることができたのは、「V2030」で高い目標を掲げたことで役職員が一丸となり、努力を重ねることができているからこそだと言えます。
「V2030」達成に向け「MT2024」のこれまでの2年間で、エンジニアリングやDXの強化に向けて、新たにエンジニアリング本部やデジタルイノベーションセンターを創設し、リスク管理の強化を目的に統合リスクマネジメント室を設置しました。また、新たな事業創出につなげるためにM&Aを進めるなど、成長に向けた基盤づくりにも取り組んできました。
今後は「MT2024」の3年間で「創造」した基盤をさらに拡充・展開し、「成長期」となる次の中期経営計画「MT2027」、その先の「飛躍期」となる「MT2030」へとつなげていきたいと考えています。「次世代型エンジニアリング商社」を目指し、これからも変革を進めてまいります。
「MT2024」成長に向けた事業戦略①
「モノ×コト」売りにより培われた
独自のエンジニアリング機能を強化
「MT2024」では成長に向けた事業戦略として、「エンジニアリング機能の強化」「戦略的事業投資」「グローバル企業とのビジネス拡大」「DX強化」の4つのテーマに力を入れています。当社グループが「次世代型エンジニアリング商社」となるためには単なるモノ売りではなく、付加価値を高めた提案をしていくことが欠かせません。そのために特に重要となるテーマが「エンジニアリング機能の強化」です。
当社グループは創業から76年にわたり、商社として機器販売などのトレーディングビジネスを中心に展開してきました。しかし、不確実性が高い今の時代、トレーディングビジネスだけでは持続的な成長は難しいと感じています。さらに事業を成長させていくためには、従来のビジネスに新たな付加価値をつけなければなりません。
そのキーワードとなるのが、「技術サービスを付加したエンジニアリング」です。ただ機械を売るだけではなく、商社である当社グループがエンジニアリング機能を強化することで、お客様の多様なニーズや課題をトータルに捉え、技術支援やプロジェクト管理などを含めた付加価値の高いソリューションを提供していく「モノ×コト」売りによって「次世代型エンジニアリング商社」を目指し、モノづくりパートナーとして、お客様の事業の成長と持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。事業ごとに業容が異なるため、「次世代型エンジニアリング商社」像は個々によって異なることもありますが、お客様のニーズに応えるソリューションを提供しトータルコーディネートをするという根幹の部分は全社に広まっています。
例えば最近の成功事例として、欧州の大手化学会社のプラント建設においてエナジーソリューションズ事業が、機器納入に加えてリチウムイオン・バッテリー製造プロセスを一括して提案し、お客様から高い評価をいただきました。
機器納入に関する設置・施工、メンテナンスなどの技術サービスが「点」の仕事だとすれば、プラントづくりにおけるFS※からプラント建設の工程管理までを担うエンジニアリングは「点」をつないで「線」や「面」をつくるような仕事です。当然ながら長期かつ大規模なプロジェクトとなります。商社である当社グループがこうしたエンジニアリング業務を担わせていただけるのは、当社が「モノ×コト」売りで培ってきたエンジニアリング機能への高い信頼があればこそ、と自負しています。
こうしたエンジニアリング機能をさらに高めるため、「MT2024」ではさまざまな施策を実施しています。その一つが、エンジニアリング本部内にプロジェクトを包括的に管理する部署を新設し、プロジェクトの引き合い段階から見積もり、契約締結、工事完了までの工程で事業部を支援する体制を構築したことです。海外プロジェクトにおいては営業に伴走しリスクを減らしていく活動を行っており、多様化するビジネスモデルに寄り添うサポート機能を目指しています。
※ FS:Feasibility Study「プロジェクトの実現可能性を事前に調査・検討すること」
「MT2024」成長に向けた事業戦略②
「既存事業強化」と「新規事業拡大」に向けた
戦略的事業投資を加速
「次世代型エンジニアリング商社」として付加価値の高いソリューションを提供していくためには、戦略的事業投資が非常に重要です。特に既存事業の強化につながる事業投資は、積極的に取り組んでいきたいと考えています。
まず、エンジニアリング機能を強化する目的で、2023年7月に株式を取得して子会社化したのが、シミュレーションエンジニアリングに強みをもつ株式会社ウエイブエンジニアリングです。2024年7月には当社のグループ会社だったハード設計に強みをもつ第一エンジニアリング株式会社と合併し、株式会社DJ-WAVEエンジニアリングとして新たにスタートを切りました。これにより、ワンストップでエンジニアリング業務を担うことが可能となりました。
