女性活躍
文/木田 知廣
※この記事は2024年7月25日発行のジャパニーズインベスター122号に掲載されたものです。
オリンピック本来の姿
パリオリンピックの楽しみの一つといえば、新競技です。ブレイキンと呼ばれるダンス競技は日本人の金メダル候補もいて必見でしょう。……なんて言いつつ、実は筆者はもともとはこの手の競技に違和感を覚えていたことを告白します。たとえば東京オリンピックで新競技として採用されたスケートボード。正直なところ、「あの、ちょいワルそうな若者がやってるの?オリンピック競技なのか?」と心中、眉をひそめていました。なのでテレビの中継もシラけた気分で眺めていたのですが、実際の様子を見てガラッと認識を変えました。 何より印象的だったのが、スポーツを楽しもう」という選手の姿勢。最高のパフォーマンスに挑戦する姿や、たとえライバルでも素晴らしい演技を讃える姿勢に感銘を受けました。感動的だったのは、岡本碧優選手の試合後です。岡本選手は当時世界ランキングでも上位の金メダル候補。しかし、高難度の技に挑戦し失敗してしまいます。結果は4位でメダルを手にすることはできませんでした。そんな失意の中にある岡本選手に、競技後にライバルたちが駆け寄ります。彼女を肩車して挑戦を讃える姿は、「スポーツって本来こういうものだよな」と感動しました。
一方で、他の競技の中には、金メダルを取らないと人生が終わってしまうかのような悲壮感が漂うものもあります。他国選手の中にはアンフェアな行為も見受けられて、そこには美しいスポーツの理念はなく、過酷な生存競争だけが透けて見えます。
オリンピックはもともと古代ギリシャの神事として始まりました。それがなぜ生存を賭けた争いの場になってしまったのか、そして、これを本来の姿に戻すためのヒントを人間の心理の面から探っていきましょう。キーワードは、「女性活躍」です。
女性主導が平和をもたらす
人間の心の奥底に眠る行動原理を明らかにするには、その近縁種であるサルを題材にするというアプローチが有効です。要するに、人間がここまで進化していなかった太古の時代、どのような心のはたらきを持っていたかをサルを通して類推しようということです。
その際、よく取り上げられるのがチンパンジーとボノボ。数あるサルの中でも進化の観点から人間に近く、遺伝子情報も99%以上を共有しているためです。ところが、この二つの種族、性質がまったく違うのだとか。実はチンパンジーは凶暴で、仲間内での争いは激しいそうです。あるいは、動物園などで人間に親しんでいるはずが、人を襲ってニュースになることすらあります。
一方のボノボは平和主義者。仲間内での殺し合いもないそうです。同じような種族なのになぜこんなにも違うかというカギが、ボノボの「女性優位社会」にあると分かってきました。たとえば、群れの中で若いオスがメスにちょっかいを出してきたとします。体力的にはオスが強いので1対1ではかないませんが、そんなときメスはグループを作って対抗するのだとか。しかも、年上のメスが年下のメスを助けるケースが多いそうで、何やら人間世界でも当てはまりそうな気がしてきます。
もしこのような女性優位が実現したら、前述のオリンピックも厳しい生存競争の場から、本来の平和の祭典へと姿を変えるかもしれません。しかも、オリンピックの歴史を見ると、この期待は大。実は近代オリンピックにおいても、1896年の第1回大会では女性の参加者はゼロ、第2回でもわずか22人であったと言われます。でも、どんどんと女性の参加は増え続けて、東京オリンピックでは参加者のうち49%が女性であったと、ほぼ平等を確立しています。もちろん、パリオリンピックの新競技、ブレイキンでも女性部門があります。メダル争いや、頭を支点に身体を回すヘッドスピンという大技への挑戦もいいのですが、どんな雰囲気で競技が進行されるかという観点でも期待が膨らみます。
女性が活躍していない企業
では、今回の発見を投資に活かすことを考えてみましょう。単純に考えれば女性が活躍している企業の株を買うという発想になります。ご存じの通り、昨今は人手不足。男女平等に対応しているだけでも業績アップにつながりそうです。しかも、それが社内の平和な雰囲気につながり、若手社員の離職率を下げることになったら、一石二鳥の効果が期待できます。
具体的にお勧めなのが、厚生労働省が公開する「女性の活躍推進企業データベース」。女性管理職の割合や男女賃金差など、さまざまな観点からランキングが分かります。そして、狙い目は、そのランキングの下位企業。「え? 下位企業? 女性活躍できてない会社ってことだよね?」と意外に思うかもしれませんが、ブレイキンとおなじく、ヘッドスピン。頭をぐるっと回して逆転の発想をしてみましょう。なぜかというと、女性活躍で有名な企業の株は、既に人気になっているケースが多いから。たとえば先ほどのデータベースで上位にランクインするスタジオアリスは子供の記念撮影を主力にしている写真館。お子様をお持ちの方ならご存じの方も多いでしょうし、現場の雰囲気から女性が活躍していることも想像できます。このような企業の株は多くの人が「買いたい」と思うので、既に高値になっていることが想定されます。
むしろ狙い目は、逆。女性活躍が進んでいない企業の中にこそ宝は眠っていると筆者は考えています。業種で言うと金融業や建設業などです。従来、女性は「一般職」という名の下に補助的な業務が割り当てられ、結果として給料も低く抑えられていました。結果、データベースでも下位にランキングされています。
でも、そのような業界の中で、本気で女性活躍に取り組む企業が出てきたら、会社の雰囲気がガラッと変わって業績アップ、株価も大化けするかもしれません。もちろん、投資は自己判断です。今回の話題の「女性活躍」だけが株を選ぶ基準ではありませんが、一つの参考にしていただけると幸いです。
参考文献
『週刊東洋経済』(2024年5月18日号)、女性活躍「先進」「後進」企業総合ランキング100
【著者プロフィール】
米マサチューセッツ大学のMBA課程で教鞭を執る、ビジネス教育のプロフェッショナル。専門分野の「組織行動論」を活かした企業分析を投資にも活かしている。
ブログ(https://kida.ofsji.org/)でも情報を発信するほか、ツイッター(@kidatomohiro)では、「MBAの心理学」と題して投資や仕事に役立つ心理学の発見を紹介している。