90年以上にわたる地域との結びつきを大切に、 地域社会の持続的成長を牽引する 「価値共創カンパニー」を目指す —— 株式会社岩手銀行 代表取締役頭取 岩山 徹
株式会社岩手銀行
証券コード 8345/東証プライム
代表取締役頭取 岩山 徹
地域活性化への覚悟を示した、岩手銀行の地域価値共創目標
当行では、主要な営業基盤である岩手県において、融資シェア46%、預金シェア50%(2024年3月末時点)、メインバンク率43%(信用調査機関による調査)と地域No.1のシェアを確保しています。
2023年4月にスタートした10年間の長期ビジョンにおいて「地域価値共創目標」を設定し、「県内総生産(実質)の対前年度増加率が国の経済成長率と同等以上を目指す」ことと、「岩手県の温室効果ガス削減へ貢献する」という2つの目標を掲げました。
地域の持続性を維持するために特に重視しているのが、「DX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性向上」と「GX(グリーントランスフォーメーション)推進による地域の脱炭素化」です。DXとGXを地域振興の両輪とする考えは、多くの自治体と共通しており、官民連携体制のもとで各種施策を実行しています。岩手県とは、2008年に「地域産業の振興」「観光宣伝」「環境や社会貢献活動」の分野で協定を締結し、近年では「岩手県県有林J-クレジット」の販売仲介を行い、累計2,500トン以上の実績を挙げるなど国内のGXをリードする気概を持って活動しています。2016年以降は、商工・観光、中小企業の経営支援の分野を中心に若手職員の人事交流を行い、帰任後を含めて職員同士の連携が深まることで、様々な相乗効果が生まれています。
当行の特長、強みとして挙げられるのが、充実した自己資本と地域ナンバー1のネットワークです。直近の連結自己資本比率は11%台と地方銀行の中では相対的に高く、預金および融資の両面でお客さまに安心してお取引いただける環境を提供しており、このことは地域の信用秩序の安定に寄与していると考えています。他方、自己資本の活用は重要な経営課題の一つでもあります。資本効率性を高めながら、「いかに地域の中小事業者にリスクマネーを供給していくか」「豊富なネットワークと情報量を活かして、いかに地域の成長力を引き出すか」ということが現在進行中の「第21次中期経営計画」における最重要テーマです。
「黒子」から地域の「先導」役へ:震災後の当行の役割
近年、地域における当行の役割が、それまでのお取引先を支える「黒子」役から、前面に立って地域経済を「先導」する側へと変わっています。そのきっかけは、2011年に発生した東日本大震災です。当時、総合企画部に在籍し、災害対策本部の指揮の一端を担うことになった私は、岩手にとどまらず日本全体へ波及する国難が生じたと強い衝撃を受けました。同時に、充実した自己資本を有する当行が復旧・復興に向けて果たすべき役割と、地域のリーディングバンクとしての使命について思いを巡らせました。
当行でも、沿岸地域の8店舗が津波で全半壊するなど、大きな被害を受ける中で、震災直後から各営業店が自主的にお客さまの安全確保や職員の安否確認に奔走しました。その際、有効に機能したのが『緊急時対応マニュアル』でした。このマニュアルには、震災の前年に発生したチリ沖地震での津波警報を踏まえて、地震による津波を想定したシナリオを追加していたことと、東日本大震災発生の前月に緊急時対応訓練を行っていたことで、連絡手段が途切れた状況でも「人命最優先」の意識が徹底され、人的被害を最小限にとどめることができました。有事における金融機能の継続との関連では、通帳や印鑑がなくても対応する『便宜扱い』の支払いを速やかに行い、被災された方々の生活不安の低減に努めました。支店長を中心に現場職員が臨機応変に判断し、安全確保と業務継続を同時並行で進めるなど、「現場力」を発揮できたことは、当行が地域社会との絆を大切にしてきた証しではないかと考えています。2024年度は、地区担当役員が県内各地での会社説明会や講演会等の機会を通じ、BCP(業務継続計画)の重要性について啓蒙活動を行っており、このような企業行動が地域の強靭性向上につながることを期待します。
