第67回 金融経済教育の課題とJ-FLECの役割

我が国における金融経済教育の現状
現代社会では、誰しもがライフステージの各場面において、貯蓄・資産運用、住宅ローン、保険加入等、様々な金融商品を利用し、金融との関わりを持つことは避けられません。そのため、社会人として経済的に自立し、より良い暮らしを送ることが出来るよう、金融に関する知識・判断力を持って生活する力、所謂「金融リテラシー」を身に付けることが重要となっています。
しかしながら、日本の金融経済教育は遅れているとよく言われています。2022年に金融広報中央委員会(事務局:日本銀行)が行った金融リテラシー調査の結果では、「金融経済教育を受けたと認識している人の割合は全体のわずか7%」、「自分の金融知識に自信があると答えた人の割合も10%ほど」と低迷しており、金融知識・判断力に関する正誤問題の地域別正答率にも、ばらつきが見られています。こうした中、「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」が2024年4月に設立され、官民一体で設立された金融庁所管の認可法人として、全世代の一人ひとりがより自立的に安心で豊かな生活を実現できるよう活動を開始しました。
J-FLECの事業概要
J-FLECの主要事業は2つの柱から成り立っています。第一の柱は、講師派遣/イベント・セミナー事業です。学校や企業、公民館・図書館等の地域コミュニティにおいて、無料の出張授業を行っています。講義内容は、年齢層別に最低限身に付けるべき金融リテラシーを体系的に整理した「金融リテラシー・マップ」に沿っており、より良い生活を実現するための基礎知識を学べるものとなっています。また、地方自治体や学校、金融機関といった多様な関係者と連携して、全国津々浦々でお金に関する「学びの場」を提供しています。
第二の柱は、個人の方を対象にした個別相談事業です。これまでお金に関する相談をしたことが無い方でも、お金に関する悩みを気軽に相談できるよう、「J-FLECはじめてのマネープラン」を始めました。一般的な事柄から少し踏み込んだ内容まで初めて相談される方向けの「対面・オンラインおよび電話での無料相談体験」と、より自分事として詳細なアドバイスを受けたい方向けの「有料アドバイスを受ける際に利用できる割引クーポン配布」の2種類のサービスを行っています。どちらも受けられた方々の満足度は高く、J-FLEC認定アドバイザーの提供する中立・公正なアドバイスは、国民の金融リテラシー向上に資すると考えています。
これら2つの主要事業を支える教育や相談の担い手を充実するために、「J-FLEC認定アドバイザー制度」を創設し、有効な資格と一定の実務経験を有する個人を、中立・公正な「J-FLEC認定アドバイザー」として認定・公表しています。J-FLECの事業内容紹介動画も公表しておりますので、是非ご覧ください。
"J-FLEC(金融経済教育推進機構)事業紹介動画"
J-FLEC設立後、これら取り組みを進めてきたことで、個人が安心してお金に関する学びを得て、悩みを相談でき、継続的に良質なアドバイスを受けられる環境を整えてきました。この取り組みを継続・拡充していくことで、政府の掲げた目標である「2028年度末を目途に金融経済教育を受けたと認識している人の割合を米国並みの20%となることを目指す」の達成に向け、J-FLECが一翼を担い、また多くのステークホルダーと連携していきます。
資産形成を考えていく際のポイント
金融リテラシーを高め、より良い生活を実現していくためには、単に知識を習得するにとどまらず、その知識を適切な判断や行動に結びつけることが重要です。最近はSNSなどを中心に金融や経済に関する様々な情報が溢れており、資産形成に関しても多くの手法を簡単に試せるようになっています。その中には適切とは言えないものも多く含まれているのが実情ですので、正しい情報を見極めるための判断力を身に付けるために「金融に関する基礎知識」を十分に学んでいただきたいと考えています。
