企業の「本気度」はここで分かる!IR説明会・決算説明資料の読み解き方

はじめに
IR説明会や決算説明資料は、企業の「戦略」と「本気度」がにじみ出る最前線です。数字やグラフの裏側には、経営陣がいま何を重視し、どこに向かおうとしているのかという「企業の意思」が込められています。本コラムでは、そんな資料の中から「企業の姿勢」を見抜くための視点を紹介します。単なる建前に惑わされず、本当に伝えたいことを読み解けるようになれば、投資判断にも深みが増していくはずです。
IR説明会・資料から伝わる企業の本気度
決算説明会というと、数字を中心とした定量情報や専門用語を基に、企業とアナリストが丁々発止する“やや難しく堅いイベント”のように思うかもしれません。実際にも、説明会動画を見ると、企業の本気度がにじみ出ていることがわかります。単なる業績報告に終わらず、将来像や戦略をどう描いているか。説明する経営トップなどの言葉に「自分たちの考えを伝えたい」という熱があるか。質疑応答での受け答えなどにも、投資家との対話姿勢が表れます。
2025年10月9日に開催されたセブン&アイ・ホールディングス(以下、「セブン&アイHD」)とファーストリテイリング(以下、「FR」)の決算説明会は、好対照な姿勢がうかがえる事例として参考になります。セブン&アイHDは中間期が全体では減収増益となったものの、主力の国内コンビニ事業の営業利益が前年を下回り苦戦が見られました。FRは国内外のユニクロ事業の好調で通期が過去最高の増収増益を達成しました。
セブン&アイHDの決算説明資料では、好調な施策については触れているものの、数値の減少や通期業績下方修正の背景説明が資料中ではほとんど見当たりません。そのため、投資家としては資料だけでなく、説明会動画や質疑応答の書き起こしなどを確認する必要があります。説明会では新社長による経営方針や中長期的な視点に関する発言も見られ、直接の発信内容に触れることで、資料にはない企業の姿勢が垣間見えました。
一方、FRの決算説明資料は図表ごとに要点が箇条書きで整理されており、資料単体で説明の大半が成立する完成度の高さが際立っていました。
決算発表の内容は、報道ベースの情報だけでなく、企業のIRページを直接確認することで、詳細を知り、投資判断に有益となる重要な情報です。“企業の語り”を自分の目で確かめることの大切さを改めて感じさせられます。
最近では、決算説明会だけでなく、中長期戦略や個別事業、ESG・サステナビリティなどテーマ別の説明会動画や資料を発信する企業も増えています。さらに、個人投資家を対象とした会社説明会を定期的に開催し、その資料を掲載する企業も増えてきました。こうした資料は、企業の考えや伝えたい価値をかみ砕いて表現しているため、投資家の理解を助ける上で非常に有効です。気になる会社があれば、決算時期以外でもホームページを訪れて、資料が更新されていないかチェックしてみるのもよいでしょう。また、多くの企業ではIR情報のメール配信サービスを提供しており、メールアドレスを登録しておけば、最新情報を効率よく受け取ることができます。
参考:
セブン&アイ・ホールディングス プレゼンテーション 2026年2月期 | 株主・投資家情報(IR) | セブン&アイ・ホールディングス
ファーストリテイリング決算説明会 決算説明会| FAST RETAILING CO., LTD.
