アイザワ証券グループ株式会社 目指す姿は 「資産運用・資産形成の伴走者」企業価値の向上へ、不退転の覚悟で臨む
アイザワ証券グループ株式会社
証券コード 8708/東証プライム
代表取締役社長 兼 社長執行役員
藍澤 卓弥
2024年3月期は早期の業績回復を達成
新しい経営陣で改革も加速
赤字を計上した2023年3月期から一転、2024年3月期は黒字転換を図ることができました。「早期の業績回復」は昨年の統合報告書でも課題としてあげましたが、営業利益、経常利益、税引前利益のいずれも黒字化し、営業利益については3期ぶりの黒字となり、正直ほっとしています。
業績回復の最大の要因はやはり外部環境です。企業業績が好調だったことに加えて、東証の要請により「資本コストや株価を意識した経営の実現」に向けて構造改革や低PBR改善の動きが進み、日本の株式市場は大幅に上昇しました。これにより、株式委託手数料と株式トレーディング損益が大幅に増加しました。
もう1つ、内的要因としては、預り資産と口座数が過去最高を更新したことがあげられます。背景には、FA(ファイナンシャルアドバイザー)の意識が、従来のブローカレッジ収益重視の姿勢から、より鮮明にストック収益重視の姿勢を打ち出すようになったことがあります。証券事業の改革は、最終的には意識レベルの改革だと私は考えていますが、それが2023年度は現場レベルで進んでいることを感じられ、非常に頼もしく感じました。
「ブローカレッジビジネスから資産形成ビジネスへのシフト」は、現中期経営計画(2022年度~2024年度)の基本方針の1つであり、これまでも経営サイドから声高に訴えてきましたが、残念ながら十分ではありませんでした。そこで2023年度は体制の見直しを図り、現場のFA一人ひとりに、資産形成ビジネスへのシフト、ストック収益重視の姿勢がなぜ重要なのかを理解してもらうためにFA本部内で対話を行いました。その成果が表れつつあるのだと思います。
2023年6月に芝田康弘会長と、清家麻紀社外取締役が就任したことも当社にとって好影響をもたらしました。アイザワ証券グループは100年以上の歴史を持ち、この間に育まれた強みや特長はたくさんありますが、やはり外の目から見て足りていない部分や、非常識だと思われる見方、考え方が存在するのも事実であり、芝田会長が1つひとつを指摘し、社内全体に伝わるように説明してくれたことは大きかったと思います。
経営陣の仕事に対する取組み姿勢にも変化が見られます。とにかく頻繁に会合を重ねて、思っていることや考えていることを、取締役会以外の場でも全て吐き出し、シェアします。特に、2024年4月に発表した株主還元の強化策のような重要案件については、なぜそれをやるのか、それをやることが我々にとってどういう意味を持つのかといったことを余す所無く意見交換し、取締役全員が完全に理解し納得するまで徹底的に話し合いました。
積極的なコミュニケーションを通じて、現場の従業員の間でも意識改革が進んでいます。芝田会長の働きかけで肩書きを外し、社内では誰もが「さん付け」で呼び合うように変化したことで、役職にとらわれることなく、より自由に言いたいことが言えるような雰囲気も生まれており、その効果は想像以上でした。
「資産運用・資産形成の伴走者」となり
継続的に「ROE 8%以上」を目指す
現中計「Define Next 100~もっとお客様のために~」では、「資産形成を通じて、中間層(資産形成層)の方々を生活の不安から解放する」ことをミッションに、5つの基本方針に基づいて各種取組みを展開しています。現中計の最終年度となる2024年度についても、その方向性が大きく変わることはありません。
これまで掲げてきたスローガンを「ブローカレッジビジネスから資産形成ビジネスへのシフト」から「資産運用・資産形成の伴走者を目指す」へと言い回しを変えました。本質は同じであるものの、これまでのスローガンは我々自身が将来どうなるのかが具体的にイメージし難く、変える必要がありました。
その上でフォーカスしていくべきものが継続的なROEの向上です。現中計で掲げたKPIの進捗を見ると、「固定費カバー率50%以上」については2024年3月単月で達成し、「預り資産2兆円以上」についても、2024年度第1四半期に達成しました。しかし、「ROE 8%以上」については“道半ば”であり、当社の株主資本コストは7%程度と推定されますが、昨年度のROEは5.6%にとどまることから、8%以上のハードルは高く、来期以降も継続課題として取り組んでいく必要があります。
