30年目線の長期投資ファンド 「コモンズ30ファンド」から学ぶ! 荒波を乗り越える長期投資の「心得」
※この記事は2024年10月25日発行のジャパニーズ インベスター123号に掲載されたものです。
8月5日の日経平均株価は急落し、前週末比4,451円28銭(12.4%)安の31,458円42銭で取引を終了。下落幅は1987年10月20日の3,836円48銭(米国株の急落が世界に飛び火したブラックマンデー翌日)を超え、過去最大に。新NISAがスタートしたことで、2024年から株式市場に参加した多くの投資初心者にとっては、初めてとなる大きな株価下落となり、不安を抱いたり、狼狽したりしている人も少なくないだろう。そこで、30年目線の長期投資ファンド「コモンズ30ファンド」の最高運用責任者で、コモンズ投信の代表取締役社長である伊井哲朗氏に、長期投資の「心得」を訊いた。
取材・文/岩切 徹 撮影/和田 佳久
リーマン・ショックの逆境でスタートしたコモンズ投信
──コモンズ投信が投信会社として登録完了したのが2008年11月で、旗艦ファンドである「コモンズ30ファンド」が設定されたのが2009年1月。当時は、リーマン・ショック直後だったと思いますが、どういう思いを持って、ファンドをスタートさせたのでしょうか。
創業メンバーのそれぞれにさまざまな経緯はあったのですが、「30年目線の長期投資ファンドをやりたい」というのが会社をつくる一番のモチベーションになっていました。創業当時はもちろん、今でも株式投資といえば、短期のリターンを追い求める風潮が続いています。市場というのはさまざまなタイプの投資家がいることで成り立つものですから、私たちも短期利益を追い求めることを全く否定はしません。しかし、実情としてあまりにも長期投資家がいない。その状況をどうにかしたいという思いが、メンバーそれぞれの根底にありました。
例えば、野村證券時代に企業総合部門で第1位になったアナリストの佐藤(明)さんには、企業経営者と一緒に長期のエクイティストーリーをつくっていきたいという願いがありました。そのためにも長期の企業分析レポートをつくりたかったそうですが、レポートの最大顧客であるヘッジファンドにはそのニーズはなかったわけです。また、世界最古で最大規模の投資金融会社であるキャピタルグループの日本法人キャピタル・インターナショナルの社長だった吉野(永之助)さんは完全引退を決められていて、「忘れ物を取りに行く」という気持ちでコモンズ投信の設立に参加しました。「3年負けたら会社からいなくなる」といわれている会社で長年社長を務めていたわけですから、吉野さん自身はキャピタルで長期投資をし続けて、その成果には満足していたそうです。ただ、アメリカでは定着している長期投資が、日本では全く定着していない。日本の人たちに長期投資の醍醐味を伝えていきたいという吉野さんの思いが、「忘れ物を取りに行く」という言葉に込められています。
コモンズ投信株式会社
代表取締役社長
兼 最高運用責任者(CIO)
伊井 哲朗Tetsuro Ii
1960年愛知県名古屋市生まれ。山一證券、メリルリンチ日本証券を経て、2008年コモンズ投信株式会社を創業し、代表取締役社長に就任。2012年7月より最高運用責任者を兼務。現在に至る。著書に『「普通の人」が「日本株」で年7%のリターンを得るただひとつの方法』(講談社)、『「市場」ではなく「企業」を買う株式投資』(きんざい/共著)、『97.7%の人が儲けている投資の成功法則』(日本実業出版社) がある。
──リーマン・ショック直後という逆境の中、日本人にとってなじみのない長期投資の資金を集めるのは大変だったのではないでしょうか。
一般的に長期投資といえば、真っ先に年金が思い浮かびますが、当時は年金といえども長期投資ではなく、短期売買で運用されているのが普通でした。では、長期投資の資金はどこにあるのかと考え、個人の積み立てで長期的に資金を集めていこうと決めたわけです。私自身、メリルリンチにいた時に、アメリカでワークショップに参加した経験がありますが、アメリカでは普通にファンドの積み立て投資をやっているわけですよ。これを日本でもやっていきたいと思いましたが、日本には個人向けに長期の資産形成をしていく金融商品はありませんでした。だから、自分たちで個人向けの積み立て投資をやっていこうとなったわけです。
こうした話を元ソニー社長の出井(伸之)さんやローソン(当時)社長の新浪(剛史)さんといった当時の名だたる経営者に話したところ、「ぜひ頑張ってほしい」というエールをいただきました。特に出井さんからは「ソニーはグローバルで戦っている。海外には良い長期投資家がいて、彼らとミーティングしても非常に参考になる。でも、日本には全くいない。日本にそういう長期投資家がいないと、日本企業はグローバル競争に勝てない」といわれました。出井さんは先見性があって、今でいう経済安全保障という観点もありました。
──今はそういった長期投資家が増えてきているのでしょうか。
コモンズ30ファンドは1.18億円でスタートしましたが、今年8月末には純資産総額621.3億円まで増えています。まだまだこれからという思いもありますが、そういった意味では長期投資家は増えてきたといえるのではないかと思います。一方で、経営者側を見ていくと、長期ビジョンを掲げている会社も増えてきていますが、さまざまな経営者とお会いして話してみると、15年前からあまり変わったように思えないのが実感です。だから、経団連なんかも怒っているのだと思います。