交通インフラの安全・安心を陰で支え、海外進出にも注力――株式会社ヤシマキザイ 代表取締役社長 髙田 一昭
株式会社ヤシマキザイ
証券コード 7677/東証2部
代表取締役社長 髙田 一昭
Kazuaki Takada

鉄道をはじめとする交通インフラが正常に機能するには、運行に不可欠な部品や部材などの安定供給が大前提。70年以上にわたってJRグループと太いパイプを築くヤシマキザイの髙田一昭社長に、同社の役割と今後の展開について聞いた。
取材・文/大西 洋平 写真撮影/和田 佳久
旧国鉄との取引が端緒の交通インフラ専門商社
―― 御社の沿革について教えてください。
髙田 当社が設立されたのは終戦直後の1948年のことで、創始者が元満州鉄道に在籍していたというご縁もあって、旧国鉄(現JRグループ)との取引を端緒に、商材を拡充してまいりました。1951年には当時の主力車両に用いられていたディーゼルエンジンの供給先である振興造機(現神鋼造機)と代理店契約を結び、旧国鉄との取引が本格化しています。その後、時代とともに鉄道の世界にはディーゼルから電化、高速化、IT化といった様々な変革が訪れました。こうした情勢の変化に伴い、1965年には日立製作所が製造する鉄道車両用品の旧国鉄向け販売代理店、1977年にはコネクタやその関連製品を手掛ける日本航空電子工業の特約店になるなど、鉄道業界のニーズに応えて商材を拡大してまいりました。
その一方で、昨今は鉄道事業者のグローバル展開も活発化しており、こうした動きを踏まえ、当社も海外へ進出してきました。現在では、北海道から九州に至る国内14カ所の営業拠点に加え、海外にも9拠点を展開しています。
―― 具体的に、どういった商材を取り扱っているのでしょうか?
髙田 鉄道事業者や車両メーカーなどに車体部品や電気用品、電子部品をはじめとする商材を販売しています。車体部品の例としてはドア開閉装置やブレーキ制御装置、行先表示器など、電気部品の例としては速度発電機やインバーター、計器など、鉄道車両に用いられるあらゆる部品を取り扱っております。
また、鉄道車両用部品だけでなく、駅の運行管理システムや変電所設備など、鉄道の安全で安心な運行に貢献する製品やサービスも取り扱っています。鉄道分野向けに、こうした約9万点の商材を全国規模で取り扱う専門商社としてはオンリーワンの存在です。
このほか、鉄道業界以外では、産業機器メーカーなどにコネクタや電子部品、その他商材を販売する一般事業を展開しております。
2019年3月期の売上高に占める割合は鉄道事業が約9割、一般事業が約1割となっており、鉄道事業の売上高のうち約半分がJR各社およびJR関連会社との取引によるものです。

国内の未開拓領域と海外市場に活路を開く
―― すでに長い歴史と高い実績を築いている御社が今のタイミングで上場を決断した理由とは何でしょうか?
髙田 実は2007年にIPOを計画していたのですが、翌年の9月にリーマンショックが発生して世界経済の先行きが不透明となり、延期を余儀なくされました。そして、再び体制が整うタイミングを待っていたところ、2015年頃になってようやく機が熟し、今回のIPOに向けて準備を進めてきた次第です。
鉄道業界においてはそれなりに認知されてきたとはいえ、今後のさらなる成長を追求するためには、上場を果たして知名度と信用力を向上させることが不可欠だと考えていました。特に海外展開にいっそう力を入れていくうえでは、上場企業というステータスが重要な意味を有してきます。加えて、新卒、中途を問わず優秀な人材の獲得していくうえでも、上場企業であるということがアドバンテージとなります。
―― 中長期的な成長戦略として、どういった施策を推進していく方針ですか?
髙田 2019年3月期を起点とした3か年の中期経営計画において、当社が成長戦略として掲げているのは、既存事業の強化、新領域の付加価値アップ、グローバル市場の開拓の3点です。
既存事業の強化に関しましては、当社の主要顧客であるJRグループとの関係性をさらに強化し、取り扱う商材の拡充を図ります。これまでJRグループに供給してきた商材は車両周辺が中心で、鉄道事業の売上高の約75 %を占めてきました。言い換えれば、それ以外の領域にはほとんど手をつけていなかったのが実情で、駅舎やメンテナンスのための工場設備など、JRグループ向けの事業においても当社の開拓余地はまだまだ大きいと言えます。
また、鉄道事業の売上高において、民間鉄道・公営鉄道向けは両者を合わせても8%程度にすぎませんでした。しかしながら、首都圏や関西をはじめとして全国には数多くの民間鉄道・公営鉄道が存在しており、こちらの領域もこれから本格的に開拓していくことになります。
さらに、海外には日本国内の10倍以上に及ぶ鉄道関連の需要があるとも言われていて、2021年には24兆円規模の市場になるとの予測もあります。その中で最も伸びるとされるアジアでは、約1.5倍に市場が拡大すると目されています。このため、日本の鉄道事業者や車両メーカーも積極的に進出していますし、国もODAに注力しており、当社もこうした動きに追随するのが必然です。
投資家向け説明会開催と安定配当に努める
―― 株主に向けた施策については、どのようにお考えですか?
髙田 当社のことをより深く理解していただくために、最低でも半期に1度のペースで投資家向け説明会を開催するつもりです。株主還元に関しましては、安定的な配当を目指したいと考えており、内部留保とのバランスを図りながら、配当性向30%を達成できるように努めてまいります。
当社にとって、今回のIPOは第3の創業とも位置づけられるものです。先に述べた成長戦略を推進することでいっそうの飛躍を図り、株主のみなさまの期待に応えたいと思います。そして、中長期的には海外売上高比率を大幅に高めていきたいと考えております。