BtoBに特化した食材・厨房機器の販売サイトを運営して急成長――株式会社Mマート 代表取締役社長 村橋 孝嶺
株式会社Mマート
証券コード 4380/東証マザーズ
代表取締役社長 村橋 孝嶺
Kourei Murahashi
村橋孝嶺社長が60代で創業したMマートは、商品と売り手の情報を詳細に公開、買い手の会費は無料という透明性が高くオープンなECマーケットプレイスを運営し急成長を続けている。BtoBのネット販売に着目した理由、ビジネスモデルの成功要因、上場後の成長戦略を聞いた。
取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久
ECが注目されはじめた2000年に会社を設立
── 事業としてBtoB型のECマーケットプレイスを運営しています。どのような特徴があるのでしょうか。
村橋 マーケットプレイスは「出店型」と「出品型」で分かれています。食材商品を取り扱う出店型の「Mマート」の場合、売り手は当社に出店料を支払って商品をサイトに掲載して販売しますが、買い手との直接取引も可能です。当社システムを利用した売買では、販売代金に応じたマーケット利用料を当社に支払っていただきます。
出品型の「卸・即売市場」では、売り手が販売したい商品を申請すると無料で掲載できますが、買い手との直接取引は禁止しており、出来高制でシステム利用料がかかります。これらの出店料やシステム利用料等が当社の収入になります。
―― 事業を立ち上げたのは2000年という早い時期でした。どういうきっかけがあったのですか。
村橋 その頃は私自身飲食店を経営していて、食材の仕入れが難しくなり困っていました。当時は新たな取引相手を探すのが大変で、電話帳であたりを付けて電話をしても「新宿は配達エリアではありません」とか「業務用の食材は扱っていません」と断られてしまう。飲食店経営ではベテランの私でも仕入れが難しいと感じているのだから、若い人たちはよほど困っているだろうと考えて、インターネット販売サイトの立ち上げを考えました。実店舗では肉、野菜、魚、加工品というように食材ごとに扱う店が違いますが、販売サイトであれば一括して取り扱えるので利便性も高いはずです。
―― 販売サイトの構築は順調でしたか。
村橋 1999年の12月に事業化を決めたのですが、それまで私はパソコンにさわったこともなかったし、ネットを見たこともなかった。ただ、本などを読んでネットの時代が来ることは確信していました。
私が目指したのは、今日飲食店を始めるという人でも無料でサイト内を見て回ることができて、欲しい商品があればその場で買えるというオープンなビジネスモデルでした。システム部分を外注したのですが、完成する前にシステム会社が倒産してしまったため、勉強しながら自社で作ることにしました。
販売サイトを完成させても、はじめは売り手も買い手もいません。そこで付き合いのある業者に出店を頼みました。2、3カ月後、義理で出店してくれた食肉店から「えらいことになりました」という連絡が入りました。日本全国から問い合わせや注文が殺到しているというのです。それを聞いて旺盛な需要があることを確信しました。
情報をオープンにして買い手の支持を得る
―― 成功の要因はどこにあったと考えていますか。
村橋 インターネットの本質は「情報の対称化(双方で情報と知識の共有している状態)」にあると考え、当社の販売サイトでは売り手の情報や価格の情報を隠さず、オープンにすることを基本としました。他社のサイトでは、買い手は会費を払わなければ情報が見られず、会費の金額によって販売価格が変わる例がありました。当社は無料で利用できて、価格も一本しかありません。それが買い手の信頼を集めることにつながりました。
―― 売り手の質が低いと買い手が離れてしまうと思うのですが、どのような方法で質を維持しているのですか。
村橋 この事業で成功するためには「高品質・低価格」を徹底的に追求するしかありません。そこで、販売サイト上で買い手からの品質評価点を公開しています。買い手もプロですから、いい加減な評価、悪意のある評価はしません。そのため価格競争力のない売り手や評価の低い売り手は自然に淘汰されていき、「Mマートなら高品質・低価格で商品を仕入れられる」という評価を得ることができました。
追い風が吹く事業環境の中でリスクを取らない成長を目指す
―― 売上高の年平均成長率は13年1月期から17年1月期までで21.9%です。これについてはどう評価していますか。
村橋 当社は成長期にあり企業規模が小さいため、20%台は当たり前。今後もできる限りリスクを取らずに成長させていきたいと考えています。
――リスクを取らずに成長させるとはどういうことでしょうか。
村橋 経営理論といったものは「枝葉」に過ぎず、ビジネスにおける「幹」は需要と供給です。需要とは、買い手・売り手のストックです。そのストックを増やす経営を心がければ、業績も伸びていくと考えています。つまり自社の売上高を増やすことを真っ先に追求するのではなく、買い手・売り手と高品質な商品のストックを増やすことにより、自社の売上高を増やす。それが当社の成長戦略です。
事業環境にも追い風が吹いています。BtoB‐EC市場規模は拡大する一方で、卸売業者の数は大幅に減少しており、従来の店舗型販売からネット販売へ移行する流れが顕著になっています。当社には買い手の新規登録が毎月600~700件あるほどです。
―― IPOによって調達した資金をどのように使っていきますか。
村橋 営業要員を積極的に採用し、新規取引先の獲得件数を伸ばします。またシステム開発要員を増やすことで、買い手が使いやすいサイトの構築を行います。同時に当社の露出度を高め、認知度を上げるといった施策を展開していきます。
―― 株主還元についてはどのようにお考えですか。
村橋 企業価値を高め、時価総額を増やすことで株主さまに還元していきたいと考えており、配当等については今後検討していきます。