高付加価値マッサージで高齢者のニーズに応える――株式会社フレアス 代表取締役社長 澤登 拓
株式会社フレアス
証券コード 7062/東証マザーズ
代表取締役社長 澤登 拓
Taku Sawanobori
寝たきりの高齢者などに必要とされるサービスといえば介護だが、実は、マッサージによる医業類似行為も欠かせない。訪問マッサージ事業を展開し、高齢化社会に欠かせない存在となっているフレアスの澤登社長に今後の展望を聞いた。
取材・文/大西 洋平 写真撮影/和田 佳久
無資格マッサージとは別物の医業類似行為を提供
―― 御社が展開するビジネスの中核となっているのがマッサージ事業ですね。
澤登 はい。全体の9割超は活動困難者(介助なしの通院困難者)対象のマッサージ事業が占めています。本来マッサージとは、あん摩マッサージ指圧師という国家資格保持者のみに施術が許されている医業類似行為です。そして、医療上においてマッサージを必要とする症例については医療保険が適用されます。これに対し、世間でよく見かける整体やカイロプラクティック、リラクゼーションといったサービスは資格が不要である一方、医業類似行為は許されていません。
ただ、あん摩マッサージ指圧師の世界は封建的で、資格取得後は開業している師匠の下で見習いとして修行する徒弟制度が設けられているのが一般的でした。見習い期間中は薄給を強いられ、師匠が手取り足取り細かく指導してくれるわけではありません。まさに、「見て覚えろ」の世界で、これまでは人材をきちんと育て上げる仕組みがありませんでした。
そこで2000年に、私の実家があった山梨県南巨摩郡増穂町で訪問マッサージ事業を営むふれあい在宅マッサージを創業し、資格取得者を社員として採用して待遇を保証するとともに、独自の研修制度を確立しました。当社では、社内におけるすべての資格取得者の現状の技術レベルが可視化され、個々の熟練度がつぶさにわかります。
―― 事業環境についてお聞かせください。
澤登 高齢化が進む中で、国はシニアが住み慣れた場所で人生を全うする地域包括ケアを推進しています。それに伴い、要支援・要介護者に対する訪問サービスのニーズが拡大しています。世間では介護サービスのほうに関心が向けられがちですが、医療行為や医業類似行為といったサービスも欠かせないものです。
たとえば、ずっと寝たきりのままでいると関節が硬くなって、さらに不自由をきたすケースも出てきます。そういった場合、私たちは介護計画を担当するケアマネジャーから紹介を受け、医師の同意に基づいて医療保険が適用されるかたちで訪問マッサージの施術を行っています。
当社の「高付加価値マッサージ」によって膝を曲げられるようになったりして、要支援・要介護者のADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の向上が期待できます。私たちが追求しているのは、お客様一人ひとりの人生の価値を最大化させるお手伝いをすることです。
現在、当社では39都道府県、97拠点の事業所を通じてこうした訪問マッサージを展開しているほか、温泉旅館やリゾートホテルでのマッサージサービスを展開しています。マッサージ以外では、在宅療養患者向けの訪問看護ステーションの運営や、理学療法士による訪問リハビリテーションも手掛けています。
全国展開を推進しさらなる成長を加速
―― 競合他社に対する御社の強みとしては、どういったことが挙げられますか?
澤登 先に述べましたように、当社の強みは「高付加価値マッサージ」の技能を身につけ、さらなる向上を追求できる独自の研修体制が確立されていることにあります。豊富な施術実績の技術主任がOJTを重ね、業界団体の認定する「認定訪問マッサージ師制度」よりも長い研修時間を設定し、高水準のマッサージを施術できるようにしています。
そして、マッサージ師を正社員として雇用して全国の拠点に配置し、丁寧な対応を心がけています。その点がお客様から評価されて、当社のマッサージ師稼働率は高水準を維持しており、その結果として高効率経営を実践できています。
―― 足元の業績も極めて好調に推移しているようですね。
澤登 2018年3月期以降、売上高成長率は13%台を保っており、増収幅は着実に拡大基調を示しています。今期(2020年3月期)の経常利益は、2期連続で過去最高を更新する見込みです。今期の利益率は一時的に伸び悩みますが、これはさらなる成長に向けて投資を活発化させているからです。少子高齢化社会の進行による需要の拡大基調は鮮明であり、これに応える体制固めが急務と考えています。
具体的には、当社がまだサービスを提供していない空白地域を埋めていく方針です。都心部を中心にサービスエリアの拡充と拠点数の拡大を進め、前述の事業所数を2020年3月期には100拠点まで増やす計画です。その後は関西圏、中京圏へと順次拡大を図っていきます。
もちろん、事業を急拡大させていけば相応の人材獲得も求められてきます。マッサージ師を増員するとともに、独自の研修制度を駆使して引き続き人材の育成にも努めます。加えて、営業人員の採用も拡大してサービスエリアの拡充を売上の伸びに着実に結びつけます。
一方、当社は2017年4月に星野リゾートと提携し、同社の温泉旅館ブランド「界」とリゾートホテル「リゾナーレ八ヶ岳」でマッサージ・SPAサービスをスタートさせています。それらは医療保険の適用とはならない自費施術であり、今後はこのラグジュアリー分野の拡大も進めていく方針です。サービス提供施設数を増やし、自費施術サービスの割合を高めていきたいと考えています。
―― 上場した理由をお聞かせください。
澤登 高齢化社会において、私たちが提供しているような訪問マッサージの潜在的ニーズが非常に高いことはまだ一般的にはさほど知られていません。当社のサービスの認知度を高めることがIPOの目的の一つです。現在は、自宅で最期を迎えたいという方は多くても、医療インフラが不足しています。そうしたインフラの一翼を担っていきたいと考えておりますので、応援をよろしくお願いいたします。