20年間の回顧と金融経済教育の重要性(最終回)

このコラムも最終回となり、様々な思いが去来しますが、初回の執筆をお願いした濱田康行先生(北海道大学)から直近の森川公隆先生(岡山商科大学)に至るまで、70名近い専門家の皆さまにご執筆いただきました。全てのお名前をここで挙げることは叶いませんが、この場を借りて深く御礼申し上げます。
20年間の執筆者からの教訓
「賢明なる投資家とは」を語っていただいた専門家のメッセージを要約すると、次の10の教訓が浮かび上がります。
①『失敗は成功のもと!』
「投資」とはリスクを伴う。しかし、失敗を恐れず、原因を様々な角度から分析し、二度と同じ過ちを繰り返さなければ、成功に近づく。
②『持たざるリスクも大きい!』
投資経験のない高名な教授からも、「何故、コラムを書いた時に《ナスダック100》を買わなかったのか」と自省が寄せられ、機会損失の大きさが教訓に。
③『日本から海外へ、時間も分散!』
分散投資の重要性は、多くの論者が強調。特に新興成長国への視線や、投資時期の分散は必須との意見が集中。
④『大企業から中堅・新興企業へ!』
乱高下する大企業株よりも、中長期的には中堅・新興企業こそが成長の源泉であるとの教訓。
⑤『真のIRは企業の自主的開示にあり!』
執筆者の中には日本IR学会に所属する方も多く、企業は「法定開示」(ディスクロージャー)にとどまらず、「自主的な情報開示」(IR)こそが、より重要であるとの教訓。
⑥『企業価値は株価だけでは測れない!』
「企業価値」を向上させることが大事と言いつつ、株価が上がれば企業価値が向上したと誤解する論者も多い中、真の企業価値は「非財務情報」の中にもあるとの教訓。
⑦『女性の視点で経営を語る!』
全執筆者の三分の一は、会計士、学者、コンサル、FPなどの女性執筆者でしたが、取締役や執行役員として、女性が経営に関わる重要性が改めて教訓に。
⑧『医学博士による科学的アプローチ!』
例外的でしたが、二回ほど医学博士の立場から「賢明なる投資家とは」を執筆いただき、テクノロジーの大きな変化やベンチャー企業の挑戦を恐れない姿勢が、投資家にも求められるとの教訓。
⑨『ESGは古くて新しいテーマ!』
「投資」には古くて新しいテーマが存在しますが、環境問題、人財育成、企業倫理等の経営課題が「統合報告書」に集約され、ESG投資が確立した視点として定着。
⑩『金融経済教育が日本を救う!』
近年、詐欺等の事件の頻発もあり、そうしたトラブルに巻き込まれないために、本格的な「金融経済教育の必要性」を説く執筆者が多く、「長期・積立・分散」が最重要の教訓とされた。
ここまで、「賢明なる投資家とは」を執筆してきた専門家からの教訓をまとめてきましたが、後半で特に紹介しておきたいのが、金融経済教育推進機構(JFLEC)の安藤聡理事長の岡山でのご講演内容と、井尻昭夫学長を筆頭に、講演を聴講した岡山商科大学生や附属高校生が、どのような感想を持ったかについてです。
ご講演は、大学が創立六十周年を迎え、その記念事業の一環として、去る2025年10月21日に田中康秀副学長の挨拶の後、森川公隆教授の司会進行による「金融リテラシー講座」の講義を兼ねた記念講演会で行われました。
岡山商科大学 創立六十周年記念講演テーマ
~金融経済教育の重要性と資産形成~
安藤聡理事長は、ご講演に際して全80頁に及ぶパワーポイント資料を用い、(1)金融経済教育の重要性とJ-FLECが果たす役割、(2)中立・公正な教育の担い手J-FLEC認定アドバイザー、(3)J-FLECの事業概要、(4)J-FLECの今後の展望をバランスよく解説された上で、(5)大学生向けデモ授業で締め括られました。
講演資料は本コラムの下記二次元コードからご参照いただけますが、冒頭で、我が国の金融経済教育が十分ではなく、「金融経済教育に対するニーズ」は非常に高いと強調されました。
そのニーズに応えるべく、特定の金融商品への勧誘や誘導を一切行わない中立・公正な立場から、官民一体となって金融経済教育を推進する唯一の公的機関であるJ-FLECの存在意義と、知名度向上にも意欲を示されました。
