連絡網サービスで蓄積したデータがピンポイントな広告配信を実現――株式会社イオレ 代表取締役社長 吉田 直人
株式会社イオレ
証券コード 2334/東証マザーズ
代表取締役社長 吉田 直人
Naohito Yoshida
グループコミュニケーションツール「らくらく連絡網」を立ち上げ、ユーザー数を着実に増やしているイオレ。ユーザー情報を活用した求人や広告配信事業も好調だ。データベースを最も多く保有し、最も活かすことのできる企業を目指しているという吉田直人社長に今後の成長戦略を聞いた。
取材・文/小椋 康志 写真撮影/和田 佳久
ユーザーの要望に応え続け口コミからサービスが浸透
── なぜ「らくらく連絡網」というサービスを始めたのでしょうか?
吉田 あるときサッカー少年団の監督さんから「電話に代わる、メールでの連絡網を作ってほしい」と言われたのがきっかけです。そこで団体活動に必要不可欠な出欠確認や日程調整などをメールで簡単に行えるサービスを作って提供しました。その後もユーザーの皆様からのご要望をなんとか叶えようと、アンケートや安否確認などの役立つ機能を加えていきました。その結果、部活動、サークル、ゼミ、PTAなどの団体へと口コミで広がり、気がついたら38万団体、669万人という規模に成長を果たしました。これからは50代や60代の人たちにも使っていただきたいと思います。仮にその層を開拓することができれば、1千万ユーザーも夢ではないと考えています。
── 収益モデルはどのようになっているのでしょうか?
吉田 広告モデルで展開しています。ユーザーには無料でお使いいただく代わりに、プロフィール情報を入力していただいております。しかも連絡網はクローズドサービスです。当然サイト内には知人しかいませんから、嘘を入力する必要がありません。そのため、非常に精度の高い属性データを集積することができます。これだけ詳細なプロフィール情報を蓄積しているサイトは、当社以外には、なかなか存在しないだろうと思います。このデータを活用することで、クライアント企業からの広告収入を受け取っています。
ちなみに一般的な媒体では「みなし属性」を集積することしかできません。なぜなら、あくまでもWEB上での行動履歴を基にしているにすぎないからです。年齢も実年齢とは限りませんし、性別ですらたぶんというレベルなのです。
精密なセグメント設定によりピンポイントで広告を配信
── その秀逸なデータベースを活用した広告配信サービスが「pinpoint」なのですね?
吉田 すべてのクライアントが、明確にターゲットを絞って広告を打ちたいはずです。それを可能にしたのが当社のpinpointというサービスです。当社のユーザーデータは性別、年齢、都道府県、職業、コミュニティ属性、使用デバイスなどがハッキリしていますので、その名の通り、まさに無駄打ちのない効果的な広告をピンポイントで打つことができます。例えば「法学部の3年生で野球部員の女子」というセグメントを設定すると、就職活動中で文系の野球部の女子マネージャーを抽出することができます。しかも当社のらくらく連絡網に対してだけではなく、LINE、フェイスブック、ツイッターなどのSNSから国内の主要なWEBメディア、アプリへの広告配信が可能です。
今後は当社のデータベースと他社のデータベースを連携させることで、データベースをどんどん充実させていく方向性です。昨年の7月には凸版印刷とネット広告事業で資本提携をしました。凸版印刷は「Shufoo!」という国内最大級の電子チラシサービスを行っていますが、そこには月間860万人ものユニークユーザーがいます。しかも、チラシの閲覧回数や閲覧部分を分析した行動データも持っているため、それを当社のプロフィールデータと組み合わせることで、データベースをよりリッチにすることが可能です。実際に実験を行ってみた結果、広告効果が抜群に良いことが判明しました。これを皮切りに、いろいろなパートナーとデータベースを連携させていくことで、最終的にはデータベースプラットフォームを構築していければと思います。
── 業績のほうはいかがでしょうか?
吉田 どの業界も人材が不足しているという背景もあり、直近では人材系のクライアントが急増しています。らくらく連絡網は大学生の3~4人に1人が使っていますので、新卒やインターン、アルバイトなど、採用の領域が非常に伸びています。当社の営業マンだけではとても手が足りないため、代理店にOEMというかたちで提供し、販売していただいています。来期の業績を牽引するのはpinpoint 事業となっていくでしょう。
当社はこれまで、らくらく連絡網の会社だと思われてきましたが、今後はアドテクノロジーを駆使して広告代理店の分野にどんどん進出してゆくでしょう。今はその過渡期にあります。広告代理店というと販促やマーケティング部門だけを想像すると思うのですが、データベースを活用したアドテクノロジーは、人材をはじめとしたさまざまな領域にも適用できるのではないかと感じています。
決済機能を追加することでフィンテック進出も視野
── 今後の成長戦略についてお聞かせください。
吉田 らくらく連絡網に決済機能を追加しようと現在研究中です。以前から「会費や部費などを徴収する機能を追加してほしい」という要望はありましたが、さすがに300円をクレジットカードで徴収することはできません。当社としてもどうしたらよいのかわかりませんでした。しかし近年、LINEがLINE Payを始めたり、銀行がAPIを開放したり、仮想通貨を創設したりするなどの流れが出てきています。実際に当社にもいろいろなところから引き合いがきていますので、ブロックチェーンなどの新しい技術を応用すれば、決済機能を追加できるかもしれません。もし、決済サービスを追加することができたら、グループ間決済ツールとしての利用価値が高まり、海外進出も見えてきます。将来的にフィンテックの分野に参入するというのは、今後の成長戦略において非常に面白いのではないでしょうか。