我々は本気で「資産運用・資産形成の伴走者」に変わります。お客様の資産運用・資産形成のゴールやニーズ、思いを聞いて理解し、それを実現するための最適なアドバイスを提供する真のアドバイザーになるためには、全従業員においてもう一段の意識改革が必要であり、何よりそれをやり抜くというマインドを経営陣が常に持ち続けることが大事だと考えています。
現中計開始の約半年前である2021年10月にスタートした、持株会社体制への移行についても総括しておきたいと思います。持株会社化の主な目的は「グループシナジーの追求」でしたが、これについても“道半ば”というのが正直なところです。
中核である証券事業をはじめ、投資事業、運用事業、その他の子会社との間での連携を推進し、例えば、アイザワ証券のお客様にあいざわアセットマネジメントの商品・サービスを提供することを想定していましたが、当初思い描いていたような成果はあげられていません。
グループ戦略については当初予定していた通りになっていない原因を分析し、2025年度から始まる新中計において当社グループのあるべき姿について改めて提示する予定です。
新中計策定の議論がスタート
今後3年間の注力分野とは
「足元の業績はもちろん大事ですが、むしろ5年後、10年後のあるべき姿を考えて、それに向けて持続的に安定して成長することを目指すべき」─。昨年の統合報告書ではこう述べました。5年後、10年後のあるべき姿とは、すなわち「資産運用・資産形成の伴走者」です。
これから証券会社として生き残っていくために「資産運用・資産形成の伴走者」であることは絶対条件であり、何より、お客様の変化を知る現場の担当者自身が「そうあるべきであり、さもなければ、お客様に付加価値を提供できない」とまで話しています。
昨今はアイザワ証券のFAだけでなく、地域金融機関との連携やIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて、これまでお付き合いがなかった属性のお客様とのお取引も増えてきました。
彼らが考える資産運用・資産形成の方向性は、従来のような余剰資金で個別株取引を行い、大きな利益を狙うというものではなく、どちらかというと、堅実に中長期で将来の生活資金を増やしたいというものです。また、彼らの多くは投資にまつわる不安はできるだけ取り除き、安心感を得たいと考えています。
そうしたことからも、やはり我々の役割は変わっていかねばなりません。「資産運用・資産形成の伴走者」として、お客様がゴールを達成するまで寄り添ってアドバイスをし、「必要なときに、いつもそばにいてくれる」と実感してもらえるようなサービス体制をプラットフォームビジネスでも構築していきます。
2023年10月には、金融機関RMを担当する執行役員を新たに選任し、地域金融機関との連携、IFAビジネスの拡大に向けた取組みを加速させています。両者を合わせたプラットフォームビジネスでは、我々のお客様は金融機関、保険代理店や士業などのIFAとなります。
彼らが、彼らの最終顧客に対して「資産運用・資産形成の伴走者」となれるよう、まずは我々本体のFAが「資産運用・資産形成の伴走者」としての形を完成させ、そのノウハウやスキルを彼らに伝えていくことで、最終的に当社グループに証券口座をお持ちのお客様全てが同じようなサービスを受けられるようにしたいと考えています。
新中計の策定にあたって、既にいくつかのテーマについて議論が始まっています。1つは、ミッション・ビジョン・バリューの見直しです。まだまだ検討段階ですが、グループ全体を巻き込んで、ボトムアップで決めていこうと考えています。
もう1つは財務戦略です。事業に必要な自己資本を適正な水準に維持するため前述の株主還元強化を行うとともに、財務レバレッジの活用、資本配賦・資本収益性管理の整備・強化に取り組み、適正なバランスシートを構築していきます。
そして、何より重要なのが、中核事業である証券事業の改革です。再三お伝えしているように、「資産運用・資産形成の伴走者」になるために、自社FA、IFA、地域金融機関の3つのチャネルの併用強化や、ゴールベースアプローチ型営業と地域密着の徹底強化といった施策を、外部コンサルティングの知見なども活用しながら、やり抜く方針です。
理想とするのはオーケストラのように
個性が集まる「自律分散型組織」
少し話はそれますが、昨年世界的に著名な管弦楽団が来日公演を行い、芝田会長とともに鑑賞する機会に恵まれました。
世界各国からソリストとして活躍できる100数十人のトッププレーヤーたちが集まり一糸乱れず、かつ自由に表現しながら自然に1つの音に溶け込む様は圧巻でした。
