有望な遺伝子検査の開発で売上高100億円を目指す──株式会社ミズホメディー 代表取締役会長兼社長 唐川 文成
病院でのインフルエンザ診断に使う検査キットやドラッグストアで買える妊娠検査薬を主力製品とする「ミズホメディー」。創業者として40年近く会社を率いてジャスダック上場を果たした唐川文成会長兼社長に上場の狙いと検査薬市場に賭ける意気込みを聞いた。
(取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久)
スイッチOTCの流れに乗り一般向け検査薬の比率を高める
──ミズホメディーは体外診断用医薬品の会社ですが、具体的にはどのような事業を展開しているのでしょう?
唐川 当社は本社を佐賀県鳥栖市に置き、妊娠検査薬、排卵日検査薬やインフルエンザウイルスキットなどを開発・製造・販売する体外診断用医薬品メーカーです。事業は医家向け体外診断用医薬品の「診断薬事業」、OTC(薬局・薬店)向け検査薬の「ライフケア事業」、そしてかんきつを中心とする植物のウイルス検出試薬の「アグリ事業」の3事業で構成しています。2015年12月期の売上高40億8,200万円のうち、医家向けが86.9%と大半を占めています。
――国は医療費削減のために医家向けの薬品を店頭で販売するスイッチOTCに力を入れています。体外診断用医薬品が一般用検査薬へ転用されるようになれば市場は大きく広がり「ライフケア事業」の構成比率も高まりますね。
唐川 2016年2月22日に厚生労働省より排卵日予測検査薬「黄体形成ホルモンキット」の一般用検査薬ガイドラインが公表されました。これにより薬局・薬店、ドラッグストアで販売が解禁され、需要が増加し、売上の拡大が見込めます。当社では排卵日予測検査薬に続き、便潜血検査薬などの医家向けに販売している製品について一般用検査薬としての申請を準備中です。ドラッグストアOEM供給の拡大なども計画しています。
――そうなると2016年12月期の予想売上高の中身も変わってきますか?
唐川 2016年12月期の予想売上高47億9,500万円のうち、OTC・その他分野(ライフケア事業とアグリ事業)は6億4,600万円(前期比20.9%増)になります。病院・開業医分野(診断薬事業)は主力のインフルエンザ、アデノウイルス、A群β溶連菌、ノロウイルスなど感染症POCT(診療室,病棟及び外来患者向け診療所など患者に近い医療現場での検査)検査薬の性能を改善したり営業を強化することで増収基調を維持し41億4,900万円(同17%増)を見込んでいます。
主力のインフル検査薬は備蓄して急な需要に対応
――診断薬を自社開発・製造している点が大きな強みですね。
唐川 例えば2004年に販売を開始した医家向けのインフルエンザウイルスキット「クイックチェーサー Flu A,B」は鼻腔の粘膜からウイルスを調べる製品です。2014年〜2015年シーズンのインフルエンザは、流行の前ずれ(過去5年間で最も早く流行が始まった)によって2014年12月から2015年1月に検査薬の需要が急増しました。市場では品薄状態になりましたが、当社は一貫体制の強みによって製品の供給を続けることができたため、第1四半期の売上高が急伸しました。2015年〜2016年シーズンは逆に後ずれしています。今後もイレギュラーな流行の可能性があると想定して、インフルエンザ検査薬の原材料・仕掛品・製品在庫の備蓄を行います。品切れを起こさないことも当社の努めと考えています。
――インフルエンザの流行時期に、発症初期でも検知が可能な高感度検査技術を開発したという富士フイルムのCMをよく見ましたが、あの機器は共同開発の成果ですね。
唐川 CMに登場するデンシトメトリー分析装置は富士フイルムが開発し、インフルエンザウイルスキットの「クイックチェイサー Auto Flu A,B」などの専用試薬は当社が開発しました。
インフルエンザは冬に流行するため売上に偏りが出がちなので、マイコプラズマ検査薬など通年で販売できる製品の上市に加え、その他クイックチェイサー製品の項目群を拡大する計画です。さらにウイルス分野に加え細菌分野も対象として、初期のスクリーニング検査から遺伝子検査まで、どのレベルの検査にも対応できる技術を開発していきます。遺伝子POCT機器・試薬の開発により、感染初期の確定診断ができるようになれば需要がさらに広がるでしょう。
――武田薬品工業とも2016年3月1日に検査薬の売買基本契約の締結を発表しましたね。
唐川 当社が1997年に発売した国産の妊娠検査薬「P-チェック・S」は一般検査薬として薬局やドラッグストアで販売されておりトップブランドとなっていますが、今後さまざまな一般用検査薬を、一般のお客さまに販売するためには武田薬品工業のマーケティング力が必要になると判断しました。一般用検査薬全般に関する包括的提携契約のもと、まずは妊娠検査薬および排卵日予測検査薬に関する売買契約を締結しました。
上場により社員のための会社であることを示す
――御社は唐川社長が1977年に設立した会社ですが、上場の目的はどこにあるのでしょう。
唐川 上場の目的のひとつは、私の時代で同族経営を脱するためです。といっても社内に身内は一人もいませんが、公開会社とすることで、社員が経営者を目指す意欲を強く持てるようになると期待しています。上場を目指して30年前から従業員持株制度を導入し、折にふれて社員には「自分たちの会社」なのだということを話しています。その意味もあり、ジャスダック上場初日の取引開始の鐘を私は打たず、社員に任せました。上場によって知名度が高まれば優秀な人材を集めやすくなり、ドクターに対するアピール効果も高まるでしょう。調達した資金は新工場の投資などに充てるつもりです。
――医薬品開発には時間がかかりますが、上場会社になると短期的な成果を求められる場面もあるのではないですか。
唐川 新製品を短期間で世に出すことは難しく治験なども含め5年、6年という時間がどうしても必要です。当社では社員の約20%を研究開発要員として確保しており、売上の10%程度を開発費に充てて開発速度を速める努力をしていますが、制度上の制約もあり、売上に結びつくまでにはある程度の時間がかかってしまいます。投資家の皆様にも機会があるごとに、その点を理解していただきたいとお願いしています。
――将来の売上高目標と株主還元策を教えてください。
唐川 遺伝子関連の製品を販売できるようになれば売上高100億円を達成できるでしょう。そして東証一部への市場変更を目指します。株主還元は配当性向30%を守りたい。そして大きな利益が出れば配当性向50%もあり得ると思います。