自社開発したクラウドシステムでスマホによるアパート経営を実現──株式会社インベスターズクラウド 代表取締役 古木 大咲
「ネット」×「リアル」という新しい概念のサービスを創造し、急成長しているインベスターズクラウド。土地取得から企画、施工、管理までアパート経営のすべてをスマホのアプリで完了してしまうという画期的なサービスだ。同社独自のノウハウを古木大咲社長に聞いた。
(取材・文/上條 昌史 写真撮影/和田 佳久)
アプリではじめるアパート経営! これまでにない不動産サービス
――御社は「ネット」と「リアル」で新しいサービスを提供しているそうですが、そのシステムについて教えてください。
古木 当社のビジネスの基盤となっているのは、当社が開発したアパート経営プラットフォーム「TATERU」です。まず、アパートオーナー希望者には、スマホやタブレット端末で「TATERU」アプリをダウンロードしてもらいます。このアプリを使って、お客様ご自身でコンシェルジュ(営業担当者)を選んでもらい、チャットやテレビ通話で相談してもらいます。
当社では全国1万2,000社の不動産事業者から非公開の土地情報を入手しており、アパートオーナー希望者に直接仲介します。建物は当社がデザインアパートを定額料金で提案、建物が完成したら当社が入居・管理などを代行します。
つまり当社は「TATERU」の運営を通じて、土地情報の提供から、デザインアパートの企画、施工、アパートの賃貸管理まで、ワンストップサービスの提供を行っているのです。アパートの清掃報告ですら、ネット上で写真付きで確認できます。当社の事業のテーマは「アプリではじめるアパート経営」。実際に、アパートオーナーの中には、現地に一度も足を運ばない方もいらっしゃいます。
――簡単にアパート経営ができるのですね。
古木 そうですね。通常であれば、まず資料を請求し、その資料が後日送られて来て、営業担当者と会う日時をセッティングする。実際に会うまでに数週間から一カ月かかってしまいます。お客様からすれば、問い合わせをしたということは、今話を聞きたいと思っている。そのニーズに迅速に対応できるのが当社のクラウドシステムであり、強みです。
「TATERU」が本格的に稼働し始めた2011年から業績は順調に伸びて、2015年12月末現在の管理戸数は9,596戸、オーナー数は858人、引渡棟数は2015年が320棟強となっています。2015年12月期の売上高は215.12億円(前期比47・2%増)、営業利益は18.97億円(同105.1%増)、当期純利益は11.27億円(同103.4%増)となりました。
ITを活用し在庫を持たないビジネスモデルを確立
――「TATERU」の中で強みとなっているのは何ですか?
古木 約1万2,000社の不動産業者とユーザー(アパートオーナー希望者)をマッチングさせるシステムです。従来のアパート経営は、ディベロッパーが土地を仕入れて在庫を抱え、オーナーに販売するというもの。「TATERU」では、ディベロッパーによる土地購入が介在せず、ユーザーに直接仲介するので、様々なメリットが生まれます。
まずユーザーにとっては、中間マージンや二重課税などの負担が軽減されるため、土地を安く購入することができます。同じ地域で1割程度安く購入できるケースもあります。また、土地情報を提供している不動産会社は、仲介手数料を得ることができ、当社は土地の在庫を持たないため、財務リスクを低くすることできます。ここが重要なポイントです。
――そもそも御社がクラウド化を進めたきっかけが、在庫を持たないビジネスモデルの構築だったと聞いています。
古木 当社の創業は2006年ですが、当初は従来どおり資金調達をして土地を仕入れた上でアパートを建設、ネット集客で販売していました。ところが08年にリーマンショックに直面し、在庫負担が重くなり、経営危機に陥ったのです。そこで経営全体を見直し、ITを活用した在庫を持たないビジネスを考案、それが「TATERU」なのです。
例えば15年12月期の売上は約200億円ですが、従来の方法では在庫が100億円、借入金が100億円必要となるところ、在庫は約14億円で、無借金経営を実現しています。売上が伸びても在庫、借入金が増えないのが強みです。
話題の「民泊」でホテル並みのスマートアパート展開も視野に
――ターゲットとするユーザー層は?
古木 ネット集客であるため、30〜50代のインターネット世代が中心です。大企業にお勤めの年収1,000万円前後の方が多いですね。銀行では年収の10倍まで融資が通るので、当社では原則1億円以下の土地付きアパートを販売しています。販売は政令指定都市を中心に、全国13都市で展開。駅から徒歩15分以内で利便性が良い物件を提供しています。
利回りはエリアによっても違いますが、6〜8%ほど。オーナーの方々のニーズは、相続税対策というよりも、年金対策や資産形成が主になっています。
「TATERU」では、自社開発のアドテクノロジーを使って自社で広告を発信。現在月間800〜1,000名の方々から新規の問い合わせがあります。データマネジメントシステムを利用して、見込客への営業活動を効率化しているので、営業の負担が少なく、営業1人当たりの年間販売棟数は平均7棟、中には24棟も販売する熟練の担当者もいます。
――今後の成長戦略は?
古木 まず「TATERU」をさらに改善、強化しながら、成約率の向上に努めます。またアパート自体の魅力を高めて、資産価値を向上させるため、スマートアパート化にも取り組みます。他社と提携して、インタフォン画像をスマホに送信したり、スマホを鍵代わりに使うなど、共同でIoT商品の開発を行っていくつもりです。
今後力を入れていきたいのは、民泊用の投資用アパートの提案です。物件を宿泊施設として登録、営業できる「民泊」プラットフォームで提供される物件のラグジュアリー版のような位置付けで、ホテルのようにフロントやカフェなどが設置された民泊用スマートアパートの展開を考えています。
今回の上場で、当社の認知度が上がり、土地情報も増えました。これまで取引のなかった不動産会社からの問い合わせも増えています。
「TATERU」がお客様の心に響いたのは、便利さはもちろん、ネットを活用して、すべての過程が健全に「透明化」されているからだと思います。好立地なので入居率は97%超を維持、建物も定額制で追加工事は発生させない。アプリを使って全て報告するので、これまでより安心してもらえる。そうした当社の姿勢が評価されているのだと思います。