大同メタル工業株式会社 「お客様第一主義」と「技術立社」で 未来への挑戦を続け、事業構造の転換を通じた 企業価値の向上を図ってまいります。
大同メタル工業株式会社
証券コード 7245/東証プライム
代表取締役会長兼CEO 判治 誠吾
はじめに
私たち大同メタルグループは、1939年に名古屋の地で創業して以来、自動車分野を中心に船舶、建設機械、一般産業など、あらゆる産業分野における世界で唯一の「総合すべり軸受メーカー」として成長・発展してまいりました。常にお客様の声に耳を傾け、世界のトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑)リーダーであるという使命感のもと、高品質・高付加価値の製品を提供し続けております。現在は、軸受以外の新たな事業の柱も拡大しながら、世界15か国に43拠点を有するグローバル企業にまで成長し、世界中のお取引先様から信頼されるビジネスパートナーとして評価を頂戴しています。
2023年度と中期経営計画の振り返り
2023年度は、自動車業界における半導体供給不足の解消や新型車の好調による大幅な受注増と、電動自動車向けアルミダイカスト製品の北米向け需要の好調に加え、為替の円安影響もあって、売上を伸ばすことができました。また、自動車用エンジン軸受のグローバルな増収や、非自動車用軸受(大型船舶用)の開拓による増収、販売価格の改善によって、営業利益も拡大しました。
こうした状況を受け、当社グループ全体の売上高は過去最高の1,287億38百万円となり、前期比132億57百万円(+11.5%)の増収となりました。営業利益についても、60億84百万円(営業利益率4.7%)と、前期比+115.4%の増益となりました。
また2023年度は、2018年度から6年間にわたって取り組んできた中期経営計画「Raise Up “Daido Spirit”~ Ambitious, Innovative, Challenging ~」(“大同スピリット”を更なる高みに引き上げ、大きな飛躍を果たす~高い志、改革する意欲、挑戦する心~)の最終年度でもありました。6年間の半分を占めたコロナ禍による甚大な影響のもと、EV化の急速な進行など事業環境の目まぐるしい変化に直面した期間でしたが、最終的には過去最高の売上高を記録して、計画期間を締めくくることができました。その一方、業績の回復基調が継続するかどうかは不透明で、また営業利益率も計画策定前との比較では回復途上にあるなど、課題も残しております。
以下では、中期経営計画でも掲げた「既存事業」と「新規事業」という2つの柱について、この間の取り組みの現況や、今後の方向性などをご説明します。
既存事業の取り組み
近年の事業環境の中で最も大きな変化は、やはり世界的なEV化の動きです。中長期的には当社の主力である自動車用エンジン軸受の需要の減少が予想され、事業の将来性について悲観的な見方が社内外で強まりました。そのままでは、従業員の士気にも関わりかねません。そんな中で私は、「EV化が進んでも軸受の仕事はなくならない」ということを唱え続けながら、自動車用エンジン軸受以外の軸受を拡張する方向で、事業構造の転換を図ってまいりました。
そのひとつが、自動車ではない用途のエンジンです。例えば船舶用のエンジン軸受、コンテナ船などの大型船の需要の高まりから、それらに用いられる舶用低速エンジン用の軸受は、先の中期経営計画期間中に世界シェアを22ポイント伸ばし、2022、2023年度にはともに73%となっています。
それとともに、今後の成長が期待できるのが、中小型船舶や産業用発電機などに用いられる中高速エンジン向けの軸受です。中高速エンジンを推力とする中小型船舶が増えているだけでなく、大型船でも、船内で使う電力の発電のためのエンジン(補機)の需要が伸びています。また、AIの急速な普及などを受けて世界的にデータセンターの数も規模も拡大し、そこで大量に消費される電力の供給のために、中高速エンジンを用いた発電設備をデータセンターが自前で備えるケースが増えています。こうした背景から、世界の大手エンジンメーカーが軒並み中高速エンジンの増産を始めており、当社でも現在、エンジンメーカーからの大幅増産の意向を受けて、具体的な設備投資の計画を進めているところです。
その一方で、自動車用エンジン軸受そのものも、中期的には決して見通しが暗いわけではありません。ひとつには、ここ数年、EV化による需要減を見越して、自動車用エンジン軸受から撤退していく企業が現れています。そのため、従来なら欧米の競合先が引き受けていたであろう案件が、当社に引き合いが来ています。そうした、いわゆる「残存者利益」も、当面は増えていくものと期待されます。もうひとつは、アフターマーケットの需要です。今、世界中で走っている何億台という自動車のエンジンで使われている軸受は、使用環境によって寿命は異なりますが、いずれ交換時期がやって来ます。そうしたアフターマーケットは、これから減少するどころか増加が見込まれています。
