三井住友トラストグループ株式会社 インフレ局面を追い風に収益力を強化し、ROE向上を加速
三井住友トラストグループ株式会社
東証プライム/証券コード 8309

取締役執行役社長(CEO)
高倉 透
Toru Takakura
1984年住友信託銀行入社。高槻支店長、リテール企画推進部長、人事部長を経て、2009年11月に統合推進部長に就任し、中央三井トラスト・ホールディングスとの経営統合において陣頭指揮を執った。2011年三井住友トラスト・ホールディングス発足以降、2012年常務執行役員、2017年取締役執行役専務を経て、2021年4月に執行役社長に就任。2021年6月より現職(2024 年4 月より取締役執行役社長(CEO))。
1年前倒した利益目標達成に向け、2024年度上期は順調な進捗
三井住友信託銀行を中核とし、信託業界トップクラスの規模を誇る三井住友トラストグループ。昨年創業100年を迎え、長い信託の歴史の中で培われた高度な専門性と総合力を武器に、資産運用・資産管理、不動産事業、証券代行事業、受託事業など、多岐にわたるサービスを提供している。
2024年度通期予想に対する上期決算の進捗率は、実質業務純益が50%、親会社株主純利益は55%を達成。実質業務純益は、個人、法人、および投資家事業等の顧客性ビジネスの収益が好調であったことから、前年同期比で32億円の増益。親会社株主純利益は、中期経営計画の最終年度にあたる25年度の目標として掲げる2400億円を、1年前倒しで達成する可能性が高まってきた。
また、中間期時点のROEは25年度目標として掲げる8%を上回るが、同社はこの水準にとどまることなくROE10%以上への早期到達を目指し、成長投資につながる資本活用と経営効率の改善を積極的に進めている。
順調な進捗の要因としてグループの強みを生かす施策が機能してきたことに加え、デフレからインフレへの転換という外部環境の変化も追い風になっているという。国内金利上昇の影響のみならず、株価上昇による資産運用・資産管理残高の増加、不動産価格上昇による手数料増加など、幅広い収益改善効果を期待できる点がインフレ局面での信託グループの特徴と言える。
資産運用ビジネスを中心に、資本効率が高いビジネスを強化
同グループは幅広い信託ビジネスを展開することで市場との多様な結節点を有しており、市場の拡大が自らの成長へと直結するビジネスモデルが特長だ。そのため、脱炭素社会の実現に向けた企業の多額の資金需要や、人生100年時代における個人の資産の悩みといった社会課題解決への取り組みを強化している。銀行ビジネスの中心ともいえる、貸出などに代表されるバランスシートビジネスの位置づけもユニークだ。規模は拡大せずに、投資家の需要が見込まれるプライベートアセットなどに投資することで採算性の向上と国内の市場拡大を目指す。プライベートアセット関連の預かり残高は24年9月末時点で7.7兆円にのぼり、上期だけで約3000億円拡大。また、プライベートアセットビジネスが生み出す24年度通期の業務粗利益は180億円(前期比+9億円)を見込む。今後も幅広い投資家に投資機会を提供することで手数料収益のさらなる拡大も狙える。
24年5月に第1号案件をクローズした国内総合型インフラファンドでは、地域金融機関や生命保険会社など20以上の投資家から、当初想定の300億円を上回る330億円の投資資金を獲得。来年度には1000億円規模となる第2号ファンドの組成を検討しており、2023年度には5000億円まで拡大を目指す。
今後さらにプライベートアセットの残高を積み上げるためには2000兆円を超える家計金融資産からの投資拡大が欠かせない。24年10月には、お客さまから集めた資金を社会課題解決に資するプロジェクトや企業に対するファイナンスに活用する新しい金銭信託商品として、三井住友信託銀行で「フューチャートラスト」をリリース。個人投資家のプライベートアセット投資への関心を高め、今後の商品多様化等への足掛かりにする方針だ。
また、同グループでは、独自の強みを持つグローバルな資産運用会社への出資や戦略的パートナーシップ締結など、資産運用ビジネス全体の成長戦略も進めている。2024年初には、サステナブル投資分野で付加価値の高い運用戦略プロダクトを有する英国のOsmosis社と資本提携。当グループの運用子会社での運用ノウハウ獲得や商品販売などの協業を進めており、国内やアジア各国で新規受託の実績が出始めている。幅広い領域で専門性の高い事業パートナーと連携し、資産運用残高拡大と収益性向上の双方を追求していく方針だ。
資本効率が高い資産運用ビジネスを中心に顧客からの預かり資産残高を拡大して、手数料収益の成長を図り、ROE10%以上への早期到達に取り組んでいる。

株主還元に加え、成長投資や自己株式取得に資本を活用
同グループは政策保有株式の削減にも積極的である。23年度〜25年度末までの3年間の削減目標(取得原価1500億円)に対し、24年9月末時点の削減実績は、合意済み未売却を含めると84%と、1年前倒しでの達成が見えてきた。政策保有株式の削減などで捻出された資本は、将来成長に向けた投資へと振り向け、さらなる成長を目指す方針だ。
成長投資とバランスを取りながら、株主への還元にも積極的だ。24年度の1株当たりの配当金は、普通配当135円に100周年の記念配当10円を加えた145円と予想しており前年度から35円と大きく増配になる見込みだ。また、自己株式取得も機動的に実施する方針であり、24年11月には過去最大規模の300億円を上限とする自己株式取得を公表した。
業績の推移を見ても、国内における投資の拡大や資産価格上昇などを追い風に、顧客性ビジネスを中心に手数料収益は着実に増加している。今後も持続的なインフレ局面が予想される中、こうした局面に強い三井住友トラストグループに注目したい。
