スクワット 10 回で地下鉄やバスが無料 !? 深刻なメキシコ人の肥満
メキシコ・メキシコシティ
今年1月末からメキシコシティでは、市内15カ所、30基の専用機械上で午前8時から午後1時の間に、スクワットを10回すれば、地下鉄やバスの乗車券がもらえるようになった。市民の肥満を食い止めたい市保健局の苦肉の策だ。
メキシコシティだけでなく、肥満はメキシコ全土の問題だ。国連食糧農業機関の調査によると、世界一の肥満国はもはやアメリカではなく、メキシコなのである。実に大人の7割、子供の4割が肥満と言われている。治安の悪さゆえ、外で運動をすることもままならないというメキシコ独特の背景が太りすぎに拍車をかけている。
肥満に悩むメキシコ人の死因第一位は糖尿病。経済協力開発機構に加盟する34カ国のうち、糖尿病の発症率が最も高いのはメキシコである。2011年にはGDPの1.2%が糖尿病をはじめ肥満を原因とする病気の治療費として使われた。
肥満問題を象徴するかのように、世界で最も太っている人、メキシコ人のマヌエル・ウリベさんが2014年5月に48歳で亡くなった。最重時の体重は597㎏。自力で動くことができず、生前に結婚式を挙げるためにクレーンで運び出されて会場まで移動したそうだ。
メキシコ政府は高カロリー食品と炭酸飲料への課税、その類の商品のテレビや映画館でのコマーシャルへの規制、学校給食からの糖分や脂質のカットなどを国民の肥満対策としてすでに講じている。平日は午後2時半~午後7時半、週末は午前7時~午後7時半の時間帯、地上波とケーブルテレビからは清涼飲料水や菓子などのCMの4割がなくなった。
アメリカの悪しき影響を受け、今やファーストフード中心となっているメキシコの食生活。ファーストフードのお供はもちろんコカ・コーラだ。メキシコ産コーラは甘味料ではなく砂糖を使っているので世界一おいしいと言われている。一人当たりのコカ・コーラ消費量は、こちらもアメリカを上回り、メキシコが世界一である。
2010年にメキシコ料理は食文化として初めて世界無形文化遺産となった。伝統的な食生活を続けていれば、肥満とも糖尿病とも無縁だったはずだ。穀物と野菜、そして唐辛子を多くとるメキシコ料理は、世界遺産になるほど本来は健康的で優れている。特に唐辛子に含まれるカプサイシンは、脂肪の燃焼を促進し、蓄積を防ぐ効果がある。唐辛子の原産国が肥満体だらけとはなんとも皮肉なことだ。
取材・文/片岡 恭子 編集協力/堀内 章子