このように、当社が技術的に強みを持つエンジン用の軸受は、EV化の影響を受ける部分はありながらも、引き続き主力事業であり続けるものと考えております。
新規事業の展開
EV化の流れに対応した新規事業として、まず挙げられるのは、アルミダイカスト製品です。モーターのカバーやパワーコントロールユニットなどのケーシングを、タイの工場で生産しています。昨年はEV化の進展で需要が急増し、当社の売上も拡大しました。ところが、残念なことに需要の急増に生産が追い付いておらず、アメリカなどにエア便で出荷している状況ですが、日本からの支援も強化して、生産の早期安定化に取り組んでおります。
一方、軸受については、エンジン用以外の分野での可能性を切り開く取り組みも進めてまいりました。例えば、再生可能エネルギーの分野で需要の増加が見込める、風力発電機用の軸受です。
現在の一般的な風力発電装置は、差し渡し200メートルにもなるブレードの回転を発電機に伝える軸を支えるために、ころがり軸受(ボールベアリング)が使われています。ころがり軸受では潤滑用にグリースが用いられることが多いのですが、そのグリースはいずれ枯渇します。風力発電設備が並んでいる中で、風はあるのにブレードが止まっているものがあったりするのは、グリースが枯渇して固まってしまっているのです。ところが、ころがり軸受は構造上、一体型なので、故障したらいったんブレードを外して地上へ降ろし、工場に運んで修理をするか、新しいものと交換する必要があります。各メーカーでは補修費として年間数百億円かけているような状況です。
それに対して、当社のコアテクノロジーであるすべり軸受は、オイルをポンプで注入する油潤滑なので、半永久的に使えます。そのうえ、仮に軸が焼き付いても、分解可能な構造なので修理・交換が容易です。こうした特長は、今後増えていく洋上風力発電では特に大きなメリットとなり、維持費用の低減や修理期間の短縮などに貢献します。
当社では現在、欧州市場向けに洋上風力発電機用の軸受を生産する新工場を、60億円を投資してチェコに建設しています。風力発電機へのすべり軸受の採用は、世界初となります。
もうひとつ、エンジン用以外で軸受の可能性を見込んでいるのは、ほかならぬ電動自動車に積まれるモーターの分野です。モーター用の軸受も一般的なのはころがり軸受ですが、モーターの効率を上げるために回転数が1分間に2万回転、3万回転と増えていくと、ころがり軸受では耐えきれなくなります。そこで当社では、磁力を利用して軸を支える磁気軸受や、圧縮空気を使うエア軸受といった技術によるモーター用軸受の開発に着手しました。すでに基礎的な技術は持っているので、モーターメーカーや自動車メーカーと協働して実用化に向け取り組んでいるところです。こうしたモーター用の軸受は、将来的には大きな市場になり得ると考えております。
長期ビジョンと次期中期経営計画
以上のように、前中期経営計画期間には、EV化などの環境変化に対応するための事業構造の転換に取り組み、一定の成果を挙げてまいりました。それとともに、これからも全従業員が同じ方向を見据えて進んでいけるよう、2050年までに当社グループが進むべき道を示す長期ビジョン「大同の大道」の策定を2022年度から開始しました。この大きな道筋に従いながら、時代や状況の変化に対応して柔軟に変革を進めていく所存です。
その長期ビジョンでは、EV化の進展を見込んで、2030年の売上比率を、エンジン用軸受などが70%、それ以外が30%と想定しました。ところが、ご存じのようにここ1年ほどで世界的なEV化の流れに少しブレーキがかかりつつあります。すべてEVにすればよいという訳ではない、という空気が生まれてきているのです。実際、走行時だけでなく生産段階から廃棄段階までを含むライフサイクルアセスメントの視点からは、必ずしもEVがあらゆる場合に最善の選択肢とは言えないという専門家の意見もあります。また、ガソリンの代わりに水素やアンモニアなどカーボンニュートラル燃料を用いるエンジンの開発も進むでしょう。こうして見ると、将来的な売上比率は長期ビジョンの想定ほどには変化しない可能性もあると、現時点では考えております。
