飲食店経営者へ向け、各事業段階で必要な情報をネットを通じて提供──株式会社シンクロ・フード 代表取締役 兼 執行役員社長 藤代 真一
株式会社シンクロ・フード
証券コード 3963/東証マザーズ
代表取締役 兼 執行役員社長
藤代 真一 Shinichi Fujishiro
シンクロ・フードはネット上で飲食業の経営サイクルに対応した「飲食店.COM」「店舗デザイン.COM」「求人@飲食店.COM」といった飲食店経営者向けのサイトを運営している。業界唯一という出店準備から退店までの一気通貫のサービスを開発した藤代真一社長に事業に懸ける思いと成長戦略を聞いた。
取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久
飲食店物件情報を初めてネットで公開
――なぜ飲食店向け物件に特化したサイト運営を事業化したのでしょうか。
藤代 飲食店は火を使ったり匂いがしたり特殊な点があるため、飲食不可の物件が結構あります。しかし、2003年の創業当時、飲食店向け物件が探せるサイトはほとんどありませんでした。そこで飲食店の出店開業・運営支援サイト「飲食店.COM」を開設いたしました。
――物件情報は順調に集まりましたか。
藤代 飲食店向けの店舗物件情報をネット上で扱うことに対し、不動産会社は難色を示しました。良い立地の店舗情報をライバルよりも先に知ることができれば商売がうまくいく可能性が高くなるので、物件情報は機密性が高く、人伝い伝えるものだったのです。そこで隠すよりも広く多くの人に見ていただいた方が商売の幅が広がるということを説明するため不動産会社を一軒一軒回りました。
――飲食店マーケットは出店と退店のサイクルが早いそうですね。
藤代 全国の飲食店約51万6,000事業所(総務省調べ)のうち、年間約3万6,000事業所が入れ替わるといわれています。そのため物件探しだけでなく、出店準備→出店→運営→退店という飲食店のライフサイクル全てをサポートするサイトがあれば便利だという声を多くいただきました。退店が増える不景気時でも出店希望者は必ずいますので、その物件情報を新たなユーザーに提供できます。そこで全てのフェーズに対応したサイトを創り、「一気通貫のプラットフォーム」を提供することで飲食店経営者に喜んでいただこうと考えたのです。
サイトの内製化によりユーザーの声を素早く反映
――2006年には飲食店専門の求人情報サイト「求人@飲食店.COM」を開設していますね。
藤代 当社のサイトは個店の経営者の利用が多いこともあり、物件情報の次は求人募集サービスを使うという流れができています。また出店準備段階から携わっているので、アルバイト希望者が注目するオープニング・スタッフの求人情報が多いという特色があります。
――サイトを内製化していますね。外注しないのはなぜですか。
藤代 内製化することによりお客さまからいただいたサイトの改善を求める声をクイックに反映させることができるからです。そして、改善後の評価を再びお客さまからいただき、また改善するというPDCA(計画→実行→評価→改善)を早く回すためには内製化が重要と考えています。
当社はテクノロジーをベースに飲食店のサポートをする会社なので、今後もAIやIoT等の新しい技術に継続的に投資をしていきます。
――この分野の成長余地はどのくらいあるのでしょう。
藤代 全国の潜在ユーザー数を68万ユーザーと試算しています。現在は約10万ユーザーの登録があり、有料ユーザー数も順調に増えて6,037ユーザー(16年3月末時点)となっていますが、まだごく一部の登録でしかありません。事業者が提供するサービス・求職者の登録数で見ても、まだまだ成長余地があります。ユーザー数を増やすために現在サービスを展開している首都圏エリアと関西エリアを深掘りするとともに、成長が期待できる名古屋を中心とする東海エリアや福岡を中心とする九州エリアなどにも展開していく計画です。
――ユーザーは各サイトの多くを無料で利用できます。どのような収益構造になっているのですか。
藤代 例えば「求人@飲食店.COM」では求人情報を広告として掲載しています。出退店サービスでは、ユーザー向けに特別店舗物件の閲覧や詳細検索が使えるプレミアムサービスを提供して、月額課金の有料ユーザーを増やしています。不動産事業者や内装事業者等の各事業者からは広告収入が入るというようにマネタイズは多岐にわたります。
ビッグデータやIoTの活用でサービスを強化
――業績の推移を教えてください。
藤代 売上高、営業利益は創業から16年3月期まで13期連続で増収増益を続けています。売上高営業利益率は16年3月期は37.8%、16年6月期(第1四半期)は44.3%です。設立から13年間で得た実績や信頼により知名度も高まり、自然にユーザーが集まる環境が生まれています。またサイト内の回遊の流れができているため営業コストが低く、収益化までの時間も短くなっています。
――すでに「一気通貫のプラットフォーム」を提供していますが、新たなサービスを提供する余地はあるのですか。
藤代 出店退店の分野で言えば、飲食業界ではM&Aのような形での事業譲渡が盛んに行われています。M&Aを専門とする会社もありますが、飲食店は特殊な領域のためデューデリジェンス(資産の適正評価)が難しい。私たちには13年間蓄積した物件情報等のビッグデータがあり、それらを有効活用することで企業価値、物件価値の算定ができます。また運営の分野では販促部分が手付かずですので、先行事業者と連携したり、独自に進出することを検討しています。
――東京工業大学とのIoT(モノのインターネット)技術を活用した通行量調査に関する共同研究が始まりました。これも事業のタネになるのですか。
藤代 この研究の目的は小型端末により通行量を自動計測しようというものです。飲食店の成功には立地条件が深く関わっており、通行量調査は重要な意味を持ちます。小型端末を用いて通行量を自動計測できるようになれば、出店時には物件価値を定量的に判断するための計測ツールとなり、開業後は経営の外的要因を科学的に分析するためのツールとして活用できるでしょう。