ファイナンスと非金融領域の融合による事業拡大
震災の経験を通じて、「なりわい」の再生と創生を促進するためには、ファイナンス手法の多様化と資金繰り支援や事業再生支援以外の非金融領域のソリューション機能を持つ必要があると痛感し以後、グループ機能の拡充に取り組んできました。ファイナンス分野では2015年に起業・創業のプラットフォームづくりを目的としてベンチャーキャピタル会社を設立し、非金融分野では、2020年にコンサルティング機能強化を目的とした専業子会社および、販路拡大と地域活性化事業を担う地域商社を設立しました。従来からのリース会社、カード会社2社に、CVC(コーポ・レート・ベンチャーキャピタル)1社を加え、現在では1行7社体制で「総合金融カンパニー」としての活動を深化させています。
ベンチャーキャピタル会社は、CVCを含めて2社が岩手県に関連する事業者や国内のスタートアップ企業を対象とした投資活動を行っています。既存投資先が上場を果たす事例も増加しており、投資ノウハウの蓄積にもつながっています。
コンサルティング分野では、事業承継・M&Aの支援に取り組み、人材紹介や経営支援など、当初の想定を上回るご相談をいただいています。 コロナ禍を契機とした事業再構築支援では、県 内案件の半数以上を当行が取り扱い、最近では スイミングスクール運営業者の保育事業進出を 後押しするなどの事例がありました。
いわゆる「他業」分野では、地域商社が県内 市町村との連携体制のもとで、中間支援組織の 立ち上げ支援や、異業種企業や高等教育機関との協業体制による地域開発プロジェクトに取り組んでいます。
岩手県内各エリアの役割が 明確化されつつある中、 地域の有望なポテンシャルに着目
当行では、主要な営業地域である岩手県に加え、北は青森県の八戸、南は宮城県の仙台までを 「両翼エリア」として岩手県に次ぐ重要地域と捉えています。岩手県は総人口116万人、県内総生産4.6兆円で、経済圏は主に内陸部、沿岸部に分かれ、その面積は北海道に次いで全国第2位です。内陸部の盆地と沿岸部以外は山地や丘陵地が多く、人口のおよそ7割強は内陸部の北上盆地に集中しています。
岩手県は自然環境にも恵まれ、農業・漁業・畜産業などの一次産業が盛んです。食料自給率 100%以上を維持する日本でも数少ない県で、食料の供給拠点としての存在感も高まっています。 2022年、英国の名門校が全寮制のインターナショナルスクールを県北部の安比高原に開校し、 自然豊かな環境のもとで世界最高水準の教育プログラムを提供しています。このように恵まれた 自然環境の中で行われる国際色豊かな教育への取り組みも、岩手固有の特長を活かした新たな 可能性と捉えています。
経済の主力である製造業は、自動車産業や半導体関連産業が活況を呈しており、県南エリア の製造製品出荷額は県全体の7割を占めています。県南部から宮城県北部のエリアでは、1990年代初頭から大手自動車関連メーカーの集積が進んでいましたが、近年は半導体関連企業の大型投資計画が進行中です。ほかにも自動制御機器大手によるサプライヤー拠点の整備計画等もあり、県内経済への波及効果が期待されています。
主要産業の一つである観光業は、ニューヨーク・ タイムズ紙による「2023年に行くべき52カ所」に盛岡市が選ばれた効果などにより、国内外の観光客の増加で盛り上がりを見せています。地域の 代表的な祭りのひとつ「盛岡さんさ踊り」は、113 万人の人出で賑わい、当行が保有する国指定の重要文化財「岩手銀行赤レンガ館」には年間で過去最高の19万人が訪れました。
「長期ビジョン」の達成に向けて 順調に成果を上げた2023年度
