光学シート事業と機能製品事業の2本の柱で持続的な成長を目指す――恵和株式会社 代表取締役社長 長村 惠弌
恵和株式会社
証券コード 4251/東証2部
代表取締役社長 長村 惠弌
Keiichi Osamura
70年以上の社歴の中で、「現状に甘んじることを危機」と捉え、時代の変化を敏感に察知して新たな製品開発をしてきた恵和。すでに海外でも高い支持を得ているが、さらにグローバルな規模で市場を開拓すべく、上場を決断した長村惠弌社長に今後の展望を聞いた。
取材・文/大西 洋平 写真撮影/和田 佳久
時代の変化を捉え続ける機能製品メーカー
―― 御社の主力ビジネスの概要についてご説明いただけますでしょうか?
長村 恵和グループが展開するビジネスは、光学シート事業と機能製品事業に大別されます。光学シート事業では、独自開発した光拡散シート「オパルス」が主力製品です。光拡散シートは、パソコンやスマートフォンなどの液晶ディスプレイのバックライトユニットに利用されています。ほかにも集光フィルムの保護シートなどの特殊な光学フィルムの構成部材を手掛けており、いずれも海外市場向けが中心で、非常に伸長中です。
一方、機能製品事業では防湿性・耐熱性・耐久性といった特定の機能を付加した産業用の包装資材やクリーンエネルギー材料、建築資材、農業資材などを製造・販売しています。こちらは国内市場向けのビジネスで、安定的な推移を示しています。
―― 御社のビジネスは時代とともに大きく変化してきたそうですね。
長村 当社は1948年に先代の長村秀太郎が創業し、当初から現状に甘んずることを危機と捉え、常に先手を打つ姿勢に徹してきました。日々刻々、世の中や顧客のニーズは変化していきます。その兆候を的確に分析し、新たな需要にいち早く応えるマーケティングや製品開発、システム構築に努めてきたのです。当社ではそのスタンスを「ダイナミックドメイン」と呼び、経営指針に定めています。
70年以上にわたって社名は同じでも、当社が手掛けているビジネスは大きく変容してきました。国際大学学長の伊丹敬之先生は著書『経営戦略の論理』の中で、「長期的なジグザグ安定を求めて、短期的な不安定をあえてつくり出す。それが企業の慣性を破る。不均衡ダイナミズム戦略の役割である。」と指摘なさっています。当社も「短期的な不安定(新規事業への開拓)」に取り組むことで、30年に及ぶジグザグの業績拡大を遂げてきました。
たとえば創業時の当社は、日本の戦後復興を支えた繊維業界に防水紙を供給し、西日本で同分野のトップメーカーとなりました。高度成長期には化学業界や鉄鋼業界の成長を見据え、防湿包装材や工程材料、天然ガス・石油の輸送パイプ用保護シートなどの機能製品供給へと舵を切っています。その結果、当社は大きな飛躍を遂げ、「製膜(Sheeting)・積層(Laminating)・塗布(Coating)」という3つの特徴的な技術体系を確立。「S・L・C」という3方面で強みを有するという、世界でも稀少な存在の機能製品メーカーへと成長を遂げました。
いち早く将来性に注目しIT普及前から光学シートへ
―― 特に大きな転換点が光学シート事業への進出になるのでしょうか?
長村 1990年に社長に就任し、培ってきた「S・L・C」を生かした新規ビジネスを模索しました。そして、情報化社会の進展とともに液晶ディスプレイが普及し始めたことに注目し、光学シート事業への進出を決断したのです。光を拡散させて自然な発光をもたらす「拡散性能」と、画面全体の明るさを保つ「輝度」を高レベルで両立させた「オパルス」の開発に成功し、このセグメントにおいて随一の実績を築き上げています。
さらに2019年から当社は、前述した中核技術「S・L・C」をさらに磨き上げるとともに、「Ultra Precision(UP=高精度)」を付加した新たな戦略ドメインを定めました。S・L・CとUPという当社が培ってきた技術を通じて、世界の優良企業に製品を供給するというものです。
中長期的な視野でグローバルに市場を開拓
―― すでに70年以上の社歴を有する御社がこのタイミングで上場を決断した理由についてお聞かせください。
長村 実は、光学シート事業に進出する際にも資金調達の手段として株式の上場を検討しました。しかしながら、先述したように新たな挑戦は「短期的な不安定」をもたらし、株主の方々に心配をかけることになります。そこで、これまではあえて株式は公開せず、銀行からの融資による間接金融を通じて事業の拡大を図ってまいりました。ただ、間接金融による成長には限界があるのも確かです。
当社は光学シート事業において、中期的な視野でよりグローバルにニッチなマーケットを開拓していく方針です。それを踏まえて、優秀な人材の獲得もグローバルな視野で進めていきます。スマホでは従来の液晶に代わってバックライトが不要な有機ELの搭載が進んでおり、こうした変化にも積極的に対応するつもりです。また、既存の液晶でも車載(自動運転)や個体認証といった高付加価値分野に取り組んでいきます。機能製品分野においても、品質の高さで競争できるニッチなセグメントに注力してまいります。
これらの施策を推進するうえでは、株式市場を通じた資金調達が不可欠です。加えて、上場を機に顧客満足度をより高め、コンプライアンスやガバナンスを強化するとともに、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)にも取り組んでまいります。
着実に利益成長を遂げる経営を推進することで、株主の皆様から信頼を獲得し、ご期待に応えていきたいと考えております。そのためにはソフト面・ハード面への投資を続ける必要があり、当面の株主還元は配当性向15%程度を目標に定める方針です。当社のモットーは、安全・健全・イノベーティブの「A・K・I」です。あらゆる人々が公明正大に健やかとなる「気」のことを、孟子は「浩然之気」と表現しました。当社グループは、株主の皆様を含めたすべてのステークホルダーがこのような「気」を育めるように努めてまいります。