岡三流の「人生貢献」を貫く変革と進化の先にある共存共栄の「森」
株式会社岡三証券グループ
証券コード 8609/東証プライム
株式会社岡三証券グループ
取締役社長
新芝 宏之
■ 歴史的転換点を迎えて
先人の教えを胸に向き合う
岡三証券グループは2023年4月に創業100周年の節目を迎え、「金融のプロフェッショナルとして『お客さまの人生』に貢献する」というPurpose(存在意義)のもと、この1年間、次の100年に向けた新たな一歩を着実に踏み出すことができました。まずは、岡三証券グループのサービスをご利用いただいている100万人以上のお客さま、尽力してくれている全ての社員とそのご家族、そして株主の皆さま、地域社会の皆さまに改めて感謝し、厚く御礼を申し上げます。
2024年はパリ五輪開催などの明るいニュースがあった一方で、世界情勢は長引くウクライナ侵攻、中東情勢など、以前にも増して緊張が高まっています。日本経済は、デフレ脱却、金利のある世界へと進みつつある半面、株価や為替の乱高下も起きています。このような動きの激しい中にある今だからこそ、岡三証券グループの「お客さま大事」の経営哲学に改めて向き合う所存です。
かつて、元会長の故・加藤精一は、昭和の40年不況、平成のバブル崩壊など様々な難局をその経営手腕で乗り越えてきました。私は政策秘書や企画・戦略担当として、25年にわたり数々の歴史的な意思決定の場面に立ち会いました。加藤精一は根幹となる経営哲学は変えない一方で、いち早く先進的で新しいことを取り入れながら、お客さまを守り、会社を守り、社員を大切にしてきました。私もそれに倣い、岡三証券グループの矜持を守り抜きつつ、変革と進化を恐れないという想いを胸に、経営を行いたいと考えています。
様々な要因が絡みあう構造変化
現在に至るまで世界情勢は不確実性が高まりつつ、歴史的な転換点を迎えていると考えます。大きく3つ挙げると、まず、「米国の覇権構造の揺らぎ」があります。第2次世界大戦の後、英国から米国に覇権が移りましたが、ベトナム戦争、ニクソンショックを経て米中冷戦へと移行し現在に至ります。2つめが「グローバリゼーションの逆回転」です。1980年代以降、製造拠点は人件費の安価な地域に移り、低価格製品が世界中に広まりました。その中で、グローバルな産業構造の変化は米デトロイトの経済失速に代表されるように、新たな所得格差拡大などを生み、これらがグローバリゼーションの逆回転の要因になっています。3つめは「技術革新」です。1990年以降のインターネット革命に続いて人工知能(AI)に象徴されるパラダイムシフトが人々の生活そのものを変革させる予感があります。現代はこれら3つの要因が複雑に絡みあっており、我々は非常に重要な局面に立ち会っていると感じています。
米国では1970年代末に「株式の死」と言われた時代がありましたが、当時米国の上場企業のおよそ6割はPBR(株価純資産倍率)1倍割れだったのです。現在の日本でも多くの株式がPBR1倍未満で、米国との類似性が感じられます。米国では事業再編やM&A等の経営効率化が進む中で株式市場は大底を打ち、その後の株高につながりました。日本は米国をはじめとする諸外国とは位相が異なり、バブル崩壊を経て約30年間のデフレがありましたが、ここに来てようやく変化への期待が高まっています。新NISAも始まり、貯蓄から投資、そして資産形成へといった動きが大きな潮流となっています。この潮流の中、日経平均株価は34年ぶりに今年、史上最高値を更新しました。暫くは乱高下の展開となるでしょうが、高値更新は象徴的な出来事であったと捉えています。
世界のGDPと株式時価総額について興味深い比較があります。1989年と2023年のGDPを比較すると、20兆ドルから105兆ドルまで約5倍になっています。これに対し、世界の株式時価総額は1989年に8兆ドルでしたが、2023年には111兆ドルへと約14倍にまで膨らんでいます。金融が社会にもたらす影響は高まっています。ただこの中で日本のプレゼンスを高めることが課題だと思います。
社会と共に成長する
岡三証券グループの使命
日本における個人金融資産は2,000兆円以上ありますが、そのうち株式への投資は約10%、投信が5~6%で、合わせても15%前後とされています。
一方、米国では金融資産のうち50%、EUでもおよそ30~40%が株式や投信などのリスク資産に投資されています。日本でも投資への機運が高まりつつあり、世界の国々と比較した時、今後まだ2倍、3倍へと拡大する伸びしろがあると見ています。
