ニッコンホールディングス株式会社 グループ、従業員と共に「会社」を通じて「社会」に貢献し、存在価値のある企業を目指していきます
ニッコンホールディングス株式会社
証券コード 9072/東証プライム
代表取締役社長 黒岩 正勝
Q:ニッコングループが担う社会的使命、長期ビジョン、その背景にある社会課題認識についてお聞かせください。
世の中の変化に先んじて、環境問題、人手不足の解決に挑む
「会社のために」は考えなくていい。会社はあくまで手段であって、目的ではない。ニッコングループを手段として、社会に貢献してほしい。これらは、私が折に触れて従業員に話していることです。まずは身近な地域社会のためにできることから始めてほしいと伝え、「長期ビジョン(2030Vision)」にも、事業を通じ社会が抱える課題を解決していくことを盛り込んでいます。
ここ数年を見ても、物流業界はCO2排出などの環境問題、2024年問題に伴う人手不足など、様々な社会課題への対応を迫られています。その一方で、少子高齢化、人手不足は昔日からの課題であり、いかに社会の変化に先んじて行動を起こし、自らを変えていくかが、時代を問わず、企業に求められる姿勢だと認識しています。
当社グループは、1953年、梱包、運輸を事業とする日本梱包運搬社として創立以来、価値ある物流を自らの手で創造することで、事業を発展させてまいりました。2015年には持株会社体制に移行し、グループ会社80社のネットワークにより、梱包・運輸事業を基盤に、倉庫事業をはじめ車両部品のテスト事業から車両整備、通関、不動産、保険代理店業務にまで業容を拡大し、9ヵ国でグローバルに事業を展開しています。
創業70年余りの歴史もまた、絶え間ない変化へのチャレンジの連続でした。祖業である運輸事業を見ても、最初はリヤカーで運び、オート三輪、大型トラックと進化させ、1957年にはオートバイを二段で積載する二段車を日本で初めて導入するなど、貨物の特性や物流に合わせた特殊車両開発に取り組んできました。2018年には、環境への配慮やドライバー不足の課題に対し、大幅な輸送効率化と環境負荷低減が実現する21mダブル連結トラック(21mフルトレーラー)を、物流業界で先駆けて導入するなど、フロンティア精神で成長してきました。
一方でこれからは、少子化で、働く人も減れば購買層も減る。地政学リスクや自然災害など、サプライチェーンの分断リスクも増えていく。ならば、どうビジネスの仕組みを変え、構築するか。常に考え、修正していくことが肝要となります。
その解決手段として、当社グループの強みの一つに、「自前主義」と「手の内管理」があります。
「自前主義」とは、展開する事業に必要なリソースとその周辺機能をグループ各社が自前で保有することです。これはあくまでも手段で、目的はお客様のあらゆる物流ニーズに合わせ一気通貫でサービスを提供する「手の内管理」の実現にあります。能動的かつ柔軟なサービス提供が実現し、突発的な事業環境の変化に際しても、迅速なリカバリーが可能となります。また、サービス全体を手の内管理において自前で実践しているからこそ、ノウハウが蓄積し、例えば、ムダな動線などの改善にもすぐ着手できるなど、先手先手で様々な変革に取り組めるアドバンテージにもつながっています。
無論、「自前主義」のあり方は物流波動(物流量の変動)や時代によっても変わってきます。例えば、「2024年問題」は建設業界においても工期の長期化、コスト増を深刻化させており、倉庫などの建設にも影響がでます。こうした事業環境の変化に応じて、設備計画や事業計画は、都度、見直しをしています。
Q:第13次中期経営計画の進捗と共に、2023年度、事業活動で取り組まれたことについてお聞かせください。
国内事業は徹底して効率化を図り、M&Aで海外事業を加速化
2023年度よりスタートした第13次中期経営計画(中計)においては、「既存事業の効率化と見直し」「成長ドライバーの確立」「ESG経営による企業価値の向上」「人材基盤の確立」という4つの方針を掲げ、成長ドライバーの次期コア事業の重点テーマには、「環境(循環)」「衣食住(三温度帯管理)」「海外(米国/インド)」を掲げています。
今後、人口が減少しマーケットが縮小していく国にあって、国内の既存事業は徹底してムダなコストやプロセスを洗い出して効率化を図り、収益性を向上していく。併せて海外進出を加速し、グローバルでモノの動きを活発化させ企業物流に貢献することが、当社の生き残りをかけたミッションと捉えています。特に海外事業においては、2030年に向けた長期ビジョンでも「世界で勝負できる会社を目指す」ことを謳い、2030年度までに海外売上高比率30%の達成を目標に掲げています。
2023年度に行った取り組みの一つとしては、「既存事業の効率化と見直し」において物流ノウハウを活かし、自社開発したクラウド型の倉庫管理システムに、新たに流通加工・梱包・調達の3つのモジュールを拡充する自社開発システム「CIRRUS(シーラス)」を立ち上げ運用を開始しました。これにより、別々のシステムで管理されていたデータがクラウド環境で一元化され、タブレットなどで在庫管理やその他の深化的なサービスがリアルタイムで把握できるようになりました。追加機能によって、グループ外の荷主企業様にも利用いただける製品となり、このような「見える化」の推進によって、さらなる効率化を見込んでいます。
その他、WMSの全国拠点への拡大・活用、物流ロボットやDXの活用などの原価低減施策を進めています。
