付加価値と生産性向上の実現―持続可能な成長基盤の確立に向けた挑戦(藤田観光株式会社 代表取締役兼社長執行役員 山下 信典)
藤田観光株式会社
証券コード9722/東証プライム
代表取締役兼社長執行役員
山下 信典
創業以来、時代の変化に応じて挑み続けた歴史
藤田観光は2025年11月に設立70周年を迎えます。ひとえにお客さまをはじめ、多くのステークホルダーの皆さまのご支援の賜物です。心より感謝申し上げます。
当社は創業以来、社会情勢や余暇の過ごし方など、時代の変化に果敢に挑み続けてまいりました。戦後間もないころ、「一部の華族や財閥が独占していた庭園や邸宅を解放し、戦争で傷ついた人びと、これから日本の再建に尽くす人びとに、健全で楽しい憩いの場を提供したい」という初代社長の信念のもと観光業の礎を築き、その後も新たな市場を切り拓きながら、成長を遂げてきた歴史があります。
「潤いのある豊かな社会の実現」という社是に込められたこの創業の精神は当社の原点であり、時代が変わってもゆるぎない事業経営の基本理念です。そして、お客さまに寄り添い、思いがけない喜びをお届けしたいという想いは、従業員一人ひとりが共有する大切な価値観、「オール藤田ホスピタリティ・マインド『いつも、ありがとうのいちばん近くに。』」として今に受け継がれています。
価値観や嗜好が著しく変化する現代においては、伝統を尊重しつつ、革新を恐れない姿勢が求められます。新しいテクノロジーの活用や多様化する社会に対応する柔軟性を持ちながら、常にお客さまの期待を超える価値を提供することが、私たちの使命であると考えています。
私が大切にしているのは、「変えない信念」と「変える勇気」のバランスを保つことです。現場でのお客さまの声や従業員との対話を通じて、時代に合った最善の答えを模索し続けています。お客さまを家族のように想い、寄り添う姿勢を大切にしながら、長く愛される企業であり続けることを目指しています。
みんなが笑顔になるために、お客さまのライフスタイルに寄り添う
当社グループは、「WHG事業」「ラグジュアリー&バンケット事業」「リゾート事業」の3つの事業を展開しています。WHG事業は、利便性の高さを共通価値とし、ビジネスのニーズに応える「ワシントンホテル」、観光のニーズに応える「ホテルグレイスリー」、そしてミレニアル世代をターゲットにした「HOTEL TAVINOS」を展開しており、幅広い需要に応えられることが強みです。ラグジュアリー&バンケット事業では、「ホテル椿山荘東京」をはじめとするラグジュアリーホテルや婚礼・宴会施設、ゴルフ場などを運営しており、婚礼施行件数においては日本国内でも有数の実績を有しています。また、リゾート事業では、創業の地である箱根で運営する「箱根小涌園 天悠」「箱根ホテル小涌園」といった施設を中心に、水族館やグランピングなどの多彩な施設を運営しています。
これらの事業は、それぞれ異なる特性を持ち、グループ内で経験やノウハウを共有することで、さらなる相乗効果を生み出します。例えば、ラグジュアリーホテルで培った繊細なサービスや料理の技術をリゾートシーンで提供することで、特別な時間を演出する。また、ビジネスホテルで確立した生産性の高いサービス運営のノウハウを他事業に応用する。多角的な事業展開があるからこそ、このように互いの強みを生かし合うことが可能になります。
そして、それぞれの施設では、人生の様々な場面に寄り添う体験をご提供しています。大切な人とハレの日を祝いたい、家族との楽しい思い出を作りたい、あるいは仕事のために利便性を重視したいといった、様々なシーンに対応できる幅広い事業領域を有することが、一度きりのご利用にとどまらず、長期的に当社グループ施設をご愛顧いただけるお客さまとの関係作りの基盤となっています。ある施設でのすばらしい体験が、次の施設への期待を生み出しご利用いただけることが当社グループの強みです。
過去最高益の達成と2025年の取り組み
2024年12月期において、当社グループは営業利益・経常利益ともに過去最高益を達成しました。この成果は、インバウンド需要の取り込み、商品力の強化による利用単価の上昇、そしてコロナ禍で実施した構造改革の成果を維持したことによるものです。
2024年から2028年までの5ヵ年計画「中期経営計画2028~Shine for Tomorrow, to THE FUTURE」に基づき、「環境に左右されない持続的成長基盤確立」「人材の確保・育成」「健全な財務基盤構築」という3つの重点課題に取り組んでいます。また、付加価値と生産性向上への持続的な取り組みが確かな成果へとつながっています。