それは、自動車用エンジン軸受がこれからも当社の主力であり続けるだろうということを意味します。しかしながら、安心していられる状況でないことは言うまでもありません。EV化は長期的には進行しますし、現時点では予想もできない変化も待ち受けているでしょう。先の見通せない時代に柔軟に対応していくには、その準備として、研究開発や設備投資を進めるとともに、人への投資も深めていかなければなりません。それらの原資を確保するため、2026年度までに営業利益率を10%まで引き上げを目指したいと考えております。生産効率の向上や歩留まりの改善で既存事業の収益性を高める一方で、AIを活用して管理部門などのホワイトカラーの生産性向上を図るなど、営業利益率引き上げに取り組んでまいります。
このような変化の激しい状況を踏まえ、2024年度は将来への計画をじっくりと練る1年としました。EV化の動向やアメリカ大統領選挙の結果なども見据えつつ、次期中期経営計画を策定します。「足元にある赤字事業の道筋確保」「主力事業における収益基盤の再構築」「非モビリティの事業基盤確立」といった点をポイントとして、6年後である2030年の目標を示したいと考えております。
サステナビリティ経営の推進と
人的資本への投資
当社グループは、事業活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献し、企業価値の向上を図っております。企業理念の冒頭「会社の務(つとめ)」に、「社員の幸せをはかり、地球社会に貢献する」と掲げている通り、2015年にSDGsが採択されるはるか前から「企業は社会に貢献すべきものであり、企業を構成する従業員は企業を通して社会に貢献する」と考えてまいりました。そして、SDGsを全社一丸となって推進するため、SDGs目標を部門の方針管理に落とし込み、推進を継続しております。
サステナビリティ経営、特に地球環境への取り組みについては、「いちばんのステークホルダーは地球である」という視点を徹底する必要があると考えています。フランスの経済学者で知の巨人とも言われるジャック・アタリ氏は、化石燃料や化学製品に依存する「死の経済」から、再生可能エネルギーなどを中心とした「命の経済」への移行を唱えていますが、それこそがまさに今、企業経営に求められているものです。先にお話しした風力発電機用の軸受などは、「命の経済」への移行に大きな貢献を果たすことができますし、エンジン用軸受にもまだまだ可能性があります。また、省エネ対応や再生可能エネルギーの利用拡大などを通じた、事業活動におけるカーボンニュートラルへの取り組みにも、引き続き注力してまいります。
もうひとつ、「会社の務(つとめ)」に掲げている「社員の幸せ」のために、人的資本への投資を進めます。「人をコストと考えないで資産と考える」ことの大切さは、社長就任当初から言ってまいりました。会社の持続的成長と生産性向上を実現するには、従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる機会と環境の提供が欠かせません。従業員の給与引き上げとともに、部門間・性別・国籍など様々な壁を取り払ったフラットな会社の実現を目指してまいります。
従業員の幸せを考えることは、地球にやさしくすることにもつながります。「いちばんのステークホルダーは地球」を念頭に、単なる金もうけではなく倫理観を持った会社経営に努めることが、本当のサステナビリティ経営であると考えております。
ステークホルダーの皆様へ
私は以前から「夢・希望・挑戦」というキャッチフレーズを発信してきました。従業員にはこの言葉を常に心に抱いてもらいたいと思っていますし、会社としても未来への夢や希望を持って、それに挑戦していく精神を忘れてはなりません。そのためには、従業員一人ひとりがお客様第一主義を貫くと同時に、開発・生産・製造のあらゆる面で「技術立社」を徹底する必要もあります。これからも「お客様」と「技術」の両輪で未来への挑戦を続けることで、企業価値の向上を図ってまいります。
最後になりますが、2024年6月に古川智充が代表取締役社長兼COOに就任しました。理工系の出身で製造現場にも精通しており、また、モンテネグロやメキシコの拠点立ち上げなど海外経験も豊富で、グローバル感覚に優れています。これから当社グループが事業構造の転換に向けて様々な取り組みを行っていくに当たっては、最適のトップだと考えております。
2024年度はその新体制のもとで、昨年度から開始した構造改革に向けた施策を継続実施するとともに、次期中期経営計画の策定に取り組みます。2050年「すべり軸受総合メーカー世界No.1のグローバル企業へ」を堅持すべく邁進いたしますので、皆様には今後も引き続きご支援ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
※本記事は、大同メタル工業株式会社「統合報告2024」より転載しております。