踊る宝石「ダンシングストーン」で 世界のジュエリー市場を攻略――株式会社クロスフォー 代表取締役社長 土橋 秀位
社長が思い描いた揺れ続けるダイヤを甲府の職人が具現化
──現在の主力商品である「ダンシングストーン」について教えてください。
土橋 「ダンシングストーン」は、人のわずかな動きをダイヤモンドの細かな振動のエネルギーに変え、宝石が縦に揺れ続ける技術です。当社が特許を保有しており、ペンダントやピアスなどに採用されています。
──「ダンシングストーン」の技術は、社長が考案・開発されたそうですね。
土橋 ダイヤモンド以上にきらめく宝石はありません。そのダイヤをさらにきらめかせるためにはどうすればいいのか。それを考えているうちに「揺れ続けるダイヤ」のアイデアが生まれました。ですが「揺れ続けるダイヤ」を具現化する技術がない。県内の職人たちを訪ねて話をしても、「そんなことはできない」と断られてばかりでした。ただ一人、昔からの知り合いの職人だけは、やってみると言ってくれました。二人でアイデアを出し合って試行錯誤を繰り返し2010年11月5日、最初の1個が完成したのです。ただその1個はアイデアを具現化しただけのもの。商品化にはさらに6カ月かかりました。
完成品の披露は、2011年5月に開催された「神戸国際宝飾展(IJK)」でした。5、6種類のダンシングストーンを展示し、大きな反響を得ました。
──宝石は静かにきらめくものというイメージです。それを動かすという発想はどこから得たのですか。
土橋 世の中にないもの、面白いものを作りたいという単純な発想です。当社の物差しは「きれい」「美しい」「変わっている」、あるいは「なに?これ」です。そういう商品を追求してきたし、今後も作っていきたい。
ジュエリー業界は、冒険をしたがりません。売れている商品に似たものを作ったほうが無難という意識が強いからです。しかし当社は、他社とは違う商品を積極的に開発する姿勢を大切にしています。そうして生まれた商品が「良い」かどうかはお客さまの心が決めることなので、販売するまで正解かどうかは分からないけれど、自分で「良い」と思ったことは徹底的にやるべきだと思います。
──「ダンシングストーン」のアイデアを徹底的に突き詰めた結果、大ヒット商品となりました。
土橋 世界で類を見ない技術ということで、海外では1カ月で25万個を販売したこともあります。
あえてファブレスメーカーとなり宝飾職人のノウハウを活用
── 自社工場を持たずに、県内の協力工場に外注しています。それは、地域社会に貢献するためですか。
土橋 なぜファブレスメーカー(生産設備を持たない会社)なのかというと、もの作りは、ありとあらゆるノウハウや技術が求められる奥深い作業だからです。
山梨県では1,000年前に水晶が発見されて以来、宝飾品を作るための膨大なノウハウ・技術が多数の地元企業に蓄積されて、今に至っています。そうした膨大なノウハウ・技術を自社工場ですべて習得できると考えるのは大間違いです。そこで当社はファブレスメーカーとなり、地元企業と「共生」することを大切に考えています。それが結果として地域貢献につながればいい。
── 国内と海外では事業展開の方法が違いますね。
土橋 国内では完成品を販売するほか、顧客であるジュエリーメーカーや問屋などにOEM(相手先ブランド生産)として卸し、海外では製造方法を伝え、部品の供給を行うというかたちでビジネスを展開しています。
──「ダンシングストーン」が海外で人気になればなるほど、コピー商品が多く出回るようになるのではないですか。
土橋 すでにたくさんのコピー商品が出回っていますね。そこでコピー企業に対しては、当社と正式に契約するように促し、特許料の支払いを求めています。当社がコピー企業に乗り込んでいくと最初はけんか腰の対応ですが、「コピー商品を作る会社は偽物の会社でしかない。当社と契約を結べば、本物を作る本物の会社になれますよ」「私たちはけんかをしに来たのではなくて、あなたが抱える問題を解決に来たのです」と説得します。当社は特許料を1~2%程度(一般的には8~10%程度)と低く抑えているので、普通の企業は契約を結びますね。
約50兆円の海外市場を視野に積極的に海外で事業展開
── ジュエリー市場の見通しと、御社の戦略を教えてください。
土橋 国内市場は縮小傾向が続いています。一方で、海外の市場規模は、中国を中心として2020年ごろまで拡大を続け、2013年に約25兆円であった市場規模が、2020年には約50兆円まで拡大(経済産業省「平成25年度クールジャパンの芽の発掘・連携促進事業」より)すると見込まれています。
そこで国内では積極的な広告宣伝活動を行い「ダンシングストーン」に対する認知度を高め、新規OEM販売先の開拓や新しいデザインの商品の投入を行います。海外では子会社であるCrossfor H.K. Ltdが主体となり、香港で開催される宝飾品展示会への継続的な出展、欧州で開催される宝飾品展示会への新規出展を予定しています。海外ジュエリーメーカーに対して積極的な営業を行い、海外市場の開拓に取り組みます。
── 今後は海外の売上高が増えていくのですか。
土橋 現在の売上高は国内70%、海外30%ですが、将来は日本30%、海外70%あたりでバランスさせたいですね。海外展開にあたっては当社には小売りのノウハウがないので、世界の大手の問屋と組んで展開していく計画です。