中外製薬株式会社 『秀逸なビジネスモデルの 研究開発型製薬企業』
中外製薬株式会社
東証プライム/証券コード 4519
本稿は、経済アナリストの馬渕磨理子氏との対談形式で実施したオンライン個人投資家説明会の内容を中外製薬2022年12月期決算を踏まえ編集したものです。
取締役 上席執行役員CFO
板垣 利明
Toshiaki Itagaki
ロシュ社との戦略的アライアンスによる高成長企業
中外製薬は世界の患者さんへの貢献とイノベーションの加速を実現すべく、2002年、スイスの製薬大手ロシュ社と戦略的アライアンスをスタート。ロシュ・グループの有望な医薬品を日本国内に導入するとともに、研究開発型の製薬企業として、革新的な医薬品の開発に注力。2022年度にはCore売上収益1兆1,680億円、Core営業利益4,517億円と6期連続で増収増益を達成するなど国内トップクラスの研究開発型医療用医薬品メーカーに成長している。
戦略的パートナーであるロシュ社が同社株式の約6割を保有しているものの、独立した上場企業として自主経営を行うというユニークなビジネスモデルが成長の大きな要因となっている。
独自のビジネスモデルをベースに、同社は「自社創製品」と「ロシュ導入品」という2つの収益基盤を確立。年間2兆円超という潤沢な研究開発費を持つロシュ社が開発した製品を、同社が日本で独占的に販売し安定的な収益を確保。その収益によってイノベーションへの集中投資が可能になり、革新的・挑戦的な創薬を加速するとともに、自社創製品をロシュ社がグローバルに販売することで相互の製品を価値最大化する戦略的提携関係を構築している。
また、同社の創薬における強みの一つに独自の抗体エンジニアリング技術を活用した抗体医薬品がある。病原菌などの異物(抗原)が体内に入ってきた時に、抗体がその異物と結合して無毒化させようとする作用を「抗原抗体反応」と呼ぶ。人間が生来持つ免疫機能であり、抗体医薬品とは、この抗原抗体反応を人工的に応用した薬だ。
同社では国産初の抗体医薬品として、関節リウマチなどに適応を有する『アクテムラ』を発売。その後も、複数の抗体医薬品を創製し、グローバル売上を伸ばしている。その結果、2022年はロシュ社との提携前(2001年度)に比べ、Core売上収益は約7倍、Core営業収益は約17倍、営業利益率は16.2%から38.7%へ驚異的に拡大している。また、ROE、ROAなど稼ぐ力も高いことに加え、自己資本比率も業界随一であり、成長と財務の安定性を兼ね備えた企業となっている。
2030年に向けた成長戦略「TOP I 2030」
同社は2030年に向けた成長戦略「TOP I 2030」において、「世界最高水準の創薬実現」と「先進的事業モデルの構築」の2つを柱とし、「R&Dアウトプット倍増」と「自社グローバル品毎年上市」という意欲的な目標を掲げている。
その実現に向け、「DX」、「RED SHIFT」(ResearchとEarly Development(早期開発※)の総称)の推進、「Open Innovation」の3つのキードライバーを掲げ、具体策として、「創薬」「開発」「製薬」「Value Delivery」「成長基盤」という5つの改革を推進している。
※製薬機能のうち初期開発にかかわる部分も含む
そのうちの一つ「創薬」では、低分子・抗体に続く第三の柱として、これまで困難であった治療標的へのアクセスを可能とする中分子医薬品の技術開発・開発品の創出・臨床プロジェクトに経営資源を優先的に投資する。2021年10月からは、第一号プロジェクトとして「LUNA 18」が臨床試験をスタートし、着実に進展。また、最新設備を導入した研究所「中外ライフサイエンスパーク横浜」が2023年4月に全面稼働。異なる分野の研究者のコミュニケーションを促し、技術を融合することで、さらなるイノベーション創出が期待される。
事業活動と一体のESG
同社では「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献」するというミッションのもと事業活動を展開。「患者中心の高度で持続可能な医療」の実現を目指し、事業活動を通して社会課題を解決することで新しい価値を生み出し、ステークホルダーとともに発展すべく、中長期的な企業価値向上を目指している。企業活動のすべてがサステナビリティの取り組みそのものであると捉え、ESG活動や開示充実が推進されている。
具体的には、環境面では、2050年までにCO2排出ゼロを実現する長期的な目標も含め、中期環境目標2030を策定。その実現のために必要な環境投資として2032年までに1,072億円を想定している。社会面では、革新的な医薬品とサービスの創出で社会に貢献する一方、多様な人財を受け入れ、その力を発揮させていく考えだ。ガバナンスでは、取締役会を社内/社外/ロシュ社と多様性のある人員で構成し、ロシュ社からの自主独立経営を維持。また、2022年3月には、ロシュ社と少数株主の利益相反に関するさらなる検討機関として特別委員会を設置している。
安定的な株主還元
2022年12月期の株主還元は、期末配当40円、年間合計78円の配当を実施。2023年12月期は、COVID-19関連治療薬の売上減少等で減収減益を予想するが、これらの一時的要因を除けば、売上収益は増加、営業利益は微増の見通し。配当性向はCore EPS対比平均45%を目途に、安定的な配当継続を実施していく方針であり、2023年は前期比2円増配の年間80円を予想している。