仲介業者からデベロッパーへ転換し相続ソリューションで飛躍を目指す――株式会社リーガル不動産 代表取締役社長 平野 哲司
株式会社リーガル不動産
証券コード 3497/東証マザーズ
代表取締役社長 平野 哲司
Tetsuji Hirano

富裕層を対象とした事業で収益を伸ばすリーガル不動産。「おまえならやれるんちゃうか」という先輩の励ましが上場を目指すきっかけとなったと言う平野哲司社長に、経営姿勢や事業拡大の意気込みを聞いた。
取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久
山手線の内側に相続対策向け低層の賃貸マンションを建築
──不動産会社というと競合が多いイメージですが、御社の特徴を教えてください。
平野 不動産業界では、不動産を右から左へ動かすことで利益を得ることが多いのですが、私たちは不動産をよく見て、インテリジェンス(知性)を吹き込み、もっと価値のあるものに変えてお客さまに提供しています。
お客さまに喜んでいただける商品を提供し、ブランドを確立することで「顧客を創造する」ことが企業活動では重要なことと考えています。その成功事例が東京で展開している富裕層を対象とした「LEGALAND(リーガランド)」というブランドの低層賃貸マンションシリーズです。
投資用マンションとしての価値を高めるために、立地を重視しており、駅から近くて利便性の高い場所に絞り込んでいます。山手線の内側、外周部の城南・城西地区ではJR中央線や東急東横線、京王線の沿線などに70棟の実績があります。販売価格は3〜5億円。この価格帯の商品を活用して相続対策を考える富裕層の方が多いため、相続ソリューションとして人気を集めています。

歩合給を残すことで社員のモチベーションが向上
──報酬制度に歩合給(コミッション制)を導入されているそうですね。
平野 不動産業界では、歩合給が一般的ですが、それは売買や賃貸の仲介の分野で用いられている報酬制度です。当社もそもそもは仲介業者でした。リーガルという名前にあるように、大阪を中心として権利がたくさん付着している債務超過物件の任意売却の仲介とコンサルティングを出発点として業容を拡大してきました。その過程で目利き力が鍛えられ、弁護士ネットワークが広がり、法律知識が蓄積し、迅速に対応することの重要性を学びました。
金融円滑化法施行後、任意売却の仕事が減ったことから、会社をリストラクャリングしてデベロッパーへ方向転換することを決めたとき、報酬制度が議題にのぼりました。私は完全成果主義を残したいと考え、収益源が仲介手数料に加え不動産売買益、賃料収入まで広がったことを踏まえて細分化した指標を設定しました。現在は固定給を最小限にして年3回の賞与を成果に応じて支払っています。
──完全成果主義は社員にどのような影響を与えていますか。
平野 歩合給を維持したおかげで、社員はモチベーションを高く保っています。1人の社員がプロジェクトの入り口から出口までを一貫して担当する仕組みのため、「もうかりそうな物件」を懸命に探すし、物件を右から左に売るのではなく、手間をかけて価値を高めることを考えます。そのため社員1人1人のスキルが磨かれ、知見が蓄積され、よりよい仕事ができるようになります。そうした社員の努力の積み重ねにより、会社をここまで大きくすることができました。
──パートナーとのWIN-WINの関係を大切にしているとのことですが。
平野 仲介業者時代、私たちは多種多様の物件のお話をいただきました。選り好みをせずにそのすべてを受け、当社が弱い部分はパートナーシップを結んだ方々に支えていただいた。その際、「他者優先」の考え方を貫きました。自社の利益は劣後でいい。その姿勢で臨まないと任意売却の仲介話はまとまりません。
デベロッパーに変わってからも「他者優先」、利益を独占せずシェアしてWIN-WINの関係を築く文化を引き継いでいます。それは社内でも同じ。会社が大きくなると営業部門と管理部門、管理部門の中で言えば経営企画部門と財務部門というように、立場が異なる社員同士の摩擦が生まれがちですが、WIN-WINの考え方で解決策を見つけるように話しています。
10年後の相続市場の拡大を見据えて事業を展開
――売上高、経常利益とも順調に伸びていますね。
平野 2018年7月期は売上高192億6,300万円、経常利益7億400万円と対前期比は増収増益でした。19年7月期は売上高252億5,300万円、経常利益は9億4,300万円を目指しています。
17年からは不動産情報提供者を共同事業者とする「リーガルパートナー制度」を導入しました。これは税理士、建築士、不動産会社OBなど約120人のパーナーから不動産情報を継続的に取得する制度です。パートナーには事業利益を分配することでWIN-WINの関係を築いています。
――事業を牽引している「LEGALAND」が狙う相続市場は、今後どのように拡大していくと想定していますか。
平野 まだ相続対策をする人が少なく、相続市場はニッチな状態ですが、40代のころにバブル絶頂期を体験し、資産を蓄えた団塊の世代は今70代。10年後にはこの層の相続対策が顕在化していくと予想しています。「LEGALAND」を必要とするお客さまが一気に増えるでしょう。また、相続と親和性の高い事業として、介護施設の運営業務も展開しています。介護事業は社会貢献的な側面もあるのですが、安定した収益が見込めるストック型のビジネスであり、将来の柱として拡大していくつもりです。
――今回の上場の目的を教えてください。
平野 知名度の向上と資金調達の手法を広げるためです。財務基盤強化の観点からは自己資本比率を重要経営指標と位置づけ、早期に10%以上に向上させていく方針です。まずは企業価値を高め、株主さまともWIN-WINな関係を継続できる経営を目指していきます。