“言葉の選び方”に見える経営の温度差
資料の中に並ぶ言葉やフレーズにも、経営の本気度は表れます。「持続的成長」「選択と集中」「M&A推進」など抽象的な言葉が並ぶだけでは、真に何を目指しているのか分かりにくいこともあります。具体的な数値目標や行動計画が語られているか。経営トップの発言に覚悟やリーダーシップがにじんでいるか。そうした“言葉の重み”を感じ取ってみてください。
企業によっては、足元の業績が苦しいときほど、展望を語りたがります。また、先行きが不透明なときほど、外部環境の説明に終始したり、「全社一丸で頑張ります」とまとめて終わってしまうケースもあります。そこに逃げの姿勢や曖昧な印象がある場合、慎重に見極めたいところです。
資料づくりの現場では、IR担当者が丁寧に言葉を選びながら、社内での調整を経て発信しています。その背景を踏まえ、発言を見聞きすると資料のトーンがより立体的に見えてくるはずです。
熱量のある企業の資料に共通する特徴
企業の姿勢が真摯かどうかは、資料の構成やビジュアルにも表れます。具体的には、以下のような特徴が見られます。
・課題やリスクに対して正面から向き合っている
・なぜ今この戦略なのかが、ストーリーとして展開されている
・図表やビジュアルが多く、直感的に伝わる工夫がある
・過去の発言との一貫性が保たれ、誠実さが感じられる
とくに「一貫性」は、見落とされがちな重要ポイントです。例えば、前年に成長戦略を語っていた企業が、翌年に全く異なる方針を打ち出したとすれば、それは“戦略の揺らぎ”を意味するかもしれません。
また、不祥事やトラブルが起こった際の説明資料も要注目です。発生の経緯や原因分析、再発防止策などを丁寧に説明することで、透明性や誠実な対応姿勢を示す企業もあります。こうした対応は、まさに企業の本気度を測る試金石となります。
表現の裏にある意図を読む視点を持とう
資料に記載された数値やKPI(重要業績評価指標)も、その“意味”を読み取ることが重要です。たとえば、売上目標が掲げられていても、それが中長期戦略や成長領域のシナリオと整合していなければ、単なる「数字合わせ」に過ぎないかもしれません。
また、KPIをどう設定しているかも注目です。事業ごとのKPIが妥当か、前年の反省や改善がどのように反映されているか。定量情報と定性情報の関係を見ながら、夢物語に終わらない実行力があるかを見極めることが、個人投資家としての“目利き力”につながります。
好事例として、オリックスの2025年3月期決算説明会資料をご紹介いたします。オリックスは事業セグメントが10もある多角化企業であり、決算説明資料は豊富な数値データの説明を中心に62ページに及びます。その中で12ページ「長期ビジョン、新3か年計画」で、2035年3月期のKPIが「ROE15%、純利益1兆円」。重点施策のひとつとして「(事業)ポートフォリオの最適化」を掲げています。そこで10セグメントを大きく3つに分類し、それぞれのROE目標を掲げ施策を示し、全社としてROE、EPS、BPRの過去推移のグラフを示しながら、今後の各指標のトレンドを矢印などで示しています。また、近年相対的に伸び悩んでいたROEを高めていくこと、そしてそれに伴うEPSの成長によって、BPRを上昇させていくことを示しています。成長戦略の実行力への期待や、数値と戦略の整合性を視覚的に語る、優れた資料の一例です。
さらに、オリックスの2025年3月11日開催の個人投資家向けWEBセミナー資料(全24ページ)は、通期決算説明資料の半分以下のボリュームでありながら、事業多角化への疑問に対する回答や、企業の強み・特長を分かりやすく整理した好事例です。11ページ「なぜ変化し続けるのか」、12ページ「なぜ変化できるのか」というスライドでは、変化を続ける背景として新領域への挑戦による持続的成長、変化を可能にする要因として事業ごとの専門性と資産価値向上の視点が示されており、企業の根本的な強さを視覚的に訴える構成となっています。
参考:オリックス
「2025年3月期 決算説明会資料」
https://www.orix.co.jp/grp/pdf/company/ir/library/presentation/Presentation_2025_4QJ.pdf
「個人投資家向けWEBセミナー資料(2025年3月11日開催)」
https://www.orix.co.jp/grp/pdf/company/ir/library/event/Presentation_250311J.pdf
おわりに
IR説明会や決算説明資料には、企業の「意思」と「本気度」が込められています。言葉選び、構成、トーン、数値目標の整合性——それらを丁寧に読み解いていくことで、企業の未来に対する本気の姿勢を見抜くことができます。
とくに近年は、資料の質に加えて、動画やスライドのビジュアル、経営トップやIR担当者の語り口からも、企業の“熱”を感じ取れるようになっています。報道やSNSの情報に頼るだけでなく、企業が自ら発信するIR情報に目を通し、その裏側にある意図やスタンスを汲み取ること。それこそが、企業を見極める力を育む確かな一歩となるのです。
iwawo(イワヲ)
IRの現場も、投資家の本音も、すべて“肌感”で知るIRコンサルタント。証券会社でアナリスト・IPO業務を経て、上場企業2社でIR責任者(うち1社は取締役)を務めるなど、株式市場の最前線を渡り歩いてきた。証券・企業・投資家――立場を越えてIRの実態に向き合ってきた経験をもとに、企業が直面するIR/SR領域のリアルな課題への対応を支援。