今後、インフレや金利のある世界においては、金融サービスへのニーズは一層高まっていきます。質の高い金融サービスは、数々の節目を迎えながら人生を歩んでいくために必要なインフラです。お客さまに常に寄り添い、その人生に貢献できる存在であることが当社の使命だと考えています。5ヵ年の中期経営計画においても、「人生貢献」の考え方が根底にあります。
そのために、様々なサービスをラインアップし、お客さま一人ひとりに相応しい形で提供していく体制の高度化を進めています。リテール金融ビジネスの伸びしろが大きい環境下で、お客さまや業界と共に成長していくのが当社の描く姿です。
■ 5ヵ年の中期経営計画は2年目へ
新たな100年に向かう船出とともに、5ヵ年の中期経営計画が始動し、1年が経ちました。従来は3ヵ年の中期経営計画でしたが、「ビジネスモデルを変革し、次の100年も成長しつづける経営基盤を確立する」というゴールを実現するには、しっかり時間をかけて大きな変革を行っていくために5 ヵ年としました。
初年度は、今後形にしていくための準備を着実に進めることができたと思います。すでに発表している施策もいくつかありますが、後ほどお話しする「オープンアーキテクチャ」の考えのもと、加速度的にプロジェクトを進めているところです。
■ 共存共栄を目指す、グループの次の一手
プラットフォーム戦略による共存共栄で、
成長を実現する
中期経営計画における成長戦略の一つとして「プラットフォームの高度化」を打ち出しました。自前主義にとらわれることなく、グループ内外のリソースを活用して、サービス向上と営業チャネル拡大を図ることで、質、量の両面から事業基盤を強化するものです。計画初年度は準備に専念 してきましたが、いよいよ形になったものがいくつかあり ます。
そのうちの一つが、岡三証券を核としたIFA(金融商品仲介業者)向け証券プラットフォーム事業です。これは、主にグループ外の証券会社のIFA法人への業態転換を支援するとともに、岡三証券が間接業務などを引き受けるものです。これによって、IFA法人へ転換した証券会社はシステムや事務などの負担から解放され、営業活動すなわちお客さまとのリレーション強化に専念できるようになります。
また、岡三証券のインフラや商品サービスなどを使えるようになり、負担の軽減だけでなくサービスも飛躍的に向上します。一方で当社にとっても、リソースを共有する仲間が増えることで、いわば割り勘効果が出るうえ、すでに営業網と顧客リレーションを持つIFA法人を通じて当社グループの商品サービスが提供されることで、実質的に営業チャネルが拡大することになります。まさにWin-Winの施策です。第1号案件がスタートしましたが、今後このアライアンスを拡大していく予定です。グループ外だけでなく、グループ内の証券会社については、ロールモデルとしてプラットフォーム利用を進める考えです。
お客さまのニーズが多様であるように、私たち証券会社も多様であるべきで、それぞれのお客さまに寄り添った会社であることが望ましいと考えています。ただ、業界共通の課題もあって、求められることは年々増えていて、サービスの質を継続的に上げていくには一定の規模や資金力が必要な側面もあります。
当社が目指すプラットフォーム戦略には、課題を解決しつつ、豊かで多様な証券文化を実現するという、共存共栄の考え方が根底にあります。
外部リソースも積極活用
証券業界には、全国各地に根を下ろした証券会社がたくさんあります。1社あたりの規模では大手が圧倒的ですが、各地にある地域証券を合わせれば相当な規模感になります。大手や準大手、銀行系などを除いても約80社程度あり、合わせるとその売上高は大手証券のリテール部門に匹敵し、従業員数は合計で1万人以上に上ります。しかも、各地で顧客との強固なリレーションを長年にわたり築いています。当社がプラットフォームとしてインフラや商品サービスなどを提供することで、小規模な証券会社単独ではハードルが高いサービスの導入やDX活用も進みます。こうして、業界の多様性を大切にしながら、リテール金融ビジネスの成長ポテンシャルを取り込んでいければと思います。
こうしたプラットフォームの高度化は、オープンアーキテクチャの考え方により効率的に実現していきます。証券プラットフォーム事業において当社はプラットフォーマーの立ち位置ではあるものの、全てのリソースを自前で揃えているわけではありません。例えば岡三証券ではすでに基幹システムを共同利用型に移行して効率化を図っていますし、種々のサービス導入に際しては積極的に優れた外部リソースを活用しています。良いものは変化を恐れず導入しつつ、お客さまへの価値提供に直結する部分では独自に差別化を図っていく方針です。
■ 投資と資産形成を支援する新サービス
新サービスも活用し、
トータルコンサルティングを高度化
オープンアーキテクチャによるサービス導入について触れましたが、2024年秋、当社としては新しいサービスを導入します。