さらに、2024年3月にはIoTプラットフォームを提供しているスタートアップ企業の米国MODE社へ出資を行いました。同社が提供する「BizStack」は各種設備と融合することにより設備・人・環境データをリアルタイムで可視化し、製造現場のDXを加速することが可能です。同社との連携強化によって当社グループ既存事業との高いシナジーの発揮が見込まれ、製造現場の新たな価値創出に貢献できると考えています。
一方で、今後は新たな領域で事業を拡大していくための成長投資も必要です。すでに取り組んでいる事例が、愛知県田原市における出力5万kWのバイオマス発電所の建設に関するコンソーシアムへの参加です。この出資をきっかけに新たな設備受注にもつながっています。こうしたシナジーが期待できる領域については積極的に投資を行っていく考えです。このほか、当社の従来からの主力商材となっている産業機械のメーカーと戦略が一致すれば、海外にジョイントベンチャーを設立することも検討していきます。
「MT2024」成長に向けた事業戦略③
グローバル企業との取引拡大に向け、
「事業軸×エリア軸」でビジネスを創出
当社グループは成長に向けた事業戦略の一環として、グローバル企業との取引拡大を進めています。これまでの海外ビジネスは、日系企業との取引を主体に拡大してきましたが、今後の成長のためには海外現地企業との取引の拡大が重要です。
アメリカではエナジーソリューションズ事業、自動車事業が好調であることを受け、2023年7月にケンタッキー州レキシントンとテキサス州オースティンに事務所を開設し、お客様のご要望に迅速に対応できる営業、サポート体制を構築しています。
また、2024年3月にはインドに搬送システムを製造する子会社のDJK ENGINEERING INDIAを設立しました。海外では日本の「商社」という概念がなく、現地企業に当社グループのビジネスを理解されにくい実情があります。特に今後の大きな成長が見込まれるインドにおいては、「現地企業との取引を増やすためには、製造機能を兼ね備えた会社を持った方がよい」という外国籍社員からの発案がきっかけとなり、同社の設立に至りました。今後は製造工場を拠点に商社としての強みを生かしながら、付加価値の高いサービスを幅広く展開していく考えです。
当社グループのグローバル戦略の特徴は、「事業軸」と「エリア軸」を掛け合わせてビジネスを創出する点にあります。7つの事業軸でお客様ニーズに対応することはもちろん、インドのようにエリアからの発信で各事業と連携する場合もあります。
今後、海外の現地企業と取引を拡大するためには各エリアからの発信が非常に重要であり、現地の商習慣を理解している外国籍社員が自らビジネスモデルを創出することが必要です。これに対応するべく、すでに外国籍社員を日本に受け入れて商社の仕事の実務経験をさせるほか、日本でも外国籍の方を経験者として採用しており、多様な人材に能力を発揮してもらうための取り組みを推進しています。
「MT2024」成長に向けた事業戦略④
「攻めのDX」を推進し、
データドリブンカンパニーへ
「次世代型エンジニアリング商社」として革新的なビジネスモデルを創出するためには、生産性の向上だけにとどまらない「攻めのDX」に取り組む必要があります。AIやIoTの積極的な活用により「モノ×コト」売りをさらに進化させ、お客様の多様なニーズに応えていくことは新規ビジネスの創出に欠かせません。
こうした考えから当社グループでは「DJK DX Vision」を策定し、2023年4月にDX推進に特化した新組織としてデジタルイノベーションセンターを設立しました。デジタルネイティブの若い世代を中心に社内改革や社員のDX教育に取り組んでいます。
また、経営基盤を強化するためには、全社でデータを共有・活用して価値創出につなげるデータドリブンな仕組みづくりも必要です。すでに国内グループ会社間ではERP(統合基幹業務システム)が稼働していますが、できるだけ早くグローバルに各拠点と連動してデータ共有を図り、事業の拡大とグループガバナンスの強化につなげてまいります。
「MT2024」3年目以降に向けて
変化に柔軟に対応しながら
経営資源の最適配分に取り組む
現在は次期中期経営計画「MT2027」の策定に向け、売上高成長率と収益性・安定性・成長性を踏まえた当社グループ独自の指標をもとに、事業ポートフォリオの分析を進めています。「MT2024」で業績に貢献しているエナジーソリューションズ事業、自動車事業、ヘルスケア事業の3事業は引き続き重点領域として強化し、プラント・エネルギー事業、産業機械事業、エレクトロニクス事業は基盤事業としました。また、従来の航空・空港会社向け事業だけではなく、「令和6年能登半島地震」の際に両側拡幅多目的トレーラーを被災地に無償で貸し出すなど、災害支援や社会貢献につながる事業の可能性も見出しつつある航空・インフラ事業は、さらなる成長を期待する事業として位置付けています。今後も各事業を強化していくとともに、社会の変化に対応しながら経営資源の最適配分を行ってまいります。