当行は2023年3月に「長期ビジョン」および「第21次中期経営計画(以下「第21次中計」といいます。)」を策定しました。第21次中計は、長期目標である「連結当期純利益100億円」、「連結ROE5%以上」の到達に向けた第1フェーズとしての位置づけです。充実した自己資本を活用しながら、「金融サービス領域の深化」と「新たな事業領域への挑戦」を進めており、「ソーシャルソリューションビジネスの高度化」「地域を支える盤石な経営基盤」「多様な人材が働きがいを持ち続ける組織づくり」という3つの基本方針を掲げ実効性のある各種施策を展開しています。
2023年度においては、ストラクチャードファイナンスや本業支援、預り資産など貸出・役務という対顧客ビジネスの分野で顕著な回復傾向が見られ、基礎的な収益力であるコア業務純益は84 億円と、マイナス金利導入以降では最高水準となりました。また、中期経営計画の主要計数目標は 計画値をすべて上回っており、10年後の長期ビジョンの達成に向けた第一歩として、良いスタートを切ることができたと考えています。
「金利ある世界」を見据えて 収益性のさらなる向上を目指す
足元では、日銀の金融政策の見直しに伴い、本年4月に17年ぶりとなる預金金利の引き上げを行いました。今後、金利水準が正常化に向かうことにより、地域金融機関の本来業務である金融仲介機能の重要性が増していくと考えます。
2024年度の事業計画においては、「金利ある世界」の復活がもたらす変化をチャンスと捉え、 金利のない環境下で磨いてきたコンサルティングによるフィービジネスや非金融領域の新規事業と伝統的な金融仲介機能を連動させて、トップライン向上と収益性を高めることが重要施策となります。
その基本となる企業行動は、お客さまの事業内容を理解したうえで、経営課題や成長性をともに共有し、これまで培ってきた経験や多彩なグループ機能を存分に活かして、お客さまのニーズに応えていくことに他なりません。
内部制度改革に関しては、営業店の業績表彰制度を廃止して、地域特性に応じた営業店ごと の業務計画を策定する方針に変更しました。各営業店が地域の課題に向き合える環境を整えることで、お客さまとの対話の時間を確保し、職員のやる気をさらに向上させる効果を生むと考えました。この改革が職員の行動変容を促し、ゆくゆくは長年の課題である地元中小企業向け貸出の増強と預貸率の向上につながっていくことを期待しています。
企業価値の向上と持続可能性を高める施策として、事業領域の拡大を志向しながら組織改革を目指すSX(サステナビリティトランスフォーメーション)を推進しています。2023年度は、フロンティア事業室を中心として再生可能エネルギー関連事業(太陽光発電・供給事業)に参入したほか、スタートアップとの協業促進の観点からCVCを設立しました。行内のインキュベーションプログラムの一環として開催したピッチイベントでは、農業や観光、データビジネスなどに関する新規事業に関する提案が行われました。
今後、実証実験などを経て事業化への道筋を探っていく予定です。 内部事務改革としては、より生産性の高い経営体質への転換を進めるべく、広域営業体制への移行と内部事務の省力化・省人化とともに、生成AIの導入による生産性改革を進めていきます。
職員の意欲と実力を最大限に引き出し、グループ全体でスキルを底上げ
人的資本経営の推進に向けて、2024年度から、新たな人事制度と研修制度をスタートしました。 新制度は人事ポリシーに基づくもので、地域と当行の未来を見据えた「人と組織のあるべき姿」を起点として設計しています。第21次中計の完遂と長期ビジョンの実現のためには、新制度の適正な運用と早期定着によって、職員一人ひとりの意欲と実力を最大限に引き出すことが求められます。制度が有効に機能するためには、各部店でマネジメントを担う職員が役割を理解し、行動を実践することが重要であり、現在は、このマネジメント層への研修を優先させています。グループ全体で職員のスキルアップに向けた投資を増加させるほか、新制度のもとで全職員がプロフェッショナルを目指し、やる気につながる複線型の自律的キャリア形成を促しながら、職員個々人の成長を支援していきます。