1つは、かねてから準備を進めてきた銀行サービスです。BaaS(Banking as a Service)活用による銀行代理業のスキームを用いて、岡三証券の銀行サービス「岡三BANK」の早期開始を実現しました。預貯金もお客さまにとってポートフォリオの一部であることを考えると、銀行サービスの導入は、顧客とのリレーションのもと資産全体を捉えたトータルコンサルティングを高度化させるという当社の目的に沿ったラインアップです。
また、ファンドラップサービスの提供も開始します。岡三証券のファンドラップでは、アセットアロケーションやファンド選定など運用に関わる領域において、資産運用や富裕層向けサービスでグローバルなノウハウを持つUBSグループのUBSアセット・マネジメントと連携し、同社の知見を活用した運用を提供します。ファンドラップとしては後発ですが、その分、優れた商品を作り上げることで差別化を図りました。
当社グループが主体となりつつ、こうした外部パートナーの優良なリソースも積極的に取り入れ、オープンアーキテクチャによって質、量ともに拡大を加速させていきます。
■ インナーブランディングについて
多様な働くニーズに応え
魅力ある環境作りを推進する
私たちは中期経営計画でコーポレートブランディングの強化を掲げており、インナーブランディングもその中に含まれます。当社の使命はお客さまの人生に貢献することだと申し上げましたが、経営のミッションとしては、社員の人生にも貢献する会社でなければなりません。それには岡三証券グループが魅力ある企業体であること、すなわち、やりがいを実感しながら働ける環境づくりが大切です。社員の頑張りに報いる会社でなければなりませんし、多様な働き方の選択肢を整備することも必要です。報酬面でも魅力ある体系にしていきますが、どう働くか、どのような仕事をしたいかなど、トータルで応えていきたいと考えています。最近は社内公募で異動するケースも少しずつ増えてきましたが、一つの方向性としては、たとえば一定の実績やポテンシャルのある社員が希望の業務、職種、地域で働けるといった、いわば「社内転職」のような概念が必要だと考えています。社員自身が成長を実感し、自己実現できることが会社の成長にもつながります。人事制度の改革準備も進めているところですが、岡三証券グループの一員であることが誇らしいと思ってもらえるようにしていきたいと思います。
2023年にはグループの全ての社員の方々に対し、一律に譲渡制限付株式(RS)付与を行いました。経営について社員と一緒に取り組んでいきたいという想いからです。社員が株主になることで、オーナー目線から改善すべき点がより浮き彫りになり、経営に対する見方は厳しくなるはずです。経営者として改めて身を引き締めているところです。
■ 企業価値、市場評価の向上
中期経営計画では市場評価向上についても言及しています。株主還元方針において、総還元性向50%以上としたほか、中期経営計画の期間中はPBRが1倍になるまでは年間10億円以上の自己株式取得を実施することも掲げました。もちろん、財務施策だけでPBRを向上させることは難しいですし、変革を進めてしっかり稼げる会社になることが本旨ですが、市場評価を意識した決意表明として打ち出しました。
PBR=ROE(自己資本利益率)×PER(株価収益率)ですから、PBRを上げるには、稼ぐ力であるROEで安定的に高い水準を出すことが求められますし、成長ストーリーが必要です。より高いROEが期待できるビジネスモデルへの変革、低採算事業の整理、財務施策などトータルで市場評価の向上を目指しています。
■ ステークホルダーの皆さまへ
「森」のようなエコシステムの実現へ
当社の存在意義はステークホルダーの皆さまの人生に貢献を果たすことです。お客さまの人生に寄り添い、社員が働きがいを感じる環境を作り、株主の皆さまの期待に応えてまいります。
また、持続可能な社会づくりへの貢献として、多様性を大切にしたいと考えています。私はよく「森」に例えるのですが、植物や生物が自然と育って豊かになっていくような、バイオダイバーシティになぞらえて、企業として多様性を大事にしながら成長を目指していきます。そもそも私たちには、社会課題の解決を目指す企業やプロジェクトに資金が供給されるように働きかける役割があります。持続可能な社会に貢献する主体に資金が行きわたり、皆が豊かになる、そうした役割を果たすなかでサステナビリティ経営を実現していきたいと考えています。
次の100年を目指す岡三証券グループに対し、今後とも一層のご支援とご指導を賜りますようお願い申し上げます
※本記事は、岡三証券グループ「統合報告書2024」より転載しております。