「成長ドライバーの確立」の施策の一つとしては、国内外でM&Aを実践しました。注力する海外では、2024年5月、米国コロラド州でキャリアカー輸送を行う「Supreme Auto Transport, LLC.」を連結子会社化しました。当社では、日本でキャリアカー事業を行っており、今後、既存顧客とのシナジーを追求し、グローバルにキャリアカー事業を拡大してまいります。今後も、人口増とGDP世界一の国として底堅い経済成長が望める米国と、成長性の高いインドを重点地区に、シナジー効果が期待できる企業との連携を、「時間を買う」成長戦略として推進してまいります。
重点分野の循環ビジネスにおいても、2023年12月には産業廃棄物・一般ごみの収集運搬業を行う古河環境サービス株式会社を買収しました。今後、当社が事業の拡大を目指す、サーキュレーション・ビジネスの拡大を担う企業の一つに位置づけています。衣食住の分野では、食品分野をはじめ、気候変動を見据えた温度管理が必要な化学品、精密機器、バッテリーなど三温度帯管理が可能な設備などの投資も進めていく計画です。その他、自動車メーカー向けのEV開発支援の需要がさらに伸びていくことが期待されるテスト事業にもリソースを割き、注力してまいります。
Q:中期経営計画におけるESGに関する指針、取り組み、その成果について教えてください。
ムダな動きを省いた「動かない物流」でCO2削減に取り組む
CO2排出量削減に向けては、2030年度の30%減少を目標に、先に挙げた環境配慮車の導入や太陽光パネルの設置など、加速的に取り組みを進めています。国内では、大型トラックのEV車導入も2030年スタートを目指していますが、インフラの整備や積載量、導入コストの価格転嫁など課題は多く残されています。
しかしながら、環境に対応した物流スタイルへと変えていかねばならないのは既定路線であって、一気にCO2排出量を大幅削減できなくとも、「これ以上増やさない」「目標に向かって減らす」取り組みを進めていくことが大切だと考えています。当社でも倉庫やトラックの屋根に太陽光発電用のパネルを設置する、エコドライブ、柔軟な運行管理でムダな走行を省く、フルトレーラーによる混載輸送やモーダルシフトでまとめて大きく運ぶなど、実証実験も含め、様々な施策を進めています。
目指すのは、「動かない物流」、つまり見える化によって、ムダな動きをいかに省いた物流サービスを展開するか。こうした取り組みに柔軟、迅速に着手できるのも、「自前主義」を貫いているからこそです。一つ一つの効果は小さくとも、グループ80社を挙げて取り組むことで、物流企業としての社会的責任を果たしてまいります。
Q:社長直轄の「HR統括部」を発足させ、推進する人的資本経営の取り組みについてお聞かせください。
意欲ある人が活躍できる多種多様な「機会」を提供する
既存の物流から新たな物流への変革の時期にあって、より高度な物流を担う人材の育成は喫緊の課題です。アウトソースできないコアな業務において、いかに「自前」の人材に活躍してもらうか。人材の育成に関しても、「自前主義」を方針としています。
積極的に自己啓発に取り組んでほしいと、様々な教育・研修プログラム、「海外トレーニー制度」、次世代経営者の育成を目的とした「ニッコン経営スクール」ほか、グループ会社ごとにも様々な施策を進めています。
無論、M&Aと同じで、外部から優秀な即戦力を獲得することも有効ですが、個人の適性や希望も見極めながら、社内で育成し、もしやりたいことがあれば、新たな学びや活躍の場を提供する。女性、男性問わず、努力したいと考える人が活躍できるように、全従業員に多種多様な「機会」を提供できるのも、数多くの事業をグループで展開する当社の特徴です。
また、女性活躍を推進するため、2025年に全従業員に占める女性の割合を26.5%にする数値目標を定めています。男性社会のイメージが強かった物流業界でも、最近では、フォークリフトのオペレーターなどは女性のほうが丁寧で技術もある方も増えています。私自身の考えとしては、「社会に貢献したい」という意識を持っている人ならば、性別も年齢も国籍も関係なく、割合も気にしていません。当社では外国人や高齢者の方も多く活躍しています。
私自身、従業員の昇級面接や採用時の最終面接などにも携わり、積極的に対話の機会を持つようにしています。その際に必ず「何か質問はありますか」と尋ねます。時代が大きく変化し、会社としても変容を迫られる中、従業員には問題意識や好奇心を持っていてほしい。質問を受けることで、私自身や会社のあり方を客観的に振り返ることができる貴重な場にもなっています。
Q:最後にステークホルダーの皆さまにメッセージをお願いします。
数字の裏にある「中身」を大事に企業価値向上を目指す
当社は業界内でも高水準の営業利益率を擁していますが、いたずらに高い利益を追い求めているのではなく、社会への貢献の後に利益がついてくる。そこの両立、バランスを取るのが事業活動を率いる経営トップとしての責務と捉えています。企業価値向上に向けても、定量的な数値を達成するだけでなく、環境への配慮や社員の働き方など、定性的な“中身”こそ大切です。ぜひステークホルダーの皆さまには、ニッコングループは本当に社会に貢献しているか、社会にとって存在価値があるのかをしっかり見て判断いただき、ご意見をいただければと思います。
そのためにも株主や投資家をはじめ多くのステークホルダーの皆さまと積極的に対話の機会を持てればと願っています。ニッコンホールディングスの今後にご期待いただき、ぜひご指導、ご支援を賜れれば幸いです。
※本記事は、ニッコンホールディングス株式会社「統合報告書2024」より転載しております。