特に、「家計管理⇨生活設計⇨金融商品の選択、金融経済の理解」のサイクルを通じて、総合的に金融リテラシーを高めるとともに、個人としての学びだけではカバーしきれないテーマについては「外部知見の活用」としてプロのアドバイスをうまく活用してください。
「お金に関する漠然とした不安」を誰に相談したらいいかわからず一人で悩んでいる方も多いです。アドバイスを受けて、不安が解消され将来の見通しが明るくなり、個人の金融行動が変わっていくことで、金融面の幸福(いわゆるファイナンシャル・ウェルビーイング)の実現に近づきます。
また、実際に資産形成を始める際には、以下の点に留意してください。
・日々の生活資金ではなく『余裕資金を活用すること』
・投資の王道と言われる『長期・積立・分散投資の意識を持つこと』
・商品選択の際は『安全性・収益性・流動性を考慮すること』
当たり前ですが、投資は自己責任です。株価・為替などは様々な環境変化を受けて、常に変化をしています。最近では諸外国の影響を受けて株式市場は乱高下を繰り返していますが、短期的に下がっていたとしても、10年・20年単位の長期目線で見ると総じて世界の株価は上昇傾向です。また、下がる銘柄があれば、逆に上がる銘柄もあります。専門的知識を有しているプロの運用者でも個別銘柄の株価がどのように動くのか全てを見通すことは至難の業です。そのため、ご自身のリスク許容度に応じた運用手法・銘柄選択により、将来的に目標とする資産・金額に到達できるよう長期目線での運用を心掛けることが重要となります。
健康寿命と資産寿命のバランス
長い人生において、お金に関する悩みは幅広く、家計管理や資産形成、保険、ローン、税金、年金など多岐にわたります。また、ライフステージによっても変化します。人生100年時代を豊かに過ごすためには、心身ともに健康である「健康寿命」と、老後の生活を維持できるための「資産寿命」の両方を延ばすことが理想です。お金に関する学びの機会は、若い方に限った話ではなく、退職やセカンドライフを迎える、あるいは迎えた方についても、改めて学び直す機会を持っていただきたいと考えています。
最後に
J-FLECでは、昨今の金融トラブル・投資詐欺防止に関する教育は勿論のこと、より楽しく充実した人生を謳歌するための「お金に関する様々な学びの機会」を提供しています。実際に活動を始めてみて、あらためて金融経済教育の不足が日本における大きな社会的課題のひとつであり、また金融経済教育の推進に対する小学生からシニア層に至る全世代からのニーズが極めて高いことを実感しました。そして、J-FLECが提供する「学びの機会」を利用していただいた方々のアンケートを見ると高い評価をいただいており、理事長としてJ-FLECの価値に十分な手応えを感じています。
特に12か月間フルに稼働する2025年度は積極的な広報活動によりJ-FLECの知名度を向上しつつ、役職員一丸となった能動的なマーケティングを展開して全国津々浦々に金融経済教育を届けて参る所存です。誰一人取り残すことなく教育機会を提供し、皆さんの意識・行動変容にまで繋げていくことを目標に邁進していきますので、是非今後ともJ-FLECの活動にご期待ください。
※この記事は2025年7月25日発行のジャパニーズインベスター126号に掲載されたものです。
金融経済教育推進機構(J-FLEC)理事長
安藤 聡
1977 年慶應義塾大学法学部卒。東京銀行(現三菱UFJ 銀行)へ入行。2007 年三菱東京UFJ 銀行を退職し、オムロン入社。2011年執行役員経営IR 室長、2015年執行役員常務グローバルIR・コーポレートコミュニケーション本部長を経て、2017 年6 月取締役に就任。2023 年6 月オムロンを退社し、2024 年4 月より金融経済教育推進機構(J-FLEC)理事長に就任。主な公的活動として、2014 年経済産業省主催研究会「伊藤レポート」委員、2017 年「伊藤レポート2.0」委員、「価値協創ガイダンス」策定ワーキンググループに参画。2022 ~ 2024 年には東京証券取引所主催「市場区分見直しに関するフォローアップ会議」メンバーを務める。