誌面の関係から全てを要約できませんが、大学生や高校生から最も関心を集めたのが、(5)の大学生向けデモ授業の部分でした。
「金融リテラシーとは何か」から始め、「職業選択の重要性」や「ライフプランニングの大切さ」を強調し、大学生や社会人の「家計管理」を詳しく述べ、「奨学金の返済」の各種手続きまで触れていただき、学生たちにとって、極めて実践的な学びとなりました。
最後に「学生の皆さんへのメッセージ」として、『成功も失敗も必ずあるが、学生の今しか出来ない経験を通じて、金融や資産形成のことを考えて欲しい。興味のアンテナを高く、様々なことに挑戦して欲しいが、理解と納得の上で取り組むか否かで自ずと結果が違う。これから社会人となる前に、学びの機会を大事にし、自分自身のことと同時に、地域経済にも是非貢献して欲しい』と、力強いエールが送られました。
講演資料「金融経済教育の重要性と資産形成」
以上が安藤聡理事長のご講演の要旨ですが、聴講生からの感想の一部を紹介しておきます。
~聴講した大学生の感想~
新校舎イベントホールで安藤 聡理事長の講義を聴講する学生
①「金融は難しくないかも!」
「金融」と聞くと難しいと思い込んでいたが、意外と理解できる部分もあり、勉強してみたくなった。大学生の今だからこそ、知っておくべきことが沢山あると気づかされた。先入観をなくし、将来の自分の生活に関わる重要な課題として捉え直す良い契機をいただいた。
②「今から長期的資産形成を始めたい!」
早いうちからライフプランを立て、将来のために貯めたお金を複利の効果によって、長期的な資産形成に繋がるようにしようと思った。そのためにも安藤さんがおっしゃっていた基本の繰り返しが大事だという言葉が勉強になった。同時に蓄財を目的とせず、何に使うかとの目的を忘れず、トラブルに引っ掛からないよう、金融リテラシーを高めたい。
③「奨学金やローンの返済責任を痛感!」
高校生から大学生となった今、学費・奨学金の返済問題に直面し、お金を「借りる責任」や「返済する計画」を考える良い契機となった。実社会に出る前に、金融経済の知識を身に付けておくことほど安心な事はないと、安藤さんのご講演を聴いてお金のことに真剣に向き合おうと思った。
④「金融知識が人生の選択肢を拡げる!」
金融経済教育が単なる知識の獲得でなく、「生き方を支える教養」であり、金融リテラシーのある人は「人生の選択肢が広がる」という言葉が非常に印象的であった。今後、金融リテラシー講座で授業を受ける際に、「今後の生き方を学ぶ」という心構えで臨みたい。
⑤「初めてJ-FLECを知り、心強い!」
J-FLECが、企業や金融機関の宣伝的な教育ではない専門的かつ実践的な活動を行って、私たちの立場に立って正しい情報を伝えてくれる機関だと初めて知り、恵まれた環境で学べるというのは大変心強い公的機関だと思った。
以上、全ての感想文をご紹介できないことが残念ですが、学生たちには「金融経済教育の重要性」が確実に伝わったと実感できるものでした。金融リテラシーを武器に、自らの将来を切り拓き、地域経済を明るく照らしてくれることを願ってやみません。
※この記事は2026年1月25日発行のジャパニーズインベスター128号に掲載されたものです。
岡山商科大学 社会総合研究所 客員教授
金融経済教育推進機構(J-FLEC)認定アドバイザー
近藤 一仁
1971年野村総合研究所入社。1985年米NY駐在、シニアアナリスト。1991年野村総研ドイツ駐在、拠点長、1994年いちよし経済研究所に転籍、常務・専務研究理事・社長・理事長を歴任。この間、同志社大学、立命館大学、文京学院大学等の教壇に立つ。2007年宝印刷入社。常務執行役員、IR企画部、D&IR総合研究所を歴任し、この間も立命館大学客員教授、早稲田大学非常勤講師等を兼任。2014年岡山商科大学経営学部教授、2017年IR戦略研究所代表(現任)。IR関連著作は多く、処女作である『IR入門』(東洋経済新報社刊)から、最近共著は『私とIR〜IRの今までと、これから〜』(近藤一仁、平田茂邦、長井進 共著、プログレス刊)