お客さまから「親しみ、愛情、信頼、感謝」をいただくことは、仕事をするうえで大きな喜びであり、それを実現した成功体験は、仕事に対するやる気を高め、自己研鑽への意欲にもつながります。 これは私自身が過去に経験したことでもあり、職員が成功体験を一つでも多く得られる環境づくりに努めていく考えです。
カーボンニュートラルに向けた施策を着実に実行
環境問題への対応に関しては、お客さま向けにGX関連ビジネスを推進する一方で、当行グ ループのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを強化しています。2022年に設置したサステナビリティ推進委員会のもとで、サステナビリティ方針や当行グループGHG(温室効果ガス)の削減方針、気候変動リスク分析、サステナブルファイナンスへの取り組み方針、地域の脱炭素支援策などに則った具体的な施策を協議し、実行に移しています。
グループGHG排出量の削減では、Scope1およびScope2において2030年度までに「ネットゼロ」を目指しています。2024年3月末時点で 63%(2013年度比)削減できているほか、サステナブルファイナンス実行累計額は目標5,000億円に対して1,740億円(進捗率34%)と順調に推移しています。
地域のフロントランナーとして脱炭素を先導する当行としては、これらの目標を前倒しで達成していく考えです。
社外の声に応えつつ、 コーポレート・ガバナンスをさらに強化
ガバナンスを強化する上で取締役会の実効性を高めることは最重要の課題です。2024年の役員改選を機に取締役の人数と構成を見直した結果、社外役員比率50%、女性役員比率16%となりました。また、外部機関による実効性評価に基づき、取締役会の運営の改善に鋭意取り組んでいるほか、社外取締役の方々から独自の視点や豊富な知見に基づく意見をいただき、取締役会での議論が活性化していると考えています。
ステークホルダーとのエンゲージメントに関しては、従来からの機関投資家や県内外取引先との対話の実施に加えて、取引先に対して対話型アンケートを実施して当行への要望などを広く聞いています。2023年度はオンライン形式で全国の個人投資家向け会社説明会を実施したほか、先ごろから海外投資家に向け、決算短信や会社説明会における説明要旨の英訳配信も開始しています。機関投資家からのワンオンワンミーティングの要望にも積極的に応じており、これらの対話で承った意見は取締役会メンバーで共有し、経営に反映させています。
今後も株主や機関投資家、個人投資家、海外 投資家の皆さまとの対話を積極的に実施し、当 行グループの取り組みに対する理解を深めてい ただく努力を重ねていきます。
「価値共創カンパニー」への変革をさらに推進
私は、当行グループが地域のリーディングカンパニーとして、地域社会の発展に貢献し続けるとともに、職員とその家族が経済的に安定して生活し、当行グループに勤務していることに誇りを持ち、ステークホルダーの皆さまや市場に評価され、地元の若い人たちが最も入社したい企業グループであり続けたいと思っています。
グループ職員には、株主やお取引先、地域の皆さまへの感謝はもちろんのこと、当行の経営基盤を築き上げた諸先輩、日々ともに汗を流す同僚への感謝の気持ちを常に抱きながら、各自が担うべき役割や目標達成に愚直に取り組んでほしいと伝えています。そして、その一つ一つの積み重ねが「価値共創カンパニー」への変革を進めるとともに、長期的に目指す姿である「地域の皆さまとともに共通価値を創造し、豊かで活力ある、そしてサステナブルな地域社会を実現する」ことにつながっていくと信じています。
当行グループは地域に不可欠な存在となるべく、新たな課題に際して失敗を恐れることなく挑戦し、地域の未来を地域の皆さまとともに創っていく所存です。ステークホルダーの皆さまにおかれましては、引き続きご理解、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
※本記事は、株式会社岩手銀行「統合報告書2024」より転載しております。
