イチカワ株式会社 『抄紙工程の知られざる グローバルニッチトップ企業』
イチカワ株式会社
東証スタンダード/証券コード :3513
代表取締役社長
矢崎 孝信
Takanobu Yazaki
1985年当社入社。2005年イチカワ・ヨーロッパGmbH社長、2014年執行役員海外営業部長兼宜紙佳造紙脱水器材貿易(上海)有限公司総経理、2016年取締役営業管掌兼海外営業部長兼常務執行役員、2020年取締役海外担当管掌兼常務執行役員を経て、2023年6月代表取締役社長に就任。
日常生活に欠かせない「紙」 成長を続ける抄紙機械市場
抄紙工程のプレスパートでグローバルニッチトップ企業のイチカワ。「抄紙プレスパート」とは紙の水分を搾り取る工程であり、この工程でより多くの水分を搾り取ることが次工程(ドライヤーパート)の使用エネルギー削減につながり、抄紙工程において品質面・環境面・コスト面から最重要工程と言われている。
環境保護の高まりから「ペーパーレス」が叫ばれ、製紙業界を斜陽産業のように見る向きもあるが、それはあくまでコピー用紙などグラフィック用紙の一部分でしかない。グラフィック用紙も世界全体で見れば、先進国以外では増加しているのが実情だ。また、アマゾンなどのネット通販の普及や「脱プラスチック」で需要が増えている段ボールなどの板紙・包装用紙は世界的にも増加している。さらに、コロナ禍を経て世界的な衛生観念の高まりから、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの衛生用紙の需要も高まっており、私たちの生活に「紙」は欠かせないものと再確認できるだろう。
世界シェアトップを生み出す抄紙用具の高度専門企業
イチカワは「抄紙用具の高度専門企業」として常に新しい技術を積極的に導入し、国内外の市場で高い評価を得ている。また、豊富な経験に裏づけされた知識を活かし、顧客との話し合いを通じて創造的な解決策も提供している。
抄紙工程のプレスパートにおいて、フエルトを含む全用具を製造・販売しているのは国内では同社のみ、世界でも3社のみだ。プレスパートは他のパートと比較して「製造難度・品質・設備投資」等の面から参入障壁は高く、米国・ドイツ・中国・タイの4か国に現地法人を設置し、世界を網羅した販売体制を構築する同社の優位性は揺るがないだろう。なお、同社は現在、主力の日本以外に45か国以上、約470工場と取引している。
同社の世界シェアは、シュープレス用ベルトでは世界2位(29%)、トランスファー用ベルトでは世界トップシェア(47%)だ。一方で、抄紙用フエルトは国内ではシェアを2分するものの、世界では約4%に留まっており、この点に成長ポテンシャルがあるだろう。
また、近年注目されつつあるのが、抄紙用具関連事業の製造技術の応用により開発した工業用フエルトである。高耐熱や高強度の特性を持つ高機能繊維を原料として開発された製品で、プリント基板や電子部品などを高温・高圧でプレス成形する際に使用される他、500℃以上の高温で成型された、まだ柔らかいアルミ押出材を傷・歪みをつけずに搬送することが可能に。主にプリント基板業界、製鉄業界、アルミ押出業界などの生産現場で使用が始まっており、今後第2の柱として成長させていく予定だ。これ以外にも、同社は「環境にやさしい、人々の生活を豊かにする製品や部材を届ける」新規事業を創設するなど、新たなビジネス領域へ挑戦していく。
国内では安定した収益基盤を確立し、海外で収益を拡大!
イチカワは2021年に、2030年度にあるべき姿として掲げた長期ビジョン「IK VISION 2030」を策定し、その実現に向けて2030年度までの3年ごとの中期経営計画を策定・推進している。重要テーマとしては、①国内市場を攻めながら、海外市場への進出、②海外ライバル並みのコスト競争力の獲得、③新製品開発力の強化、④生産立地の最適化、⑤新事業の創設、の5点を挙げている。国内では安定した収益基盤を確立し、海外で収益を拡大するほか、工業用事業の拡大など新たなビジネス領域への挑戦を続けていくという。
国内ではソリューション営業の基盤を構築し拡販を図り、必要に応じて製品価格改定を行うとともに、環境に配慮した新製品を開発。海外ではM&Aも視野に入れて、世界へ拡販可能な製造コストの実現と低コスト体質の構築を図る。また、抄紙用具事業以外の工業用事業その他の売上高比率を現在の約4%から2030年度までに20%に拡大し、事業ポートフォリオの再編を目指している。
抄紙用具の世界シェアについても、抄紙用フエルトは約4%から10%まで拡大し、シュープレス用ベルトとトランスファー用ベルトでは世界シェア1位を2030年までの目標にしている。
2024年度を最終年度とする中期経営計画「 NE‒24」では、連結売上高120億円以上、営業利益率5・0%以上を目標としていたものの、円安傾向が続いた影響もあり、前倒しで23年3月期に達成。今後、重要テーマの実現を目指して、攻めの姿勢で投資していくという。
自社株買いにも積極的で総還元性向は100%近いグローバルニッチトップである同社の今後が期待される。
ジョブ型人事制度も含めて、多くの新たな取り組みに挑戦
イチカワでは現在、設計集約による品質向上、原料の集約化による製造コストの低減、物流の効率化を実施。さらに、産学官連携で開発したベルト新製品を市場投入し、開発研究所を生産工場内へ移転するなど、開発の加速化に取り組んでいる。また、一昨年よりジョブ型人事制度を採用。人に仕事が紐付くのではなく、仕事に人を紐付け、職務や役割で評価する制度で、これにより、年功序列は廃止し、若い世代でも実力を兼ね備えていれば、積極的に抜擢していくという。