プレーヤーを束ねる指揮者もやはりすごいと思いました。 1つひとつを完全にコントロールしにいくというよりも、あくまで自主性に任せながら、前に出ていくところは出ていき、連携するところは連携するようプレーヤーたちを促している印象で、経営者たるものそうあるべきだと共感を覚えました。
私が理想とする組織形態は、自律分散型組織です。個人がある特定の組織に所属して、そこに埋没するのではなく、際立つ個性を有する個人が集まってできる組織です。
さらに言うと、新しいプロジェクトやビジネスが立ち上がったときに、そこに必要なスキルを持った人たちが集まって、その遂行にあたり、プロジェクトが完了したら、その組織は解散し、また別のプロジェクトに参加するというものです。
そうした組織の完成形を目指しつつ、人的資本経営の実現に向けては、社員の自律的な成長を支援するCDP(キャリア・デベロップメント・プログラム)を推進し、個人の適性・希望を考慮し、能力開発やキャリア開発をサポートしてきました。
一方、DE&I(多様性・公平性・包摂性)推進の観点からは、 2024年度から「女性キャリアステップアップ研修」をスタートしました。当社はそもそも女性社員の比率が低く、女性管理職も少ないことは認識していましたが、ようやく女性活躍推進に向けた第一歩を踏み出すことができました。
グローバル企業においては、ことさら女性を意識して、女性活躍を盛り上げよう、女性の登用を増やそうといった段階は既に終わっていて、年齢や性別、国籍などにかかわらず、分け隔てなく誰もが活躍する場が提供されています。我々も早くその段階に到達できるよう、新たな施策も含めて取組みを強化していかないといけません。
引き続き、日本を代表する金融機関でDE&Iの推進に携わってきた、清家社外取締役の知見も活用しながら、DE&Iの定着に向けた改革を加速させてまいります。
株主還元の強化策に込めた
オーナー経営者としての思い
2024年4月に発表した株主還元の強化策が意味するところについて、改めてご説明いたします。
2025年3月期から2028年3月期までの4年間で、総額200億円以上の株主還元を実施し、このうち約100億円を特別配当として、残り約100億円は普通配当並びに自己株式取得などにより実施することを公表しました。
資本効率の向上を図るために、株主の皆様からお預かりしている内部留保の一部を還元させていただきますが、この結果会社の資本構造は抜本的に変わります。オーナー社長の企業にとっては自らの既得権益を放棄するのに等しいアクションであり、これを実行することは、本当の意味で背水の陣を敷くことだと思っています。
こうした決断に至った背景には、ROEの向上がなかなか見込めないことや、株主との対話もありました。
執行部門の責任者が毎日のように顔を突き合わせ、情報を持ち寄り、シミュレーションを何度も繰り返しながら、全員が腹落ちするまで議論し、最終的な判断は私が下しました。
企業価値向上とそれを通じたPBRの改善に向けては、継続的なROE 8%以上の達成を目指して、証券事業の変革を軸とした成長戦略に取り組むほか、株主還元の強化と財務レバレッジの活用、株主・投資家の皆様との対話の増加、IRコンテンツの充実、サステナビリティなどに積極的に取り組んでまいります。
「アイザワ証券グループには、優秀な人材がたくさんいる」。芝田会長、清家社外取締役をはじめ、社外からきた多くの方々がそう言ってくださいます。一方で、会社組織として見たときにまだまだ足りない部分も多く、歯に衣着せぬ方達からは、「よくこの状態で100年もやってきましたね」とも指摘されます。
すごくありがたいと思う半面、優れた人的リソースを活かし切れていないことは、ひとえに経営者の責任であり、大いに反省すべきことと認識しています。
人的リソースを最大限活用した状態とは、一人ひとりがタレントになり、その持ち味を発揮する、まさしく自律分散型組織です。どこまでその理想形に近づけるかはわかりませんが、ライフワークとして取り組むべき課題です。ひいてはそれが、会社の有り様を変えて、業績にもつながり、お客様や株主様、社会や従業員など全てのステークホルダーの皆様にとっても、 Win-Winの関係を構築し、満足いただける。そんなビジネスモデルを確立していきたい。
2024年度の残り半年、その次の3年間は、文字通り背水の陣で臨みます。どうか温かい目で見守ってくだされば光栄に存じます。
※本記事は、アイザワ証券グループ株式会社「統合報告2024」より転載しております。