コウヤマキ群落

写真・文/高橋 弘(巨樹写真家)
※この記事は2015年4月25日発行のジャパニーズインベスター85号に掲載されたものです。
奈良県吉野と聞くと、誰しもが桜の名所である吉野山を連想するでしょう。その吉野山中に、世にも不思議なコウヤマキの楽園がひっそりと存在しているのはあまり知られていません。桜の時期ともなると花見客で大混雑する吉野ですが、コウヤマキの群落はひっそりと静寂を保ち続けています。
コウヤマキはスギのように真っ直ぐ生長する樹木ですが、ここのコウヤマキはお盆の供花として利用されてきたため、枝を剪定されて成長を阻害され続けてきたのです。樹高も本来は30m以上にもなる樹種ですが、ここのコウヤマキは高さ10mほどしかなく、幹自体がうねったように曲がりくねり、見るからにおどろおどろしい空間を形作っています。生長するべき枝を摘み取られるため、もがき苦しむ姿を身をもって表しているかのようです。
不思議なことに200mほどの狭い場所に集中して生育しており、群落の中には他の樹種の姿は無く、異形のコウヤマキだけの楽園を形作っています。群落の中心には小さな物置小屋が残っており、これに寄り添うように成長する個体が最も大きく、この森の主であるかのような存在感です。
この森に一歩踏み込むと、無数に張り巡らされた小枝によって陽差しも途絶えて昼なお暗く、まるで異次元の世界に迷い込んだかのよう。来てはならないところへ足を踏み入れてしまった……そんな後悔の念さえ感じさせる不思議の森といえそうです。
奈良県吉野郡吉野町吉野山
幹周 5.21 m
樹高 10 m
樹齢 140 年以上
奈良県指定天然記念物
【著者プロフィール】
1960年山形県生まれ。巨樹を撮り始めて36年目。出会った巨樹の数は3,400本にのぼり、出版、写真展、ホームページなどにより、巨樹の魅力を発信している。著書に『巨樹・巨木をたずねて』(新日本出版社)などがある。
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