WHG事業では、積極的な海外セールス活動により旺盛なインバウンド需要の取り込みに成功したほか、客室やレストランの機能向上を目的とした改装、ラウンジ機能の追加を進めてまいりました。利便性および快適性を向上させるとともに、チェーン全体での研修実施など、施設の充実とサービス向上を両輪とした取り組みが収益拡大につながりました。ラグジュアリー&バンケット事業では、「ホテル椿山荘東京」において、人生の大きな節目である出産というタイミングで、ホテルの豊かな庭園の癒しやおもてなしでお母さまやご家族をご支援したいという想いから、客室を活用した産後ケアサービスを開始しました。また、同ホテルの客室の約2割を占めるスイートルームの魅力を高めるため、チャペルを転用した専用のエグゼクティブラウンジを新設し、ライブキッチンでシェフが朝食をふるまうなど、新たな価値の創出に取り組みました。また、ゲストハウスウェディングを手掛ける子会社㈱Share Clappingにおいては、婚礼プロデュースのノウハウと、新たに提携した歴史ある旅館のサービスを融合させた滞在型ウェディングという新しいスタイルを提案しています。リゾート事業では、2023年7月開業の「箱根ホテル小涌園」の通年営業や「箱根小涌園ユネッサン」のリニューアル、「箱根小涌園 天悠」における高付加価値商品の販売を通じて収益拡大を実現しました。今後も「箱根小涌園」の魅力向上を図るとともに、自治体などと協働し、箱根地域全体の活性化に貢献することでさらなる成長を目指します。
2025年12月期においても、インバウンド需要を中心とした市場の好調を見込みつつ、WHG事業での大規模改装やリゾート事業での「箱根ホテル小涌園」の増室といった将来への投資を進めてまいります。これらの施策は、中長期的な競争力と収益基盤の強化に向けた重要な取り組みです。
財務基盤の健全化と未来への成長戦略
本中期経営計画では、2024年から2026年を基盤構築フェーズ、2027年から2028年を収益拡大フェーズとしておりましたが、大幅に向上した収益力を背景に、計画よりも早いペースで財務体質の改善を推進することができています。引き続き付加価値と生産性の向上により収益力を高めるとともに、既存事業所の品質向上を目的とした投資を積極的に進めることで収益を拡大し、資本の拡充を図ってまいります。
そして、2025年より成長ステージに前倒しで取り組みます。WHG事業やリゾート事業において中長期的な収益拡大を見据え、従来のリース以外にも、資産取得やM&Aなどの多様な方法を取り入れた投資を実施することに加え、2024年秋に導入した従業員を対象とした事業アイデア公募制度「BizNex(ビズネク)」を導入することなどにより、創造性を生かした新たな事業展開を推進します。
持続的な成長を支える人材戦略
「企業の根幹は人である」という理念のもと、当社グループは人材戦略を最優先課題の一つとして位置づけ、未来を見据えた採用と育成に取り組んでいます。2023年には、転居を伴わない勤務体系として「エリア職コース」を新設しました。この制度により、採用市場における競争力が向上し、2024年には200名以上、2025年には160名以上の新入社員を迎えることができました。
採用が着実に進んでいる現在は「育成」に軸を移しています。教育研修の充実によりマネジメント力および専門スキルを向上させるとともに社内キャリア形成の支援を進めてまいります。また、業界上位の賃金水準の実現や育児短時間勤務制度の拡充、働きやすい職場環境の整備にも引き続き取り組み、さらには従業員のエンゲージメントを高める企業風土を醸成することで、求める人材の獲得につながる好循環を確立してまいります。長期的に活躍できる人材を育てることが、組織全体の成長を支える礎であるという認識のもと、従業員が能力を最大限に発揮できる環境を整えるとともに、職場への定着率を向上させることで、安定した成長基盤の構築を目指してまいります。
社会とともに持続可能な未来を目指して
当社グループは、明治時代の藤田財閥から受け継いだ庭園などを活用し事業を開始した背景から、創業時より貴重な文化財や歴史的建造物を多数所有しています。また、自然の恩恵を得て事業を行う当社にとって、地球温暖化や気候変動への対応は企業経営そのものの課題といえます。これらを保全し、未来に引き継ぐことは、私たちの重要な使命の一つです。守るべきものを大切にしながら、時代の変化や多様化するニーズに合わせて果敢に挑戦し、新たな価値を創出することで、持続的な成長を目指してまいります。今後とも、ステークホルダーの皆さまの温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。
※本記事は、「藤田観光株式会社 統合報告書 2024」より転載しております。
