独自の組織体制で人材を確保し高品質・低コストなソリューションを提供――株式会社パワーソリューションズ 代表取締役社長 佐藤 成信
株式会社パワーソリューションズ
証券コード 4450/東証マザーズ
代表取締役社長 佐藤 成信
Narunobu Sato
金融機関に特化した業務コンサルティングやシステムの受託開発で成長を遂げているパワーソリューションズ。各部署を小さな会社のように位置づけ、部署のトップに経営者レベルの大きな権限を与える「MD制」を採用する佐藤成信社長に、導入の経緯や経営に与える影響を聞いた。
取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久
金融業界に特化し独自のポジションを確立
―― 御社の事業内容について教えてください。
佐藤 当社は「ビジネステクノロジーソリューション事業」の単一セグメントで事業展開をしており、システムインテグレーション、アウトソーシング、RPA関連サービスという、大きく分けて3つのサービスを柱としています。
主要サービスであるシステムインテグレーションでは、資産運用会社をはじめとする金融機関を対象に業務コンサルティング、システムの受託開発、運用保守などを行っています。アウトソーシングはシステムインテグレーションの補完的な位置づけであり、顧客企業の業務プロセスの一部を代行しています。
RPA関連サービスの分野では、RPAソフトウェアのリーディングカンパニーであるUiPathとライセンス販売契約を結び、一般事業会社向けに「UiPath RPA Platform」の販売及び導入サポートを行っています。昨年12月からは大手のコンサル会社やシステム会社と並び最上位のダイヤモンドパートナーとなり、従来から取引のある金融機関に加えて、他の業界の企業との取引も多くなっています。また、それをきっかけにシステムインテグレーションの仕事に発展するケースも増えています。
―― システムインテグレーションの業務について詳しく教えてください。
佐藤 金融機関の多くは複数のSIer(システムインテグレーター)が提供する汎用サービスを利用しています。エンドユーザーであるビジネス部門のニーズを満たすためには、それらを統合してオーダーメイドの開発を行い、“ラストワンマイル”の業務プロセスを最適化する必要があります。
しかし大手SIerは自社製品でまとめて欲しいと思っており、個別対応は手間がかかるため、他社の製品やサービスとの統合をやりたがりません。一方、個別対応を請け負うITベンダーは、金融機関のシステム固有の機能や用語の知識が乏しいため、顧客との会話が成り立ちません。結果として、ラストワンマイルの部分がブルー・オーシャンとして残っていました。
金融機関に特化してノウハウを横展開
―― 手間がかかるという理由で他社がやりたがらないラストワンマイルの仕事は、儲からないのではありませんか?
佐藤 そこで顧客を金融機関に特化しているのです。金融機関が導入している汎用サービスの“形状”が似ているため、A社で蓄積したノウハウはB社にも横展開できるのです。こうして積み上げた受注実績は、次の案件獲得の際の重要な評価指標となることから好循環が生まれています。当社の提供サービスは、SIerのサービスを最大限に活用することを目的とした業務プロセス改善であるため、SIerとの関係は良好で案件紹介を受けることもあります。
2002年に当社を立ち上げる以前、私は250社以上の金融機関向けに投資信託の受発注サービスの企画・構築から運営までを担う責任者をしていました。その時に感じたことは、個社ニーズの対応を柔軟に行うことが顧客満足度向上のためには不可欠だということです。
同時に、この業界の取引構造は大手元請け、大手SIerを頂点とするピラミッド型の多重下請け構造ですが、裾野には有能な人材が埋もれており、彼らに魅力的な権限や処遇を与えることで、新しいモデルの事業が成り立つと確信しました。その新しいモデルが「MD(マネージング・ディレクター)制」です。
疑似独立を実現するMD制が成長を支える
――金融業界に特化し、ラストワンマイルの仕事を手がけていることが御社の強みですよね?
佐藤 当社の本当の強みはそこではありません。MD制を採用している点が強みです。現在、社員数は約150人ですが、そのうち約130人がエンジニアで、さらにそのうちの20人がMDです。MDが率いる部署は独立採算となっており、それぞれ収支に連動したインセンティブが支給されます。MDは顧客との金額交渉や物品の購入などの権限も持ち、顧客や社員との懇親目的の交際費も自分の裁量で使えます。あたかも中小企業の社長のように振る舞えるのですが、擬似的に会社の社長になれるスキームなので、会社経営にまつわる庶務雑務をやらなくてもよく、存分に本業の腕を振るうことができます。処遇面で不満が生じにくいので離職率は極めて低く、16年12月期以降、MDの退職者はいません。
部署の規模が一定以上となると、上級職がMDとなり新部署を設立します。のれん分けですね。新MDを育てたMDは、新部署の収益の一部を継続的に受け取ることができます。一般的に会社は成長するにつれて階層の深いピラミッド構造となり、高コスト体質となります。一方当社では、会社が成長しても私がこのスキームを考えた頃のコストのまま横展開していくだけなので、高コスト体質になる心配はありません。もちろん情報の共有、社内リソースの共有は徹底しています。
―― 今回上場した理由を教えてください。
佐藤 基幹システムの再構築や増員に対応したオフィスの拡大に必要な資金の調達、社会的信用力を高めることが目的です。IPOにより当社のMD制の認知度が高まれば、腕に覚えのある人材の獲得も容易になり、素養のある新卒も採用しやすくなるでしょう。
――株主還元について教えてください。
佐藤 具体的な株主還元策については現時点では未定です。既に十二分の内部留保があるので、次なる一手を打つために生かしたいと考えています。