当社グループの強みは7つの事業が相互に補完しあっている点であり、外部環境が激変する中でも安定的に事業を成長させてきました。重点領域の3事業はいずれも基盤事業から派生したものであり、今後も既存の7つの事業だけにとどまらず、これらを母体として新たな事業を生み出していくことが、当社グループの持続的な成長につながっていくと考えています。また、事業成長の根底を支えているのは、お取引先様との長いお付き合いから生まれた強い信頼関係です。当社グループのミッションである「人をつなぎ、技術をつなぎ、世界を豊かに」の実現に向けて、今後もお取引先様との信頼関係を財産とし、ともに成長していく会社を目指していきます。
サステナビリティ経営
グループ全体で人的資本投資を推進
ガバナンス体制の強化にも取り組む
当社グループでは、自ら主体的に考え、行動できる人材の育成が持続的な事業成長のエンジンになるとの考えから人的資本への投資に力を入れています。近年はグループが拡大し、経験者採用が増えていることもあり、全社員に当社グループの経営理念や行動規範を浸透させることがますます重要となっています。これを受け、社員の心の拠り所となる指針として、2024年4月に当社グループ全体で共有する行動規範を刷新しました。社員一人ひとりの意識変革につなげ、互いを尊重しながらコンプライアンスをはじめとした社会の要請に応えていくことで、会社としての事業成長と社会貢献を目指していきます。
また、これまでは他部門の業務について知る機会が少なかったのですが、今後は部門を越えて業務の理解を深め、社内の成功事例を共有できる機会を増やしていく考えです。オープンなコミュニケーションを実現することで、提案力の強化やワークシェアリングの促進につなげてまいります。
人材やプロジェクトが多様化する中において、コーポレート・ガバナンスの強化も持続的な成長には欠かせません。企業経営経験のある社外取締役を登用して役員の多様化を図っており、社外取締役がトップを務めるガバナンス委員会においても、経営陣や取締役の指名・報酬およびその他ガバナンス事項について活発な議論を重ねています。社外取締役からはさまざまなご指摘をいただきますが、こうした積み重ねが透明性の高い経営につながっていくと考えています。
海外展開の拡大やM&Aの増加に伴い、グループ全体のガバナンス強化も必要です。システムによる監視を図るべく国内外のグループ各社で共通のERPの整備に取り組むとともに、システムだけに頼らない管理体制の構築も求められています。監査法人の力を借りながら、突発的な事象やリスクに対して人の目で見て確実に対応できる体制をつくるべく、経営管理ができる人材の育成にも取り組んでまいります。
また、当社グループでは持続的な地球環境への貢献をマテリアリティとして特定し、脱炭素社会や自然環境保護に向けた取り組みを行っています。これまでもお客様の機器設備やプラント建設に際して、環境負荷の低い製品の提案を行うことで間接的に気候変動の緩和に貢献してまいりました。こうした取り組みを継続しつつ、今後は既存事業と高いシナジーを期待できる領域においては、当社が直接環境課題の解決に貢献するプロジェクトへの投資も積極的に検討していく考えです。
ステークホルダーの皆様へ
創立80周年に向けて
名実ともに企業価値を高めていく
「事業軸」と「エリア軸」を掛け合わせることで「第一実業ならでは」の新しい価値を創造していくことが、当社グループの最大の強みです。こうした強みを幅広いステークホルダーの皆様に知っていただくためにも、今後はより一層コー
ポレートブランディングの強化に取り組んでいくことが重要であると認識しています。我々の考える「次世代型エンジニアリング商社」像と併せて当社の技術や実力を社会に広く発信し、お客様のご期待に応え続けることで、名実ともに価値ある企業へ成長していくと確信しています。
また、当社グループでは上場企業として資本コストと株価を意識した経営に向けて、2030年をターゲットとした成長戦略「V2030」においてROE10%以上を維持するとともに、PBR1倍以上の持続を目指しています。これを実現するために、経営トップとして事業成長と経営管理の高度化を牽引し、事業投資と株主還元とのバランスのよい経営を遂行していく考えです。
会社としては「V2030」の達成に向けて、創立80周年を迎える2028年までに飛躍的な成長を遂げることを目指しています。そのためには、現在策定を進めている次期中期経営計画「MT2027」において、確実に計画を実行していくことが必要です。当社グループが持続的に発展していくためには、時代に求められる商社であり続けなければなりません。多様化する社会課題やお客様のニーズに対応する提案力、技術力を兼ね備えた「次世代型エンジニアリング商社」として信頼を高め、ステークホルダーの皆様のご期待に応えていく所存です。今後とも、ご支援のほどよろしくお願い申しあげます。
※本記事は、第一実業株式会社「統合報告書2024」より転載しております。