個別最適化にこだわる人材育成でアジアの頂点へ――アルー株式会社 代表取締役社長 落合 文四郎
アルー株式会社
証券コード 7043/東証マザーズ
代表取締役社長 落合 文四郎
Bunshiro Ochiai
企業や部署単位にとどまらず、個々の従業員ごとにカスタマイズ(個別最適化)した人材育成サービスを提供し、多くの大手企業のニーズに応えているアルー。早くからAIを活用してきた落合文四郎社長に今後の戦略を聞いた。
取材・文/大西 洋平 写真撮影/和田 佳久
日本企業の生産性向上にAI活用の人材育成で貢献
―― 御社の事業概要と市場の環境について教えてください。
落合 私はボストンコンサルティンググループを経て、2003年10月に当社を設立しました。以来、大手企業を中心に教室型研修、海外派遣研修、法人向け・個人向け英会話といった事業を通じて人材育成サービスを提供しています。
日本では少子高齢化に伴って労働人口が減少していきます。政府は働き方改革を進めており、1人当たりの生産性向上が大きな課題となっています。しかも、2006~07年に大企業の多くは新卒採用を拡大していましたが、2008年のリーマンショック以降は一気に縮小し、いわゆる“就職氷河期”が訪れました。このため、現在は新人に手本を示すべき若手の先輩社員が不足しているのが実情です。OJT(職場内訓練)だけでは育成が困難で、こうした側面からもOFF-JT(職場外研修)に対するニーズが高まっているわけです。
一方で、ここ数年のうちにAIが台頭し、様々な方面への活用が広がっています。当社でもAIを用いて個別最適化を図り、成果にこだわった人材育成サービスを提供しています。生産性向上ニーズの高まりから、企業研修というビジネスのマーケットは年間2%の安定成長を示しており、その中で大企業の新人・若手の育成を得意とする当社は、マーケット全体のピッチを上回る年間9%の成長を遂げてきました。
―― 高成長の原動力としては、どんなことを挙げられますか?
落合 当社の強みの一つは、コンサルティングにおいてデータを活用した課題の特定を行い、個々の企業ごとにカスタマイズしたソリューションを提供できることです。そして、満足度の確認だけにとどまりがちな従来の研修とは違い、徹底的に育成の成果を“見える化”しており、そのデータがどんどん蓄積されています。続ければ続けるほど効果の向上が期待できることから、当社のサービスに対するリピート率もおのずと高くなっていくわけです。
加えて、企業レベルだけにとどまらず、個人レベルでも最適化を図ることができるのも当社の強みとなっています。「授業→課題特定→宿題→学習分析→授業」というサイクルを回せば回すほど、AIによる機械学習を通じて個別の最適化が進んでいきます。継続的に受講者データが蓄積されてカスタマイズが進み、より効率的に課題をこなせるようになることは、競合に対する優位性の一つです。また、当社は15年間にわたって蓄積してきたデータに基づいて企業ごとに教材や講師ガイドを最適化できますし、多くの教室において均質なサービスを提供できる点でも優位性があります。こうしたことから、業種を問わず、広く大手企業の新人・若手育成ニーズに応えられるわけです。
さらに、「習うより慣れろ」の発想による「100本ノック」アプローチも当社サービスの大きな特徴です。成長プロセスを細分化し、各段階に応じた経験を積み重ねることで着実に成長を実感でき、意欲が高まることで、“わかる”と“できる”の間にある壁を乗り越えられるようにしています。初めて自転車に乗れるようになった場面と同じように、頭ではなく体で覚えるわけです。カリキュラムの全体像とその日に学ぶポイントも明確になっていますし、「実践+失敗、他者へ教える」といったプロセスを演習に盛り込み、受講生の理解度を高める工夫も施しています。
個人向け英会話事業を展開しビジネスのさらなる拡大を目指す
── 2016年からサービスを開始した個人向け英会話トレーニングサービスも好評ですね。
落合 当社のALUGO(アルーゴ)はスマホアプリによるマンツーマンのモバイルトレーニングであるうえ、AIの活用によって個別に最適化がなされます。
具体的には、自分が喋った英語がスマホ上のホワイトボードに書き起こされ、その場で言い回しや文法などの間違いを指導してもらえる仕組みになっています。当社が独自開発したアルゴリズムに基づくAIが授業内容を評価し、受講者ごとに課題を特定します。そして、それに合わせた宿題が出されるといったように、汎用的なAIアルゴリズムでは難しいトレーニングを行えるのです。
―― 今後の成長戦略においても、やはり英会話事業が大きなカギを握ってくることになるのでしょうか?
落合 法人向けのALUGOは2013年2月からサービスを提供してきましたが、個人向けはこれから本格的なマーケティングを展開するプロセスにあり、売上の拡大を目指してまいります。また、先にも述べたように当社は新人・若手の育成を得意としてきましたが、今後は中堅(管理職領域)向けサービスも拡充し、シェア獲得に努めます。さらに先を展望すれば、大手企業から中堅・中小企業、3大都市圏から地方の主要都市へと、導入企業の拡大を図っていきたいと考えています。
あわせて、テクノロジーを活用したフォロー型の成長支援ソリューションも提供することで、導入企業のさらなる拡大を図っていきます。たとえば、データの解析によって個々の従業員の課題からメンタルの状態まで把握し、必要に応じて上司にアラートを発するといった新たなサービスを検討しているところです。
すでに当社はシンガポール、中国、インド、フィリピンに拠点を設けていますが、アジアを中心とする海外事業にもいっそう注力してまいります。そのうえで、2030年にはアジアでナンバーワンの人材育成企業となることを目指します。
―― 上場企業として、株主還元についてはどのような方針で臨みますか?
落合 中長期的に安定的な配当のお支払いを心掛けたいと考えています。